八話
昼休みの終わりごろにとぼとぼとした様子で戻ってきたいろは。緑がその後、なんとか頭を撫で回して仲直りをしていた。なんとか不機嫌な顔が戻ってよかったと思う緑だった。
「しかしいろは……なんでさっき逃げたの?」
「みーくんのそういう所だよ」
一応、言葉では緑のことを非難しているいろはだが、顔がだらしないほどにニヤついているので、恐ろしさは全然ない。むしろ可愛い。
その光景を見ている翔太がわざとらしく大きなため息を吐いた。
「あー……やだやだ、決めたの俺らだから、俺は何も言えないけど、甘ったらしくて砂糖吐きそうだわ」
やれやれ、とジェスチャーをする翔太に、緑といろはの冷たい視線が突き刺さった。
「翔太……お前マジでさっきから特大ブーメラン突き刺さってるからな?」
「翔太くん、普段美咲ちゃんといる時の自分振り返ってね」
中学の頃から付き合っている翔太と美咲。実はこの四人、よく遊んでいるほど仲が良いのだが、五割位の確率で何故か遊び場が白石家である。
しかも、緑といろはの目を盗んで、めちゃくちゃイチャつき始めるので、軽く緑といろはが引く。その日のブラックコーヒーはめちゃくちゃ甘く感じ、あのブラックコーヒーが苦手ないろはでさえも……………。
「みーくん…私にもブラックコーヒー……」
と言ってくるほどである。
なので、2人としては翔太に言われるのは至極納得のいかないことである。
「あー……うん、まぁいいや」
と、何か諦めたかのように項垂れる翔太。
(……こいつ、こんだけいろはのことを特別視してるかわかってないもんな……)
緑にとって、いろはのことについてあれこれするのは当たり前。それこそ、幼い頃から暗示レベルにまで心の中に刻み込まれている絶対的な優先順位。
(まぁそれはそれで、この先中々おもしろそうになりそあだが………緑が自分の気持ちに気付いた時が楽しみだな)
「まぁ、頑張れよ」
「…………なんで応援されたんだ?」
内心、ほくそ笑む翔太だった。
「……あ、そうだった。お前、今日午後から雨降るぞ」
「え?まじ?」
お天気お姉さんが天気を言う前に今日は家を出て行って、部活に行ってしまった翔太。
「それで、今日さ部活いつ終わんの?迎えいくから」
「お?まじ?……明日は大会だからさ、今日は一時間くらい流してから終わりって部長は言ってたな」
毎年恒例、この辺の地区で行われる親善大会。毎年20校程が参加し、新体制になってからのチームを試す場となっている。
「でもさ、それって傘俺に届けるだけで良くね?」
「いや、折角だしさ、たまには三人で……とか思うし……今日雨だからお前に買い物の荷物持ちをさせようかと………ほら、ただでさえ傘で片手塞がるし………いろはに荷物持たせたくないし」
「みーくん……」
緑の発言にいろはの顔がほんのり赤くなる。
(……なんだこのイケメンムーブ)
「……まぁそういうことならいいぜ。任せな」
(………こいつ、何か変なこと考えてないか?)
長年、翔太と付き合っている勘で、何かを感じ取り、背中がむず痒くなる緑。
「……とりあえず、頃合いみて、体育館いくな」
「おう、待ってるぜ」
昼休みの終わりを告げる鐘の音が鳴った。
それから放課後になり、翔太がものすごいスピードで部活に行くのを見届け、いろはと放課後の校舎を歩く緑。行先は図書室である。
緑といろはの目的は、図書室に置いてある料理本であり、翔太のために新しい料理を作ってやろうと言う話をしていた。
図書室で隣に座り、迷惑にならない程度の声で色々とレシピについて語り合う。まぁいろはは時々緑の顔に見惚れていたが。
そして、一時間後二人は、体育館の前にいた。外はしっかりと雨模様であり、屋根に雨があたる音を響く。
喋っていること五分。ガラガラ、とドアを開ける音が二人の耳に届き、目を向ける。そこにいたのは幼馴染のーーーーーーー
「…あれ?白石くん?槙野さん?」
ーーーーー姿ではなく、飯塚公平だった。
「進藤待ちか?」
「あぁ。今日あいつを買い物に連れて行ってこき使うつもりだからな」
「そうなのか?」
公平の目が驚きで見開かれる。きっと、U-18
日本代表をこき使うような真似に驚いたのだろう。
「そういえば白石くん、進藤から聞いたよ。何でも、急に君が彼女欲しいとか言い始めて、風邪ひいたかと思ったわー!って」
「あいつ………まさか言いふらしてんのか?」
もしそうなら、今日の翔太のおかずが一品減ることになる。
「いや、進藤が言いふらしている姿は見ていないな………」
と、言った後、公平は緑を見定めるように見つめてきた。
「………な、なんだ?」
居心地が悪くなった緑は、たまらず公平に声をかける。
「………なるほど、素材は悪くない」
「は?素材?」
「……いや、なんでもないよ。それじゃあね白石くん、明日、君のレモンの蜂蜜漬けを楽しみにしてるよ」
と言って、公平は去っていく。
一方その頃、翔太は体育館にて、悪い顔をしていた。
「……よしよし」
スマホを眺め、先程公平から入ってきた情報から、しめしめと思い顔がどんどんニヤついていく。
翔太は、二人がくっつく未来を想像し、嬉しくなる。二人とも、翔太にとって大事な幼馴染である。付き合ったらーーーーまぁ、緑が気持ちを自覚するのは時間の問題だが、そうなった時は、あの時と同じように盛大な祝ってやろう。
「明日、美咲にそれとなくいろはに対して探りを入れてーーーーなんか楽しくなってきたな」
昼休み時には、1歩引いて見守ってやろうとか思っていたが、辞めた。二人には幸せになって欲しいので、裏から色々と手を回すことにする。
「まずは緑にどうやっていろはへの気持ちを自覚させるか……多分あれ気づいてないだけで絶対いろはのこと好きなのに………」
いろはといる時だけに浮かべる笑顔。それこそ昔からずっといる翔太には分かる。あれは、完璧にほの字である。
「……まぁ、その辺はゆっくり美咲と作戦練るか…………よー!待たせたな!二人とも!」
「翔太」
「翔太くん」
(さて……明日から頑張りますかね)
と、意気込む翔太である。
「……あれ、緑?お前傘二つしか持ってねぇじゃん」
緑から傘を受け取った翔太は、疑問を持つ。緑は先程まで、傘を2つもっており、いろはは持っていない。
そう、これが表す答えはーーーーー
「問題ないーーーーよし、いくぞいろは」
「うん」
緑が傘を開くと、トコトコといろはがその傘の中に入る。
そう、所謂相合傘である。
(………あれ?やっぱり余計なお世話?)
少しだけ、そう思った翔太だった。
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原版では、この段階で日間1位なってました。四月の俺すげぇ……




