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市立図書館のグリモワール5

 当時のことは、実はよく知らない。

 現代に住んでいたところで地元から出なければ世界は地元だけ。場所や空間は所詮その人間だけの概念でしかない。

 私はどこか、別の世界に連れて行かれるようなことはなかった。ただ父と母に命じられて髪人形を作って欲しいという人間に頼まれ、自分と、そいつと、そいつの憎む者の髪の毛で人形を作るだけだった。

 食事はよくわからない虫と草と腐った肉だけだった。調べればどれも毒の類であるらしい。水は清いものと汚れたものを交互に飲まされた。齧る木の根は神社の聖木か、また毒。

 私は実験体であるらしかった。一人の人間に何も教えず、ただ一人の人間を丸ごと一つの呪具に変える実験。

 髪人形師であることしか知らない私は、疑問もなくそれを受け入れる。ただ人を呪うために人形を作り続ける。その生活が二歳から十七歳の時まで続いた。

 家ですることは餓死せぬように食べきれなかった毒を食う、飲み切れなかった毒を飲む。外は危険で出れば死ぬというようなことを言われた気はするが、そもそんな気力もない。

 寝たきりと気がついたように体を起こす生活の中で呪具を作るしかなかった。

 呪いを続けた。呪い続けた。そのうちに考えるようになった。

 呪いを。呪うことを知った。自分の意思で呪うことを。

 自分の境遇を呪うこと。助けてくれない奴らを呪うこと。この私に人形作りを求める者共を呪うこと。不甲斐ない両親を呪うこと。世を呪うこと。まだ見ぬ世さえ呪うこと。未だ知らぬどこかにいる誰かから呪われるやつを呪うこと。不味い食事、汚い空気、汚れた布団、隙間風の吹く家、夜部屋に訪れる羽虫どもを呪った。

 吐き気で目覚め、腹痛で長いこと眠れぬまま最後は痛みで失神するまで、十年ばかしは呪い続けた。

 朝から晩まで、いや意思を持ち人として生きた最期の瞬間まで呪い続けた。

 全く暇なやつだ。それでも当時は呪うことしか知らないのだから仕方ない。


 ある日、両親が私を祓うと言い出した。

 何を言っているかわからなかった。が、とにかく頷いた。終わるのならそれもやぶさかではないと思えたから。

 作った髪人形が、霊具として怪異祓いに使われることも、秘密裏に暗殺や呪術のために使われているのは知っていた。それが私を祓うというのなら、まあ構わない。自分の命と他人の命もそう差はないと思っていたし、呪い続けた私がいつ死んでも不思議ではないほど呪いに侵されていたことも知っているから。

 しかしそうならなかった。私を祓おうとした父の両腕はあらぬ方向にねじ切れ、読経している母親は絶叫し喉から血を噴いて死んだ。

 

「お前は呪われた子だ」


 そう言われた時にーー生まれて初めて笑った。

 そして父を殺した。



 初めて家の外に出た。

 足も腕も枯れ枝のように細っちろい、吹けば飛ぶような痩躯だったが、それでも自分の足で歩くことはできた。三歩と持たなかったが。

 どうも山奥の小屋らしかった。両親は日中家を空けることがあったが、後から考えれば別の家に正当な息子娘がいたのだろう。

 道にいる虫は、家で食うものより美味しかった。私を死体と勘違いして飛んできて呪いを浴びて死んだ鳥はもっと美味しかった。

 ああ、あの親も食っておけばよかったと思った。それでもただ這うことにした。

 他の人間どもを見ておきたいと思ったのだ。

 が、無理だった。

 力尽きたのだ。山の上から、里か村かが見えているというのに、体には呪いが満ち満ち溢れているというのに、体は動かず、意識は消え失せそうだった。

 だから、最期に呪った。自分の体を蝕む呪いを、全てこの世界に、今見えている空を覆うように、村を食い潰すように、大きく呪いよ広がれと。


『で、思うんだけど享保の飢饉って私が原因っぽくない? いやほんとほんと』

髪人形

ミカこと御首某が作った呪いの塊。彼女はこれを生涯で五千六十体作成した。

呪う依頼者、呪うミカ、呪われる対象の三者による呪物なのでタイマンより強力。

人を呪わば穴二つ、という言葉で計算するとユニバーサル・メルカトル図法により呪うもの二人掛る二、呪われるもの一人掛る一で合計五人を呪い殺せる呪物という計算になる。

依頼者と対象は二人なので余った三人分の呪いがミカの体に残る。五千六十掛る三で一万五千百八十人を呪い殺せる呪力を得る。

そして呪い死んだ先の二人もミカを死後呪う。死後の呪いはさらに強力なので先の図法を使うとなんやかんや3万人分くらい呪い殺せる呪力がまとわりつくとミカはかんがえている。実際強い。


余談だが享保の大飢饉は苦しんだ人間は数百万、死者は百万近いというので、現実のところ大飢饉はミカと全く関係ないかもしれない。

あるいは、ミカの呪いはミカが思うより遥かに強いのかもしれない。

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