異世界就職活動編 その3
腹巻 清 45歳。初めてお姫様抱っこされました。
「まさかとは思ったがいやー正直今日はすまん!まぁ今日はゆっくり休んで明日よろしく頼むぜキヨシのおっさん!」
私の肩をバンバン思い切り叩いているのはベイルである。
まるで私を気遣ったかのような言葉とは全く違うあまりに力強すぎる激励の肩叩きの様ではあり彼の顔は満面の笑みだった。
私としてはあまりにも多くのことが起こり心も身体も昨日以上に疲弊している。
ベイルの激励も終わる頃ちょうど迎えに来てくれたメアリーと共に帰路につく。
「嘘つきおじさんに私の泣けなしの金貨を犠牲にされてしまったのは許せませんがキヨシさんには行き場所も無い様ですし仕方がありませんね。元勇者パーティーのベイルさんに頼まれてしまったので嘘つきお漏らしおじさんであるキヨシさんをしばらく私達カーパ教がお預かりしますしお仕事もベイルさん直々に用意されるという事ですから。これも全て私という才女があなたを助けた事から始まったご縁な訳でありまして、いいんですよ尊敬してもでも私としてはキヨシさんみたいなおじさんからの純愛は拒否させて頂きまので勘違いだけはしないで下さいね。そうそう私はカーパ教神官として崇高なる博愛主義の精神で一応汚らしいキヨシさんの事も愛してはあげますよ。一応ですよ?わかりましたか嘘つき胡麻塩頭でイヤらしい顔付きをしているキヨシさん?」
彼女は相変わらず私をコケにしたかのような物言いと見事なナルシストぶりを発揮していたようだがあまり耳には入ってこなかった。
というのも帰路につくというのはカーパ教ラストマゲドン支部(仮)での共同生活が決まってしまったという方が正しく、兎に角布団に入りとある出来事を思い返しつつ私は寝ようと思うのだ。
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顔を見るな動くな何者だと急にベイルに敵意を向けられてしまった私は正直固まってしまった。
あんなに気さくに話していたのに一体何事だというのか。
しかし彼の言うことを聞く前に私はベイルの顔を見てしまっていた。
「どっどうしたって、私は何もしていませんよっ!」
今日は見ず知らずの人々に散々自分の嗚咽や泣き顔ましてや粗相に至るまで現実世界ですら他人に見せなかった醜態を見せてしまった。
そのせいか自然と反論をするために口や喉、更に体全体も先程よりは動く。
勿論全てが鈍臭い私そのもので完全に狼狽しているのも伝わってしまっただろうが。
風魔法を周囲に放ったであろう先程ベイルに詰め寄っていた女性は既に地面に寝かせられていた。
それにしてもベイルのあの動き、本当に彼は人間なのだろうか?
彼が走った後は地面が見事にえぐられておりまたしても予想も出来ない出来事に見舞われている。
しかもこれだけのことが出来る人に敵意まで向けられて普段なら必ず震えていただろう。
だが正直身体も心も疲れすぎて震えているのかすらわからないのだ。
動くなと言われてから少し動いてしまったが散々やかましいザンタ爺さんとメアリーもこちらの様子を伺っているようで何も言いやしない。
「メアリーの嬢ちゃん悪いんだが急用だ、しばらくこのおっさん借りるぞ。この姉ちゃんは頼んだ。」
静寂を作り出した本人であるベイルが私の方へと歩み始める。
私としては何がなんだかわからないばかりかあんな風に怒鳴られるのは好きじゃない。
元々こんな状況にされたのも勝手にこのベイルや周りが騒いで決めて今度は怒鳴られ、異世界なのに本当に私のいた世界となんら変わらない。
私はベイルの言うとおり動かず心の中で文句を垂れているわけだがなんと従順なことか。
「よしっ、おっさんしっかり捕まってろよ」
気づくと私はベイルに抱っこされていた所謂お姫様抱っこだ。
心の中で大ブーイングを起こしていたらまさか男のイケメンにこんなことをされるとは。
でも私としてはあまり悪い気はしていないような。
しかししっかり捕まるとはどういうことなのだろう等と考える暇をベイルは与えてくれなかった。
少し視界が低くなったと思うと一気に空中へと飛び立っていた。
そうただのジャンプだとかそんな高さではない。
これはあれだ飛んだのか。
それもただの勘違いだった、しっかり私達は落ちている。
この感覚は遊園地の遊具のジェットコースターとかああいった具合の所謂お腹のあたりが一気にヒュンとする感じの。
一つ決定的に違うのは前もって急に高いところから落ちるということがわからなかったことだ。
人を抱えたままこんな高さまで飛び上がるなんて、これは着地してしばらくしてからの感想である。
落ちていく時は流石に怖すぎてベイルの服を精一杯掴んだ。
お姫様だっこをされていたから片手でしかしっかりと掴むことも出来ず慌てふためいていた。
なんとか着地をしたかと思えば再び飛んでは着地をしそれを繰り返す。
着地をする度にぐえっ!と汚い声が漏れるがそんなことは気にしていられない。
そして四度目のぐえっ!と鳴き終わるとラストマゲドン城門前に辿り着いたのだった。
そもそもなんでこんな移動をしたのだろうか、もう本当に疲れてしまった。
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「こっ、これはなんなんですかっ?」
ラストマゲドンヘと着いて早々私はベイルに連れられ【セーフメンテ】という場所へ連れられていた。
というか目をつぶっとけと言われお姫様抱っこのまま【セーフメンテ】に入ってきたら今度は目隠しをされてしまい声を出したは良いものの声は裏返る。
まさかベイルには危ない趣味があるのだろうかと思うと怖さは倍増した。
「おっさん安心しろよ、別にあんたになにかしようって訳じゃない。変なこと言うようだがおっさんあんた他の世界から来たんじゃないのか?」
あまりにも唐突な質問に私は呆気にとられてしまった。