異世界土下座外交編 その2
腹巻 清 45歳。女王蜂に謁見しました。
ドラゴンビーの大群が飛び立ってから3日後私の身体が急に身震いをしだした。
この身震いは別に悪寒を感じたからとかそういったことではなくて元いた世界で例えるならマッサージ機を急に当てられて単純に震える感じだろうか。
メアリーにぶん殴られて脳に思わぬダメージか後遺症でも残っているのかとも思ったがただの思い過ごしだったようで再びドラゴンビー基ドラゴンビー・パテントであるビックドラゴンビ−が数十匹の大群で再び北側場外にやって来た事に私の常時発動中の【サンダー】が反応を示したからだった。
ラストマゲドンがまた蜂の話題で持ちきりになる前から私はイドとエスイーを伴い北側場外の農園へとやってきていた。
というのもメアリーにぶん殴られ療養をしていたときにウンケイやベイル達と話し合い彼らがやってきたら一目散で脇目も振らず会いに行くようにと指示を出されていたからである。
ベイルですら太刀打ちできなかった相手に流石のウンケイも敵わないということも重々承知しており、この異世界ゲゲロード・ポポログマにおいて”ドラゴンの遣い”と呼ばれ他の大陸では忌み嫌われまた他の大陸では宗教の象徴にもなり崇められるていたりする彼ら昆虫族。
伝説の存在ではなく日常に忍び寄る驚異になり得る存在とこれ以上事を構えるのは得策ではないということは元よりそんな彼らと貿易を開始できるかもしれないこの前代未聞のチャンスを逃すわけにはいかないというのがラストマゲドンでの裁量を任された人々の本音だったようだ。
「キヨシ準備万端と言ったところか流石だな。それでは早速我らが王国へ参ろうか。」
「待ってくださいアンビーさん。どういうことですか?」
「礼をすると約束をしただろう。それでは我らが」
「お礼がご招待ということでよろしいですか?というかどこなんですか王国って。」
「我らが王国はここから北西に進んだ大樹の中だ。さぁ我が騎士団員に乗ると良い。」
「えーっと、もしかしてまた何か交渉とかあったりとかしませんかね?以前も言いましたが私は村人Aみたいなものでして裁量が一切ないんですよ。ということでアドラシオンさんの同行も許可お願いします。」
「キヨシどういうことだ。まるで思考を読んだような準備の良さではないか。」
「あー、えーっと、アイビーさんのウキウキした気持ちが伝わってきたといいますか。なんとなくアドラシオンさん呼んでおいたほうがいいかなーっと。それと通訳として頭の上のエスイーも連れていきます。」
実は農園に辿り着く前からどうもアイビーがまるで初めて友達と外に遊びに行く男子中学生かよとツッコみたいくらい浮ついた気持ちが伝わってきておりそれに懐かしさというか感銘を受けてしまい、ここまでしっかり騎士団長として威厳のあるキャラ作りをしていると思われる彼の幼気な姿を団員の皆様の前で暴露してしまうというのは憚られるというものだ。
「わかった許可しよう。キヨシ一向を丁重に我らの王国へと運ぶのだ。」
アイビーの気合の入った命令に配下の蜂たちは器用に右前足を頭の上に掲げ敬礼をしていた。
この世界では昆虫のほうが余程元いた世界の人間社会の様な物を形成しているような気がしたおじさんは促されるまま巨大な蜂へと跨ると空へと飛び立つのであった。
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「さぁ、さっぶーい!!!」
日が半日ほど傾いて遂に目的地である彼らの国【ドラゴンビー連合王国】へと辿り着いた。
どうもこの国は元々【バリショーイ・トレード】と呼ばれる大樹の中にいくつかのドラゴンビ−のコロニーが存在しているらしくアンビーのいるコロニーは3番目に出来たという。
それにしても半日もものすごく速く上空を移動したせいでめちゃくちゃ寒い意識が飛んでしまいそうだったが羽音が凄まじかったお陰か生きて生を実感している。
「人間にはいささかあの速さの移動はきつかったか。しかし生きているなら問題なかろう、なぁキヨシ。」
「ひゃ、ひゃい」
「うむ、早速女王様への謁見となるが間違っても嘘はつくなよキヨシ。女王【ドラゴンビー・トレース・レイナ】は全てを見通す魔眼をお持ちだ。アドラシオン貴公もわかったな?それと非常食は話すな、皆アイバットは好物なのでな興奮して話にならなくなる。」
