表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/55

ミカと艶香の出会い3

「いやぁ~これが『すまほ』かぁ~」


 怪異退治を約束して――程なく、ミカは艶香の様々なことに興味を示した。その最たるものがスマートフォンであった。


「ほぉ、ほぉ、ほぉほぉほぉ、これで調べものができると。全く異様だの」

「ミカっていくつなの? スマホ知ってるのに触ったことないとか」

「さて、生まれは江戸時代頃だったが。情報や知識は各地の髪人形から絶えず流れているが、外に出たことはないのだ。故に知識のみがあって経験がない。だからスマホも知っているだけというわけだ」


 ありとあらゆることを髪人形を通して見聞きしている。テレビのようなものだろうか。けれど本体は、彼女自身はこの土蔵から出たことはないというらしい。

 寂しさは感じないのだろうか、その溢れる好奇心は。

 様々な疑問が艶香の中に渦巻くが、今楽し気に両手でスマホを握っているミカを見ると自然と口をつぐむ。


「たのしい?」

「チョー満足じゃ。電話も『がらけー』も知らないままスマホを触る背徳感……癖になる」

「そんなに昔からここにいるんだ……」

「もうおばあちゃんじゃ」

(おばあちゃんどころじゃないような……)


 いかに泰然自若とした艶香でも言葉は選ぶ。目の前の少女が新しい玩具に喜ぶ様子は外見そのままなのだから、わざわざ水を差す理由もない。

 ただ話の流れとして不自然なのは、怪異退治を承った直後に「ところでスマホある?」だった。

 その答えと言わんばかりに、一通り操作して満足したような吐息を零した後、ミカは改めて言った。


「これ、怪異退治の時に借りるぞ」

「……え、なんで?」

「当然の疑問だ。では、まず怪異をどのように退治するか、祓うかの話を始める」


 借りる、と言った時には既に真面目な雰囲気でミカは言っていた。つまり、スマホが怪異退治に必要であるのだろうが。


「艶香、そもそも怪異とは何だと思う?」

「え……人間を殺す化け物、とか」

「艶香にとっての理解はそれでいい。一応は科学の範疇の外にある超常のものを皆怪異と呼んでいる。人を殺さずとも、人に有益であっても、怪異と呼ぶことはある」


 妖怪でも小豆洗いや脛擦りと言ったものは無害である。そういう例をあげてミカは艶香に説明を続ける。要は説明できないものを怪異と呼んだという。

 大昔、雷や地震など説明できないことを『神』と呼んだ。それに通じるところがある話だが。


「だが今の話は全て忘れていい。艶香と私が相手取るのはその中でも邪悪な者だけだ。ここにいても、この髪が教えてくれる。人を傷つけるためだけに存在する邪悪な怪異が」

「悪者退治する、ってことでいい?」

「ああ。だが、怪異はそれだけ特別な存在、天神の現当主や、ここにいる私ならば力づくであの世に送り返すこともできるが、ツヤカにそれは難しい」


 艶香には力があるが分厚い殻のような守ることに重点しているらしい。それを攻撃に応用することもできるだろうが、一朝一夕で身につけられることではない。


「私と艶香の髪人形も多少の攻撃能力はあるが、敵対する怪異も我が髪人形の力をいくらか利用している。力づくでは倒せない」

「……じゃあどうするの? 倒す方法は……」

「二つある。要は未練があって成仏できない幽霊のようなもの。その未練を晴らしてやれば自然と消え失せるだろう。これが一般的な除霊というやつだ」

「そうなの? 念仏とか唱えるんじゃ」

「その辺の霊はザコ過ぎてあれ聞くと満足しちゃうんだ」

「へー」

 

 ミカの雑な説明に艶香も雑に納得した。自分がそれを唱えられるわけでもないし、霊になる予定もないのだから知る必要のないことだ。ちょっと気になったから聞いてみただけ。

 今はその続きの話が必要だった。除霊の方法とスマホの有無がどう関係しているのか。


「おそらく市内の怪異は私の髪人形の影響で怪異になっている。だが同時に、そこには大きな恨みや苦しみがあるはずなのだ。それこそニュースになるほどの大事件がな」

「……で、スマホ?」

「うむ。ある程度の場所は私が髪人形を通じてツヤカに教える。で、ツヤカは髪人形を通じて私にその場所や、遭遇した怪異の情報を言ってくれ。それを私がこの安全圏からスマホで調べて生前のことや弱点を調べるというわけだ。『もばいるばってりー』も欲しい」

「探偵みたいだね」

「敵を知り己を知らば百戦危うからず、と昔の軍師も言っていただろう。人であろうと国であろうと怪異であろうと敵を知ることがまず勝つ秘訣なのだ」

 

 納得できるような、できないような。

 そもそも艶香は怪異ということを何も知らないのだから、ただミカの言うことを聞いて頷くしかできないのだが。


「ま、気にせずとももう一つシンプルな方法がある。奴らは全員我が髪人形を利用している。それを奪い取ってしまえばよいのだ」

「奪い取る?」

「うむ。我が髪人形はそれ一つで強大な磁場を生み出すほどの呪物。それが原因で怪異になっている。故にそれを奪い取り、ツヤカの髪人形に吸収させればよい。そうすればツヤカの髪人形はさらに力を増し、逆に怪異は力の根源が奪われて弱体化する。相手の髪人形を奪いさえすれば力づくでぶっ殺せるというわけだ」

「エネルギーの奪い合いみたいな?」

「若い子は面白い言葉を使うのう。たぶんそんな感じじゃ。そもそも儂の力じゃし返してもらうだけじゃし、そうなれば怪異をぶっ潰さずとも放置しておけば消えるかもしれんしな」

「そんなに……」

「ああ。自分の力が利用されているようで嘆かわしい。回収は絶対だ。私が管理する分には余計な呪いは発生させないしな」


 確かに現状放置して怪異が生まれ人を傷つけているのなら、それを回収した方がいいというのは確かだろう。怪異を普通に除霊したとして、呪いの髪人形がある限り同じことが起こる可能性が高いというのだから。


「つまり……怪異がどういう存在かを知って、弱点とか探って、なんとか戦ったりしながら髪人形を探して盗むってこと?」

「要は髪人形さえ盗めばよい。怪異に見つからず、戦わずに済むのならそれでよい。ただ危険は伴うがゆえに、ある程度調べて対策を講じた方がよいということじゃ」


 つまり安全を期すために情報を得るのみで、基本的には隠れて逃げてでよいのだ。


「真正面から戦おうとしなければそれでよい。まず命ありき、死んでしまわないことを最優先にするのじゃ」


 その言葉を聞いて艶香は少し胸を撫でおろす。

 危険であることに変わりはない。恐怖だって多少はある。それでも、この怪異が自分のことを案じてくれているというのは理解できた。

 

「……さて、これで教えておくべきことはもうないかと思うが、気になることはあるか?」

「なんで喋り方が変わるの?」

「もうずっと喋っていなかったから、どんな喋り方をしていたのかもわからなくて……。ま、どうでもよくね?」


 どうでもいい。


「では、その髪人形を肌身離さず持っておくのだぞ。この最強怪異の髪人形、天神の札なんぞよりよほど護法の力が備わってるわ。クカカカカカ!!」

「うわそれ笑い声? えぐっ」

「エグい!?」


 怪異少女の驚愕が、じめり湿った地下に響いた。

 これより始まりますは記憶のない少女と怪異の少女が異形五つを打ち払う。

 親を殺され見知らぬ地、真夏の夜に訪れますは第一の怪異『廃病院の口裂け女』こうご期待あれ。

あんまご期待しないで

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