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【厳重注意】KEEP OUTの理髪店2

『馬鹿なァッ!?』


 艶香以上にミカが驚き叫んだ。艶香は絶句するしかない。ガタイのいい男とひょろっとした細身の男が、あっさりと扉を開き中に入った。


『艶香! こうなりゃ庇うでも盾にするでも構わん! 迅速に行け!!』


 大柄な男が先頭を行く中、その脇を通り抜けるように艶香は駆け抜けた。店内はやはり荒れている。先ほど見ていた幻覚と、急に軽くなった空気に違和感を覚える。


『後ろだ!!』


 ミカが叫ぶと同時に、艶香も確認した。天井から落ちてきた若い男が、ハサミで大柄な男の顔を切り裂いた。


『カユイトコロハゴザイマセンカァ!?』


 先ほどまでの悪意と霊力がその一か所に凝縮している。奇しくも怪異を人で挟む形になったが、艶香は退路を断たれた形になる。


『外は気にするな!! それより奥! 棚の中だ!!』


 霊力が怪異に集ったからか、ミカは即座にその場所を当てた。艶香は背中を髪人形に預けて、ヘアオイルや整髪剤の入った棚を荒らし、小箱を見つけた。

 その中にこそ、あった。今度は入って一分も経っていないで。


「髪人形! ミカ……!」

 

 出口を見、振り返った艶香に凶刃が迫る。ただの若い男ではなく、悪魔のように肌が黒く淀み汚れたような姿。そのハサミには血がこびりつき既に黒く乾いている。

 思わず、小箱でその攻撃を防いだ。同時に髪人形がふわり浮かび、落ちる。


『ミカ! とって!』


 艶香は髪人形に指示を飛ばしながら、怪異の腕を取った。自分の能力は使える、そう気づいたからこその行動だ。ハサミの動きを何とか止める。

 その間、髪人形は髪を伸ばすが――


『デハ短クシテオキマァス!!』


 ばさり。

 髪人形の髪は残るハサミによって切られた。


『かっ……、髪を切っただと!? ありえん! いかに髪を切る怪異とて我が髪をっ……』


 髪人形の動きが止まる。同時にミカは腹を蹴られて棚に打ち付けられる。揺れた棚からは整髪剤以外にも、カット練習用の首だけのマネキンが降り注いだ。


「ひいっ!」

『こ、怖がらないでツヤカ! 今怖がったら……』


 怒りと驚きで硬直していたミカが、艶香の危機にようやく正気を取り戻す。

 だが、髪を伸ばしたところで、その髪は怪異理容師に通じない。


『我が髪を、髪を、貴様ァッ!!』

『オ客サン、綺麗ナ髪ダネェッ!!』


 ハサミが、髪人形の胴体を捉えた。

 ばさり。

 まっぷたつ。


「ミカ!!」


 胴を分かたれた髪人形はばさりばさりと解けていく。そして、ただの髪の毛へと散っていく。

 ミカがやられた。早い。いくら何でも。いや、そもそも、これではもう勝てない。怪異は艶香の目の前で笑っている。

 後ろの男は、一人は死んだか。もう一人は逃げたか。今度こそ、誰も助けは来ない。

 艶香一人。 

 その恐怖に打ちのめされることはなかった。


「よくもミカをっ! よくもぉっ!!」


 色のない、ぶ厚い霊力が揺らめいた。

 瞬間、空気が爆ぜた。

 怪異の体は店内から外へと吹き飛ばされ、国道の向こう側にまではじけ飛ぶ。


『アァ……アァ! 突入シテ来ルンジャネェェエエエエエエ!!』


 生前の記憶だろう、怪異は訳の分からない言葉を叫びながら吹き飛んでいく。

 だが、それさえも艶香はどうだってよかった。

 地面に落ちた解けた髪をまとめてみる。だが動かない。ミカの声もしない。


「ミカ、ミカ、ミカ、動いてよ……」


 だが髪は艶香の手からはらりと落ちるだけ。

 そして落ちて、空気になびいて――理髪店の髪人形にまとわりつく。


『……うむ、動くぞ』

「み、ミカぁっ……」

 

 髪人形は陽気に踊りだす。そして、そのまま再び艶香の肩の上に乗った。


『いやぁ危なかった。今回は本当に死ぬかと思うた。ま、この髪人形がなくなったくらいじゃ儂は屁でもないがの! クカカカカッ!!』

「あ、そうだね、そうだった……」

『で、奴は倒したか?』

「え?」


 髪人形がぞわぞわと体をまとめて、警戒の色を強めた。

 店内には死体が一つ。もう一人の男はどこへやら。

 怪異は影も形もない。


『ま、いいじゃろ。髪人形は奪った以上力を失って自然消滅するじゃろうが……口裂け女は弱点である遺物だからこそ倒せたわけじゃ。だが怪異がお主みたいな素人のヤケクソ霊力で祓えるわけなかろ』

「……それって、まだ生きてるってこと?」

『消滅してないじゃろ。死んではおるが』


 コツ、とマネキンの首が動いた気がした。

 ――いや、マネキンの首は確かに飛んでいた。

 艶香は短く叫ぶ。不意の一撃、なぜまだ残っているのか。髪人形の残り香が、この店で死んだ被害者の霊に作用でもしたのか。

 マネキンは憤怒の形相で牙を剥き、生首のまま艶香に襲い掛かり――


縛印(ばくいん)寧土(ねいど)


 ――動きを止め、そのまま砕けた。

 店の外から、奇妙な手の形をした男が覗き込んでいる。


「えーっと……遊び半分? 来ちゃだめよ、こんなとこ」

「だ、誰ですか?」

「こういうもんです」


 茶髪で眠そうな目を擦りながら、スーツ姿の男が取り出したのは警察手帳であった。


「署まで来てくれる? ああ、いやいや、君が殺したんでしょ~、なんて言わないから安心して」


時雨目良実(しぐれめらみ)、警察手帳にはそんな名前が書いてあった。

平松岡治 倖田式夫

前者が金髪大柄、後者が黒髪ひょろ。

大学の悪友で有名な心霊スポットで奇妙な理髪店を夏休みに訪れよう、ということになった心霊サークルのメンバー。

平松は度胸試しが好きでチキンレースなど危険なことをしょっちゅうやっており、倖田は廃墟から勝手にものを持ち帰るなど火事場泥棒めいたことをしていたため、警察からマークされていたとか

平松はその場で死亡。倖田は難を逃れたが、後で時雨に余罪を追及され逮捕送検される。

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