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3.ジョブと【ステータスポイント】、そして正式サービス開始

「じゃあ、ジョブについて説明するね」

「よろしく」

「【ライフ・オブ・ファンタジー・オンライン】には、大きく分けて下級職、中級職、上級職、天級職、神級職の5種があるよー

 下級職はジョブを持たない無職の人とかが就くジョブで、基本的にはレベルは50が上限だね。

 中級職は同じ系統の下級職をレベル上限にする……いわゆる『カンスト』が転職条件に設定されていることがほとんどで、基本的にはレベル上限は100。

 上級職から神級職は色々特殊な転職条件とかが出てきて、基本的なレベル上限は300、500、1000と段々高くなっていくよ」


 へえ……結構面白そう。レベル1000も上がるのかは疑問ではあるけど。「基本的」なレベル上限ってことはそれ以外に値が設定されているジョブとかもあるってことだろうか。


「基本的に持てるジョブの数は制限がないね。ただ、いきなり中級職とか上級職を持つことはできないから、ジョブを取りすぎると器用貧乏に陥りがちになるよ。そういうことで、実質レベル上限はないようなもの。

 あと、天級職からは先着一人しか就けないようになってるよ。まあ、ジョブはたくさんあるから焦らなくてもいいけどね」

「そんなに沢山あるのか?」

「うん。ジョブにも色々系統があるんだけど、千差万別だからね。例えば、攻撃系ジョブだけでも【斧使い(アックス)】とか【槍使い(ランサー)】とか【狂戦士(バーサーカー)】とかあるし、ジョブの組み合わせによって就ける職業が変わったりするよ。例えば、下級職の【剣士】と【騎士(ナイト)】と【魔術師(ウィザード)】のカンストで中級職の【魔剣騎士ナイトオブマジックソード】に転職できるみたいにね」


 おお……結構面白そうだ。


「ちなみにステータスは就いているジョブの合計が乗っかるけど、別系統の装備品やスキルは使えなくなるよ。【剣士】をやっている時に【魔術師】の杖やスキルを使うことはできないってことだね」

「【魔法剣士】とかだったら両方使えたりするのか?」

「うん。それは使えるよ」


 てことは、敢えて別系統のジョブを鍛えて両方使える上位職に就くってのもアリってことか。


「他にも、使う武器によって突如ジョブの名前が変わったりするね。大体のジョブは武器が限定されてるんだけど、剣しか使えない【剣士】でも、大剣ばかり使ってる人なら【重剣士(ヘビーソードマン)】になったりするし、逆に【軽剣士(ライトソードマン)】になったりするよ。“系統変異”っていうんだけど」

「ほお」

「まあ、その人にアジャストした形式のジョブになることもあるってことだね」


 そう言って、アイリスは華奢な腕を一振りしてウィンドウを俺に飛ばした。


「これでジョブの説明はおしまい。じゃあ、最初のジョブを決めてね。質問があったら聞くから」

「うん」


 そうして、ジョブを選び始めたのだが…………多い。

 ただ画面をスクロールするだけでも十分は掛かりそうだ。これじゃサービスに間に合わないし、何よりきちんと選べない。

 ……だったら。


「経験値系のスキルを一番多く持ったジョブって何だ?」

「えっ……」


 何故か一瞬、アイリスの顔が強張ったのが見えた。


「一応、【村人(ヴィレジャー)】というジョブはあるんだけど……」

「へえ、どんなジョブ?」

「ええと、【村人】は結構ジョブの中でも特殊でね。装備やスキル系統に制限がないの」

「制限がない?」

「うん。例えば、【剣士】だったら色んな種類はあれど剣しか装備できない、《剣術》スキルは使えても《弓術》スキルは使えない、みたいな制約があるでしょ? でも、村人にはそれがなくて、どんな系統の武器でも装備できたり、どんな系統のスキルも使えたりする」


