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異世界転移ハイパー☆ラブホおじさん   作者: ラブホおじさん
第一章 誕生!?ハイパー☆ラブホおじさん
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異世界就職活動編 その2

腹巻 清 45歳。人前で初めて漏らしました。

「さぁさぁ!このおっさんが魔法が使える方に俺は金貨1枚かけるぜ。みんなはどーする?」


見るからに屈強な男は私になにも問うこともなく勝手に賭けを楽しんでいるようだ、それにまわりの人々もちろん人ならざる見た目の人々すら喜んで参加してようとしているようだった。


「ブレイン木札でもゲロ硬貨でもいいぜ。どれもラストマゲドンでは流通している通貨だ。あんたらも職探しだけじゃつまらんだろ?どうせならこのラストマゲドンでの日々を堪能していってくれんとな!さぁさぁまだまだ受け付けるぜ。」


「わしもっ!わしも金貨3枚かけるだ!あんちゃんは間違いなく魔法が使えるだ〜よっ!」

「ちょっとまってくださいベイルさん、このなんにもないキヨシさん唯一の取り柄が正直であることですよ?そんな正直者のキヨシさんが魔法を使えるならこんななんにも魔力を感じないただのおじさんなわけないじゃないですか!この才女メアリーの才女たる所以をベイルさんもご存知ではないですか!?全く周りの皆さんもそんなに喜んでだめですよっ!私もなんにもないキヨシさんが魔法を使えない方になけなしの金貨3枚!とっぉぉぉりゃぁ!!!」


どういう事なのだろうかあの自称才女で聖職者であるはずのメアリーまで賭け事に参加していた。


いや寧ろこの女私のことは気にも賭けず完全にノリノリである。


この世界は聖職者を名乗っていても何でもありなのか今までの生きてきた世界での常識は意味のないものなんだと改めて痛感させられる。


メアリーのような聖職者すら賭けに参加していたので受付男性も喜んで魔法が使えない方に賭けているのだが私の存在はこうも何処の世界でも他人の為に存在しているのだろうか、折角異世界転移をしたのに散々な目にしか合っていないのだが。


顔を手で覆って隠すどころではなく存在そのものを消し去ってしまいたい程に悲しみに包まれてしまったおじさんなのであった。


____________________________


「よーし!これでいいなっ。おっさんが魔法が使えない方が圧倒的だ。お前らこれでいいか?これ以上ないなら締め切るぜ。」


完全に蚊帳の外に置かれた私はぼーっと眺めていただけだったがついに締め切られたらしい声を聞いて勝手に賭けを始めた男ベイルに注目した。


ザンタとあのおっさんはぐるで小芝居をやって仕事を見つけようとしているという陰口のようなものすらしっかり聞こえていたのだが私はそれどころでは無いのだ。


とにかくこの”おっさんは魔法が使えない”多数派を生み出してしまった雰囲気といい私の異世界転移とは何なのだろうかもう訳が分からない。


「それじゃおっさんが確かホーリーバリアが使えるってことだったし次はそれなりに攻撃魔法なんかが使えるやつを募集するか。手伝ってくれるやついないか?」


ベイルが手伝いを募ると如何にも魔法使いという格好をしたものから人ならざるものまで合わせて8人ほどが立候補していた。


その立候補者をベイルは集めなにやら話をしている。


そんな横ではメアリーがシャドーボクシングをして張り切りザンタ爺さんは何か飲みながら歌を歌い踊りを始めた。


元々この二人の言い合いからこんなことになったのだがこいつらなんなんだ自由すぎるという怒りが込み上げて来るのと同時に何が起きようとしているのか分からず心の中では完全に不安だけが募る。


「よしっ、んじゃおっさんいくぞ!」


そんな不安でいっぱいの私はベイルの脇に担がれてこの世界でのハローワークこと【エアーベイトサービス】を後にするのだった。


_____________________________


ベイルに担がれてやってきたのはラストマゲドン城門前広場にある【セーフメンテ】という看板がついた建物だった。


ここで待っててくれと言われしばらく周りを見つつ大人しく待っているとベイルは馬と馬車を持ってきのだが私は驚きのあまり声を張り上げてしまった。


「ゆ、ユニコーンじゃん!」


そういえば昨日は疲れていたり少し高いところから転げ落ちたりメアリーに無理やり連れて行かれたりと慌ただしく周りのものをじっくりと見るという行動すら起こせなかった、いやそれよりも気持ちが浮ついていたしやっぱり疲れてエトセトラエトセトラ


