異世界就職活動編 その5
腹巻 清 45歳。異世界での就職が決まりました。
転送四日目
目の前は未だに暗い布に覆い隠されている。
自分の魔力がそれなりに高いことを教えられたがやはり実感は感じられない。
ただいつまでも魔力の暴走に怯えるわけにもいかないのでベイルがそれを解決してくれるらしいのだが。
「んふー、キヨシさんおはようございます。なんにも出来ないキヨシさん今日は不本意ではありますが魔族の力を借りなければなりませんね。この才女メアリーが全て解決してあげたかったのですが仕方がありません。それでは嘘つき胡麻塩頭のなんにも出来ないおじさん代表キヨシさんさっさと朝ごはんをすませましょう。はい、あーん!えいっ!」
私のものを食べる速さはそんなに速くはないがそれを気にせず口に次々とものを打ち込んくでるメアリーの拷問スタイルに泣かせられつつ朝食が始まる。
「キヨシさんちゃんと口を開けてください、はいあーんですよ。」
昨日は疲れてすぐに寝ることを選択してしまったがあれは間違いだった。
確かにこのメアリーという女性は普段はうざいくらいにうるさいのだがなんというか私のようなおじさんにすら献身的に接してくれるのは間違いない。
ましてや朝から目隠しをしているせいで不自由な私の朝食の手伝いまで嫌がらずにやってくれるなんてうれしうごご
「さぁさぁキヨシさんどんどん食べましょうね。さっきから顎が働いていませんよ?キヨシさん昨日は帰ってきて直ぐに寝てしまったではありませんか。このメアリーが朝ごはんを食べる手伝いをしているのです。しっかり食べましょうねキヨシさん。ほらほらあーんしてください!」
口の中は既にパンとスープで一杯なのにも関わらずメアリーはまだまだ食べ物を突っ込もうとしてくる。
もしこれが付き合い始めた熱々カップルなら理想の展開なのかもしれない、この女性の本性を知らず勘違いをしていた私なら嬉しくて仕方なかったことは想像に難くないのだが約2日経って既にこんな残念な気持ちになってしまうとは。
「キヨシさんがまさかあんなに魔力が強いだなんて微塵にも思いませんでしたよ。この才女すら騙す魔力コントロールが出来るのかと思えばその逆で全く魔力コントロールが出来ないとか本当なんですか?ベイルさんが言うには随分と少数の部族のご出身だとか。そういった部族であれば人族でも珍しいアストレイ部族なんかもいるわけですけど魔力にも疎い部族というのは未だに存在していたんですね。まさかこの才女ですら知らないことがあっただなんて!でもでもっ!ご安心を!本当は正直者だと思っていた嘘つきキヨシさんのサポートを当分の間この才女メアリーがいたしますからねっー!!!嘘つき胡麻塩頭のなんにも出来ないおじさん代表のキヨシさんご安心下さーい!!!」
最後の言葉と同時にスープをすくっていたであろうスプーンで思いっきり左頬を突いてきた。
嘘を付いたわけではないがメアリーからすれば嘘をつかれたという意味合いでは正しい。
更に賭け事すら平気でやる自称聖職者には金貨の件でも根に持たれていることは分かりきっているのだが彼女の信仰しているカーパ教とやらの祈りが恐怖で絶叫し漏らしたおっさんの世話すら進んでやってくれるらしいのでまだ一応感謝の念は抱けそうだ、まだ頑張れる。
「ベイルさんが今日中にもキヨシさんの働く場所と魔力を抑える装備を用意してくれるらしいですし目隠し生活も今日までですから安心してください。それと魔力の知識も乏しいと聞きましたがもしあの時噴水の水を飲んでいたら体中の水という水が暴走して死んでいたかもしれませんよ。絶対に水は井戸から汲んで飲んでくださいね。」
「ど、どうちて身体の水が暴走するンッですか?んごっ」
「魔力は基本的に力が拮抗していようがしていまいが他者との接触で危害を加えることはありません。それこそ魔力が強い人が弱い人へ一方的に自分の意思を言葉として伝えるとかそういった弊害くらいですよ。しかしながらですね、魔法というものはあくまで魔力を消費して行使された一つの事象なのです。その魔法はいかなる強者であっても他者の魔法を吸収することは出来ずもし取り込もうとしたならそのまま魔力を消費することになるんですよ。」
「魔法は吸収できないってことはっ、魔力も吸収できないってことなんですか!あーっもう無理ご馳走様です食べられませんやめてー!」
メアリーは鬼畜の如く説明をしながら私の口に次々と食べ物を打ち込んできていたので流石にもう叫ぶしかなかった。
「うーん、魔力自体を抑えるっていうのは装備で一応可能らしいのでキヨシさんには【封魔の羽織】という装備が貸し与えられるそうなんですが、他者から魔力を吸収するっていうのはあまり考えてもみませんでしたね。もしかすれば魔族であれば可能な種もいるのかもしれませんが魔法で行おうとすれば自殺行為でしょうか。これからキヨシさんが会うあの巨大黒アッベなら何か知ってるかもしれまけど私はお勧めしません。魔族より人族を信用しましょうねキヨシさんわかりましたか?」