 まあ、これといった特徴がなさそうだもんな。【村人】。


「あとは貰えるスキルポイントが3倍になったりするかな」

「ん? スキルポイント? そんなこと聞いてないぞ」

「ああ、ごめん。そういえば言ってなかったね」


 アイリスはバツが悪そうにえへへと指で頬を撫でながら、苦笑いを浮かべた。


「スキルポイントはレベルが5上がるたびにもらえる『スキルのためのポイント』だよ」


 そのまま過ぎる。


「スキルはジョブのレベルを上げることでも手に入ったりするんだけどね。就いているジョブと同じ系統のスキルなら、取得したりレベルを上げることができるんだ」

「普通のジョブが貰えるポイントは?」

「一律1ポイントだね」


 あれ? それって、【村人】結構強くないか? 3倍ってことは貰えるスキルポイントは3。【村人】だからどんな系統のスキルでも取得できる。上手く選定したらかなりの厚遇職じゃないか。


 経験値も多く手に入るらしいし。


「じゃあ、それにしよう」

「あっ、ちょっ……!」


 アイリスの制止も気にもかけず、俺はスクロールのソートから見つけ出した【村人】を最初のジョブに決定した。


「…………えぇっと」


 余りにも簡単に決めてしまったせいか、アイリスは呆然として声も出ないようだった。

というより、劇的な反応過ぎないか? これ。

 すると、歯切れ悪そうにアイリスは語り始める。


「……さっきの説明には続きがあってね」

「うん?」


 【村人】のことだろうか? 何か問題でも?


「……ステータス上昇率が最弱なの」

「……」

「…………あと、【村人】以外のスキルや装備にマイナス補正が付くの」

「…………」

「………………ついでに、何かスキルを持った装備品を装備すると、装備スキルの一つがランダムで消えちゃうの」

「………………」


 無言でいる俺に、焦ったようにアイリスは捲し立てる。


「ひゃわあああああ!! ごめんなさい、私が止めなかったせいで! 今すぐにジョブはリセットさせるから大丈夫変更はできるから安し、」

「別にいいよ」

「んしてだからどうかゲームはやめないで…………え?」


 いや、だから、変更なんてしないよ?

 むしろ、その方が燃えるというものだ。【村人】が経験値上昇にリソースを割いたジョブというなら、色々納得も行くし。ステータスの差もレベルさえ上げまくれば大丈夫そうだし。


 その旨を伝えると、アイリスはポカンとした表情でしばらく硬直していた。


「…………え? え? じゃあ、えっと、【村人】のままでいいの?」

「うん」

「つらいよ?」

「別にいいよ」

「こう言っちゃなんだけど、最弱職よ?」

「構わない」


 最弱職というのは、さすがに言いすぎなのではと思ったが。

 俺が確固たる姿勢で頷くと、アイリスはついに納得したようにへたり込んだ。その表情に、思わず俺は驚く。あれ、アイリスってAIだよな? なんかすげーリアル。あっ、でもスタッフって可能性もあるのか。


 そんなことを考えていると、二つの意味で立ち直ったアイリスがコホンと咳払いをして立っていた。


「じゃあ、次はステータス振り分けについて説明するわね」

「ああ、まだ続くのか……」


 正直疲れてきた。【ライフ・オブ・ファンタジー・オンライン】はジョブとステータス振り分けのシステムを組み合わせた「ジョブ&ステ振りシステム」を採用しているとは聞いていたが。


 結局のところ、アイリスの説明は以下のようなものだった。


 まず、ステータス画面には、10の項目が存在する。

 ゼロになると死亡、ゲームオーバーとなる「生命力」……HP。

 近接武器の攻撃力や、所持できるアイテムの総量、重量に関係する「筋力」……STR。

 物理攻撃に対する防御や、病毒系状態異常への耐性に関係する「耐久力」……END。

 生産系スキルの成功率や品質、また弓矢の攻撃力、命中率に関係する「器用さ」……DEX。

 アイテムや一度使ったスキルのクールタイム、また取得できる経験値量に関係する「賢さ」……INT。

 魔法攻撃に対する防御や、精神系状態異常への耐性、また支援スキルの効果に関係する「精神力」……MEN。

 動く時の速さやアイテムの使用速度、また跳躍の高さに関係する「素早さ」……AGI。

 アイテム、レアアイテムのドロップ率やクリティカルの発生率に関係する「幸運」……LUK。

 強力なスキルの際に使用される「スタミナ」……SP。

 その総量によって魔法の威力や効果に関係する「魔力」……MP。


 【ステータスポイント】とはプレイヤーのレベルが上がった際に与えられるポイントで、これらのステータスそれぞれに振り分けることで能力の底上げができるものだ。どう振り分けるかはプレイヤーの自由。つまり、個性が出る。STRに全振りしてもいいし、バランスよく振り分けてもアリということだ。


