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第14話 壊れゆく日常

「それでは、結城さんは学校へは登校されていないのですか?」

「そーなんですよ、本田さん。あのバカ、パトロールと称して我が物顔で街を練り歩いているみたいで」


 何時もの喫茶店で、美咲は本田にそう愚痴をもらした。


「まったく、耕平も退院したかと思えば引きこもりになっちゃうし、悪魔の所為で色々とぐちゃぐちゃですよ」


 美咲はそう言って面白くなさそうに口をとがらせた。


 悪魔、そして悪魔使いの数には歯止めがかからない。

 最近では日に何度も悪魔を目撃するのも珍しい事ではなくなり、そしてだれもがそれを当たり前の事として受け入れていた。


 そんな中、耕平はあの日の啓介との戦い以来、家に引きこもりとなり外部との接触を閉ざし。

 それとは逆に、達也は手にした力に酔いしれ、悪魔戦を繰り返していた。


「ほんと、悪魔って何なんでしょうかねぇ?」


 そう言って、ぷうと口を膨らませる美咲に、本田は柔らかな視線を向ける。

 最近は悪魔がいる事が常識となり、そんな疑問を口にする人は彼女を含めたごく限られた人となっていたのだ。


 ★


「よっしゃあ! 燃やしちまえブラック・ドッグ!」

「させるか! その獲物は俺のもんだ!」


 真昼の繁華街に、甲高い鳴き声を上げる人面の鶏に向かうふたつの影があった。

 ひとつは2頭6足の黒犬、ひとつは皮膜の翼を備えた牛であった。


「邪魔すんじゃねぇ! この街を守るのは俺の役目だ!」

「そんな事どうでもいい! 俺の獲物を奪うなって言ってんだ!」


 黒犬は頭をぐるりと横に向け、牛に向かって炎を吐き出し、牛は角を光らせバリヤーを張った。


「「上等だ! てめぇから先に始末してやる!」」


 ふたりは歯をむき出しにしてそう(わら)うと、それぞれの悪魔に指令を飛ばした。

 周囲を囲んだギャラリーは、刻一刻とその厚みを増し、みな決定的瞬間を逃すまいとスマホを掲げた。


 黒犬と牛は喜悦の表情を浮かべてぶつかり合った。

 牛は力任せに突進をし、黒犬はかわしざまに炎を吐き出す。

 肉の焦げるにおいが立ち込め、ひび割れたアスファルトのかけらが周囲へ飛んでいく。


 二体の悪魔が絡み合うように戦いを続けるその隙を突き、鶏が異様な雄たけびをあげたかと思えば、ズブズブと溶けだしたアスファルトが槍となり、二体の悪魔に向けて突き出した。


 黒犬は牛を足蹴に宙に逃げたが、動きの鈍い牛はそれを避けられなかった。


「――――――!!」


 全身を串刺しにされた牛と、そのフィードバックを味わった男は、声にならない悲鳴を上げて倒れ伏す。


「今だ! まとめてやっちまえ!」


 天高く舞い上がった黒犬は、二つの口から一斉にブレスを吐き出した。

 火炎旋風は巨大な槍となり、二体の悪魔を焼き尽くす。


「ひゃっはーー! 俺の勝ちだ!」


 達也は狂笑と共に勝どきを上げた。


 ブラック・ドッグ/Lv8

 HP:43

 MP:48

 力:17

 魔力:21

 体力:15

 速度:25

 スキル:炎のブレスD、風のブレスD


 ★


「僕は……僕は……」


 カーテンを閉め切った真っ黒な部屋の中、耕平はひとり自問自答していた。

 頭に残るのは啓介の言葉。


「違う! 僕は笑ってなんかない! 楽しんでなんかない!」


 このジャバウオック()は理不尽を打ち破る為。

 だが、何度自分に言い聞かせても、彼の悪魔は仮面の裏で邪悪な笑みを消そうとはしなかった。


「違う、違うんだ」


 そうして、今日も彼はパーカーのフードを目深にかぶり、幽鬼のような足取りで、人気のない深夜の街へ続くドアを開いた。


 ★


 時刻は深夜0時をとっくに回ったころ。耕平はとある公園でひとり佇んでいた。

 その顔色は、月夜の元では透き通る程青く儚げで、今にも消えてしまいそうなものだった。


 いったいどれぐらいそうしていただろうか。ふいに耕平の耳に嵌められたイヤホンからノイズが聞こえて来る。


「行って」


 耕平は言葉少なに、そう言った。

 それと共に、いつの間にか彼の背後に顕現していたジャバウオックが音も無く跳びあがり、剛腕を振るう。

 そのターゲットは、今まさに彼の目の前に現れようとしていた悪魔だった。

 その悪魔は、一言も発する隙も無く、ジャバウオックの一撃によって葬られた。


 耕平はその光景を何の感慨も抱く事無く眺めると、ちらりと公園の時計へと視線を向ける。


「パンドラ、次」


 耕平が彼のスマホに向かってそう語り掛けると。地図アプリが立ち上がり、幾つかのスポットが輝いた。


「僕の力は、理不尽と戦うためにあるんだ」


 耕平の呟きは、夜の闇に溶けていく。

 彼は人知れず悪魔と戦い続けていた。目立たぬように、陰に隠れて。

 彼は、あの時の啓介との戦いで得てしまった高揚感をかき消すかのごとく、淡々と作業のように悪魔狩りを行っていた。


「僕の力は、理不尽と戦うためにあるんだ」


 耕平はその言葉を魂に刻むかのように何度も何度も呟いた。

 そして、耕平は光に誘われる虫のように。地図アプリが示すスポットへ足を向ける。

 そのスポットは悪魔が湧きでる可能性の高いスポットであり、悪魔と戦い続ける彼のパンドラが学習した成果だった。


「理不尽を……悪魔を狩らなきゃ……」


 フラフラと歩を進める耕平を、彼の内側から悪魔が笑っていた。


 ジャバウオック/Lv15

 HP:198

 MP:33

 力:71

 魔力:10

 体力:65

 速度:62

 スキル:―――

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