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1.初ログインと、早速レベリング

 目を開けると、俺は何故かふかふかのベッドの上に仰向けに寝転んでいた。


「ここは……」


 どうやらここは小屋の中のようで、俺の目線はすぐに木の壁にぶつかった。ベッドにランプにクローゼット……非常に簡素で、シンプルな部屋だ。

 その閉鎖的な空間は、どこか今までの【VRMMORPG】とも呼べない何かと、似ているような気がする。


「……さすがにないよな?」


 また偽物を掴まされたなんて、正直思いたくない。扉もあるし、そこからきっと出れるはずだ。数分の不安感を持ちつつ、俺はドアノブに手を掛け、一思いに捻ってドアを開けた。


 瞬間、ドアから風が溢れ出した。


「うわあ……」


 思わず口から感嘆の声が漏れる。目が開いたまま、驚きで瞬きも出来なかった。

 そこは、まさしく村だった。ポツンポツンと立っている質素な小屋、未成熟の食糧が植えられた畑、往来し、話を繰り広げる人々、遠くに見える巨大な山岳、生暖かな風の感触、……そして足で踏む、きめ細やかな砂の感触。


「ああ……これだ、これだよ!」


 今まで求めてきた「夢のゲーム」、【VRMMORPG】がここにはあった。信じてよかったと、心から思った。アリスの言った通り、ここに来たら他のゲームは“偽物”としか思えない。これは、“本物”だ。


 俺はしばらくそこで、【ライフ・オブ・ファンタジー・オンライン】の第一歩を深く噛み締めていた。


◆◇◆◇◆


 【LOFO】のゲーム目標は至ってシンプルだ。


 レベル上げて、スキルを取って、サービス開始から段階的に解放されていくエリアを通過して、最終的には魔王を倒す。そういうお話。


 世界設定的には『魔王が現れて魔物という凶暴な獣が現れ、世界が危機に陥った』とかだったはずだ。かなりの頻度で定期的にイベントも開催されるらしく、全エリアを攻略し終えて退屈になる……なんてこともないようプランが練り込まれているらしい。


 まあ、俺はまだ進まないけど。レベル上げたいし。


「はいっ! 【粗雑な回復ポーション】30個お買い上げ! 全部で600ゴルだ」

「はいどうぞ」

「1,2,3,4……確かに600あるな。ほい、じゃあこれだ」


 手の平に現れた6枚の大銅貨をポーション屋の親父に手渡す。ポーション屋の親父は大銅貨の枚数を数えた後、硬貨を懐に仕舞い込み、【粗雑な回復ポーション】30個を手渡してきた。それを受け取って、ショルダーバッグの中へと入れつつ、メニューのアイテム欄を開いて効果の確認をする。


―――――

【粗雑な回復ポーション】ランクE

【効果】HPを50回復する

【概要】そこらの雑草を混ぜて出来た最低品質のポーション。擦り傷程度なら直すことが可能

【重量】1

≪Recast time≫30s

―――――


 予想通りというか、初期エリアの商店だけあってそこまで優れた効果は無いようだった。【ジャバウォッカ】とは少しだけ離れた場所にいるので、多少は優れた効果のポーションがあるかもしれないと期待していたのだが、それを言っても詮無いことだろう。

 今俺がいるのは村の東寄りにあるポーション屋だ。この村はあまり発展していないのか、基本的にNPCのショップは屋台形式で、このポーション屋以外にあったのは食べ物屋さんだった。『食べ物』というカテゴリのアイテムは、ゲーム的にはそこまで意味はない。強いて言えば、食べることで攻撃力が上がるとか、バフ系の効果のあるぐらいだ。ただ、だからと言って食べ物が完全に不必要というわけではない。


 なにせ食べ物だ。『ゲームの中で食べ物を食べる』ことに、ワクワクを覚えないわけがない。それはロマンだ。ちなみに、先ほど購入した【スモールチキン】の串焼きもなかなかに美味だった。


 閑話休題。


「おっ、そうだマト。妹ちゃんが呼んでたぞ?」

「妹?」


 そう言えば、このゲームってプレイヤーに交友関係や家族関係が自動的に構築されてるんだっけ。

 まあ、最初に目覚めた小屋といい、元々ここにいたみたいな感じではあったから、RPG感が出て楽しいかもしれない。ただ、妹がいたというのは完全に予想外だった。


「探検するのはいいが、あまり妹ちゃんに心配かけねえようにな!」

「はい、ありがとうございます」

「おう! ボングルのポーション屋を今後ともご贔屓に頼むぜ!」


 あの人ボングルっていうのか、と苦笑しつつ、ボングルさんの人間らしさに感心する。

 今となっては、AI技術は発展し、コンピューターが人間らしさを持つことなど珍しくはない。しかし、これまで他の企業が出していたVRゲームはAIのセリフや行動に何らかの欠陥を抱えていたものだ。NPCが何故か2進数で会話をしたり、座標の誤差か上半身が断裂して別の場所に浮いているというようなことも多々あった。

 それだけではない。広大な土地の膨大なデータ量によってラグが発生したり、グラフィックがズレるなどといったフィールドの問題もあった。しかし、このゲームにはそういった欠点というものが全く見受けられないことには感心するしかない。


「にしても、プレイヤーが見当たらないな」


 それも当然のはずで、そもそもアイリスをして最弱職と言わせしめる【村人】を選ぶ物好きなどほとんどいないだろう。俺は経験値ほしいから選んだけど。

 プラス、【村人】を選んだとしても複数ある【村】の中で俺と同じ【村】を選ぶプレイヤーなんてほとんどいないはずだ。しばらくは、他のプレイヤーと出会うことなんてないだろうな。