「じゃあ、早速ステータスを振り分けてみましょうか」


 アイリスがそう言うと、目の前にウィンドウが現れる。


―――――

HP  0

STR  0

END  0

DEX  0

INT  0

MEN  0

AGI  0

LUK  0

SP  0

MP  0


ステータスポイント 10

―――――


 俺は即座にステータスポイントを振り分けた。


―――――

HP  0

STR  0

END  0

DEX  0

INT  10

MEN  0

AGI  0

LUK  0

SP  0

MP  0


ステータスポイント 0

―――――


 はい。INT極振りです。

 え? 極振りするにしてもSTRとか、ENDとか、AGIとかあっただろうって?

 INTの説明もう一度見てみようか。


 アイテムや一度使ったスキルのクールタイム、また取得できる“経験値”量に関係する「賢さ」……INT。


 そう、INTを上げると取得できる経験値が増えるのだ。経験値が増えるとレベルアップが捗る。レベルアップが捗ると、どんどん強くなれる。強さは正義。


 経験値ブースト=正義。証明完了。


「終わった」

「オッケー。じゃあ、【村人】だから服は決まっているとして…………ホントに【村人】でいいんだよね?」

「いいよ」


 そんなにダメなのかな。【村人】。


「んじゃ、初期装備をこの中から選んでね。どれにする?」


 アイリスは空中で指をはじいて一つのウィンドウを展開し、俺に飛ばす。

 そこには様々な種類の武器が装備するメリットやデメリット付きで書いてあった。件の如く映像付きである。


 木剣やナイフ、先が尖っただけの枝、石の棍棒、ボクシンググローブ、杖……んー。迷うな。INTが魔法の威力を上げてくれる効果もあったら杖を選んだんだけど……


 ここは経験に任せるか。


「……木剣で」

「はーい。じゃあ、これ初期の配布資金ね」


 アイリスは俺にとことこと近づき、その両手で俺の手を握る。両手が離れて手を開くと、そこには三枚の銀貨があった。


「小銀貨三枚で3000ゴルね。100ゴルでどら焼きが一個買えるくらい?」


 ふーん。となると現実のお金と相場はそんなに変わらないわけか。

 価値観は少しわからないので、ウィンドウの木剣を指差してアイリスに聞いてみる。


「ちなみにこの木剣でどれくらい?」

「えーと、それは700ゴルぐらいだね」


 うーん。まあ、そのくらいか。多分防具とか揃えてもお釣りがくるくらいかな。


「じゃあ、初期配布アイテムも揃えて……えいっ!」


 アイリスが背伸びする小動物のように何かを投げる動作をした後、俺の姿は一瞬光に包まれ、一変した。

 麻で作られたようなザ・村人って感じの平凡な衣装に身を包み、腰の紐には木剣が情けない感じでぶら下がっている。ついでに、ショルダーバッグが肩の上で斜めに掛けられていた。


「あ、それ【村人】にだけ配布してる鞄ね。それ付けてると持ち歩けるアイテムの重量が50増えるから」


 お、最初は結構アイテム類重要だからな。これはありがたい。


「ありがと」

「うんっ、じゃあ、所属する【村】を決めてね」


 アイリスはそう言ってウィンドウを展開する。

 そこにはマップが表示されており、一つの街を囲むようにいくつかの赤点が浮かんでいた。


「【村】?」

「うん。【ライフ・オブ・ファンタジー・オンライン】のプレイヤーの開始地点……リスポーン地点は、ジョブに依存するの。分かりやすく言えば、【冒険者】なら冒険者ギルドが開始地点になるし、【騎士】だったら騎士団本部が開始地点になる」

