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エピローグ1・怪異

 艶香が旅立つまで、あと数日。

 秋の近づく夜、未明。

 

「あはははは! あはははは! あははははははっ!!」

『殺して! もう殺せ! しの、信乃ォォォォォ!』


 笑い狂う女が街道を一人踊る。連れ合いには怪異ルビー、パール、そしてグリモワールーー

 だが笑うのは一人だけ。有象無象の怪異たちは取り込まれ、異形となり果て、早期の解放を求めている。


「これが怪異になるってことなんだね! わかる、わかるよ! 君たちの苦痛が、絶望が、伝わってくる! まるで天上の音色、世界を滅ぼす喇叭もこんなに美しい戦慄なのかな!?」


 怪異は思われた感情や名に込められた想いを感じとる力に長けている。彼女を憎む怪異たちの想いこそが笑い女の力の根源になっていた。

 ただ取り込むだけではなく、飼い殺しにしているのだ。


『お前……お前ェ……!』

「くふふふっ! いいよいいよ! どんどん文句言って! もうルビーしか喋れないもんね! もうお母さんの声も聞こえない! あはははははっ!」


 笑う、笑い狂う。勇者本殿で蘇った信乃はグリモワールの力の復活も試みた。それは半分成功であったが、意識は最初からなかったのか、それとも祓い師の母はこの状況に早々と狂ったのか、ともかく二度と喋ることはなかった。

 それでも感情は伝わる。笑い女を喜ばせる至上のーーいや、最低の負の感情が。

 貴子はそれを遠目に見守っていた。監視ゆえ、夜道を行く笑い女を尾行しているのだが、笑い女も貴子には気付いているので二人の散歩のようなもの。

 怪異と会話できる少女は一人叫ぶ、泣くように笑う、頭がおかしくなったのだと誰もが思うだろう。

 寝なくていい体、目や腹部を執拗に隠そうとする衣装、奇抜で奇怪な存在。


「あ〜スッキリした。じゃあ帰ろうか貴子ちゃん」

「……お前、本当に死ぬ気あるのか?」


 信乃には確かな目的があって怪異と化したと聞いているが、今の振る舞いを見ていれば怪異になった喜びに取り憑かれ、人としての心を失っているように見える。

 怪異の感情を食う怪異、その異常な存在の危険性を考えれば、今すぐにでも死ぬべきであると貴子は思う。

 けれど信乃は、微笑みながら断じる。


「約束は破らない。怪異として、人間として。……ただ条件はあるね」

「今更条件など……」

「メラミンと夜麻音と艶香、私が人間から怪異へとデビューした瞬間を見てくれた三人……いやツミちゃんも合わせて四人だ。あの子らが生きている間は人として、頑張るよ」

「……死んだら?」

「信乃としての気持ちは捨てる」


 正面からの言葉を受けながら、貴子は杖を構えられないでいた。

 凄まじいまでの威圧感がありながら、信乃はなおも気味の悪い笑みを浮かべて突っ立っている。けれどそれが自分を殺せるということに気付いた。

 人からなりたての怪異故に、警戒心を抱かせない。けれど凶悪さは相当なものだ。


「クソ面倒くせぇ」

「ふひゃっ! こだわり強いんだ私って! ーーだから、言うことは絶対だよ。髪人形師さえ完全に祓えたら私は死んでいい」


 一瞬真面目な顔をしたかと思えば、すぐにケタケタ笑いながら笑い女は帰路につく。貴子はどっと汗をかきながら、今度は安全と思える距離で尾行するように、同じ家の方に向かった。


