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【1話】廃病院

 山奥に小さな村がありました。名を谷蛇村という村の端にある山のふもと、ここにかなり昔に閉鎖された病院がありました。かつては『谷蛇村病院』と呼ばれたこの病院も今はその役目から降りております。そしてその建物は取り壊す費用がなかったのか壊されずに残っています。その病院の周りに民家はなく、ボロボロの病院は誰の目にも止まらずただひっそりとそこにたたずんでおりました。……いえ、正確には皆見ぬふりをしていました。古い病院は山のふもとにあるからか昼ですら薄暗く、不気味なものでした。

 さらにはこの病院の中に入ったものは誰一人と戻ってこない。と言われていました。

 その村にはある古い言い伝えがありました。


 ・壱 その中で、ともだちをつくってはいけない

 ・弐 その中で、持ち主になってはいけない

 ・参 その中で、日出(にっしゅつ)を迎えてはいけない

 ・肆 その中で、あいたいと言ってはいけない  

 ・伍 その中で、飲み物を飲んではいけない

 ・陸 その中で、よそ者になってはいけない

 ・漆 その中で、へんじをしてはいけない

                               


 いったいその言い伝えがいつからあるのか、それは村の誰にもわかりませんでした。しかしこの言い伝えが指す『その中』というのはおそらく廃病院のことなのだろうと、そのことは皆、薄々気づいていました。村の中で中が謎なところと言えばその病院しかなかったのです。

 しかし村は貧乏で霊媒師を呼ぶ費用すらも貴重なものでした。取り壊せず、お祓いもできないこの病院は自然に崩れるのを待つしかないと村人は皆そう言いました。そして今もなお、村人から忌み嫌われている病院は静かに建ち続けています。


 ※


 「なんだこれ?」


 俺は大学の中庭で朝っぱらからオカルトサイトを見せてきた永谷利樹(ながやとしき)に聞く。


 「前に話したでしょ? 廃村の中に眠る不気味な病院。そのサイトだよ。」

 

 永谷は目を輝かせながら話す。こういうオカルトが大好きな永谷にとっては宝物なのだろう。


 「実はこの病院の場所がわかってさ。ここからあまり距離は離れてないんだ。」


 永谷はなおも嬉しそうに話を続ける。


 「ここからだいたい3時間くらいあれば行けると思うんだけど。」


 そう言いながら永谷の目が俺の顔に移る。嫌な予感がした。


 「戸田も一緒に行かない?」


 「やだよ。」


 ほぼ反射的に返事が出ていた。そういう話はあまり好きではないのだ。それに大学の勉強だってある。永谷は授業についていけてるからいいが、少し無理して入った俺はついていくのが必死なのだ。いくら親友からの誘いだからと言っても行けるものと行けないものがある。

 俺の返事を聞いた永谷は大げさにうなだれた。


 「おーい、頼むよー。一緒についてきてくれって。車は俺が出すから。ね?」


 「お前ひとりでいけばいいじゃんか。」


 「一人で行って何が面白いんだよ。こういうのは複数人で行かないと。な? お願い!」


 永谷は必死に手を合わせて頼み込んできている。

 頼まれたら断れない性格がダメなことは自分自身でも自覚していることであったが……。


 「わかったよ。行ってやるって。」


 ため息交じりに俺が言うと永谷は大喜びした。


 「まじ!? ありがとう! さすが俺の友人! じゃあ予定はまた連絡するから!」


 永谷はそう言うと走っていく。

 なかなか面倒なことに巻き込まれてしまったものだ。よりにもよっていわくつきの怪しい病院に行なんて……。

 日程は簡単に決まった。俺も永谷も1人暮らしをしていたため一番近い土日に行くこととなった。


 ※

 

 土曜日の昼、待ち合わせ時間に俺の住むマンションの下に行くと既に永谷の車が止まっていた。


 「わり。少し遅れたか?」


 「いや大丈夫。丁度待ち合わせ時間だし。」


 永谷は謝る俺にそう言うと車を走らせる。


 

 「あのサイト見た?」


 あのサイト、というのは先日永谷が見せてきたサイトのことだろうか。それなら何回か眺めていた。


 「お前が見せてきたやつだろ? 見た。」


 「あのサイト、最近書かれた表記になってるくせに、情報は結構古いやつなんだよね。今はない村があるし。」


 「すでに消えた情報を誰かが書いたんじゃない?」


 永谷は何かを考えるように小さくうなった。


 「そうだといいんだけど。あのサイト少し奇妙だよ。古い言い伝えだって載せてあるし。」


 「……確かに。普通はあまり載せないな。」


 それに言い伝えの内容も不可解なものばかりであった。友達をつくるな、持ち主になるな、と書いてある割によそ者になるなと言っている。


 「おまえ、まさかあのサイトの言い伝えを破ろうとか考えていないよな?」


 俺は頭に一筋の嫌な予感が浮かび上がったので聞いてみた。永谷ならやりかねない。


 「まさか。さすがにそこまではしないよ。あの病院に夜に忍び込んで少し中を巡って帰るさ。日出を迎えるなってあるし。」


 永谷は少し苦笑しながら言った。日出とは日の出のことで、今は8月末なので5時過ぎということだ。それまでに病院を出なくてはいけないが、小さな村の病院の広さはある程度想像ができる。1時間もあれば十分すぎるくらい探索できるだろう。 


 ※


 途中休憩もはさみ廃村に着いた時には日は暮れかけていた。人の気配のしない村はすでに不気味な雰囲気をまとっていた。永谷はそのまま村の奥へと車を走らせる。


 「うわ……。」


 その病院が見えた瞬間、俺も永谷も声を漏らした。ヘッドライトに照らされているその病院は、サイトに書いてある通り非常に不気味だった。

 意外に大きい、それが俺が見た時の感想だった。小さな診療所のようなものだろうと思っていたが、コンクリート建屋で3階建て、そこそこ立派な建物であった。


 「ここか。」


 俺と永谷は車を降りる。真夏だというのに少し肌寒かった。言い伝えによると飲み物を中で飲むことはダメだそうだ。俺たちはのどを潤してから懐中電灯と少しばかりの塩を持って病院の入口へと向かった。

  

 

 

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