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5.○○○がないなら―――

 【ルアリラ鉱山街道】で狩りを始めてから3時間が立つ頃。俺は、一つの問題に直面していた。


「レベルが、上がらん」


 その言葉とは裏腹に、簡易ステータスには「44」とレベルの表示がなされている。そう、確かにレベルは上がっているんだ。レベルは。

 問題は、レベルの上がり方。俺のレベルは、この2時間で6しか(・・・)上がっていない。


「最初はあんなに早く上がってたのに……」


 ブツブツと呟きながら、前方から迫ってきた【アングリ―ボア】の突進をひらりと躱す。レベルアップしてAGIが伸びたせいか、この程度のことは造作もない。

 そのまま【アングリ―ボア】の胴体に木剣を叩き込むと、HPゲージが6割削れた。


「ブギィ!?」


 そんなことをもう一度繰り返して戦闘は終了。数時間前とは見違えるほどの成長だ。致命傷を受けた【アングリ―ボア】は断末魔の叫びをあげ、光の塵となる。リザルトのウィンドウに表示された「173」という経験値の量に、俺ははぁ、とため息を吐いた。


「敵対しやすくはなったんだけどなあ……」


 称号【闘イノシ士】を取得して以来、【アングリ―ボア】とはめちゃくちゃ遭遇するようになった。それ自体はレベル上げには都合がよく、効率もかなり上がった。

 しかし、レベルアップはなんとも捗らない。38から39レベルに上がるまではそうかからなかったのだが、40レベルを過ぎたあたりで急に上がらなくなった。


 それもそのはずで、そもそも適正レベル7~8程度のこのエリアでレベル44の俺がレベリングをすること自体間違っているのだろう。むしろ、レベルが上がっているだけ奇跡である。


 ちなみに、【粗雑な経験値ポーション】は既に空っぽだ。


「レベル45になったら、狩場を変えるかな……」


 ただ、狩場を変えても根本的にはたぶん解決しない。

 狩場を変えるとするならばこの【ルアリラ鉱山街道】の先のダンジョン、【ルアリラ鉱山】だが、恐らく配置的にレベル帯で言えばせいぜいで3~4程度しか変わらないだろう。その程度じゃ、今とそこまでの変わりはないはずだ。


 というより、狩場を変えたくなくなってきた。『最初のエリアでレベルMAXにする』ということに意味があるのであって。


「あと、火力だよなぁ……」


 適正レベルははるかに超えているはずなのだが、【村人】の素のステータスのせいか、武器の弱さのせいか、【アングリ―ボア】一体を倒すのにまだ2発ぐらいかかる。効率を高めるには是非とも一発ぐらいで倒せるようになっておきたいが、安定した火力の為にダメージ増加のパッシブスキルを取得しようにもさすがに2撃→1撃で倒せるほど劇的な効果があるスキルは無さそうだった。


 一応アーツスキルとかもあるのだろうが……そもそも《粗雑貧乏》のせいで、レベル5にしても実質レベル2の効果しか発揮できないし、スキルポイントが勿体ない。


 パッシブスキルよりも効果の大きいアクティブスキルでもいいかなと一瞬思ったが、時間制限付きの火力よりも、『いつやっても一撃必殺出来る』安定した火力の方が好みなので断念した。

 一発で倒せるのと二発で倒せるのは、結構な違いなんだけど……。


「ボアッ!!」

「ワッツ!?」


 などと考え込んでいると、茂みから飛び出してきた【アングリ―ボア】の突進をモロに食らってしまった。簡易ステータスのHPゲージが1割ほど削れる。

 いかん、完全に気を取られてた。って、残り体力3割もないじゃねえかっ! 回復するのうっかり忘れてたわ! これでデスペナルティになったらどうする!?


「おらっ!」

「ボアッ!?」


 ワタワタと距離を取りつつ、【粗雑な回復ポーション】を服用して回復する。幸いにも、一度もデスペナルティになることなく【アングリ―ボア】を倒すことができた。もしデスペナルティになれば、失ったレベルを殺された我が子の如く悲しがり、三日はふて寝して過ごすことになっただろう。


<レベルアップしました!! Lv44→Lv45 スキルポイントを3獲得しました!>

【ステータスポイントを10手に入れました】


 あ、レベル上がった。


◇◆◇◆◇


 レベルも上がり、一息ついた後。

 45で区切りが良いし、これ以上のレベリングは難しいだろうと判断して、俺は一先ず【村】へ帰ることにした。素材も溜まっていたし、何より回復アイテムの消耗が激しかったため、補給を兼ねてのことだ。