「俺様は非常食なんかじゃないやい!・・・でもわかったよ、怖いし黙ってる。」
エスイーは非常食扱いをされてしまったがドラゴンビ−はよく群れを襲って食べているのは事実だったようで忠告を素直に受け入れた。
それにしても女王も魔眼をもっているとは今度は一体どんな魔眼なのだろうか、全てを見通すというのはアクルの【金眼】よりもすごいのかもしれない。
しかし外は雲で覆われているほどここは高度が高いのだが空気が薄いということは無いらしく今の所息苦しさも感じずただひたすらに寒さに悶えている。
「そんなに寒いようなら身体を暖めると良い。救護班!救護班はいるかー!」
アイビーの呼びかけに馳せ参じたミツバチのような大きさのドラゴンビーの群れが現れると一斉に私とアドラシオンの身体に張り付いた。
これには既視感がありミツバチが身を挺して敵を蒸し殺す映像が思い浮かんだのだが勿論そんなことはなく身体が程よく温まると小さなドラゴンビ−達は自然と離れてゆく。
「あぁあったかーい。もう寒さなんて吹き飛んじゃいましたよ、ねぇアドラシオンさん!?」
アドラシオンもさぞ温まった事だろうと彼を見ると額から大粒の汗を垂らしながらいかにもクタクタな様子で息も荒くなっていた。
「いっ、いやぁキヨシくんはなんともなかったのかい?いやはやものすごく温まってしまったね。ははっ。」
「アドラシオンさん大丈夫ですか?早速女王に謁見するみたいです。」
「ああ、そうなのか。できればエスイーくん触手をこれからは常時私に触れていてくれえると助かるよ。」
「ぴぴっ!そうだった俺様忘れてたよ。」
「エスイーはそれにしてもあんな速度で移動したのに寒くなかったのかい?」
「俺様達魔族は寒さには結構強かったりするんだよ。勿論個体差はあるけどね。」
「へぇー。やっぱり魔族って人より断然身体は強いんだね。」
「うむ。それでは着いてきてくれ。」
促されるまま私達は大樹の中へと歩を進めたのだが意外と中は明るく通路の途中途中に光るゲロ鉱石が置かれていた。
彼らの強さはこういった知識の面でも人や魔族には決して劣っていないようだなどと関心していると大きく開けた場所へとつくと私は予想は大方出来てはいたが声を出して驚かずにはいられなかった。
「うおおおおお!ハニカム構造だだぁぁぁぁ!」
はちみつに外見そのままの巨大蜂ときて当然このハニカム構造がないわけがないのはなんとなく察してはいたもののここまでしっかり期待通りの答えが出てきてしまうと嬉しさが極まってしまう。
元いた世界でも散々ハニカム構造は義務教育から学び知り、自分の身の回りの生活にも生かされていたのだからはちみつと共に親近感を感じずにはいられない。
「キヨシまさか我らの伝統構造ハニカムすらも知っているのか。驚いたな。」
「そのままハニカムなんですね。いやー、あっ。」
アイビーの反応でまた今更気づいたのだが余計なことを言ってしまったのは間違いないのだろう私は何度同じ過ちを繰り返すのだろうか。
周りのドラゴンビーたちのどよめきも大きく私もドラゴンビー達もお互いに少し狼狽えながら遂に女王のいる広間の前へとやってきた。
「キヨシ、くれぐれも嘘だけはつくなよ。」
返事を返す暇も無く扉は開かれるとビックドラゴンビーよりも巨大な蜂が姿を現したのだがこれだけ大き過ぎると恐怖心よりも怪獣を見ている様な錯覚に囚われ変な高揚感に包まれていた。
「【ドラゴンビー・トレース・レイナ】お連れしました。キヨシとその仲間たちです。」
「アイビー下がれ。後は妾が全てを執り行う。さてキヨシといったか貴公の全て見せてもらうぞ。」
流石に目上の方との謁見ということなのか横にいるアドラシオンは片膝を突き右腕を胸に当て顔は下げている。
それを見た私は真似しようとも思ったのだが蜂の皆さんの注目を集めた土下座をしてみることにした。
初めてアクルと出会った時と同じ様に女王様もその大きな顔を私に近づけてくる。
魔眼で確認する為にはこんなにも毎回接近する必要があるのかと思うと不便ではありそうだが私には見えない何かが見えていたり固有の力が持てるなら羨ましいかぎりではあるが。
「まさかキヨシよ、お前はこの世界に生きとし生けるものではないのか。」