「で、【村人】だったらどこかの村が開始地点になる、と」

「そうそう」


 で、どこの村を開始地点にするかだが。


「逆に、アイリスはどこがいいと思う?」

「別にどこも変わらないと思うけど。だって、どのジョブのリスポーン地点も始まりの街……【ジャバウォッカ】からそう離れていないからね……強いて言えば、ここ?」


 悩ましげにアイリスが指さしたのは、その始まりの街とやら……【ジャバウォッカ】の南東に位置する一つの赤点だった。


「ちょっとした洞窟もあるし、【ジャバウォッカ】からそう遠いわけでもない……から、そこそこって感じの場所かな?」

「ん、じゃあそこにするか」


 ウィンドウをタップして、リスポーン地点を設定する。


「あ、ちなみにジョブを選択すると自動的にプレイヤーを取り巻く交友関係や家族関係がランダムで構築されるから、そこんとこ覚えといてね」

「えーと、それって?」

「要するに、ゲームの中での君の家族や知り合いがいるってこと。あ、プレイを妨げるような面倒ごとにはならないから安心していいよ。むしろ、そういう関係を持っておいた方が色々便利だと思うし」


 ゲームの中で家族がいるってぱっと聞いたら変な感じだが、まあプレイに支障はないという事でとりあえず納得しておく。


「ほかに何か質問はある?」

「ん~」


 特に何も思いつかないな。


「ないかな」

「じゃあ、基本操作について学ぼうか。メニューを開いてみて」

「メニュー?」


 “ディストピア”自体にはかなり触れてきていたので、ほぼ直感的に横へと腕を振る。すると、腕に沿うようにメニューウィンドウが現れた。

 上から「ステータス」「ステータスポイント」「装備」「スキル」「アイテム」「クエスト」……まあ、順当な項目が並んでいる。


「じゃあ、ステータスを開いてみて」

「うん」


 俺はアイリスに言われるまま「ステータス」の項目をタップし、ウィンドウを開いた。


―――――

【キャラクター】

プレイヤー名:マト

性:男

齢:17

種族人間(ヒューマン)

ジョブ:【村人】Lv1

【ステータス】

HP :100

STR :20

END :20

DEX :20

INT :20(+20)

MEN :20

AGI :20

LUK :20

SP :10

MP :10

【スキル】《粗雑貧乏》《豚に真珠》

―――――


 うん。まっとうな感じだ。INTに+20ってことは一ステータスポイント=ステータス2ってことか?

 なんかスキルはあるけど、多分これはアイリスが言ってるデメリットのスキルかな。豚……貶されてる気しかしないんだが。


「基本的には、そんな感じで装備画面やスキル画面を開くこともできるよ。スキル画面には『スキルセット』と『スキル取得』があるから注意してね」


 同じように「スキル」の画面を開いて色々触れてみる。セットできるスキルや、取得できるスキルは当然ない。まあ、これから増えていくんだろう。


「分かったかな? チュートリアルはここで終わり。ちょうど今も、良い時間帯になったみたいだね」


 そう言ってアイリスは懐中時計をどこからか取り出して見せる。時計の針は、そろそろ五時に差し掛かるところだった。

 アイリスは俺が時計を見たのを確認すると、懐中時計をしまう。そしてこう聞いてきた。


「最後に、言いたいことはある?」


 俺は答えた。


「このゲームが……【ライフ・オブ・ファンタジー・オンライン】が俺を落胆させないことを願うよ」


 それは本心だった。今まで、どれだけ外れの【VRゲーム】ですらない何かを引かされてきたか。それでも信じたこのゲームは、せめて完成されたものであって欲しい。

 そう言った俺に、アイリスはにっこりとほほ笑んだ。


「安心していいよ。これは、今まで君たちを落胆させてきた“偽物”とは違う。紛うことなき本物」

「っ……」


 少し驚いた。いくら事実とはいえど、まさか仮にもゲームのAIであるアイリスが別企業の【VRゲーム】を真っ向から“偽物”と非難するとは。

 しかし、逆に期待が高まる。


「君はただ、遊んでいればいいよ。遊んで、この“世界”を楽しめばいい。さあ、行ってごらん。無垢なる子供のように、無邪気に世界を翔けるんだ」


 その言葉の直後、周囲から白い空間が消失した。

 あの明るさも、アイリスさえも視界から消え、俺は暗闇の中に浮かんでいる。


「……え」


 やがて、暗闇の底に吸い込まれるような感覚の後、俺の視界一杯にメッセージが浮かび上がった。


〈システムアナウンス:【ライフ・オブ・ファンタジー・オンライン】の正式サービスを開始します〉

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