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【4話】子の刻

 この年だけは女子だけで儀式をやったということだろうか。そしてその後に儀式が続いてないのを見るにその儀式は失敗してしまったのだろうか。しかもあのメモ書きのことも気になる。そう少し情報があればいいのだが……。そう思いながら懐中電灯で照らしながら書棚を見ていると『谷蛇村の今後』と書かれたタイトルの書類に目が行った。少し気になったので手に取ってみる。

 書類を読むと人口が減少していく村の現状を危惧するようなことが書いてあった。やはり生贄を捧げることに対して肯定的だった人は時代が進むにつれて少なくなっていったようで、子供を授かった若い世代の人は子供を産む前に村から出ていくことも多かったようだ。それはそうだろう。誰だって自分の子供が殺されるのなんて嫌だ。その結果、生贄に捧げる子供が足りないということが起きたということだ。

 書類にはその先のことも書いてあった。しばらくした後、村に謎の伝染病が発症したこと、そしてその影響で多くの者が死んでしまったり、祟りを恐れて引っ越す人が多かったようだ。村人の数が著しくなったために病院を閉鎖せざるを得なくなった。


 「生贄ってホントに必要だったのかな……。」


 俺の持つ書類を読みながら永谷が呟く。


 「昔は今よりも科学が進歩してなかったから神頼みするしかなかったのかもな。それで人を殺すのがいいことになるのかって言われるとそれは違うとは思うけど……。」


 もし、生贄になった女の子が霊としてあそこにいるということはあの子が佐奈子だと思ってもいいだろう。あの子をどうにかしなければ外に出ることができないのだとすると俺たちはどうすればいいのだろうか。腕時計の針はすでに12時をまわったところだ。早く出るためのカギを探さなければ……。


 「なぁ、ちょっとおかしくないか。」


 どうしたものかと思っていると永谷が声をかけてくる。手には先ほどまで俺が持っていた『谷蛇村の今後』を持っている。


 「どうしたんだよ。」


 「いや、ここにさ『村の人口が著しく減ったため病院を閉鎖する』と書いてあるけど、俺たちが見たサイトでは病院の方が先に閉鎖しているよね?」


 「……たしかに。」


 少し背筋が凍った気がした。確かにサイトの文章では『村人から嫌われている廃病院』みたいな感じだった。ここの書類と順番が逆になっている。古くからの言い伝えとサイトで書いてあったが、病院が閉鎖される前からそんな言い伝えが存在するものだろうか。いったい誰があのサイトを書いたのだろうか……。

 考えてもわからない。それよりも脱出することを優先した方がいいだろう。


 「それよりもとりあえずもっと情報を集めよう。」


 「じゃあ、佐奈子の病室目指してみようか? 助け出すってメモに書いてあったしもしかすると何か手掛かりがあるかも。」


 「そうだな。」


 永谷の提案に賛同して俺たちは再び空気の重い廊下に出て再び階段の方へ歩く。


 「相変わらず嫌な予感がする場所だよな……。」


 俺はぼそぼそとつぶやく。できればさっさと離れてしまいたい。永谷は院長室から2つ離れたところの部屋の前で立ち止まった。奇妙なことにこの部屋だけはほかの部屋みたいに○○○号室とは書かれておらず、ただ『病室』とだけしか書かれてなかった。


 「ここ怪しいよね?」


 そう永谷が聞いてきた。俺は頷く。

 永谷はゆっくりとドアを開けて中をうかがう。幸い何もいなかったようだ。

 俺と永谷は互いの懐中電灯で暗闇を照らす。ほかの病室と形は似ているがここは個室のようで奥にベッドが一つだけ置いてあった。俺たちは中に入る。するとすぐにカサリと紙を踏む音が足元から聞こえる。永谷がメモ書きを拾い上げて小さく読み上げた。


 『まただ、少しづつ私は引きずり込まれていく。もう時間がない。佐奈子どこ?』


 「さっきのメモ書きと書いた人は一緒のようだね。」


 永谷が紙を戻しながら言う。文面から見て同じ人だろうと思えた。

 俺たちはゆっくりと部屋の奥に進む。懐中電灯がベッドの上を照らす。その時、ベッドの上に何かがあるのを暗闇に慣れた目がとらえる。光を動かすとベッドの上で小さな男の子が座っていた。


 「っ!」


 俺も永谷も危うく悲鳴を上げるところであった。早鐘を打つ心臓を落ち着かせながら男の子をよく見てみると、非常によくできた人形のようだ。手を伸ばすと触ることもできる。これは幽霊ではない……。


 「……誰?」


 「うわっ!」


 安心しきったとき背後から女性の声が聞こえる。さすがに今回は声が出た。後ろを振り向くと高校生くらいの女性が立っていた女性の姿は透けて後ろの背景が見えている。明らかに幽霊だ。さらに完全にドア側に女性が立っているため今回は逃げられないかもしれない。

 絶体絶命だ。心の中で折れは覚悟を決めた。


 「ねぇ、……私の妹を助けてあげてくれない?」


 「へ?」


 あまりに予想外なことを言われたために素っ頓狂な声が出た。


 「私の妹……。一人で生贄になってかわいそうな妹。……私は助けてあげられなかったから……。」


 女性の霊は悲しそうな表情を浮かべる。


 「……ど、どうすればいいんですか?」


 永谷が声を震わせながら聞く。


 「……あの子が成仏できないのは生贄の片方がいないから。……だから人形を持ってきたのだけどここに置いておくだけじゃ駄目みたい……。たぶん佐奈子が接触することができる場所じゃないと……。」


 それを聞いた俺と永谷は顔を見合わせる。どうやら脱出する手掛かりになりそうだ。


 「わかりました。やってみます。」


 「……ありがとう。」


 女性は礼を述べると消えていった。女性が立っていたところにカサリとどこからか紙が落ちる。俺は拾い上げて読んだ。


 『あぁ、助けることができなかった。人形は完璧のはずなのに……。もうすぐ日の出だ。……もう残された時間はわずかだろう。指に力が……入らなくな……ってきた。最後……に佐奈……子にあ……いた……かっ……た。』


 文章の最後の方は筆圧もほとんどなく途切れ途切れの文章のように見えた。


 「あの人も悔しかっただろうな……。」


 ぼそりとそう言いながら俺は紙を床に落とす。

 永谷はベッドの上に置かれている人形を持ち上げた。


 「この人形を生贄の片割れのところへってことは儀式の祭壇だったりするのかな?」


 「どうだろうな……。たぶんそれでいいと思うけど。」


 俺も確証は持てない。しかしもしそれで脱出できるならばうれしいとこだ。


 

 

 

 

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