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6.換金と鉱石購入

「鍛冶屋って、マトは鍛冶の心得でも持っているのか?」

「あ、今から学びます」

「今から、って言ったってなあ……」


 それは難しいだろう、と首を捻るボングルさんを見て、俺は苦笑した。残念ながら、スキルポイントは12も余ってるんですよね。


 右手を振り、スキルメニューの【スキル取得】画面を開いて、『鍛冶』のソートで候補を絞る。すると、【下級鍛冶屋(ロウ・スミス)】の《下級防具鍛冶》なるスキルが上に上がった。一応説明文は見ておくか。


―――――

《下級防具鍜冶》

TYPE:プロダクション

※プロダクションスキルは特定の施設内で使用することが出来ます

※プロダクションスキルはリキャストタイムを必要としません

≪効果≫簡単な防具を作れるようになる。スキルレベルが上がるほど品質は良くなる。

―――――


 簡単な防具か。まあ、防具さえ作れれば別に気にしないんだけど。

そう考えつつ、俺はこのスキルともう一つの『簡単な武器を作れるようになる』という《下級武器鍜冶》を取得し、どちらもレベル5(実質2)まで上げておいた。そろそろ『木剣』からも卒業したいし。


 同じジョブのスキルに《鉱物鑑定》や《採掘》なるスキルもあったが、別に採取までするという訳でもないので取らないで置く。スキルポイントは余っているので、取る必要があれば取ろうかと思っているけど。


「ここらへんで《鍛冶》用の鉱石って売ってますかね?」

「ん? ああ、この【村】は【ルアリラ鉱山】も近いしな。村長宅に売ってるには売ってるが……」


 村長の家か。モンスターの素材も換金してくれるみたいだし、《ストーリークエスト》のついでにも寄っておこう。でもこの【村】、《鍛治》用の鉱石は売ってるのに【鍛治屋】はいないんだな。なんか変な感じだ。


「そうですか、ありがとうございます。あ、新作ポーション買っていきますね」

「お、おう……【安価な回復ポーション】と【粗雑なSTR増加ポーション】があるんだが、どれくらい買う?」

「それぞれいくらぐらいですかね?」

「【安価な回復ポーション】が1個で30ゴル、【粗雑なSTR増加ポーション】が1個で50ゴルだ」


 ふむ……【粗雑なSTR増加ポーション】の方はかなり値が張るな。正直そこまで必要でもない、というかいらないので、悪いが買うのは【安価な回復ポーション】だけにしておこう。代わりと言っては何だが、【粗雑な回復ポーション】の補充も兼ねて20個くらい買っておくか。


「よしっ、【安価なポーション】20個だな? 全部で600ゴルだ」

「これでいいですかね?」

「えー……ああ、これで良いぞ。ほいじゃあこれだ、受け取れ」


 6枚の大銅貨の対価としてボングルさんが屋台の棚に置いていく瓶を、ショルダーバッグに順々に仕舞い込む。20個のポーション全てを仕舞ったことを確認すると、メニューウィンドウを開いて効果を確認した。


―――――

【安価な回復ポーション】ランクE⁺

【効果】HPを75回復する

【概要】安物の薬草を混ぜて出来たかなり悪い品質のポーション。少し深めの擦り傷程度なら直すことが可能

【重量】1

≪Recast time≫30s

―――――


 効果自体は値段と比べても妥当な感じだ。ただ、説明が段々とアバウトになってきているのは気のせいか。

 にしても、【安価な回復ポーション】でもHP全回復が出来ないのか。もっといい効果のポーションとかないのかな。ないなら……


「《調合》のスキルとかあるかな……」

「それを取られちゃあ、俺のいる意味が無くなるな」


 ……ですよね。


 俺の呟きに、ボングルさんは困ったように苦笑した。


◇◆◇◆◇


 ポーションを購入したあと、俺はボングルさんと別れた。

 村長の家は村の中心にあり、歩いてそこまで時間はかからない位置にある。一度村を回ったし、マップもあるので道に迷うことはなかった。


「すみませーん」


 『村長』と銘打たれたシンプルな看板をよそに、コンコンとドアを二回ノックする。

 すると少しの間も無くしてドアが開き、40代くらいのおっさんが顔を覗かせた。細身で微笑を浮かべた、何とも掴み所の無いおっさんだった。


「おお、マト君か。ちょうど良かった、君に用があったんだ」


 おっさんは俺を見るなり人当たりの良さそうな笑みを浮かべる。村長って言うとしわくちゃの婆さんとか爺さんを想像していたんだが、意外にも若い人だった。にしてもボングルさんといい、ゲームが始まってからおっさんとしか話した記憶がないんだけど。


