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勇者本殿8

 走る目良実をしばらく追っていた艶香であったが、突然目良実が止まったのでつられて止まる。

 何かと思えば、目良実は突然振り返った。

 その反転に対応できなかった艶香は目良実にそのまま抱き抱えられ、押し倒された。

 反撃に出るべきだと思ったが、同時に空を裂く音と木を貫く音が響く。


「あれはなんです? 勇気明王じゃないようですが」

 

 目良実が強引に立たせる。迅速な動きと体力は見事なものだが、庇ってくれたのは彼なりのやさしさだろう。

 目線の先には、既に勇者本殿が見えている。髪の毛がはみ出て、既に邪気が波動のように伝わってくるが、その前にいるのは勇気明王、そして少年であった。

 少年が投げたのは刃を出したカッターナイフだ。眼鏡の男が持っていた。


「私たち、勇気明王に殺し合いをしろって言われたんです。あの少年は、それを」


 目良実が本殿から別のところに目を向けると、血を流して倒れている別の男を見つける。なるほど、既に人を殺めたものらしい。


「これは現行犯ですね」

「……えっ?」

「余罪もありそうで、見過ごせません。逮捕にご協力を」

「……私は、ミカを助けられれば」

「いったん共同戦線と行きましょう。これは一人では骨が折れる」


 言いながら目良実は艶香を引っ張りながら木の陰に隠れた。それほど投擲できる武器を持っていなさそうな少年だが、鋭いナイフを握っているのでは容易に近づけない。

 

「時雨さん、銃とか」

「持ってるわけないでしょ。持ってたところで撃ちませんよ人間には、基本的に。怪異にはほとんど通じませんし」


 ひそひそと作戦会議。こうしていると、二人で来るのは間違っていなかったかもしれないと思う。目良実は充分頼れる大人という雰囲気があった。

 

「ねえおじさん参加者じゃないよね? 願いを叶えるんなら先に参拝しなよ」

「……結構です。怪異に叶えてもらう願いなんてないので」


 目良実がそっと顔を出すと、少年はナイフをダーツのように構えている。あれが最後の武器かどうか、投げてくるかどうか。少なくとも捨て身で戦う場面ではない。


「……髪人形が捕まったっていうのは本殿の中ですね? 見ればわかります」

「あ、はい。それがなにか」

「じゃあ、私があの少年と勇気明王を足止めするので、その間に本殿を開けて髪人形を取り出してください。できますか?」

「えっ、それは、でも、でき……ると思いますけど」


 目良実の提案は意外としか言いようがない。髪人形を祓うと言っていたのに、本殿の方も髪人形も艶香に任せるというのだから。

 ただ目良実の魂胆は、まず勇者本殿と髪人形を分断しなければどうにもならないということである。近くにいるだけで気分が悪くなってくるほどの邪悪と邪悪。それをこの少女なら容易く分断できる。うらやましいほどの厚い霊力だ。


「じゃあ、私があの明王をどうにかしたら駆け抜けてください。どうにかできなくても、まあタイミングに応じて駆け抜けてください。無理そうなら尻尾巻いて逃げてください。スマホ、渡しときますんで麓で天神さんにでも電話したらいいでしょう」


 今から二人で尻尾を巻いて逃げたなら、少年に一人くらい殺されるかもしれない。天神や秋堂がいればもう少しスマートな解決はできるかもしれないが、あの本殿に髪人形を放置するのもまずそうだった。

 新しい何かが生まれる。そんな気持ちの悪い、けれど確かな予感が、目良実を行動させた。


「これ借ります」


 目良実が艶香の懐中電灯を強奪すると同時に、ぴょんと飛んで隠れていた木の枝を折った。

 少年が動きに警戒し、目を研ぎ澄ますが、そこに目良実は光を当てた。

 シンプルな攻撃だが視界を奪われた少年が一瞬怯むうちに目良実は駆け出す。折った木の枝を投げてさらに牽制しながら。

 だがいかんせん距離がある。光と木の枝をもってして、少年は既にナイフを構えて待ち構える。

 近接戦の二人の実力はどうなっているか、わからずとも武器のない目良実が刃物を持った少年に向かって攻撃することが危険なのは自明。

 必死の距離、少年が攻撃を仕掛けようと――


「縛印・寧土」


 一瞬、少年の動きが縛られるように止まる。同時に目良実は右足で思いきり少年の腹を蹴飛ばした。走るままの勢いの強烈な一撃、内臓が破裂したか、肋骨が折れたのではないかと思うほどの衝撃に、鈍い音が続いた。

