2.楽しい楽しいレベリング
意気揚々とフィールドを進んで、二分後。
「「「「「「ブギーーーーー!!」」」」」」
「飛び出しすぎたああ!!」
俺は、10体を超える【アングリ―ボア】に追われていた。
簡単に経緯を説明しよう。初戦闘の場所から少し進んだところで、俺は街道の広間に一匹の【アングリ―ボア】を見つけた。先ほどの戦闘のように少しずつ体力を削っていこうと【アングリ―ボア】に接近し先手必勝とばかりに木剣を振るったのだが、ここで予想外のことが起こる。近くにいた他の【アングリ―ボア】たちと敵対してしまったのだ。
俺は完全に失念していたのだが、【MMORPG】というのは言わばモンスターの取り合いだ。モンスターは経験値、倒せば倒すほどにプレイヤーは強くなれる。となれば勿論運営側も、その強さに格差が生じないよう、プレイヤー全体にモンスターが行き渡るように多くのモンスターを配置する。
しかし俺は一人だ。他のプレイヤーは現時点では数少なく、しかも【村】にリスポーンしたわけではないので、このエリアにはいない。良い意味で言えば、俺はモンスターを独り占めできるという事なのだが……それは同時に、数多くのモンスターに追われることと同意義である。
「うっおおおお!」
「「「「「「ブギャー!」」」」」」
加えてこの【LOFO】に限らず、【MMORPG】の特徴としては敵モンスターの索敵範囲はかなり広く設定されているのが常だ。
逃げる方向を間違えたために俺は奥地へと進むことになり……結果的にモンスタートレインを引き起こしている。
「っ、ってまた増えてるじゃねーかっ!!」
「「「「「「「「ボアー!」」」」」」」
振り返ると【アングリ―ボア】は15体ぐらいに増えていた。さすがに対応しないと不味い数である。
広い場所を選んで、【アングリ―ボア】を迎え討とうと振り返ると、一匹目が即座に突っ込んできた。
「ズオッ!?」
「ブッ」
咄嗟に体を捻ってスレスレのところで何とか避ける。ついでに一撃与えていたはずなのだが、やはり【アングリ―ボア】のHPゲージは全く減っていない。
息つく間もなく、すぐに10体を超える【アングリ―ボア】が迫ってきた。ってまた増えてないか!?
「広場にも他の奴がいたのか……!」
とはいえ、これほどの数だと横にステップして避けるのにも無理がある。一瞬で突進に巻き込まれてデスペナルティだ。デスペナルティは経験値やアイテムの喪失。アイテムはいいけど経験値は失いたくない。
「よっ!」
ということで、ジャンプして上を飛び越えることにした。【アングリ―ボア】の背丈はそこまで大きくない。せいぜい俺の太もも程度の大きさだ。地面を蹴り、足元に現れた【アングリ―ボア】の胴体を蹴って、何とか突進をやり過ごす。少しバランスを崩したが、何とか体勢を立て直した。
左上に表示されたHPゲージはほとんど減っていない。こういうやり過ごし方もあるのか。これは良いことを学んだ。AGIを上げている人は便利かもしれないな。
といっても目の前には20を超える【アングリ―ボア】が目を血走らせている。絶望的状況には変わりないのだが。
「「「ボアッ!!」」」
体勢を立てなおした3体の【アングリ―ボア】が突進してくる。先ほどとは違って数も少ないので、横にステップして簡単に避けることができた。しかし、やはり攻撃しても【アングリ―ボア】のHPはほとんど減らない。倒すにしても時間がかなりかかるだろう。どうしようかな……。
「……あ」
良いことを思いついた。これが【LOFO】で通じるかはわからないが、やってみる価値はあるかもしれない。そうして、その場に木剣を構えてじっと留まる。すると、好機はすぐに来た。
「「「ボアッ!!」」」
いくら聞いても聞き飽きない鳴き声を轟かせながら、前後ろから合計10もの【アングリ―ボア】が突進してくる。それを様子を窺って……前後ろから【アングリ―ボア】に押しつぶされる直前、俺は後ろから接近してきた【アングリ―ボア】の背中に手を突き、跳躍して飛び越えた。
「「「ブギャッ!」」」
すると、後ろから【アングリ―ボア】の悲鳴が上がる。そのいくつかには光の破砕音も含まれていた。
振り返ると思惑通り、お互いに衝突した【アングリ―ボア】たちが目元に星をちらつかせてふらふらと頭を揺らしている。そのいずれも、HPゲージを3割以上減らしていた。
減っているのはHPゲージだけではない。【アングリ―ボア】たちの数もだ。
<レベルアップしました!! Lv4→Lv5 スキルポイントを3獲得しました!>
【ステータスポイントを10手に入れました】
<レベルアップしました!! Lv5→Lv6 >
【ステータスポイントを10手に入れました】
<レベルアップしました!! Lv6→Lv7 >
【ステータスポイントを10手に入れました】
・
・
・
<レベルアップしました!! Lv13→Lv14 >
【ステータスポイントを10手に入れました】
【アクティブスキル《未経験の成長速度》を習得しました】
直後、連続したアナウンスからレベルアップが告げられる。
「おおっ!」
新たに手に入ったスキルが名前からして経験値系のスキルだと分かる。加算されたスキルポイントは6、ステータスポイントは100ほどにもなっていた。
内心叫びたい気持ちだったが、【アングリ―ボア】たちが立て直す前にある程度距離を置き、メニューを操作して即座にステータスポイントを全てINTに振り分ける。そして、《生まれながらの最弱者》のスキルレベルを5にし、経験値取得量を二倍に増やした。
「ええと手に入ったスキルはと……」
手に入れたスキルを確認する。
―――――
《未経験の成長速度》
TYPE:アクティブ
※アクティブスキルは『スキルセット』画面で装備する必要があります。
※アクティブスキルは再使用にリキャストタイムが必要です(リキャストタイムはINTの値が大きいほど短縮されます)
Lv:1
≪効果≫発動して一定時間、得られる経験値を3倍にする。Lv1で1分間、Lv2で3分間、Lv3で5分間
≪Recast time≫7min
―――――
「さんばい」
思わず素っ頓狂な声が漏れる。予想外の効果だった。何と素晴らしいことだろう。時間制限があるとはいえ、三倍だ、三倍。俺は満足げに頷いた後、残っていたスキルポイントを使って《未経験の成長速度》をレベル3にした。これで5分間の間は経験値が三倍になる。
「《未経験の成長速度》」
早速スキルを使ってみた。すると、左上のHPゲージの下に「EXP」と書かれたイラストが浮上する。分かり易い。
にしても、《生まれながらの最弱者》で経験値が二倍、《未経験の成長速度》発動中で合算して経験値は六倍だ。これは、なかなか良いことなのでは。
「っしゃぁ!! いくか!」
威勢よく広場に飛び出し、再び【アングリ―ボア】たちと対峙する。
レベルアップしてステータスが上昇した影響もあってか、【アングリ―ボア】の突進を避けるのは多少楽になっていた。
それから40分以上、俺は【アングリ―ボア】たちの攻撃を避け続け、時々攻撃を受けて回復しながら、ついでに上がったステータスポイントを全てINTに全振りして、【アングリ―ボア】たちを誘導してぶつけ続けていた。
そして……。
「おらぁっ!」
「ブギィ!?」
最後は木剣を振りかざし、自分の手で【アングリ―ボア】を倒した。
ちなみに、ダメージを受けたのはステータスポイントを振り分けていた時のようです