「黒アッベ?」
メアリーの好奇心に火が点いたのか私の叫びは虚しく無視され挙げ句よくわからない話をまくし立てられてしまった。
そんな時ドアを誰かが叩くとカーパ教支部(仮)へと入ってきたのだった。
「イド、キヨシいる?」
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イドと名乗った人に連れられ私はどこかへと向かっている、らしい。
連れられているというか実はおんぶをしてもらっているのだが。
「い、イドさん。私達はどこへ向かっているのでしょうか」
正直未だに目を隠したままのおっさんがおんぶで運ばれているだけでも異様だとは思うのだがおそらく魔族に連れられているらしいのはこの世界でどう写っているのだろうか。
「イド、キヨシ【アクル質屋】連れてく、ベイルお願いされた」
誰かの質屋にいくのだろうか、全く起こっていることが説明されないので理解が難しいことが続く。
それにしてもイドに連れ出された私を送り出したメアリーはあまりにも不機嫌だったものだ、確かイドのことを泥人形とか言っていたのだが彼は魔族なのだろうか。
ただこんな状況で確かなのは彼の背中は中々に気持ちが良いそれこそ元いた世界のビーズクッションのような感覚だ。
彼自身私に話しけけてくることはないので会話もあまりせず私はその心地良い背中に安心して身を預ける。
「イド、キヨシ起きて、【アクル質屋】着いた」
目隠しにもなれて街の音を聞きながらいつの間にか寝てしまっていた私は温もりを感じたまま目的地に到着していたのだった。
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イドにおんぶをされたまま微かな光すら感じない所へと案内されたようだ。
「イド、キヨシ連れてきた」
「やぁやぁ来たね。君がベイルの言っていた異世界転移者か。」
何故だろうかやたらと声が大きい。
「イドこれを彼に着せ給えよ。しかしペーニとはまた違った風貌の男なのだな。君が※※※※※※※」
急に話している言葉が聞き取れなくなってしまった。
イドが何かを着せてくれたからなのだろうかと思うと目隠しが取れる。
久しぶりの景色を堪能しようにも部屋の中が暗くて目もあまり捉えきれていない。
いいや違う、私の目の前には何やら輝いた球体のようなものがあるのだ。
暗い場所にいるはずなのに何故こんなにも綺麗で身体が引き込まれそうなのか、いやこれは惹かれているのか。
その後もじっくりと目を細めて見ているとその球体と他の物体の正体に気付いた。
目だ、しかも巨大なカラスの目。
私が訪れた場所には上半身がカラスでやたらと腹筋が割れている超巨大なカラス人間があぐらをかいて座っていた。
何やら話をしているらしき音は聞こえるのだが話している内容がわからないのは相変わらずだ。
しかし初めて見る異形に私は腰を抜かして絶叫してしまった。
脚をあわあわと動かしながら少し後ろに移動するとすぐに障害物にぶつかる。
そこには歪んだ笑顔を見せる他の魔族が。
私は精一杯右手に力を振り絞り絶叫を力に変えて身体を左方向へと柁を切る。
しかし歪んだ表情のまま魔族は歩み寄り巨大なカラスは頭を上げて私を仰ぎ見る。
それに加えて雀の頭で身体は人のようなものも飛び出してくると私に剣を向けた。
私を仰ぎ見たカラスは私めがけて右翼を放つ。
恐怖に素直に従った私の身体は渾身の絶叫を上げつつ身体を丸められるだけ丸め右腕と左腕を身体の前へと突き出し身を守った。
そんな状況で恐怖は次に私の瞼を閉じ脚だけは力が入らずぶら下がったままだ。
何かが私の右腕を掴む。
しかしそれは私のことを害するものではなかった。
「イド、キヨシ大丈夫?」
しっかりと泣いていた私はイドの投げかけた言葉に少しずつ瞼を上げた。
先程の歪んだ表情の魔族がイドだったようでメアリーが泥人形といったのも頷ける風貌をしていた。
驚いたことにイドの腕はほんのり温かい、その温もりが私の心から恐怖を和らげる。
巨大なカラスはその巨大な右翼に小さなランタンのようなものを器用に持っていた。
「アクル様なんのですかこの人族は!あのベイル・オックスとストレングス様の紹介だからとお通ししたらこの様です。貴様無礼にも程があるぞっ!」
雀頭の魔族は私に激情している、怒髪天といった具合だろうか。
しかし巨大なカラスはそんな言葉にも反応するでもなく明らかに私を凝視している。
すると急に口をいや正確には嘴を大きく開くと爆音と爆風が押し寄せてきた。
ガアァーーー!ガァーーーーーー!
