十話
さぁ!ハイ〇ューに思いっきり影響を受けた十話がはっじまっるよー!
「行くぞー!!!鳴声、ファイ!」
「「「「「「おーす!!!!」」」」」」
「お、どうやらタイミングよく間に合ったようだな」
会場に入り、席に座る緑達。席順は左から緑、いらは、美咲である。
緑達の眼下では鳴声陣が円陣を組んでおり、何故か声出しを翔太が行っていた。
「翔太くん頑張ってねー!!」
「翔太ー負けたら焼肉だぞー」
「うっせーぞ!緑!」
緑の野次にもちゃんと返すあたり、緊張は全くしていないのだろう。
「負けるなんてありえねぇ………いくぞ!」
「「「「「おうっ!」」」」」
翔太の声に合わせて五人がコートの中へ入っていく。
(……キャプテン、翔太の方がキャプテンっぽいすよ)
バレー部キャプテン、沢渡颯というのだが、さっきからしれっと翔太に音頭を取らせたり、翔太に先陣を切らせるようにしている。それは、翔太を次期キャプテンとして見据えているからなのか、はたまた別の意味が…………。
「そういえばみーくん。さっき相手が日凛って分かった時に天井仰いでたけど、どうしたの?」
さっきから聞きたかったことをやっと緑に聞くことが出来たいろは。緑は「あー」と言って翔太から貰っているノートをペラペラと捲る。
「えーっとだな……あ、ほら。あそこの日凛の背番号7番、いるだろ?」
「うん、あのギザギザ赤髪の人」
翔太と前衛でフルでマッチングするようになっているローテーションである。
「いろははさ、毎回来てるわけじゃないからわかんないかもだけど、あいつ、翔太の天敵なんだ」
「部長ないっさー!」
翔太の声が響く。先に鳴声がサーバーであり、部長である颯がルーティーンに入る姿が見える。
「翔太の強みはさ、いろはも知っている通りに、パワーももちろんだけど、一番の武器はどんな悪球さえも打ててしまう所技術力と正確性だ」
身長190cm、最高到達点337cm、長座体前屈92cm。その恵まれた体格、体のやわらかさそれが全て上手いように合わさり、空中でも異常なボディバランスを発揮する。
颯のサーブは、しっかりと日凛のリベロに上げられ、しっかりと三回目でスパイクを決められるが、しっかりとクロスで待っていた鳴声リベロがしっかりと上げたり。
「そのトリッキー差は、全国でトップ。同等の一位だ。俺はあいつ以外にあんなにトリッキーに打てるやつを知らん」
「進藤!」
「任せな!」
「相手からしたらさ、どんなに崩したとしても、翔太にさえ繋げてしまえば全てのボールはチャンスボール。相手からしたら相当厄介だ」
ブロックで止めるなんて殆ど不可能、運良くワンタッチならあるかもしれないが、そもそも翔太のスパイクはブロックに当てるだけでも優秀と称される程の実力だ。
だがしかし、これには弱点があり、小細工を入れれば入れるほど、スパイクのパワーが落ちる。
だから、それを狙うようにーーーーーー
ドンッ!とボールが落ちた。鳴声の方に。
「嘘………」
「……………」
ーーーーー推測が姿を見表す。
いろはの目が驚きで見開かれ、美咲の眉間にシワがよった。
「天野康太。正真正銘の翔太の天敵。ゲスブロッカーだ」
Uー18日本代表である翔太のスパイクを止めたことで会場に歓声が響き渡る。康太はチームメイトにめちゃくちゃ頭をわしゃわしゃされている。
進藤翔太を唯一ブロックすることが出来る選手。それが天野康太だ。
「んんんん……覚ったりー!!」
どこかで聞いたようなフレーズに翔太の顔がイラつくように青筋が浮かんだのが観客席からでも見えた。
「……ま、俺は見慣れてるからいいけど、いろはにとっては衝撃だったよな。翔太はよく、天野のゲスにやられるんだ」
「ゲス?天野くんという人はゲス野郎なの?」
「違う違う」
いろはの可愛らしい間違えに思わず緑と美咲の方が緩んだ。
「いろはちゃん。ゲスは下衆野郎のゲスじゃなくて、英語の方のguessよ」
「guess………あ、推測の方」
「正解」
緑は、ペラペラと天野康太について書かれているページを開く。
「天野康太は、直感ーーーまぁ、第六感ってやつがすげぇ発達してて、翔太が小細工を入れるスパイクだけに必ず反応してブロックをする」
それを聞いて、いろはの顔に更に不安の色が見えた。
緑は、そんないろはを励ますように頭を撫でる。
「大丈夫。そのための飯塚だよ」
ドンッ!!という会場が揺れたのでは?と錯覚するほどの轟音が日凛のコートに突き刺さる。
緑は一応頭の中に、鳴声のスペック(主観翔太)は入っているが、念の為にペラペラとページを捲る。
「飯塚は、単純なパワーなら全国で五本の指に入れるほどに強力なパワースパイカー。ブロック三枚くらい、余裕でぶち抜ける」
スコアボードが更新され、1対1になった。
「鳴声は、トリッキーな翔太、パワーの飯塚で上手く攻撃をスイッチさせ、翔太と飯塚に生まれるギャップで相手を困惑させ、バグを発生させるバレーだ」
「………翔太がダメなら飯塚くんで、飯塚くんが警戒されたら予想外の翔太で……いい感じに歯車をグルグル回しているわね……恐ろしい」
そしてそれは、時間がかかるほどに飲み込まれ、バグは修復が出来ないほどになっていくのだ。
「………んん?」
いろはは、少しわからなかったらしく、小さく首を傾げ、美咲がいろはにわかりやすいように説明した。
「……ったく、誰だよ鳴声のブレーンは……こんな恐ろしいプレースタイルを考えるなんて……」
想像するだけで、当事者でもないのに鳥肌が立つ。
だがしかし、相手コートには康太がいるため、その作戦は使えない。大人しく公平で勝負するのか、それともまだ翔太を使うのか………。
「………んっ?」
翔太がこしょこしょとセッターに対して何かを呟き、セッターが首を縦に振る。
(………なーんかする気だな?あいつ)
鳴声サーブから試合が始まる。公平や翔太ほどでは無いが、強力なサーブが日凛に刺さり、一回で鳴声の方へ帰る。
「チャンスボール!!」
「あいよ!」
公平が声を上げ、しっかりとAパスでセッターに返した。
「こっちだ!」
「進藤!」
ポーン、とそれは高いセットアップ。それは、相手側にも充分な余裕を持たせ、翔太の目の前には壁が3枚、きっちりと張り付いた。
助走、止まる、そして踏み切る。その一連の動作に、緑はどこか違和感を感じた。
「……は?」
だが、それも直ぐに気づく。なぜなら、翔太の体が歪だから。
体は正面に向いているくせに、下半身は向いておらず、少し捻った状態でのジャンプ。
「……左?」
美咲がボソッと呟いた。翔太が中学の頃、どうしてもレギュラーに入りたくて磨き上げた、アタックラインよりも内側に落ちる超インナースパイクではなく、あまりにも歪な体勢。
翔太に恵まれた柔軟性なしでは成しえなかった、常識破りの超超インナースパイク。
それは、殆どネットの方に向かって落ちる。
「……っうらぁ!!」
グリン!!と翔太の体が回り、その勢いで左手でスパイクを打つ。それは、3枚ブロックの端の人にあたり、ボールはネットに吸い込まれるようにコート外に落ちていった。
シーン、と一瞬静かになった会場だが、すぐさま会場のボルテージはMAXになった。