 おっさん率高くないか、この【村】。


「はい、俺も用があってここに来たんですが······」

「そうかそうか。まあ、とにかく入りなさい」


 手招きに従って村長の家に入る。家の中はまさに『村長』って感じで、俺の目覚めた小屋を少しグレードアップしたような風景だった。可もなく不可もなく。


【〈ストーリークエスト〉村長の元を訪れる:推奨レベル1 1/1】

【〈ストーリークエスト〉村長の話を聞く:推奨レベル1  0/1】


 次は村長の話を聞かなきゃなんないのか。


 俺が無遠慮に家の中を眺めている間に、村長のおっさんはお茶の入ったカップを両手にソファーに鎮座していた。俺が村長の向かい側に座ると、流れるような動作でお茶を渡してくる。


 反射的にカップを受け取ってしまったので、飲まないのも失礼かなとお茶を一啜り。渋いけど、暖かいし美味しいかな。落ち着いたからか、精神耐性のバフが付いた。


 しばらく無言が続くなか、村長が静寂を破る。


「君を呼び出そうかと思っていたんだけどね。君から来てくれて助かったよ。さて、先に私が話しても構わないかな」

「はい、別にいいですよ」


 どちらにしても話すだろうし。


「君も、そろそろ成人を迎える頃だ。だから、君を一人前の【村人】として、扱わせてもらうよ」


そう言って村長は、話を切り出し始めた。


「今はここだけの話なんだが······この【村】が【ルアリラ鉱山】に近いことは知っているだろう?」

「はい」

「昔はその恩恵を受け、ここは【村】の中でも有数の鍛治技術を誇る町だったんだ」


 そうだったのか。でも、だったら何で【鍛治屋】が一人もいないんだ?

 そんな俺の心を読んだように、村長は言葉を続けた。


「でも、ここ最近おかしなことが続いてね。鉱石の補充のために【ルアリラ鉱山】に赴いた【鍛治屋】が次々と失踪しているんだ。お陰で、数少なかった鉱石すら加工できていない」


 なるほど、だから鉱石はあっても【鍛治屋】はいないのか。


「そこで、【ジャバウォッカ】から【騎士】の方々が調査に来てくださることになった。君には、その事前調査を頼みたいんだ」

「事前調査?」

「ああ。何も、君に事件の真相を突き止めてほしいなんて訳じゃないさ。【ルアリラ鉱山】の内部……出来れば第一階層を調べてきてほしい。そして、何か見つかったら私に報告してくれないかい?」


 村長は腕を組んで値踏みするようにこちらを見た。

 なるほど、つまりは偵察か。【ジャバウォッカ】から来る【騎士】たち(恐らくはNPC)が来る前に少しでも情報が欲しいと。


「分かりました、任せてください」


 俺がそう言って頷くと、村長もにこりと微笑を浮かべ頷く。


「うん。よろしく頼むよ」


【〈ストーリークエスト〉村長の話を聞く:推奨レベル1  1/1】

【〈ストーリークエスト〉【ルアリラ鉱山第二階層】への扉を調べる:推奨レベル17  0/1】


 あれ? 推奨レベル17? 意外と高い。序盤のクエストだし、結構低いと思ってたんだけど······これは、もう少しレベルを上げておきたいな。元々レベリングして挑むつもりだったから、基準が知れてちょうど良かったかもしれない。


 推奨レベル+100ぐらいは欲しいところだな。


 ······さて、〈ストーリークエスト〉も進めたところで本題に移るか。


「すみません、村長」

「うん?」

「実は、【アングリーボア】の素材を換金したいのと、《鍜冶》用の鉱石をいただきたいんですよね」


 【アングリーボア】の素材が載ったウィンドウを村長に向ける。


「ああ、【アングリーボア】の素材は交易の足しになる。喜んで換金するよ。でも《鍜冶》用の鉱石かい? スキルもそうだけどマト君は【工房】を持っていないだろう?」

「え?」


 工房? 何それ?


「えーと……持ってないというか、知らないです」

「……まあ、だよねー」


 やっちゃったー、という感じで頭に手を置く村長さん。そんなことしてないで教えてほしい。


「【工房】は、【鍛冶屋】が武器や防具を造るために必要なあらゆる設備が揃った施設のことさ。【工房】がないと【鍛冶屋】は武具を造ることはできない。にしても、【工房】も知らないのによく【鍛冶屋】になろうと思ったね?」