言い訳は置いておいて今この目の前にいる馬、角が生えてる!紛れもない伝説のユニコーンだ。


というかさっきからユニコーンばかりが実は周りで馬車を引いて走ってる事実に気づく。


「んー、あのなおっさん何言ってんだこれただの馬だぞ?ゆにこーんだっけ?そんなにおっさんの住んでたとこだと珍しいのか。そんなに目でかくして口まで開けちゃってさ、とにかくおっさん馬車に乗ってくれ。」


はっとしたのも束の間ベイルに催促されて私は馬車へと乗り込むとどこかへと走り出した。


_________________________________


城門をでると見渡しの良い平原が続いていたが奥には私が彷徨っていたと思われる森林が広がっている。


昨日は日が落ちてからラストマゲドンヘついたのでこんなにも森も広大であり馬車に揺られた道のりも凄まじい長さだったとは気づけなかった。


そう情けない事に妄想は出来ても気づけなかったことばかりである。


「もうそろそろ着くがおっさんにはこれから魔法が使えるかどうかの実演をしてもらう。ほれあっち見てみな。さっき手伝いに名乗りを上げた奴らが準備してるぜ。」


ベイルが指差した先には明らかに魔法と思しきものを放って本当に準備をしている方々が。


---魔法だよなあれ 絶対に魔法だ---


ある者は火を放ち、ある者は水を操り、ある者は風を渦巻かせているのか小さい草木が不規則な円運動を繰り返す。


更には雷も放たれ、氷が地面から突き立ち、地面そのものを隆起させている者までいるではないか。


元いた世界ではアニメの真似をよくしたもので技名を唱えつつ手をかざしてみても何も起こらなかった事象が今正に眼前で起こっている。


憧れ続けた少年は辛い現実に揉まれ続け青年となり揉まれすぎて一度壊れかけ、その憧れを微塵も残さず魔法を使いたいという願いを忘れ去った楽しみと言えばアニメを見て昼寝をする事だけという何も希望を見いだせない無気力なおじさんとなってしまったのだ。


そんなおじさんはかつての痛い黒歴史と純粋な憧れを懐かしみそして思い出しつつ今こう思っていた。


---あぁ全然喜べない---


折角異世界転移をしたのに自分で魔法を使える訳でも無いしましてや賭けの対象にされて弄ばれている始末。


何処まで他人の為の人生を生きればいいのだろうかと哀しみに暮れ涙目にもなってしまう。


---なんで異世界に来ても誰にも褒められないし必要ともされてないんだ 普通異世界転移ってすぐ良い思いが出来るもんじゃないのか 俺は主人公になれないのかよ---


しかもそんな元々弱気の私に追い打ちをかけるかの様に何やら結構なギャラリーまで出来ているではないか。


私は異世界転移をして客寄せパンダにでもなったのだろうか、いやもしかしたらこれが私の使命だったりするのか異世界客寄せパンダおじさん。


これはもう失笑どころか異世界転移お断り案件だ。


本当に何故こんな世界に転移させられてしまったのだろうか、どうせならチート能力を下さいと改めて心の中で願う事しか出来ない。


「なんにもないキヨシさんでももしかしたら今回のことで雇ってくださる方が見つかるかもしれませんね!口下手ななんにもないキヨシさんは自分を売り込むことは苦手でしょうしこの才女たるメアリーがきちんとお仕事が見つかるまでお手伝いさせていただきますからねっご安心を!勿論多少の傷でしたら才女の力で癒やして差し上げますからここはどーんといっちゃいましょう!大丈夫ですよ死にさえしなければ治せますから。あのー死なない様にしっかりと何個か魔法を避けてくださいねっ!」


