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市立図書館のグリモワール・エピローグ

「二人の子供がツミ、かぁ……」

「お主な、子供てな」


 帰ってきて、地下で、物憂げにそんなことを言うのだからミカの方が毒気を抜かれるというものである。

 この日は、戦いこそなかったものの非常に重い一日だった。

 ミカこと髪人形師の生前、髪人形の意思と行動、怪異と喋れる少女信乃とその母親。

 それは今までの行動と、これからの行動について考えさせるものだった。

 なのに。


「……のう、それ食べていいか?」

「いいよ。そのために買ってきたんだから」


 コンビニの袋をがさがさと少女は漁る。体の半分以上は磔なのだから動けないが腕を伸ばしてチキンやポテチを見て歓声をあげる。


「おお、おお! 『ふぁみちき』に『ぽてち』! 一度は食べてみたいと思っていたものばかりじゃ!」


 喜ぶミカを、艶香は真正面から抱きしめた。

 享年十七歳の少女は、それより遥かに幼く小さい体をしている。艶香が抱きしめると小さな妹であるかのようだった。


「お、おい艶香、呪われるぞ、離れんか!」

「いい。今はいいよ。少しくらい呪われたって……こうするのが正しいって、信じているから」


 それは信乃に言われた言葉だった。信乃に言われた言葉だが、自分がしたいと心の底から思えることだった。

 少し暴れたミカであったが、体はほとんど動かない以上、抱かれるに甘んじた。その面映ゆそうな顔は、涙を流して静かに頬を寄せる少女に見られないと安心して。


「……全く、子供のようじゃの」

「子供だよ。まだ十七だもん」

「……そうか。そうだったな」


 ミカは少し腕を伸ばす。ただ、艶香の背中に回せるほど腕は伸びない。

 それでいい、両の腕で抱きしめればきっと霊力の厚い艶香であっても呪ってしまう。

 なのに、それが歯痒くて溜まらない。


「……もう少し、人にやさしくなろうか」

「……うん。ミカはそうした方がいいよ」

「そろそろ離れい。体に障る」

「……うん」


 艶香は、頬の赤くなったミカを見て微笑ましくなった。

 ミカは、涙にぬれた艶香を見て、守ろうと思った。


「……今日もここで寝ていい?」

「……しっかたないのぅ! 泣き虫艶香のために、今日も呪いが出ないように耐えてやるわ! クッカッカッカッカ!!」


 人と怪異、二人の少女の道は今重なっている。

 それが永遠ではないことも、本当は重なっていないかもしれないということも、二人は理解している。

 それでもこの一時、二人の気持ちは通じ合っていた。


――――――――――――


「ツミ、よ。私はお主が何を考えているかわからぬ。どういう存在なのかも」


 夜更け、すっかり艶香が寝静まった後、帰ってくる言葉もないままにミカは一方的に喋っていた。


「でも、あなたは私。呪いの人形師が作った人形である以上、私の感情が明確に表れている、はず」


 髪人形は反応しているようで、艶香の傍から離れない。その意図さえミカには汲み取れない。


「……私の半身と信じる」


 髪人形は答えない。


――――――――――――


「名前か~、名前ね~、怪異に名前って発想がなかったよ」


 時、少し戻って深夜。

 市立図書館からふらふらと

如月信乃

高校三年生の夏をこんなことに費やしているヤバい女。でも霊と喋れる能力のおかげでズルしてテストは余裕。受験はする気はない。

実は両親ともに祓い師。が、グリモワールの栞であった髪人形により父親は反撃を受けて狂い死に、母親はそれを封印すべく本を書き、その途中で発狂。最後のページを己のデスマスクで埋めて強引に封印しようとするも逆に怪異化してしまう。


信乃自身は祓い師としての才能はないが、類稀なる怪異と喋れる能力がある。怖いもの知らずで悪運が強いため怪異と出会っては命からがら逃げ伸びている。これは実のところ信乃の両親によって安置されていた『ブラッドルビーとブラックパール』の加護である。

彼女の奇妙な価値観は両親を早くになくしたショックが一割、幼い頃から人間よりも怪異とばかり喋っていたことによる共感能力の欠如が八割、生来のものが一割、という感じ。

唯一できそうだった人間の友達も、怪異と喋れる証拠を見せたことで逃げてしまう。きちんと話し合えばそれを個性と受け取ってもらえたかもしれないが、興味を示さなかった。『人間の唯一の友達』は、もはや彼女にとって『数多いる怪異』と違いがなかったからである。

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