嘘を付くも何も本当に全てを見通されてしまっているようでこちらが何か発言するまでもなく女王様は色々と前脚を動かして私には見えない何かを見ているそんな感じがするのだが私はあの行動に既視感を覚えた。
アイビーは私の後ろで微動だにしていないようだが流石だとか小さい声で褒めてくれている、しかし問題なのは女王様の周りの方々でざわめき始めてしまった。
「ふむ。どこからか声が聞こえるぞ、キヨシよ後58の経験値でレベルがあがるでしょう。」
「はい、レベル?・・・れっ、レベルが上がるんですか!?」
急にどこぞの超有名RPGゲームでよく見たお告げの様な定型文を女王様が言い出したのだがこの世界にはレベルが存在しているらしい。
しかも私はレベルが上がってしまうというので今迄望んでいた出来事の到来に一驚してしまう。
あのアクルでさえも私のゲーム・アニメ・漫画知識を軽く否定してきたのにこの蜂の女王様は私の願望を見事肯定してくれたのだ。
しかも女王様の空で何かを動かしているであろうあの動きが絶対アニメや漫画異世界あるあるのステータス管理画面をみているのではないだろうかという疑点が浮かんできた。
「しかしアンビーと戦ったというのは奇跡という他ないな。ステータスは軟弱な人そのものではないか。かろうじて聖科適正が高いといったところか。レベルの最大値は5。噂のドラゴンライダー殿とは天と地程の力量差がありそうじゃ。おおキヨシよ!こんなに貧弱な異世界転移者とは情けない。」
やめてくれもうそんなマジマジと私には確認できない貧弱なステータスを何度も確認するのはやめてくれ。
レベルの最大値が5ってそもそもなんなのだろうか、上限が実は皆低いということなのかもう嫌な予感しかしないのだ。
「あ、あのーともかくですね、おっしゃられる通り私は転移者なのですが女王様はステータス管理画面を見ることが出来るのですか?」
「キヨシよお前は貧弱な転移者でありながら妾の持つ魔眼【金剛眼】の見ることが出来るものを理解しているというのか面白い。ステータスのことまでお前は知っているのだな。それに加えてお前はハニカムや土下座すら知っているとは。ふむふむ。」
周りの侍女なのだろうか(蜂だから違うと思うのだが)お世話係の彼らもどよめいている。
それだけ魔眼を持たない異世界転移者である私からステータスという単語が発せられたことが彼らの衝撃を与えているのだろう決して私が貧弱すぎるということで驚いてはいないはずだそう信じよう。
「あ、あのー質問よろしいでしょうか?」
「【ドラゴンビー・トレース・レイナ】に質問だと!この人間め多少我らのことを知っているからと調子に乗るな!」
「気にするな財務大臣。さてキヨシよそなたの賢さは37、そこの人間は89となっておる。お前の知りたいこととはなんだ申してみよ。もう一つ教えておくがキヨシそなたの魔力は6じゃ。」
「ろっ6!?そんなバカな、だって魔力が高いからこうして話せているんじゃ。」
「それは人間や魔物が言うところの”魔力”であって妾の見ているステータス上では”魔法力”となっておる。そなたの魔法力は290。確かに隣の人間は127じゃから人間としてはかなり高い部類ではあるかの。死闘を演じたというアイビーは487となっておる。」
−−−ってことは今言ってた魔力ってMPじゃないか 嘘だろおいMP6の魔法使い!?−−−
「ちなみに私の体力はどれくらいあるのでしょうか?」
「108じゃ。」
−−− 煩悩の数じゃね−か!!! −−−
さらっとバカにされ続けた後にオチまでつけられてしまった気がしないでもないが蜂の世界の財務大臣って一体なんなのだろう、それに恫喝までされてしまい余り気分は良くはない。
ただそんな感情に振り回されている場合ではない、知りたいことを一気に知れるチャンスだ怯んでいる暇はない。
「人間ってレベルの最大値って大体どれくらいなんですか?あなた方と比べて人間が貧弱なのかそれとも私が突出して貧弱なのか教えて下さい。」
「うむ。そなたが突出して貧弱なのだ。キヨシはレベルが5までしか上がらず、隣の人間は45が最大値。魔族でも大体が70までいけば大成したと言えるだろう。昆虫族や海洋に住まいし怪物共は90程が当たり前となっておる。」
あぁもうこれは自分のステータスについてこれ以上聞いても無駄だ間違いなし。