城門を出る直前にちょっとまったと馬車に飛び乗ってきたメアリーが私の横で相変わらずやかましく騒いでいる。


不吉というより魔法に当たってこいと言わんばかりの物言いを笑顔でするのだこの自称聖職者、ちくしょう。


ましてや死ななきゃいいだとかそんなの無理に決まってるだろう、どうやってあんなにも自在に操られている魔法を避けろと言うのか。


「あんちゃん。でぇじょうぶだ!おらゲドン大森林から出てきたあんちゃんは只者じゃね〜と思ってるだ!そんなあんちゃんがおらにさらに金貨まで稼がせてくれるなんてありがとうねーあんちゃん。でもよくよく考えるとただで昨日馬車に乗せてあげたからこれも回りまわった善行の賜物だべな!たまんねーべなぁぁぁ!」


同じくメアリーと同じタイミングで馬車に飛び乗ってきたザンタ爺さんが俺の手を握ると目を潤ませ神頼みのごとく両手のひらを合わせて手を叩く、しっかり二回もパンパンと。


ザンタ爺さんの中では私は魔法が使えて今回の賭けに勝った気でいるようだ、この爺さん本当に物事が自分の中で完結しているようだ。


大体私の隣でワイワイ騒いでいる二人が元をたどれば原因でしかないわけでもっというと勝手にエンタメに仕立て上げたのは急に現れた今馬車を操るベイルという屈強な男のせいなのである、ちくしょう。


---ちくしょう ちくしょう ちくしょう---


ちくしょうと心の中で呟いているが私の心と体は恐怖に支配され震えていた。


____________________________


私の反対側にはラストマゲドンを背景に大勢のギャラリー、そして一番手前に8人ほどの魔法を使えるであろう立候補者がいた。


おのおの声を張り上げては魔法を放っている、ただ放っているだけではないぶっ放しているのだ。


「ファイヤ」

「ウインド」

「サンダー」

「アイス」

「グランド」

「ウォーター」


改めて魔法を見て私の震えは最高潮に達していた。


決して感動からくる震えではない、私はこれからあれらの魔法の餌食になるのだ。


「それではこのおっさんと立候補者たちとで魔法の実演をしてもらう!見物人も多くいるみたいだが賭けの内容は単純にこのおっさんがホーリーバリアを使えるかどうかそれだけだ!魔法の準備はもうばっちりみたいだな。おっさんそれじゃここに立ってくれ!」


