髪人形師3
それは奇跡的なバランスだったのだ。
蜘蛛の糸のように、張り詰めて千切れそうでありながら、なんとか繋がって生き長らえているような。
そんな沈黙を破ったのは、神貴の声であった。
「髪人形師――」
「黙れ」
目に見えぬほどの速さで髪が彼を引っ叩き、壁に激突する。頑丈な造りの地下が罅割れ粉塵をあげるほどの一撃に、艶香は駆け寄った。
「おじさん! おじさん……教えて、ミカは、髪人形師はどうやって封印したの!? 私が、私が!」
神貴は頭から血を流し、虚な目で艶香を見つめる。意識があるのかないのかも判然としない状況で、息は確かにあるようだった。
その様子をミカは冷たい眼差しで睨めつけていた。
そうか、そうなのだな、そうすると決めてしまったのだな。
思いながら、諦めきれない。
「知りたいか? なら教えてあげよう」
ミカは既に艶香の傍にいた。息を飲み目を見開いてそれを見るが、ミカはむしろ余裕たっぷりに艶香を背から抱きしめて、耳元で囁くように呟く。
「生前の話はしたでしょう? そして怪異になって目覚めたら……、既に封印されていたの」
それでは、ことの顛末がわからない。ミカが知らない間に封印されていた、ということになる。
その真実をミカは語る。楽しそうに、心底楽しそうに。
「私の死体の時点で既に最強の呪いだった。だからそこで倒れている小僧の先祖が、死んだままの私を地下に連れ込んで、釘や札で無理矢理、何人も呪い殺されながら封印したの! 誰も、私に勝ってない! 誰もこの怪異『髪人形師』を封印などできないっ!」
死体である間に封印した。
意識のない死体の状態だから封印できた。
なら今は?
意識のある怪異の状態では?
「……本当なの?」
ミカがにやにや笑う中で、神貴の首がわずか縦に揺れた。
艶香はミカの封印を見た。
そういえば、ここに来て覚えた違和感の正体に気づく。
彼女を封印していた札も、五寸釘も、まるでそれらが髪の一部になっているかのようにドス黒く染まっているのだ。
「……じゃあ、どうしたら……」
「最後の『ちゃんす』だ。……諦めろ。そう、悪いことじゃなかろう。無残に殺されるよりも長く生きられる。生きるというのはそれだけで素晴らしいことだ。そう教えてくれたのは艶香だ。こうなった以上、こういうもんだと認めてしまった方が楽じゃぞ?」
ミカが囁きながら、艶香の髪を梳く。穏やかで慈しみに溢れた優しい手つきが、、まだ怒ってないと、遅くはないと伝える。耳元をくすぐる暖かな吐息も優しい声音も、まだ以前のミカのまま変わらない想いを持っていると教えてくれる。
その言葉に、艶香は――
1・何もかも諦めてしまった
2・ミカの言う通りにすることにした
正・それでもミカを祓う
髪人形師・豆知識1
ミカを封印している二十四本の五寸釘は、天神家ともつながりの深い祓い師組合『髪人形師封印会』の然る高名な二十四人の祓い師の命とリンクさせて作っている。
ミカの封印が解けた時点で二十四人の祓い師は命を落とし、天神のスマホにひっきりなしに連絡が来ていたとか