まさか憧れの数字による明確な”強さ”の提示がこんなにも残酷な現実を見せてくるとは、いや実はこの世界はゲームの世界なのではそうだきっと夢でも見ているんだもういやだこの世界でも雑魚なのかと1人異世界転移者としての勝手な妄想による矜持は儚く散った。
「貧弱ではあるがキヨシよそなたの【ホーリーサンダー】は随分と面白い魔法なのだな。まさか魔力を消費せずに発動し続ける魔法があるとは妾も初めて見たぞ。・・・だからそなたが”彼の者”に選ばれたのか。」
やはりアクルよりも正確に他者のことや魔法も理解しているようだ。
流石はお目々がダイヤモンドの女王様である。
「すいません不躾な質問というか態度かもしれませんが私も自分が置かれている状況を未だに把握していないので女王様なら私がなんでこの世界に呼ばれたのかわかったりはしませんでしょうか。正直なところ私が今こうして新たな時代というか転機に召喚されたというのがなんとも合点がいかないものでして。」
「よかろう。ならば我らのやっていることそれと人や魔がやったことについてもそなたに教えてしんぜよう。簡潔に言えば我らは古来より召喚の儀を行っている。しかし不思議なことに生き物を召喚に成功したことは一切ないのだ。人は近年やっと【ドラゴンライダー】を召喚することに成功しているが魔はかつての魔神王ブレイン・ディッツ以降一切の召喚を禁止しているようである。確かであるな召喚大臣。」
「はっ!【ドラゴンビー・トレース・レイナ】間違いございません。魔はもうかれこれ千年以上召喚を行っていないばかりか魔王ブレイン・ディッツによりその技術すら失われております。人は【ドラゴンライダー】ペーニ・ブレイク召喚に成功しておりますが召喚したとされる僧侶ラノゼ・ボミトは行方をくらましているということであります。また本日も私を始めとした召喚部隊により召喚儀式を行いましたところ2つほど召喚してございます。」
「しょ、召喚大臣。そんなものまでいるんですねぇ。」
「人間め、もう土下座すらやめて堂々と座って話すとはいい度胸だな。この侍従長ジムビーが」
「控えるがいいこの戯けが!この者はただの人間ではないのだぞ殺すことは許さん!!!」
−−−んんん どうなってるんだ明らかな殺気を向けられたのに女王様に庇われてしまったぞ−−−
「えー、どうもすいませんしたっ」
もう形だけでも再び土下座はしておいたほうが良いだろうということで暫くは頭を下げ続けることにする。
やはり人間は相当見下されている様なのでこれ以上他の蜂の怒りを買うといつ殺されてもおかしくなさそうなそんな明確な殺気を放たれてしまったのだ。
どうも頭上のエスイーも相当ビビっているようで彼が恐怖で震え上がってしまっているのも大人しくしようと決心させた決め手にもなった。
それにしてもずっとプンスカ起こっている蜂はあの雀頭のチョメチョメ氏を連想させるので彼はどちらかと言うと苦手な部類だ。
「面を上げよキヨシ。さてそなた達を招いたのは他でもない。先日アイビーが持ち帰った花々がとても状態の良いものだったことそれに加えまさか我ら昆虫族と会話のできる人間と出会えたのだ。これも何かの縁、妾としてはキヨシの存在だけでも信用に値すると判断した。そこでじゃ隣の人間よ、我らが【ドラゴンビー連合王国】とラストマゲドンとの取引を所望する。そなた達の育てる花そのものや蜜と我らが提供可能なものとでな。」
「おぉ、それは素晴らしい。我々ラストマゲドンの住人としてもそれは喜ばしいことです。しかし我々があなた方に何を要求すれば良いのやら皆目見当がつきません。」
「なるほど、キヨシはハニービーが欲しいようだがそれでよければ我らとしても問題なく提供できる。それではアドラシオン殿細かい取り決めはまた明日ということでどうだろうか。もう夜も更け始めているのでな。」
そう女王様が言うと他の蜂たちがなにやら一点を見つめているので私もそちらへと視線を移すと見慣れた時を刻む道具が飾られていた。
「と、時計キター!!!」
ずっとここのところ時間にルーズと言うより時間という概念すらなかったラストマゲドンでの朝昼晩だけの生活もたしかに良かった。
ただ生まれた時から時計の時間に頼って生活をしていたおじさんにとってそれはむず痒い思いをする日々でもあったのだ。
この時計との出会いがやつとの再会へと導いてしまうとはおじさんは夢にも思わないのであった。




