髪人形師3,1 BADEND 愛の形・尊重
「……もういい」
「もういいとは?」
「殺して」
ミカは言葉を失った。
何を、どこで、どう間違えたかすらわからない。そもそも、言っている意味もよくわからない。
どうして、そんなことになる。何を考えて。
「どうして」
「私には耐えられない。ミカが人を殺すのなんて見たくない! もういや! こんなことになるなら……最初から……私は……もう……おしまいにしてよ……」
ついに耐えかねた少女は、怪異に勝てるとも思えず何もかもを諦め、投げだした。
この世界の全てを滅ぼすかどうかはわからないが、少なくとも自分ではどうしようもないことは確かだった。
そんなミカと一緒に、人間も怪異も敵に回して二人で生きていくなど、到底考えられるものではなかった。
どうせ記憶のない身である以上、ここで命を終えることにそれほど抵抗はなかった。
ただ悲しいのは――こんな気持ちになるなら、信頼なんてしなければよかった。
涙ながらに訴える艶香を見て、ミカはついに決断した。
「…………わかった」
駄々をこねようとも思った、まだあきらめないつもりだった。
だが、それが艶香の真摯な気持ちだとミカは理解した。もう自分と生きることも戦うこともできない。
生物として致命的なまでの、生きる希望をなくしてしまっている。
その生きる希望に、自分がなれなかったことは、本当に悔しい。
「……艶香、愛している」
「……そう」
瞬間、艶香の首は刎ねられた。
ただ刎ねるだけでなく、傷口から入り込んだ呪力が即座に脳を殺し、意識を失くす。痛みを感じる間もなく安らかだったろう。
そのままミカは艶香の首を持った。死んだことにすら気づかないほどの手際だが、その表情は虚無と絶望に満ちていた。
生きている間は決して見せなかった。恐怖することはあれど、諦めることはなかった。
「……艶香……ああ、あああ……ア ア ア アア ア ア ア ア ア アアアア!!」
溢れる、溢れる、呪いが溢れる。
天神は即座に死んだ。封印された地下空間から、火山が噴火したマグマのように黒い霊力が波となって街を、世界を包む。
何故にこうなったのか。艶香と出会わなければこんなにも世界を呪うことはなかったはずだ。けれど艶香と出会わなければ。
とても楽しかった。本当に楽しかった。
確かに最初は騙そうとした、都合よく使うために体のいいことも言った。
けれど培った絆は本物だったし、艶香の成長も微笑ましく見守っていた。
否、否、今更後悔したところで仕方がない。
少女は呪う。世界を呪う。
もはやこの世に生きるものなし。
星は黒い力に包まれた。