「【鍛冶屋】になろうとしたわけでは……」


 何とか反論しようとしたが、何も言えねえ。なんかからかわれてるような。年季を感じるなあ……。

 しばらく村長は苦笑交じりに首を傾げていたが、やがて考え込むように腕を組んだ。


「……ふむ。一応、失踪した【鍛冶屋】の【工房】が無いわけではないんだけど……」


 あ、じゃあそれを貰えればいいんじゃないか。


「……ただで渡すわけにはいかないんだよねぇ」


 ですよねー。ただで手に入るわけないですよねー。そんな上手い話が転がっているわけもないのだ。世の中そんなに甘くない。


「んー。最近整備もしてないし、設備(グレード)もほぼ最低なんだけど、そこの【工房】なら賃貸って形で一応は渡せるけど、どうする?」


 期間限定か。まあ、生産に没頭するってわけでもないし、それで十分かな。


「じゃあ、それでお願いしていいですかね?」

「うん、決まりだ。一日50ゴル貰うって感じになるけど、それでいいかな?」

「はい。あー、でも【アングリーボア】の素材の売却額次第になりますけど……」

「ふむ、じゃあちょっと見てみようか」


 ウィンドウを可視化させてから指で弾くように飛ばすと、村長さんはウィンドウを操作してアイテム欄を覗き見る。

 ボングルさんの時も思ったが、どうやら他人が見ているときのウィンドウは一部のアイテムしか表示されないらしい。現に今、村長さんが見えているのは【アングリーボア】由来のアイテムだけだ。


 村長さんはウィンドウを見るなり、感嘆の声を上げた。


「ほう、こんなに沢山のアイテムが……一体どれだけの【アングリーボア】を狩ったんだい?」

「軽く三桁はいっているかと」

「ほうほう……」


 ボングルさんみたいに素っ頓狂な声で驚かないあたり、村長らしい貫禄があってかっこいいな。


【フリー納品クエスト【アングリーボアの牙】が発生しました】


【フリー納品クエスト【アングリーボアの毛皮】が発生しました】


【フリー納品クエスト【アングリーボアの肉】が発生しました】


 何かクエストが発生したんですが。

 よく分からなかったので「ヘルプ」から調べてみると、【フリー納品クエスト】というのは素材を【村】に納品することで金銭を得られる、ふるさと納税みたいなクエストらしい。


 納品できる素材は無制限。しかし、得られる金銭は換金で得られるそれとほとんど変わらないという換金用のクエストみたいなものだ。このクエストは【村】特有らしく、NPCショップなどとの換金の違いと言えば、【村】の発展度が上昇するくらいか。【村】の発展とかあるんだな、このゲーム。


「さて、換金が終わったよ」


 そんなことを考えているうちに換金が終わったらしい。

 結果的に言えば、【アングリーボアの毛皮】は一つ50ゴル、【アングリーボアの牙】は60ゴル、【アングリーボアの肉】は一つ30ゴルで売れた。《鍛冶》用に残してもらった素材を除いても、その合計は12560ゴルにもなる。これほどの資金があれば、しばらくはお金に困ることはなさそうだ。


 そして、《鍛冶》用の鉱石の値段なのだが。


「元々そこまで品質も高いものではないしね。数だけはあるからあるだけ買っていってよ」

「ちなみに、《鍛冶》って一回に付き普通はどのくらい素材を使うんですかね?」

「うーん……私は《鍛冶》をしたことがないから大まかな数しかわからないんだけど……3~5個ぐらいは使うかな?」


 とのことで、二種類+αを60個ずつ購入した。


―――――

《聖堂鉱石》ランクC

【概要】ごくごく普通の鉱石。このまま加工してもギリギリ実用性のある武具が作れる程度

※【工房】外では使用不可

【重量】0.1

―――――


―――――

《加工石》ランクC

【概要】標準的な品質の加工用の石。標準的な性能の武具が出来上がる。

※【工房】外では使用不可

【重量】0.1

―――――


―――――

《研磨剤》

【効果】耐久度を50回復させる

【概要】標準的な研磨用の石。なまくらになった普通の剣ならば綺麗に磨ける

※【工房】外では使用不可

【重量】0.1

―――――


 《聖堂鉱石》は一つ60ゴル、《加工石》と《研磨剤》は一つ40ゴルずつした。おかげで8400ものゴルが消し飛んだが……後悔はしていない。

 【LOFO】の《鍛冶》のシステムをよく知らないから練習用も必要だし、初心者用の武器である木剣とは違ってこれから作る武器は耐久も設定されているだろうから、数をそろえておけばレベリングにも困らないだろうしな。


「ありがとうございました。では」

「あ、うん」


 用も済んだので、お礼の言葉だけ述べてソファーから立ち上がる。しかし、出口へ向かい、ドアノブに手を掛けようとしたところで、背後から村長に声を掛けられた。


「あ、ちょっと待って」

「なんです?」

「そういえば、マト君は無事合流できたのかい? その、いもう―――」


 村長が何かを言いかけたところで、キィ、と手を掛けていた扉が開く。

 ノブを握っていた俺は引っ張られるように体勢を崩し、前方に倒れ込んで、何かに抱き止められた。なんか柔らかいし、いい香りがする。何というか、女の子の匂いっていうか―――


「……ふふ、探したよ。お兄ちゃん」

「!?」


 おにいちゃん!?

 バッ!! と体を起こし、俺を抱いていた何かを見る。そこには、穏やかな笑みを浮かべた森の妖精のような少女が立っていた。

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