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女の人体模型1

「終わりを考えねばならんな」


 朝、ミカが突然呟いた。髪人形も艶香もまだその言葉にうまく反応できないでいる。


「顔洗ってきていい?」

「いや、おう、緊張感ないのう」


 朝一番に真面目な話から入るのがよくない、なんて文句を考えながら、艶香はそそくさと支度をして改めて話をしに地下に戻る。

 その手にはパン類の袋や牛乳の入ったコップがあり、やはり緊張感には欠けるのであった。


「ツヤカ、あの……いやいい。じっくりと話そう」


 好意には甘える。あまり厳しく言っても仕方がない。好意に厳しくできるほどミカは愛されたことがないのだから。


「終わりって?」

「怪異祓いじゃ。いつまでも危険なことに巻き込むわけにもいかんし、単純に周辺の髪人形は回収できた。次で終わりにしようかと思う」

「そう……なんだ」


 楽しかった、といえば楽しかった。それでも危険は何度もあったし、死ぬかもしれないとも思っていた。

 記憶のない艶香にとって、このミカとの経験は他にない拠り所になっている。


「でも、怪異祓いが終わってもミカに会ってもいいよね」

「それは……どうじゃろ。天神のが許すとは思えんな」

「平気だよ、だってこんなに一緒にいるのに」

「そうは言うがな、本来は会っちゃいかんような危険な怪異なんじゃよ。十日くらいで帰ると言っていたし、あと一週間ないくらいか。大事をとってあと二つ程度、それが終わったら髪人形をここに隠して前の生活に戻るのが良い」


 子供を諭すようにミカは言う。艶香はそんな大人びたミカの表情を見たあと、ツミを見た。けれど見ても何もわからない。

 信じることをする。わからなくても信乃から言われたことを思い出して艶香は今、言える。


「じゃあ、まず髪人形を二つ回収する。その後のことはその後考える」

「強情よな。そういうところが好きじゃが」


 話を先延ばしにしただけなのに、ミカもどことなく嬉しそうなのは、彼女もまた今の関係を心地よく思っているからかもしれない。

 その表情の穏やかなのを見て、艶香は自分の選択が間違っていないと思えるのだった。


ーーーーーーーーーーー


 国道をずっと行ったところにある廃校。

 元は小学校だったらしく、艶香が入ろうとしているのは大きな運動場を横切らないと昇降口には入れない裏口だ。正門からならすぐに下足箱に辿り着けるだろうが。


「昼の学校に誰もいないって新鮮だね。市立Y第二小学校だって」

『じゃあ今日もスマホでパパッと解決しますか。怪異退治はスマートフォンとともにっと……あ! 喋りながら入力していたら間違えて……』

「黙って早く調べて」

「冷たい……年寄りには優しくせんか」


 喋り方や年齢こそ年寄りかもしれないが、少しミカは幼いところがある。それは生前のことが影響しているのかもしれない。ただ、怪異退治に関してまで遊び気分だと困る。真剣にしろと言ったのはミカの方だ。


『さて次なる怪異は、『小学校の女の人体模型』だそうじゃ。読み上げるぞ。ええとどれどれ』


米 米 米


 女の人体模型

 Y市のある小学校に女の人体模型がいるって話。普通人体模型って男なんだけど。

 ほら学校の標本が本物の死体だって話は結構あるじゃん。女の人体模型があって、それが出来がいいからって使ってたんだけど、それが本物の死体だったってオチ。

 これだけだと嘘か本当かみたいな与太話なんだけど、前そこでヤバい殺人事件が起きて、子供が何人か殺されたんだよ。

 目とか内臓とか抜かれて、現代の切り裂きジャックとか色々騒がれたやつ。あれあの学校。

 で、その時に見たやつがいるんだよ、校舎に体半分皮がなくて内臓を剥き出しにした女がいたって。

 いや事実かは知らないけど、廃校になったしもう何が正しいかは知らないけど、たぶん相当ヤバい場所だ。

 

