異世界送迎編
腹巻 清 45歳。どこかに着きました。
自分の勝手な妄想で胸に期待を抱かせつつどれくらい歩いたのだろうか?
もう既に自分が召喚されたかもしれない小屋も見えなくなり私の周りは本当に知らない景色だけになってしまった。
先程までは笑顔が自然と作られていたが今となっては不安にも襲われただの真顔のおっさんに戻っていた。
それもそうだ後戻りは出来ないこの状況四面楚歌でもないのに四面楚歌としか思えない。
よくよく見なくとも今いる場所は木々がどこかトゲトゲしく私を誘った風もそれほど心地よくないことに気づく、あぁ臭いが誤魔化しきれていなかったのに何を浮かれていたのだろうか私は。
それよりも気になっていたのだがあの消えてしまった男以外に生き物の姿を見ない。
異世界にしても虫くらいいても良い気がするのだが何故なのだ。
本当にここは生きた生物がいる異世界なのだろうか不安で不安で仕方ないのだが私は歩を止める事は出来ずとにかく前進する。
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期待以上に不安が心を包みかけるほどに時間をかけて歩いて来たが日も落ちかけているのか太陽の様な光の玉の位置が真逆になっている。
こんなところで一人野宿など出来る自信もなく今更ながらまだあの小屋の周辺で状況整理をしていればよかったか、そんな後悔に1人懺悔をして歩いている景色が徐々に変わっていることに気づく。
それに加えてパカパカと一定のリズムで聞こえていくる音。
私は自分の身体が疲労していることにも気づかずその音を追いかけていた。
見えてきたのは木々のない平地、しかもどうやらただ木がないだけの平地ではない人の手が加えられていそうな道が見えてきた。
色々な感情が心の中で暴れていたが気づいたときに脚は大地から離れてしまっていたのである。
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「あんぢゅん、でぇじょうぶけ!?」
聞き慣れない声で目が覚めた、おじいさんだ。
というか人だ、人がいる!そして兎に角訛りが強い。
「もうぢょっとでらすとまげどんつくさとおもっだらあんぢゅんがげどんでぇじんりんからおっごぢでぎだんでぇよ」
「あんであんなキケンなとこからデてきたんだぁよ?だいたいオモシロいカッコウしてるねぇ、さっすがラストマゲドンのヒトはオラのスんでるイナカなんかとはぜぇんぶチガうんだなぁ。」
こちらが言葉を発する間もなく立て続けにおじいさんの話は続く。
「まぁそんなことはどうでもいいか、日が落ちる前にラストマゲドンに急ぐとすっべか!よっしゃよっしゃ!ゲドン大森林なんて普通の人間が行けないような場所に行くなんてやっぱあんちゃんはラストマゲドンの人なんだべ?」
まるで絵に書いたサンタクロースのような格好をした立派な髭を蓄えたおじいさんは目を見開いて首を傾げつつ私を凝視している。
「※※※※※※※※※※」
私はサンタのようなおじいさんにお礼をいったのだが未だに彼は首を傾げたまま動かない。
「あ!そうだったべ、ちょっとまっててあんちゃん!」
おじいさんは馬車に戻るとランタンなようなものを持ち出してきた。
ぼんやりと青と黄色の光が灯っている様に見える。
「ほれあんちゃんこれで大丈夫!大丈夫だから話してみて!」
「たっ助けていただいたようでありがとうございます。」
「いいのいいの!どうせおらもラストマゲドンいくとこだったんだからんじゃあんちゃんも無事みたいだしおらの馬車でいこう!」
もう一度お礼を言おうとしたのだが声を出す前に腕を引かれそそくさと馬車へと誘われた。
「いやぁ〜まさか盗賊か理性のない魔物かと思ったけどやっぱラストマゲドン周辺じゃもうそんな危ないやつらはいないだなぁ!さすがは元魔王の根城を発展させた商業都市だべ!それにしてもなんかあんちゃん膝震えてたしよっぽど森林で採取がんばってたんだべな!しっかし良くもあんな瘴気の濃い森でそんな疲れるまで採取できただなぁ。いやー感心感心!そらこれだけ魔力も強けりゃゲドン大森林でも動き回れるっちゅーことだべな!あれけホーリーバリアとかいう聖なる護り!あれはすげーべなぁ、魔力が相当強くね〜と使えねーんだべ!おらの田舎にゃそんな高等魔術使えるやつはおらんかっただ!もしかしてっ!元はあんちゃんも魔王討伐でも目指してたんだべか?きっとそうにちげぇーねっ!もしかしてあんちゃん名のある魔法使い様かなんかか?ああっ!あの勇者様の一行だったりしてな!んなわけねーべか?でもここに来る前に勇者様にはあったけんども勇者様ってのは随分聞いてた話と違う感じたったなーあっはっは!ほれほれやっと城が見えてきただよぉー!」