「ほっ本当にやるんですか!?」


狼狽した私が涙でも零れ落ちそうな涙目で震えながらベイルに最後の確認をした。


「大丈夫大丈夫!おっさんがもし魔法が使えなくても俺が助けるから。メアリーの嬢ちゃんもいるし死にさえしなけりゃ大丈夫!おっさんほら頼むぜ!」


屈強の男のあまりにも無慈悲で残酷な言葉と共に肩を叩かれ指定の場所へといそいそと移動した。


肩を叩いたベイルは私がよぼよぼと指定場所へと歩いていく途中にあーっと何故か何かを察したような声を吐いていた。


それもそうだ、私は魔法なんて使えない。使えるならとっくに何かしら使っているはずだしそれにメアリーにはなんいもないと罵られる始末だし。


あぁもう涙がこぼれている。


せっかく異世界に来たのにたった3日でこの有様だ。


綺麗な人には罵られイケメンには食い物にされ年寄りには勝手な解釈で話をする前に放り出されもう公開処刑開始の指定場所まであと3歩くらいだろうか。


あぁ本当にこのまま人生終わるのかと泣きながら嗚咽までもう漏らしている。


そんな様をみて見物人どころか魔法を私に放とうとしている者の中には実演なんてする意味がないと声を荒げるものもいる。


「嫌だぁ、折角あんなつまらない環境から抜け出せたと思ったのにこんな事で死ぬのなんて嫌だァァァ!なんで魔法も使えないんだよっ!なんでぇー!なんでだよぉぉぉ!」


もう恐怖のあまり鼻水と涎すら垂らして体の震えも止まらず嗚咽と恨み節を同時に言っている自分がいる。


もう自分を取り繕う余裕すらない。


涎を垂らした時ついに指定の立ち位置にまで辿り着いてしまった。


よくよく考えなくともこの場から逃げ出す選択肢だってあったのになんて律儀な馬鹿なのだろうか結局死に場所へと来てしまうとは。


そしてどうせ最後だしメアリーのような美人の顔でも見ようと顔上げて彼女の方を見たのだ。


---もういいよねどうせ最後だし 美人くらい見たってさ---


最後のご褒美として美人を見ることにしたのだがその対象であるメアリーは何故か膝を抱えて蹲り人差し指で地面をなぞっていた。


---しかも顔がおかしい なんだその文句がありますという顔は---


如何にもいじけたいのはこっちの方だぞ!と思っていると嫌でもザンタもベイルも目に入る。


ザンタ爺さんは相変わらずはしゃいでおりそれに加えて酒も飲んで一人宴会状態だ。


ただベイルの様子はおかしい、あまりにもおかしいのだ。


ベイルは右手を顎にあてて目を見開いている。


---さっきのユニコーンをみて驚いている俺かよ---


ベイルと私は目が合った。


「魔法放てっー!」


冷酷なイケメンは私と目が合ったのを合図に号令をだした。


直後私めがけて一斉に魔法が向かってきたのである。


「ぢくじょぉぉぉー!!!!!」


私は絶叫とともに恐怖のあまり無意味な切り札・失禁を発動していた。


_____________________________


ここはどこだろう


そうか私は死んでしまったんだ そうか死んだのか これが無か


初めて見る魔法 それはそれは綺麗だった 


あんなに綺麗な色に包まれて私は逝ったようだ 悔いしかありません 


それはそうとなんだか下半身が生暖かいけれど 


上半身と下半身でこんなに感じる温度も違うなんて 


「おーい、起きれるかおっさん」


あのちくしょうイケメンベイルの声が聞こえる


「あんちゃんやっぱすげーだな!さんきゅー!ってなんでだー!賭けだったはずなのに配当金が貰えねっておかしいべ!ベイルのあんちゃんは悪いやつだべ!あんちゃんをダシに魔法使いの雇い主見つけるために元々賭けじゃなかっただなんて!あんなに集めたゲロ硬化や金貨を元々の賭けた人間に返金なんておかしいだー!それならおらだって手伝ったべ!ベイルのあんちゃんおらにも分け前をだなー!」


「キヨシさんいい加減起きてくださーい、もう日も落ち始めてますよー。ばっちいですから早く着替えもすませましょー。お漏らしのキヨシさーん。おきてくださーい、お漏らし不細工嘘つきキヨシさーん。嘘をついていたのは許して差し上げますからー早く起きましょうってばーキヨシさーん。」


やかましいザンタ爺さんと勝手にいじけていた自称聖職者メアリーのあからさまな棒読みの声までも聞こえてくる


「おっさんもう見物人もいなくなったし早く起きなって。しっかし見事なホーリーバリアだったな。あれだけでかいホーリーバリアが張れるなんて思いもしなかったぜ。どうやら見物人におっさんの膨大過ぎる魔力を見抜けた奴も殆ど居なかったし普段からどうやってそんなに魔力抑えてんだよ。ってかおっさんは魔法を使う度にあんなに狼狽して恨み節呟いたあとに漏らすのか?」


「へ?」


そう私は生きていた。しかもホーリーバリアとやらを使えていたらしい。


倒れていた身体を起こすともうギャラリーというか野次馬達や魔法を使っていた者もそれぞれ散っていた。


「まぁあれだ、おっさんをダシに使ったのは謝るぜ。でもこれで少しは魔法が使えるやつらの所属先も決まったかな。ほらこれお詫びの金貨4枚な。」


どうやら賭けというのは嘘で仕事の斡旋のためのイベントに利用されていたらしい。


「「ちょっとまったぁぁぁ!」」


メアリーとザンタ爺さんが喚く。


「あのな元はといえばエアーベイトサービスで騒ぎを起こしてたのはあんたら二人だ。このおっさんを俺が利用したのは事実だがあんたら二人からは迷惑料として金貨は没収しとく。それでおっさんには金貨4枚を報酬として、俺には残りの金貨2枚を手間賃としてだな。あっこらおいっ!」