 ちなみに、合計約5時間30分にも及ぶ初日のレベリングの成果はこんな感じ。


―――――

【キャラクター】

プレイヤー名:マト

性:男

齢:17

種族:人間(ヒューマン)

ジョブ:【村人】Lv45

【ステータス】保持ステータスポイント0

HP :276/276

STR :65(+1)

END :65(+1)

DEX :65(+1)

INT :65(+941)

MEN :65(+1)

AGI :65(+1)

LUK :65(+1)

SP :55/55

MP :55/55

【スキル】保持スキルポイント12

《生まれながらの最弱者》Lv5 《未経験の成長速度》Lv3 《訓練(トレーニング)》Lv5(-3) 《探求・学》Lv5(-3) 《住人たちの結託》Lv1 《粗雑貧乏》《豚に真珠》

【称号】

【EXPERIENCER】【サバイバー】【闘イノシ士】【初心者プレイヤー証明書】

―――――


 めでたいことに、INTの値がついに4桁台に上がった。あと5レベルさえ上がれば【村人】をカンストして中級職に転職できる。

 出来るんだけど、結構頑張らないといけないんだよな。ああ、もう少し火力があればもっと効率よくレベリングができるんだけど。


 と、考え込んでいると。


「よお、マト! 随分帰りが遅かったじゃねえか! またポーションを買いに来たのか?」

「? ……ああ、ボングルさん」


 目の前にポーション屋の親父……ボングルさんがいた。どうやら、ステータスの方を見ていて気が付かなかったらしい。

 ボングルさんは、こちらに豪快な笑みを浮かべたまま両手に赤色と青色のポーションを持っている。それは明らかに【粗雑な回復ポーション】とは違ったが……俺は知っているぞ。


 RPGあるある➀『NPCショップの棚には何故か売ってない商品が置いてある』


「おっ、そうだ。今ちょうど新しい薬品を開発できたところなんだ! 実験台がてら、良かったら買っていかねえか?」


 訂正。どうやら本当に新商品だったらしい。効果次第では買ってもいいけど。


「その前に、ここらでモンスター狩りまくったんで、換金してくれませんかね?」

「ん? 狩りまくった? まあ、別に換金ぐらいはいいが……ちょっと見せてみろ」


 ん? 見せる? プレイヤーならまだしも、NPCにデータ上のアイテムをどう見せろと。


「あ、あの……」

「ん? どうした? 早くウィンドウを開けばいいじゃねえか」


 ああ、NPCにも“ウィンドウ”って概念があるんですね。黙ってウィンドウのアイテム欄を開き、可視化させた状態でボングルさんに見せる。

 すると、ボングルさんは驚いたのか一瞬目を見開いた後、悩ましげに語った。


「う~ん……マト、お前は確かに“狩りまくった”んだろうな。これ、【アングリ―ボア】の素材だろ。一体何体狩ってきたんだ?」

「さあ、良く覚えてませんけど……三桁ぐらいは普通に狩ったかと」

「三桁ぁ!?」


 ボングルさんが素っ頓狂な声を上げる。次いで脱力し、疲れたように右手で顔を覆い隠しながら声を絞り出した。


「なるほど、だからこの数……マト、これは村長んとこ持ってけ。これは防具とかの材料になるんだが、この【村】には【鍛冶屋(スミス)】がいない。村長んとこ持って行きゃあ、【村】同士の交易の足しになるだろ」

「分かりました」


 村長のところに行けば換金出来るという事なんだろうか。【村】同士で交易なんてあるんだな。取り敢えず資金がもらえれば、何も言うことはないのだが。

 にしても、【アングリ―ボア】の素材って防具になるのか……もったいない。この【村】に一人でも【鍛冶屋】がいたら防具にしてもらってただろうに。


 プレイヤーにしても、【鍛冶屋】のスキルを持ってる人がいつ来るか……長い話だ。


 …………待てよ。そもそも他人って、必要か?


「ボングルさん」

「うん?」


 新ポーションの準備をするボングルさんに、俺は決然とした表情で顔を向けた。


「俺……」


 口を開いた時、俺はある有名な格言を思い出す。


 【鍛冶屋】がないなら―――


「鍛冶屋になっていいですか?」


 ―――自分で作ればいいじゃない。

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