表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/55

勇者本殿5

 夜麻音が儀礼を行っている最中、艶香は動くことをしなかった。


『艶香、そこに何が見える?』

「何って……ボロボロの神社、だけど」

『もはや闇が濃すぎて儂には見えん。……もうやめにせんか? そこの髪人形は放置して、帰ってこい。あとは大人に任せるのじゃ』

「でも、夜麻音が……」

『放っておけ。お前の破滅を願う女なぞ』

「放っとけないよ!」

『だよな! よしじゃあお前も参拝だ!!』


 別の声が響いた。

 真後ろにいる異形、その存在にミカまで気が付かなかったのはどういうことなのか。

 異形は、異形としか呼びようもない。

 全体的に肌の色は黄色と白を混ぜたように明るく、両目はカエルのようにぎょろりと動き眼球が大きく、口は少し裂けて上部が三つに分かれている。

 身長は二メートルを軽く超えているだろうが、体格が良いというよりかは、筋肉もほとんどなく人間とは違うでたらめな形で、誰かが紙粘土で作った人間の粗悪品のようだった。

 それが、少ししゃがれた声で喋りながら艶香を本殿の方に押し出した。


「な、なに!? 化物!?」

『ひでぇな嬢ちゃん! 俺は『勇気明王』! この本殿の主にして、お前ら迷える人間の願いを叶える神様だぜ!!』


 勇気明王は目をぐちゃぐちゃにしながら笑いかける。上唇が三つに分かれた異形の姿ゆえに悪意を感じるが、その気さくな喋り方と軽い調子で肩を叩く姿は、どこか怪異と違う――

 そも、艶香が出会った怪異たちとは。

 口裂け女。殺人理髪師。グリモワール。人体模型。そして、ミカ。

 喋らないグリモワール、生前の行動や意思が強く残る理髪師や人体模型、口裂け女。

 そして饒舌に喋るミカ。


「ミカ、あいつ相当……」

『髪人形だ!! 今髪人形が後ろにおった!!』


 ミカが叫ぶ。後ろ、つまり勇気明王そのものが。


「お姉さんも参加? だったらそこで、なんだっけ。ハクシュン」

「二礼二拍手一礼、ですよ、艶香さん」


 三人が艶香を見つめる。どんな状況かもよくわからないが、その行動があまり良くないということはわかる。


『馬鹿が! 誰がそんな呪いを結ぶ真似をするか! 直接奴を叩くぞ、ツヤカ!!』


 髪人形、ツミがその髪の毛を伸ばし黄色い異形に攻撃を仕掛ける。既に五体分の髪人形の呪力、生半可な怪異ならばもはやそれだけで祓えるだろうが。

 勇気明王はその髪束をつかみ取り――あろうことか、勇者本殿にぶん投げた。


『むおおおおっ!?』


 ミカの体がオンボロの建物に叩きつけられる。と同時に、勇者本殿の扉が凄まじい音を立ててしまった。


「ミカ!?」

『悪いことするやつはこの通り、封印! あの信乃とかいう女もズルしようとしたから封印ってわけだ』

「信乃!? 信乃がここに来たの!?」

『来たぞ? ああ、死んだっけな。まあルール違反だ、仕方ねえな!』


 信乃が、死んだ。

 言葉を考える余裕もない。また、人が死んでしまった、ミカもいなくなった。状況も何もわからないまま、傍には怪異と三人の人。


『ほら、願い叶えに来たんだろ。早く参拝しろよ』


 勇気明王は言うが、それが危険であることはわかる。口裂け女に対する綺麗だという発言や、理髪店のテリトリー侵入、怪異に対して呪いという契約行為を結べばその命が危険になることは間違いない。

 だが、艶香は問う。


「……願いを叶えてくれるの?」

『もちろんだ! そのための俺様だからな!』


 勇気明王の言葉と時同じくして、勇者本殿がきしんだ。

 そのオンボロ建物が音を立てながら、大量の髪の毛をはみ出した。

 が、そこまで、髪の毛がところどころから出ているだけで、その建物は決して扉を開かない。


『雑魚怪異が!! この私を! この私を!! 死なす! ただ死なすだけでは許さんぞ!! 最高にみじめな最後を迎えさせてやる!!』


 我を忘れて暴れているらしいが、勇者本殿は壊れない。

 その様子を見て、艶香はおとなしく儀礼に行動を映す。

 二礼、二拍手、そして礼――


「……ミカを解放して。勇者本殿を開けて」

『じゃあ五人揃ったな! それじゃ次のゲームを始めるか!!』


 艶香の言葉をまるで無視して、勇気明王は誰に言うでもなく叫んだ。

 それを皮切りに眼鏡の男が怯んだ声を上げる。大して少年は待ってました、と歓喜を示す。

 状況を知らないのは艶香と夜麻音だけ。そして、もう一人とは――。


『じゃあ今から殺しあえ! そんで生き残り続けたら願いをなんでも叶えてやる!』

「……は?」


 馬鹿馬鹿しすぎて言葉も出ない。というのに、眼鏡の男はカッターナイフを取り出し、少年は鋭利なナイフを持ち出した。


『じゃあ始めるぞ!』

「ちょっと……ちょっと待ってよ、ねえ」

『スタート!!』

「待ってって言ってるでしょ!?」


 少年が眼鏡の男に切りかかる――と同時に、夜麻音が猛然と艶香の方へ駆け出していた!