生まれて初めて馬車に乗せてもらったがほぼ半日以上歩き続けていたこともあり疲れ果てていたことに今更気づいた。
そして少し馬車に揺られて気づいたのだが馬車の揺れでケツが痛いのも相まって一人で話し続けるおじいさんの話はあまり頭に入ってこなかったのである。
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「んじゃなあんちゃん!おらはこれから一稼ぎすんべっ、またあったらよろしくぅ!」
やたら陽気で一人で話し続けた外見まんまサンタクロースなおじいさんはラストマゲドンというこのあまりにも大きな街につくとすぐに商売を始めたいと私を降ろしていってしまった。
それにしても、それにしてもである。
このラストマゲドンという都市は本当にそれはそれは大きい城を中心に発展している都市のようだ。
「あんなお城ゲームか某テーマパークのやつしかしらないよ」
馬車の中から見えていたが改めて目の前の城がでかいことに驚いている。
ただ驚きはそれだけではなく人というかもう人じゃない人たちもたくさん。
「やっぱりここ異世界だ」
誰にも聞こえない様に独り言を言う。
しかし自分の考えが妄想ではないことに私の心は小躍りを始め自然と拳を強く握っていた。
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すっかり日もくれていたがこのラストマゲドンは明るさで満ちていた。
そんな光に溢れたラストマゲドンのとある広場の噴水で佇んでいる人物が一人。
そうです、私異世界転移者ことただのおじさん腹巻清です。
運良く人やその他の存在が周りにいる都市に来ることができたものの何をどうしていいのかわからない。
普通こういうのってナビゲーター的な役割の人がいてくれたり、女神様だとかに異世界に召喚される理由とか教えられてから転移させられるものなんじゃないのだろうか。
というか最近やたらとみたステータス画面とかスキルポイントとか自分の状態が把握できる様な便利機能が何故無いのだろうかこれだとただ異世界に放り出されているおっさんなのだが。
「ど、どうすればいいんだちくしょぅ」
完全に狼狽していた、そりゃするでしょさせてください。
深く考えなくとも昨日この世界にやって来てから寝ていなけりゃ食べ物だって口にしていないし喉もからから。
でもこれだけ人が多いと噴水の水を飲むわけにもいかない。
「流石に、流石にね。」
そんな下らない誰に示しているのかも分からないプライドが本能を抑制しているのだが、しかし身体は正直だ。
ここまで綺麗な水であれば飲んでも大丈夫そうというか飲みたいもう無理だこの欲求は抑えたくない。
欲望に身体がそのまま忠実に動き始めた。
右手が噴水の水に触れそのまますくう。
「あぁ冷たい、身体が溶けちゃいそう」
やっと水が飲めると安心したのか心の中ではもう周りの眼など気にしない鋼鉄の心を気取り身体の細胞がこぞってその水を受け入れようとしていた。
もう唇もひょっとこを超えたなにかになりかけていたその時。
「ちょっとまったぁぁぁ!」
その声と同時に私の右手は抑えられ水はこぼれた。
ただし右手を抑えられると同時に私はビンタを喰らっていた。
体中の細胞たちは大いに怒り狂う、何人も我々の生命活動を阻害しましてや暴力まで振るわれてしまったのだ。
まさにチート能力を授かっていたのなら破壊大帝にでもなっていたであろう怒りの衝動が私を包もうとしたその時何かが当たった。
しかし抑えられた右手、いや右腕はしっかりと暖かな渓谷へと誘われていたのである。
---女性だ しかもめっちゃ美人---
私の怒りの衝動は喜びへと昇化されてしまったのであった。