 少年はひとまずこれまで、次は勇気明王、という段階で。

 目良実の左腕が吹き飛んだ。


「時雨さんっ!!」


 勇気明王が指を目良実の方に向けていた。だが目良実はそれを確認しただけで、今度は勇気明王の方へ走った。

 連発はできない大技、あるいは限定的なもの、それが目良実の経験から起こさせた行動。


『ペナルティ! ゲーム参加者を外の者が攻撃すると……』

「眼印・陰影!」

『話聞けよ!』


 ツッコミみたいな一撃が、目良実の左目を貫いた。


「ぐあ、あっ……」

「目良実さん!」

「走れよ……上山」


 ぽつりと目良実が呟いて、ようやく艶香は走り出した。少年は倒れたまま動かない。勇気明王は片腕を目良実の顔面に持っていかれている。

 が、勇気明王にとってもう目良実は倒した獲物だ。手を放して本殿に向かう艶香を追えば。

 目が引き抜かれた瞬間に、目良実は勇気明王にとびかかった。

 同時に口から何かを吐き出す。血反吐にしては質量があるし唾でもない。歯にしては柔らかなそれは。

 舌。

 同時に目良実は片腕で服をまくり上げ、腹部を見せつけた。

 勇気明王はこの間、考えた。

 まず舌。印が入っている。武器、これを払いのけるべきか。

 次に腹部。最も大きな印だ。ここを貫くべきか。

 最後に、そもそもこの男の命をとっとと奪えばよいのではないか。

 それだけ考えるのが遅すぎた。目良実の同時攻撃に対応しきれず、勇気明王は鋭く腹部を切り裂き、印を消した。

 この点、目良実の運勝ち。


『自爆印・浄土』


 言葉も話せぬ目良実であるが、その離れてしまった舌が膨大な霊力を溢れさせ、光となって弾ける。


『お、オオオオオオオ!? この祓い師がァァァァァァアアアアアア!!』

 

 最後に一撃、と思うも、それもまた遅い。

 勇気明王の体の半分以上は溶かされた。



 一方、艶香は本殿の方へたどり着く。

 傍にくれば、呪詛を吐き続けるミカの言葉が嫌でも耳に入る。


『殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す! 殺す! 絶対ぶち殺す!』


 知らないミカの姿を、怪異であるミカの言葉を聞いて怯むのは一瞬だけ。目良実が、夜麻音が助けてくれた自分が、この勇気本殿を解放するのだ。


「ミカ! ミカ聞こえる!? 私だよ、艶香だよ! 一緒に開けよう、この扉を!!」

『殺すころ……、艶香、艶香、艶香か!? 声を、もっと声を聴かせてくれ、艶香……』


 本殿から溢れる髪の動きが緩やかになり、一部が中に引っ込む。膨大な霊力と悪意もなりを潜めたようになる。


「せーので開けるよ。せーのっ!」


 勇者本殿の扉は、あっさりと開いた。

 それは勇気明王が死んだからか、それとも外側からなら簡単に開く仕様だったのか。

 中からは小さな髪人形が、ツミが出てきた。


「よ、よかった……」

『……良いものか。信乃がそこで死んでおる』

「……うん」


 助けられなかった命は、確かにある。けれど助けられた存在がいる。大切な、大切な存在。

 そんなミカは、確かに悪いところもある。怪異かもしれない。けれど自分よりも信乃のことを思って今の発言をしてくれるような人だ。

 きっとミカは間違っていない。

 心の底からそう思えた。

志島太々 しじまおおた

勇者本殿の十一歳の少年。夢見がちでファンタジーが好きで『ゆーしゃ』になるために本殿を訪れた。

勇気明王に願いを叶えてもらうべく純粋に殺し続けた。ファンタジー世界の要素はないけれど、殺しの才能があったらしく既に十七人を殺害済み。勇気明王にはポイント制で殺しを依頼されており、参加者は三ポイント、部外者は一ポイント、百ポイントで勇者になれると言われた。その時はゲームみたいで楽しいので勇者になれなくてもいいかとも思っていた。

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