「イド、アクル笑う、初めて見る」
「大戦時によく見た光景ではあるが人が地を這いずり回り絶望に打ちひしがれる様はやはり飽きぬ。我は元魔人四皇が一人、知大の四皇アクル・ヴァイスハイト。異世界よりの来訪者キヨシよ、勇者の友ベイルより事情は聞いているぞ。しばし【封魔の羽織】と【朝日の灯火】を貸し与える。この世界の知識が乏しいとは聞いていたが大胆な男であるな。気に入ったぞキヨシ、君を我は歓迎しよう!」
どう聞いてもカラスの鳴き声にしか聞こえなかったがあれが笑い声なのか。
それより笑い声以外話が出来ている一体どうなっているのか先程一瞬声は聴こえても理解できなかったのだが。
そんな私を尻目に笑う事を止め自己紹介をする巨大カラスから道具を貸し与えられた。
何を気に入ったのかこの巨大カラスは私を歓迎してくれた。
それにしても魔人なんちゃらといっていたけど勇者一行のベイルと知り合いということは四天王ポジションの魔族ということなのだろうか。
恐らく四天王ポジションの魔族なのだろう。
雀頭の人は未だ怒っている。
考えを巡らせているとイドが私を背負いまた来ると挨拶を交わしアクルの元を後にしたのだった。
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ザンタ爺さんに拾われた日を思い出すような日の落ち方だ。
先程まで絶叫して腰を抜かしてまた泣いてしまい情けなさを感じつつイドの背中に癒やされながらまた次の目的地へ移動しているらしい。
それにしてもイドが泥人形といわれていたが私をおぶって進む彼は下半身をまるでナメクジのようにして地をはって進んでいる。
これのおかげで私は段差を気にすることなく運ばれていたというわけだ。
「イドさん長い時間私を運んでくれているけど疲れないんですか?」
「イド、疲れるわからない、楽しい悲しいわかる」
「そういえばさっきのアクルさんだっけあの人は偉い人なのかい?」
「イド、アクル偉い思う、ウンケイ偉い、ベイル偉い、キヨシわからない」
どうやらウンケイという人も偉いらしい。
「イド、イドゴーレム、アクル鳥人族、ウンケイオーガ、キヨシおじさん」
突然何を言い出したかと思えばそれぞれの種族について教えてくれたらしい。
私はおじさんという認識なのが少し納得いかないが否定しようもないおじさんなので黙っておくことにした。
「イド、アクル人怖がられる本当嫌い、キヨシお気に入り、キヨシ良かった」
イドはボソッと何かを呟いたのだが先程の恐怖を忘れようとしていた私は意図的にそれ以上は聞き返さないでいた。
--人に怖がられるの嫌いって絶対嘘だよな めっちゃ笑ってたじゃん---
アクルは絶対天の邪鬼な所があると心の中で愚痴を言いながらイドに身体を預け次の目的地へと向かうのだった。
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「よぉキヨシのおっさん!無事目当てのものは借りられたみたいだな。それじゃ雇い主に会いに行こうぜ。」
色々と手を回してくれたであろうベイルが私を待ってくれていた。
「イド、キヨシ預ける、イド用事、ベイルまたね」
辿り着いた場所は【ウンケイ・ザ・キャッスル】と書かれたラストマゲドン中央の城よりも随分と小さい城を模した建物のようだ。
イドも他に用事もあるとのことで入り口で別れベイルに導かれるまま中へと進む。
「いらっしゃい高級宿屋ウンケイ・ザ・キャッスルだよ!ってセフメン野郎かよ!じゃあこの冴えないおっさんが新しい従業員?すごく派手なおっさんだな。じっー」
「相変わらず口が悪いなエスイー。あいつがおっさんを雇えばそうなるだろうな。それとキヨシのおっさんが派手な格好してるのは仕方ないんだ触れてやるな、いいか?」
ベイルと話しているのは空飛ぶ目玉だ、その目玉の脇には翼が生えており下には触手のようなものがうねうねと動いている。
やたらと声が可愛いサッカーボールくらいの大きさの目玉だが名前まである様で驚きだ。