米 米 米


「……思うんだけどミカってどういうサイト見てるの?」

『オカ板とかガチでヤバい日本の心霊スポット! とか色々じゃな。いや検索すると出てくるんじゃって』


 どうも信憑性に欠ける気がしてならない。、と艶香は思うものの、その鮮明な話や地域の具体名が上がっている点ではどこか信頼できる気もしている。

 そもそも噂がなくとも、髪人形の強い霊力を感じてここまで道案内しているのだ。何もないはずはない。


『……さて、実は最初に提案しようと思っていたんじゃが、あのメラミンとかいうの呼ばんか?』

「……ええっ! なんで? 図書館の時は呼ばなかったのに」


 思ってもない提案に艶香はつい拒絶の姿勢を見せる。

 時雨目良実、警察官にして縛印とかいう霊能力で艶香を助けた男だ。印祓い師という血統でいろいろできるらしい、程度の情報しかない。

 艶香は、目良実という男が信頼できないわけではないが、わざわざ連絡してまで連れて行くべき人間とも思えなかった。

 今まで三人でやってきたじゃないか、髪人形も合わせて、と思うが。


『そこは前までの三件とは少し桁が違う。髪人形……ツミも他の髪人形の力で強くなったとはいえ、校舎は今までの場所でも一番広く、怪異の噂も凶暴と来た。安全には越したことないじゃろ』


 安全な方が良い、というのはミカの基本姿勢である。祓い師に髪人形と引き合わせてしまうことになる以上に警戒しているということでもある。


「図書館の時は?」

『昼は霊力が弱まっておったし、夜は話せばわかる信乃がいるとわかっておったしな。髪人形の裏切りも実はそれほど警戒しておらなんだ。儂の髪人形じゃし』


 そういう情報、共有できていないよとまた文句を言いそうになる。ミカはなんでもわかっているようで話す必要を感じないのかもしれないが。


「……ええ、目良実さん連れて行くの?」

『嫌なのか?』

「……ちょっとね」

『……なら、自由にするがよい。そもそも儂は封印されて口出しするだけの身。行動できるのは艶香じゃ。そういう直感が身を守ることになるかもしれんし、二人の相性が最悪ならむしろ足を引っ張り合うこともあるかもしれん。余計な助言じゃった』

「ううん、心配してくれてありがとう、ミカ」


 ともかく連絡は取らない方向になりそうでほっと胸を撫で下ろす。どうも苦手な雰囲気の男だった。男というもの自体、今は神貴と雅臣くらいしか知らないが。

 さて調査、と学校の中を覗き込む、が。


「……警備員さんがいる」

『例によって夜にはいなくなると思うが。しかし廃病院の時も結局夜にも警備員がおったな。どうする?』


 昼に調査できるならそれに越したことはない。髪人形を奪おうとすれば理髪師のように容赦なく襲ってくる場合もある。だが警備員はいない方がいいし、夜を待ちそれを確認するのもよいかもしれない。

 どちらでもよい、というのが二人の結論だった。


「とりあえずまた夜ここに来て、警備員さんがいなかったら調査開始、でどうかな?」

『うむ。夜に警備員がおったら明後日の昼でよかろう。明るいに越したことはないしな』


 そして艶香は一旦帰った。


ーーーーーーーーーーー


そして、夜。


「警備員さんはいないけど……」


 KEEP OUT。

 昼には気づかなかった。いやなかった。正門と裏門に巻かれたテープはよく見知ったものだ。


『何の霊力もないテープだ。だが、昼は警備員、夜はテープで危険を示しているのだろう。危険度は……理髪店と同等以上か』


 髪人形が手も足も出ずに切り裂かれた衝撃を思い出す。

 それでも――艶香はテープの巻かれた門を乗り越えて、学校の敷地へと入るのであった。

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