 母の仇である髪人形師、というのはどうでもいいようだった。ただケジメのようなものだ。

 母の最後の言葉、髪人形のスピンを引き抜かれたグリモワールから出た髪人形師を祓ってほしいという母の言葉に従い、怪異となり髪人形師を倒そうと思ったのは事実。

 今与えられている快楽は、そんな幾許かの寂しさを塗り潰してしまうほどであるが、そんな中で思うのだ。

 全ての目的を果たせたなら、どんなに気持ちいいのかと。

 想像しただけで笑えてくる。


「くふっ、ヒャヒャヒャ……」


――――――――――――――


 天神の家の部屋一室、藺草(いぐさ)の香りに包まれる中で布団を敷いて艶香は眠ろうとしている。

 その傍、ミカがハンカチでできた布団の中に身を包む。


『ツミ、今なら私にもわかる。この立ち位置の……幸福。なんの憂いもなく、野心もなく艶香の傍にいられることの喜びを……』

(知らねえよバカテメェ私の体乗っ取りやがって)

『元は私でしょ!? お前私に対する態度が悪いわよ!!』

(艶香を殺そうとしてたくせに。死ねばよかったんだよ)

『この野郎~!』


 じたばた、じたばた。一人で暴れている風にしか見えないミカであるが、やがて艶香の寝息が聞こえて暴れるのをやめた。


『……艶香、眠ったのかしら。……植毛しよ』

(あ!? テメェ何考えてやがる!)

『いざという時に安全でしょ? それに艶香だって私がいつでも傍にいるような気がしてきっと幸せだろうし』

(テメェそれだけはさせねえ! 絶対お前悪い企みしてるだろう!!)


 ぎゃあ、ぎゃあ。一人で暴れながらもミカは根性で艶香の傍に辿り着く。体の主導権はミカにあるのだ。

 が……。


『植毛植毛~……ん、ぎゃっ! あつっ! あっつぅ! あっつつつつ!!』


 様子がおかしい。ミカは艶香に触れることができず尻に火がついたみたいにバタバタと走って逃げている。

 と同時に艶香がぱちりと目を覚まし、ミカの方を見た。


「ミカ、今何かしようとした?」

「え、ええ? ほほ、別にそんな……」

「この間おじさんに霊力で身を守る方法教えてもらって、ちょっと実践してたんだ」

「あの小僧余計な真似を!」

「……ふーん」

「いや、違う。違うの艶香」

「いいよ」


 弁明と謝罪と責任逃れ、というミカであったが艶香はふっと微笑み、ミカを手に取った。


「何しようとしたかわからないけど、別にミカならいいよ。ひどいことはしないでしょ?」


 はにかむように力の抜けた笑顔が信頼と愛を示す。その無垢な優しさに思わずミカはほろり涙を流しそうになる。これほどまで信頼されているというのに自分は……。


「ちゅー、ちゅーして!」 


 自分はこんなに欲望を……、ツミがなんかしてくるけどミカが必死に耐える。実際キスしてほしすぎて顔を寄せて唇を突き出している。恥知らずの最強怪異を前に、艶香は一瞬面食らったが、やがて一言。


「ダメ」

「なぜ!? どうして!?」

「……ミカが可愛すぎて食べちゃいそうになるから、……なんちゃって」


 冗談、なのだろう。どういう理由かは考えないとして拒否したい艶香なりの茶目っ気のある冗談。それがますますミカを興奮させた。

 食べられたい。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、食べられるのも気持ちいいに違いない。

 あんなに殺したくて、食べたかった艶香が、自分を殺してくれて、それですごく幸せな気持ちになれた。

 食べられたなら、食べられたなら、ああ! 食べられたなら!!

 きっと、すごく、筆舌シガタイホドニ。


「つ、艶香……はぁ……それもあり……」

(キモイんだよ変態人形師!!)

『お前も私ならわかるでしょ!? 艶香に食べられて殺されたいという気持ちが!!』

(死んでもわかんねえ!)

