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【3話】亥の刻

 俺たちはその場に座って少し考えることにした。あんなのがいるのならうかつに散策などできない。日の出までに出るどころか、できるなら今すぐにでもこの病院から逃げ出したい。


 「窓から出れないよな?」

 

 「やめといた方がいいだろうね。」


 俺の提案を永谷が否定する。確かに、今まで外に出ようとするたびに様々な妨害を受けている。それならば中で何か出るためのカギを探した方がいいだろう。病院の過去でも知れたら何か外に出るためのカギがわかるかもしれない。


 「院長室ってどこだろう。」


 「え?」


 「院長室だよ、そこに行けば何かしらの情報が得られると思わないか?」


 「あぁ、なるほど。じゃあ行ってみるか。階段の踊り場にマップがあったし。」


 「……お前、逃げながらよくそんなの見れたな。」


 「俺は逃げながらでも周りを確認できるんだよ。」


 俺は永谷の意外な特技に驚きながらドアを少し開けて廊下をうかがう。今なら何もいなさそうだ。


 「今なら大丈夫だ、行こう。」


 俺たちは病室から出て階段の踊り場のマップを見てみる。院長室は3階のようだ。

 なるべく音をたてないようにしながら3階へ行く。3階のフロアマップを見てみると、3階の廊下の一番奥に院長室はあるようだ。

 

 「……。」


 なんだかいいようのない嫌な予感を感じて俺たちは顔を見合わせる。1階2階とは明らかに空気が違った。ここの階はマズい……。

 

 「なんか、嫌な空気だね。」


 永谷がそう話しかけてくる。

 

 「あぁ。……でもここを行くしかない……。」


 本音を言えば今すぐにでも下の階へ戻りたいのだがそんなことをしてもことが良くなるわけではない。俺たちはそろそろと静かに廊下を進む。

 少し進んだところでカサリという音がして驚いてたちどまる。俺の足元を見ると小さなメモのようなものが落ちていた。


 「なんだこれ?」


 俺は呟いてメモ書きを見る。永谷も覗きこんできた。


 『あぁ、佐奈子(さなこ)。どこにいるの? 早く会いたいわ。もしこれを見ているなら佐奈子の病室に戻って来て。私が絶対助け出して見せるから。』


 「これだけじゃよくわからないね……。」


 永谷が呟いた。佐奈子って誰だ? 俺たちが来る前に誰かがここに来ていたのだろうか。しかし来ていたとしてもなぜこんな紙を置いたのだろうか。


 「とりあえずここに置いておくか。」


 持ち主になるなと言い伝えには書いてあったので俺は紙を下に置き直す。


 「あれも何か手掛かりになったりするのかな?」


 「わからないな。佐奈子って人がどんな人かもわからないし。何より佐奈子の病室がどこかわからない。」


 永谷の問いかけに俺は首を横に振りながら返す。今の現状だと情報量が少なすぎる。

 そんなことを話すうちに院長室にたどり着いた。幸いあの女の子の霊の音も聞こえない。

 

 「開けるよ!」


 永谷はそう言いながら院長室のドアを開ける。

 

 中も他の部屋と一緒でそのまま残っていた。案の定難しそうな書類もたくさんある。書棚は院長室の両側の壁に設置されていた。ここの中になら何かしら役に立つ情報が一つや二つ見つかるだろう。

 俺と永谷は手分けして院長室の横の書棚の中の書類を確認することにした。

 上から順番に熱い辞書のような書類のタイトルを眺めていく。俺の知らないような病気やそれに対する対処方法。手術の方法などなど、病院にとっては必要不可欠であろう書類がたくさん並んでいる。しかし今探しているものはそれじゃない……。


 「おい、戸田!」


 しばらくすると永谷が反対側から声をかけてくる。


 「何か見つかったか?」

 

 「たぶん。これは関係してるんじゃないかな。」


 そう言って永谷は書類を少し高めに持ち上げて見せる。

 永谷はその書類を院長が使うであろうの机の上に置いた。俺もそちらの方へ移動する。

 タイトルは『谷蛇村生贄の儀式』と書いてあった。


 「物騒なタイトルだな……。」


 思わず俺はつぶやく。この村はかつて生贄の儀式をしていたようだ。たくさんの疑問が一気に浮かび上がったがこの書類が解決してくれるだろう。永谷が書類を開く。


 ※


 

 飛ばし飛ばしであるが読み終わった俺たちは小さく息を吐く。

 どうやらこの村は古くから土砂災害に見舞われていたらしい。その影響からか生贄の儀式が行われていた。4年に一度行われていた儀式の内容は、10~15歳の少年と少女を1人ずつ殺し、それぞれの中から(はらわた)を抜き出してそれを一つに結い、谷蛇村病院の地下にある祭壇の中央に蛇がトグロを巻くように捧げる。その後彼者誰時(かはたれどき)になるのに合わせて祭壇のろうそくに火を灯し、頭を下げて祝詞を唱える。日出を迎えたら灯を消し、儀式は以上となる。腸を取り出す場所は谷蛇村病院で儀式を執り行うのも院長だったらしい。


 「この村……こんなことやってたんだね……。」


 永谷がぼそりとつぶやいた。ならばあの時の少女の幽霊もこの儀式で犠牲になった一人なのだろうか。しかし重要なことは書かれていたものの出るためのカギとなるものは見つかっていない。


 「もう少し探してみるか。」


 俺たちは再び探してみる。生贄の作法の本が出てきたということは近いところを探せば何か見つかるかもしれない。

 俺の考えは当たっていた。生贄に選ばれた人の名簿の書類が出てきたのだ。


 「これも見てみようぜ。」


 俺は永谷にそう言い机の上に置いた。


 「一番新しい日付でもかなり昔だね……。」


 「まぁ、この村がなくなったのも俺たちが生まれるもっと前だしな。」


 パラパラと俺は男子と女子の年齢と名前、住所や血液型。そして生贄が行われた日付が書かれた本をめくっていく。そして最後のページにたどり着いた。

 そのページを見た瞬間に違和感を感じた。そのページには男子の名前が書いてなかった。そして女子の欄には『(みなと)佐奈子』と書かれていた。

 なぜ男子は選ばれていないのだろうと思い書類をまじまじと見てみる。一番の下の備考欄には『男子不在の為女子のみで実施』と書かれていた。


 


 

  


 

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