その目玉はどこから声を発しているかはわからないがじっーと言いながら私の周りを一周するとこっちへこいと可愛い声でオーナー部屋へと導く。
「よー!待ってたぜおっさん。なるほどな事情はわからんが雇ってやらんでもない!この俺様のために働けるかもしれないんだ光栄に思えよー!ガハハ」
扉を開けるとそこにはベイル以上に屈強な体つきをした頭に2本の角を有した正に鬼が座っていた。
「今日はアクルといい俺様といいおっさんは一日で二人の元魔人四皇にあったわけだが俺様のほうがイケメンだろ!あいつは身体も声もバカでかいし偶に知的すぎてわけわからんところがあるからな!だが安心しろ俺様は常にわかりやすく直感的におっさんに物事を教えてやる!それに他の従業員もそれなりに優秀だぞ!俺様は元魔人四皇が一人、力大の四皇ウンケイだ!よし面接だ!面接をはじめるぞ!ガハハ」
「ストレングス随分いきなりだな、キヨシのおっさんはまだ、ぶわっ!」
ベイルが何か言おうとしたがウンケイは蹴飛ばして部屋の外に追い出してしまった。
「よしおっさん、俺様の言うことは素直に聞けよ!ベイルから異世界の人間だとは聞いてるがお前さんには聞きたいことがあるからな!おっさんは力仕事は出来るか?」
「わかりません」
「おっさんはゲゲポポどころかラストマゲドンについてもほとんどわからないんだよな?」
「その通りです」
「おっさんはこの城どう思う」
「全体を見ていないのでよくわかりません」
「は?」
「へ?」
「うおっほん!おっさんは俺とベイルどっちがかっこいいと思う」
「ベイルさん」
「・・・なぁんだと、このじじぃ!」
ベイルが颯爽登場。
「キヨシのおっさんは正直に答えただけだぁぁぁっぁあぁ」
またもやベイルはウンケイに蹴りだされたと思ったが壁ごと断末魔と共に吹っ飛んでいってしまった。
「素直すぎるぞこのじじい!このウンケイ様がベイルよりもブサイクだとはその人を見る目を俺様が鍛え直してやる!よしキヨシのじじい明日からここに来い、いいな明日から仮採用だ!エスイーとイド、キヨシのじじいの教育はお前らに任せるぞ!」
「イド、キヨシ仲間嬉しい、イド頑張る」
「やったー!俺様の子分1号だ、よろしくなお漏らしのおっさん」
「おいエスイーお漏らしって何だよ?」
「ストレングス様知らないのー?このおっさんは昨日絶叫しながらお漏らししたんだよ、よっこいしょ」
何やらエスイーという空飛ぶ目玉がウンケイの頭に乗っかると次の瞬間ウンケイは大爆笑をしながら机をバンバン叩いて破壊した。
その後もしばらく腹を抱えて笑っていた。
「キヨシのじじいやるじゃねーか!中々気合の入ったホーリーバリアだったなぁ、ギャハハハハ」
「イド、キヨシ可哀想、ウンケイ酷い」
「キヨシのじじいに改めて紹介するが明日から教育係につけるアンドロのイドとアイバットのエスイーだ。イドはゴーレムの一種だな、それとこのエスイーは人の頭に触手で取り付くとお互いの思考や記憶を一部共有出来るなかなか便利な野郎だ。後俺様はウンケイだ、他の呼び方はあんまり気にするな。」
とりあえず異世界での就職先が勢いで決まってしまたらしい。
というかウンケイのやかましさはメアリーに似ている、この世界はこのやかましさが常識だったりするのだろうか。
「くっそ本気で蹴りやがって、いてて。兎に角ストレングスが気に入ってくれてよかったぜ。キヨシのおっさん、ここにいるイドとエスイーはストレングスに忠誠を誓ってるからおっさんのことは別に話さないだろうから安心してれ。それじゃ俺はもう帰るわ。くっそストレングスの野郎ぉ。」
壁ごと飛ばされていたベイルは恨み節を言うと頭をかきながら帰っていく。
「キヨシのじじい明日はブレインキャッスルの頂点に日が昇るまでにここにこい!明日からしっかり働いてもらうぞー!よしエスイーあのバカメアリーのとこまで送ってこい!」
「よしっキヨシのおっさん俺様が送っていってやるー、いこー!」
ウンケイに一礼し、やたら可愛い声のエスイーに先導されて仮雇用は決まり帰路につく。