『死んだらわかるから!!』


 ぐちゃ、ぐちゃ。暴れているうちに艶香の方が気分じゃなくなってしまった。


「眠れないんだけど……」


 はぁ、とあきれて、艶香は傍にあった湯飲みを二人の入っているアンナ・アロー人形にかぶせた。

 さらにその上に重しを乗せて。


「じゃ、おやすみなさい」

「……え! 暗いんだけど! 閉じ込められているんだけど!? 私もう封印は……狭くて暗いところはいやぁ!!」

(お前のせいだからな元ご主人……はぁ、クソが)

 

 身動きとれなくなって騒いで何分か経つと、封印したのが艶香だったらもう二百年は我慢できたなぁなんて考え始めて。

 さらに十分ほど経って、ミカはツミへと語りかける。


『……私も、この体になって、この髪の記憶が徐々に浸透してきたわ。艶香が記憶をなくす前の……』

(おう)

『……まるで別人、……というか同じ生物とは思えない』

(ああ。今の艶香とは別の強い人だったな)

『……戻らない方が私は良い。今の艶香が好き』

(そう言ったってそれは艶香次第だ。私は見守るだけだ)

『欲がないわね。つまんないやつ』

(お前は私だぞ、クケケ)

『もう違うでしょ。変な笑い方。クカカ』


 二人の呪いは暗闇の中でいくらか喋り、やがて二人とも沈黙に包まれる。


 ミカにとって、これからの旅はたまらなく楽しいものになるだろうという予感があった。

 髪人形を取り込み、力が増せば祓われ、また別の髪人形に宿る。

 強くなっては、殺されて、生き返り、殺されて、それを繰り返す。

 何度も、何度も艶香に殺される。

 あの時の幸福を、艶香の感情を味わえる。

 ――それ以上の悦びはない。


 ツミは、髪人形を得るたびに人の感情を知っていった。それは髪人形師が作った髪の持ち主の記憶や、怪異になった人間の記憶や感情。

 それでいて、最初に得た艶香こそが最も邪悪で、けれど触れ合うたびに艶香という人間がもっとも清らかで。

 ツミは、ミカは知らなかったのだ。自分を苦しめる人間以外を。

 優しい人間を知ったツミは同時に恐ろしい人間も知り、ミカ以上に人への理解を深め、そして今の艶香という稀有な優しさを持つ人を知った。

 彼女のために生きたい。

 自分以外のために髪人形を作り続け、誰かを呪うしかできなかった少女が初めて持った祈りであった。

宝石眼の笑い女

戦闘力★★★★★ 呪力★★★★☆

如月信乃が願いを叶える怪異に自分の命を捧げて怪異化した姿。

髪人形師を祓う、という目的は怪異である自分に誓った枷のようなものなので絶対である。

勇者本殿で復活しながら封印されていたため、復活コールをしていたのは怪異らの発狂した声を聴き続ける中でなんとか意識を保つため。その時の自分が人であるか怪異であるかも判然とせず、それを確認してくれた艶香ら四人に対して敬意を持ち人として接しようという気持ちは本物。

一方で怪異の感情を食い喜ぶ自分も本物なので、どっちつかずでいながら髪人形師を祓う一心でどっちの自分でもあり続ける。

 五つの怪異のハイブリッドなので強さは抜群。また怪異の能力で人の願いを叶えて、その代償として降りかかる災いを不死身の自分に集めるのでかなり万能jな性能を持っている。目良実が夜麻音のお尻を触るのはかなり曲解した願いの叶え方だけど、そういうこともできるというわけである。


髪人形師

戦闘力 呪力共に満点、桁違い

本性はお姉さんのような少し色気のある喋り方。

儂は丸々じゃよ~みたいな喋り方は、基本的に髪人形が封印されているところにお爺さんお婆さんがいるため、人懐こく親しみやすい喋り方と認識しているので使っている。

信頼し、本音で愛を語らえる艶香には自分本来の喋り方をするようにしているが、他の存在がいる時には自分に威厳がある風に見せるためそういう年寄りっぽい喋り方をするようにしている。

現在はすっかり呪いも抜けて気が抜けたが、世界にある髪人形の数だけ残機がある不死身の存在である。艶香に殺されると艶香が悲しみ心配してくれるので、それもたまらなく嬉しい。殺されてマゾっけがでてきた。

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