あぁ生きてた。


金貨の話で三人が勝手に盛り上がってるけどもう生きてるだけでイイかなと、ザンタ爺さんとメアリーそしてベイルが私を尻目に謎の攻防を繰り広げている。


「こいつらめっちゃ元気だな。ちくしょう」


そんなため息混じりの独り言を吐くと少し起こした上体を再び地面に付けて寝そべろうとしたその時である。


「ちょっとまってよ!他の奴らは仕事が見つかったけど私だけ誰にも声がかからなかったんだけど。私だって一役買ったんだから金貨一枚ぐらいよこしなさいよっ!大体このおっさん私達が魔法を使う前からあんな強力なホーリーバリアを張るなんて頭おかしいんじゃないの!?全部あんたのせいよこの汚物っ!!!」


ウインドの魔法を放ってきたそれはかとなく可愛い女性がベイルに詰め寄っていたと思ったら此方にやってくると私を殴ってきた。


どうやら彼女だけ誰にも声を掛けてもらえず未だ仕事が決まっていないと言うのだ。


最後の方はメアリーと同じくらい私の事を罵って来た暴力まで振るってきた。


殴りれた私が何故こんなにも冷静なのかといえば今まで脳で分泌されてことの無いアドレナリンのお陰だろうか、いや多分彼女の衣装のせいだ何故あんなに胸がはだけているのか殴られなかったら私は何か変な思い違いを起こしてしまいそうだ。


もう私としてはどうでもいいから早く解放されたいと思いつつ更にややこしくなった二人のやり取りをもう殴られたくは無いので離れた場所に移動してから片膝をつけて家でくつろいでいるかの如く見守っていた。


---こういったカワイイ子と付き合ったり出来たらいいのになぁ 折角の異世界転移いきなり変なイベントに巻き込まれたご褒美くらいあっても良くないか あーあ彼女ほしいなぁ---


すると偶々詰め寄っていた女性と目が合ったのだが彼女は一瞬私を凝視したかと思えば両肩を交差した腕で触れて蹲りそんな体勢のままぴょんぴょんと跳ね始めた。


---なんだろうよほど良いことでも合ったのだろうか まさか彼女こそがこの異世界での私のヒロイン的存在で目が合った瞬間恋に落ちたのかもしれない---


どう考えても独りよがりで煩悩まみれの童貞の思い過ごしの答えを見てみよう。


跳ねていた彼女は脚のバランスを崩すと地面へと転げ落ちるが直ぐに立ち上がると満面の笑みではないなんというかどう考えても危ない笑みを浮かべて絶叫する。


「ひゃあああああああああ!私はこれだけすごいのにまだ私の実力がわからないなんて!それならあんたたちに私の凄さわからせてあげるぅぅぅ!!!ウインドブラストォォォォォ!!!」


明らかに唱えた呪文は先程の比ではなく隣にいたベイルは飛ばされた。


それだけではなく少し離れた場所にいた私やメアリーすらも解き放たれた風は巻き込もうとしていた。


震えも消え失禁していたことすらも忘れていた私にいつかの記憶が蘇る。


そうだあの日、召喚されたらしいあの日だ。


私はナイフをつきたてられて恐怖を意識する間もなかったあの時。


それどころか異世界に来る前日見た動画や子供の頃の記憶すら甦る、そうかこれが走馬灯本当の死の直前なのか。


「マッスルアップ!」


走馬灯に思いふけようとしていた私を余所にふっとばされたはずのベイルが土を刳り走り絶叫した彼女に駆け寄る、いいや既に彼女の腹に拳を放っていたのだ。


正直ベイルの移動は一切見えなかったのだが。


魔法の風は止み一瞬の出来事に私は何もできずに立ち上がった。


「おいおっさん止まれ!俺の目を見るな!お前何者だ!!!」


先程まで気さくに接していたベイルとは全くの別人の、それも明らかな敵意が鋭い眼光とともに私へと向けられていたのだった。

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