 他のプレイヤーの反応を少し見てみたいという気持ちもあるが。ああ、このゲームをできない人が可愛そうだな。本当に信じてよかった。


「さて……」


 メニューのマップを開き、確認する。

 【村】の中は大体回った。となると……


「レベリングするか」


◆◇◆◇◆


 【ルアリラ鉱山街道】。正式サービス前のキャラクタークリエイトでアイリスが勧めてきた洞窟であり、同時にダンジョンにもなっている【ルアリラ鉱山】へと続く野道である。

 レベル帯で言えば7~8程度らしく、少してこずる程度のモンスターが配置されているようだ。今日は【ルアリラ鉱山】まで行くつもりはない。あくまでこの【ルアリラ鉱山街道】でレベルを上げ、非効率的になってきたら【ルアリラ鉱山】に移動してレベルを上げるつもりだ。


「じゃあ、始めるか」


 腰についた木剣を手に握って、軽く一回二回振ってみる。

 そこまで重さは感じない。とはいえ、初期装備だから扱えなくても困るだろう。そういえば村人には装備補正を減らすパッシブスキルがあるんだったかと思い出して、装備画面から『木剣』の説明を見ようとする。

 ウィンドウから『木剣』の項目を長押しすると、説明文が浮かび上がる。


【木剣】ランクE⁻

≪効果≫ATK+10(-5)≪属性≫無≪装備スキル≫無

≪概要≫初期装備の一つ。【剣士】を志す者が最初に手に取る素振り用の剣。殺傷能力はほとんどない。

≪必要STR≫1


 【村人】の装備のマイナス補正が結構エグかった。固定値ならまだいいが、-50%とかだったら結構つらい。武器の威力はレベル上げの効率にも影響してくるというのに。

 出来れば防具とかもそろえたかったのだが、やはり【村】が発展していないからか、武器屋や防具屋が見当たらなかった。“始まりの町”である【ジャバウォッカ】あたりにはあるのだろうが、敵のレベルが高く、レベリングに最適なフィールドに近いというメリットがあっても、やはり【村】はこういったデメリットも関わっているのかもしれない。


「じゃあ、やるか」 


 木剣を片手に、【ルアリラ鉱山街道】を歩く。かなり見晴らしはよく、【ルアリラ鉱山】の方向の山脈が美しく輝いて見えた。

 その光景に見入っていると、突如目の前にモンスターが現れる。荒い鼻息に目を血走らせた赤いイノシシ。そいつの上に表示されたネームタグには、【アングリーボア】と明記されていた。


「ボアッ!!」


 このモンスターのアイデンティティでもあるのか、中々に個性的な鳴き声を上げて突っ込んでくるイノシシ。その速度はなかなかの早さだったが、距離がかなり開いている上に、元々が初期モンスターより少し強い程度のステータスだからか、レベル一の俺でも反応できる程度の速度だった。


「よっ、と」


 そもそも攻撃が直線的すぎる。横にステップして突進を躱し、木剣を【アングリーボア】の胴体に叩き付けた。


「ブギィ!?」


 効果があるのかは分からないが、体重をかけて切ったはずなのに【アングリーボア】のHPゲージは1割も減っていない。俺がレベル1だという事もあるのだろうがそれ以上に木剣の攻撃力が減衰していたからだろう。

 【アングリ―ボア】が再び突進を続け、俺はそれを躱して木剣でたたき続ける。結局一撃も食らうことがないまま、戦闘は終わった。


「グギャッ!」


 最後の一撃を受けて、【アングリ―ボア】は断末魔の叫びをあげ消滅する。すると、目の前に手に入れた経験値とドロップアイテムの表記された青いフォントのウィンドウが現れた。


<レベルアップしました!! Lv1→Lv2 >

【ステータスポイントを10手に入れました】

【パッシブスキル《生まれながらの最弱者》を習得しました】


<レベルアップしました!! Lv2→Lv3 >

【ステータスポイントを10手に入れました】


<レベルアップしました!! Lv3→Lv4 >

【ステータスポイントを10手に入れました】


 同時に、けたたましいファンファーレと共にレベルアップを告げるウィンドウが現れる。まるで至高の音楽を聴しているかのように、俺は静かに目を瞑っていた。

 やはり格上だけあって、かなり経験値が手に入りやすいようだ。それに、INTの効果も多少はあったのかもな。一気にレベルが4まで上がった。スキルポイントも貰えたし……あとは、お楽しみのスキルだ。


 矢継ぎ早に手を動かしスキルメニューを開いて、【村人】として手に入れた初スキルを確認する。


―――――

《生まれながらの最弱者》

TYPE:パッシブ

※パッシブスキルは自動的に装備されます

Lv:1

効果:取得できる経験値が増加する。Lv1で1.2倍、Lv2で1.4倍、Lv5で2倍

―――――


「……っ、しゃあ!!」


 拳をぐっ、と握り、空に叫ぶ。

 経験値スキルがあったと聞いていたとはいえ、これはめちゃくちゃ嬉しい。しかもパッシブ、しかもレベル1ですら1.2倍の効果だ。1.2倍というのは、意外と大きい。心の中で、次に手に入るスキルポイントはこのスキルのレベル上げに使おう、と心に決めた。


 そのあとウィンドウを閉じ、件の如くステータスポイントを全てINTに振り分ける。これでもっとレベルが上がりやすくなったはずだ。


「よっしゃあ……! 狩るか!」


 テンションが上がった俺は、意気揚々と奥地へ突っ込んでいった。

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