「ま、待って夜麻音! やま……」


 艶香が腕で顔を守ろうとするが、夜麻音はその腕を取って、そのまま駆け出した。


「わっ! うわっ!」

「何やってんすか! ほら走って! 逃げましょう!!」


 なんてことはない、一緒に逃げようと腕を掴んでくれただけであった。

 一瞬でも疑ってしまったことを、自分を殺すのではないかと思ってしまい反省を言葉にする、その前に。


「――あなたに死なれたら鬼神姫が帰ってこないでしょう。それだけです」


 心を読んだように先に言われた。全く返す言葉もないし、別に艶香が大事だから助けたわけでもない。

 ただ一つ、艶香が言うことは。


「……逃げるだけじゃ、ダメ。ミカが捕まってるし、あのままじゃずっと殺し合いを続けさせてしまう」

「はぁ? じゃあどうするんすか?」

「ミカを助けて、あいつを倒す」

「どうやって? 夢見てんじゃねえ」

「手伝って」


 艶香の表情には意思があった。決意をしていた。ただ逃げるだけではだめだという前向きな気持ちと、未来を見据えた光があった。

 それが美しいと、夜麻音は思った。


「……どうやるんすか?」


 走るのをやめて、夜麻音は改めて問う。そこに答えを求めているのか、それ以外の何かを今の艶香の中に見出しているのか。


「……まず一対一になって、あの勇気明王の気をどうにかして散らす。その間に、私が勇者本殿の扉を開ける」

「開けられないでしょ、あれ。どう見てもなんかヤバかったですよ、髪の毛」

「たぶん私にならできる」


 艶香は確信めいた気持ちをもって言う。女の人体模型との戦いで得た自信は、彼女自身の霊力を使うことを慣れさせている。

 内側からミカが、外側から艶香が力を合わせることで本殿の扉を開くのだ。


「……私があの化物の気を引くと」

「……無理だよね」

「やってやりますよ」

「いやいいよ! そんなことしたら死んじゃうって!」


 今更、やはり無理があると思ってしまう。勇気明王の得体の知れなさを思えば、二人とも殺される可能性だって十二分にあるのだ。それも、少年か眼鏡の男のどちらかはあの場に残るかもしれない。そんな殺人者を相手にすれば、計画は破綻する。

 現状ではどう考えても不可能――という状況で、夜麻音は艶香の唇を奪った。

 

「……」


 暖かな肌の触れ合いが、艶香の目をぱちくりと開かせる。すぐそこにある夜麻音の瞳は閉じているのに、静かに閉じられているというのに、あまりにも熱情的で、見ていられなくて自分も目を閉じた。

 一、二、三。

 秒数を数えてみるが、唇の温もりは抜けない。

 四、五、六。

 緊張が抜けない。手が汗ばんできた。

 七、八、九。

 十。


「ぷは……」

「……これでもし艶香さんに鬼神姫の記憶が戻っても私は死ぬことになります。そして何より、もう私は死ぬのが何も怖くなくなりました。というかもうなんでもできます。なんでもできますので、艶香さん」

「……あの……えっと……私、こういう時になんて言ったらいいのか……」

「一言! 私になんでも命令をください!!」


 夜麻音は思う。ここまで来るのが長かった。結局、今は同じ顔をした別人のようなものだけれど、それで構うものかとも思った。同じ肉体だ。


「戻りましょう! 二人殺してあの化物を足止めします!!」


 そう言った瞬間だった。

 二人の元に、大量の虫が集ってくる。

三木川小呂儀みきがわおろぎ

二十一歳の大学生。眼鏡の男の方。

三人で肝試しに来て、例の少年と姿を見せない参加者との五人で勇気明王のゲームに参加。

友達一人殺して生き残り、時間が来て待機していた。

願いとかは特にないのでお金とか無事卒業とか適当言っていたが、この時点で既に少年に殺されている。ナムアミダブツ。ホラー自体は結構好きで映画なんかもよく見るので怖いのは平気だけど、実際に出てこられるともうどうしようもない、とは本人の談。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