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勇者本殿・エピローグ

「……まだ、俺は……俺は『ゆーしゃ』になるんだ……」

「死ねガキ」


 倒れていた少年が蠢くのを、踏んづけたのは夜麻音である。これにて成敗、と軽い感じだが少年は痛みのあまり失神した。


「……大団円、って感じじゃなさそうだけど。姫、ご無事で」

「姫じゃないって。それよりも……目良実さん!!」


 二人が目良実の方に駆け寄っていく。腕と目を潰され、腹部には切り傷、おまけに舌はちぎれてなくなってしまっている。瀕死の重傷で、もう言葉も出ない。

 ただ、言葉が出ないのは舌がないからで、意識はある。


「どうしよう、ミカ!!」

『大丈夫じゃ、救急車は呼んでおる。そして!!』


 ツミが髪の毛を伸ばし、溶けかけた勇気明王の体に纏わりついていく。

 この明王を名乗る怪異が髪人形で、本殿に力を与えていた、というのはどうでもいい話だが。ミカは霊力を奪い去り、髪人形を吸収する。

 そして髪人形は、再び膨大な霊力を膨らまし、大量の髪の毛を吐き出した。

 作り上げたのは、樹海の外まで滑れる、髪の毛の滑り台。


『さあ、これに乗れば救急車まで一発じゃ! 『しょーとかっと』じゃな!』

「す、すごい! ミカすごいよ!!」


 純粋に喜んでいるのは艶香だけである。目良実は目を見開き口をぱくぱくとしている。だが、喋れない。夜麻音だって、それが今まで見ていた中で一番非現実的な力があると理解し、恐れた。

 それがどれだけ危険な状況か。難は去っていないことを、目良実は伝えたくとも伝えられない。


『ほれ急げ急げ! 早く滑らせて入院じゃ!』

「うん!」


 艶香が手伝いながら、二人は髪の毛の上に乗せられていく。

 抵抗する目良実であったが、彼自身体の半分ほどを髪の毛に縛られていく。

 ――ハメられた。そう思った目良実は。

 指を縛印の形にした。それだけを、艶香に見せた。艶香は奇妙に思いながらもただ焦って二人を押し出した。


「ちょっ、鬼神姫、私はまだ!」

「……ありがとう、夜麻音」


 しおらしい表情ながら、有無を言わさずに艶香は夜麻音をも押し出した。抵抗しようにも夜麻音の腕はボロボロで、それさえできない。


「今は休んで。また今度話をしよう?」


 髪の毛が蠢くと、二人はするすると滑っていく。

 それを見送ると、艶香は肩にいるツミに話しかける。


「……終わった、のかな」

『これで、近辺の髪人形は回収した。戻ってくるといい。信乃のことは、残念じゃったが』


 艶香は信乃の死体を一瞥した。まだ邪悪な力が強く、近づく気にはならないが、少し経てば救急隊員が一緒に回収するだろう。

 ついに髪人形を回収しきり、ミカと別れの時がきたのか、と実感する前に。


「そういえば、時雨さんが天神のおじさんに電話してた」

『なに? じゃああいつ戻ってくるのか! こうしてはいられん! ミカ、急いでこっちにくるのじゃ!』

「やっぱりそうかな? そうだよね!」


 目良実が髪人形を祓うと言っていた以上、ツミくらい安全な場所に移動させねばならない。


『送別じゃな。スマホも返さねばならんし、儂が滑り台をいくらか操作して最短距離を作る。艶香はその上を滑れ』

「わかった!」


 こうして三人は樹海を抜けることになる。

 残っているのはーー



 少し後のこと。

 滑る目良実と夜麻音、それは髪滑り台に無理矢理されていることで、傾斜が緩くても速度はなかなかなものだった。


「あれやべーよな」


 夜麻音が問うと、目良実はこくんと頷いた。


「私にできることはあるか?」


 目良実は電話をかけるジェスチャーをした。それに気づいた夜麻音がスマホを取り出すが、伸びてきた髪に叩かれ、落とす。そして髪に飲み込まれ、どこへやら。


『くだらん真似はするな。殺すぞ』


 ミカははっきりと言った。今から救急車に乗せて救おうとする人間に向けての殺意を。


「……おとなしくしてたら殺さねえのかよ。艶香さんにおべっか使いやがって」

『……そう言われると別に殺さんな。艶香を支えてくれた貴様らを今殺そうとは思わん。存分に暴れてよいぞ』


 あっけらかんと髪の毛は言う。そう言われるとますます何もできないと理解させられる。もはや殺す必要すらないと。

 目良実は、全てに心の底から謝罪していた。

 天神、秋堂、紅、艶香。

 自分の親、会社での同僚、たまに会う友人、行きつけの弁当屋、カーショップの店員、紅の両親なんかも。

 自分が知る人間はそんなに多くないのに、まるで永遠にも思える時間、謝意を心で象った。

 一方、夜麻音は少し考えてから叫んだ。


「鬼神姫、好きだぁぁぁあああああああああ!」

『な、なんじゃ急に』

「祈るなんてしおらしいこと意味ねえんだ。したいことをしろって姫は言っていた。だから私は愛を叫ぶんだぜ」

『……面白』

「好きだぁぁぁぁああああああああああ!」


 敗残者二人は樹海から出たところで救急車で搬送されることとなる。しばらく入院するだろう。


 少し後のこと。

 朽ちた勇者本殿で少年が立ち上がる。


「はぁ……ゆーしゃに……勇者に……!」


 その少年の首を髪が切り裂いた。滑り台の端の部分が盛り上がり、鋭く掻っ捌いたのだ。

 それに飽き足らず、髪の毛は少年の体に纏わり付き、地中深くまで押し込めて埋めた。


『ふぅ、気が晴れたとは言わんが少し満足じゃ』

 

 呪いの発散を行い、ミカの準備は万端。

 あとは艶香が来るのを待つだけでいい。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 髪人形回収を終えた少女二人、しかし物語は、死闘は終わらず。

 たれぞある、最凶、最悪、最後の怪異、言わずもがな最初から示されている。

 記憶を持ち一週間と経たぬ少女と、三百年の怨念を侍らす少女。

 戦いは幕を開け、物語は幕を閉じる。

 第六の怪異『髪人形師』。


冬月夜麻音

世界で一人、鬼神姫を愛していた少女。

元から常人だったのかどうかは定かではないが、昔の艶香と一緒に居続けることで凄まじい胆力と怒りと耐久力を得た。痛みで涙を流すことさえ稀であり、他人の目さえ気にならない半端ないタフネスを持っている。

が、艶香からどう見られるか、どう思われるかには人生を賭けている。ガシミキの時も死んだとは思わず日本中艶香を探そうと決意し勇者本殿を訪れたのである。

感覚が麻痺しているので他人に振るう暴力の加減を忘れてしまってちょっと大変だったりする。

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