ただ外に出ておろどいたのだが実はここからカーパ教支部(仮)はお互いの看板がしっかり見えるという具合の距離だったので迷いようもなく案内してもらうまでもなかった。
「えっとエスイーさん、今日はどうもありがとう。明日から改めてよろしくお願いします。」
「いいのいいのっ、ストレングス様が決めたことだしイドも気に入ってたもんなぁ。そうだ最後に昨日のおっさんのお漏らしシーン見る?」
挨拶をしたつもりがとんだしっぺ返しを食らった気分だ。
拒否する間もなく頭にエスイーの触手がしっかりと触れ記憶が共有されてしまった。
まさか昨日の絶叫シーンを客観的な視点からリプレイを見させられてしまったのだ。
げんなりしていた私を余所にエスイーは何故か静かだ。
しかしエスイーは私の顔に近づいてこう言うのだ。
「俺様のことかわいいって、しょうがないなキヨピーって呼んでやるよ。また明日なキヨピー!」
可愛い声だなぁと思ったのは事実だ、ただ何を勘違いされてしまったのかエスイーという空飛ぶ目玉は私が彼女に好意を抱いているかのような言動で去っていった。
まさか私の異世界生活のヒロインはエスイーなのだろうか。
一瞬女性の様にも思ってしまったが俺様と言うのだからきっとエスイーは男に違いない。
意気揚々とエスイーはウンケイの元へ帰っていったが明日から正直不安の種が増えてしまった。
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「こ、こんばんわー」
恐る恐るカーパ教支部(仮)のドアを開ける。
するとそこにはメアリー以外の人とも全く違う存在が待ち受けていた。
「やぁこんばんわ」
正直メアリーもかなり美人ではあるが待ち受けていた女性も相当美しい。
というか背中から綺麗な純白の翼が右翼に生えていて左の翼はなにやら包帯のようなものでがっちりと巻かれている。
月明りだけというわけではないが街の街灯が窓から差し込む光だけでもその白い翼は光り輝いているようだ。
逆にこの包帯の様な物で包まれた翼はなんとなくではあるが近寄りがたい雰囲気を感じるが気のせいか、それにしても少し暑いような。
いやこんな美人と二人きりだからだろうか。
「あのメアリーさんは?」
「彼女はまだ帰ってきていないみたいだね。それにしても君随分奇抜な格好をしているね面白いよ。」
「へっ?これですか。はははっ」
まるで天使のような女性に指摘され初めてこのショッキングピンクの羽織については驚かされる。
この奇抜過ぎる色合いの【封魔の羽織】のお陰で目隠しをせずとも魔力が勝手に抑えられるこの世界では中々無用の長物とも言える普段は使い道の無い道具らしい。
街中を見渡してもここまで凄い蛍光色はやはり私以外いなかったのは間違いない。
「ふふっ、それ【朝日の灯火】っていうんだっけ?魔力が弱くても多種多様な種族と意思疎通が可能になるなんて便利だよね。」
「いや、本当に便利ですよね。ええっとお姉さんは魔族なんですよね?」
「カーパ教の教義は【信じなければ救われない】だよ。それは聖王が討たれた今人族だけのものでもなくなっているのさ。君は人族だからこそ人族第一主義を掲げる宗教は人族だけのものだと思っているのかい?」
「いえいえ!そんなことは決してありません。傷つけてしまったのなら申し訳ないです。」
元いた世界でも宗教は色々な火種になっていた。
異世界では余計に気を付けなければいけないであろうことを今更気付かされる。
「いや、いいのさ。日々退屈だと困ってしまうけど何か刺激を与えてくれるものは必要さ。人族であろうと魔族であろうと信じて救われたいと思うのはそんなに不思議な事ではないはずさ。さて彼女はまだ帰ってこないようだし僕はこれで失礼するよ。さようなら。」
「はい、さようなら。」
天使のような出で立ちで一人称が僕だという女性はとても清らかな笑顔で外へと消えていく。
---ああいった人を月下美人ていうのかな---
その後ろ姿を見て私も疲れがどっと押し寄せている事に気付き貸し与えられた部屋へとトボトボ歩いていくのだった。
それにしても明日から本当に働けるのだろうか不安は募る一方である。