2.イエティじゃねえよっ⁉
【LOFO】には、『クエストリンク』というシステムがある。
『クエストリンク』とは〈ストーリークエスト〉限定で起こるシステムで、クエストの進行度が同じ、また〈ストーリークエスト〉の物語構成上、同一化可能な他のプレイヤーがいた場合、そのプレイヤーと共闘することができるシステムだ。
今回の〈ストーリークエスト〉を受ける際、俺はとあるプレイヤーとリンクが可能であることが分かった。
その名というのが……。
「あっ、全然いいですよ!」
開口一番に、シュプレさんはそう言った。以前と変わらぬパーカー姿で、ビシッと敬礼を決めながら。
そう、誰かといえばシュプレさんである。……随分タイムリーな人と当たったなあ……。
「私もちょうどパーティメンバー探してたというか……ソロだと推奨レベル高めに設定されるみたいで、ちょっとレベリング大変だったんです! それに、やっぱりMMORPGの醍醐味と言ったらパーティプレイじゃないですかっ!」
うん、MMORPGの醍醐味がパーティプレイってのには共感できる。今までボッチだった奴が言うことではないが。
それにしても、推奨レベルが序盤にしては高めに設定されてたのって、ソロってことが関係してたんだな。まあ、ソロだと難易度も上がるし当然っちゃ当然か。
「イベントも近いですし……私はプレイヤーも比較的少ない時期に始めることができたので、出来れば上位に入賞してみたいと思って!」
「ほう。あ、ちなみに防具のジャンルはどんなのが良いですか? 鎧とか革鎧、あとは……何があるっけな。あっ、魔法のローブとかそういうのもあるっけ……そっちだと作れるかわからないんですけど……」
シュプレさんの防具も並行して作成中である。
ヤバい、前衛職装備の【ボアシリーズ】しか防具作ったことないからそっちの完全布系統の服に対して何の知識もないわ。
「あっ、私【剣士】なので大丈夫ですよ。そうですね……このパーカーは上に防具着ても見た目は崩さないのでいいですけど、下だけ鎧姿ってのも変ですから……」
「ああ、だからって上下変えるのも勿体ないと思いますよ。防具のシリーズ一式そろえるとボーナスのスキルがつきますから」
「マジですかっ。うーん……出来れば革鎧でっ!」
革鎧か……うーん、今の素材で作れるのはこの【ボアシ……、いやいや、さすがにお揃いはキツイわ。全身じゃなくて、軽装寄りの革鎧にすれば問題はないかな……多分。
「あっ、ただぶっちゃけ私動画配信者ですから、場合によってはマトさんも動画に出演するかもしれないんですが……良いですかね? 嫌だったら、その時に抜けてもらっても構わないんですけど……」
「……良いですよ。じゃあ、リンクの申請送りますね」
今は動画配信だって立派な職業だ。別に断る理由もない。
メニューを開いて、〈ストーリークエスト〉の画面から『クエストのリンク』を選択。シュプレさんにクエストリンクの申請をする。
【クエストをリンクした場合、自動的にリンクしたプレイヤーとパーティが組まれます それでもよろしいですか? YES/NO】
問題ないので『YES』を押下する。
すると、シュプレさんの方に申請画面が現れ、彼女(暫定)も特に問題はないというようにウィンドウをポンポン通していった。
直後、俺の視界にパーティ用の簡易ステータス画面が開き、『マト』という名前の下に『シュプレ』という名前が加わった。俺の名前の横には王冠のマークが付いている。多分、パーティリーダーという意味合いだろう。
【シュプレ 【剣士】Lv12 HP332/332】
決して疑っていたわけではないが、本当に剣士だったな。にしても、一目見てもやっぱり【村人】は経験値効率が違う。俺のレベルの方がこの5倍以上はあるぞ。
……それにしてはHPが俺より多いんですけど……。
一方、シュプレさんもシュプレさんの方で絶句していた。
「レベル43……でサブジョブもカンスト済み……⁉ えっ…えっ⁉」
シュプレさんの視線が右往左往するのに合わせて、パーカーの中で銀髪が右往左往に揺れる。
その慌て姿は見る分には非常に可愛らしいんだが……可愛らしいんだが。
「もしかして……マトさんって、【LOFO】のβテスターだったり……します?」
すると、何を思ったのか、シュプレさんがそんなことを言ってくる。
「いえ、違いますけど……そもそも【LOFO】にβテスターなんているんですか?」
いたのなら結構興味があるんだが。
「いえ、そんなことは全く知らないんですけど……このレベルを見ると……」
「むしろこのレベルでシュプレさんにHP追い越されてることに俺は驚いてるんですが」
「あっ、ホントだぁっ⁉」
そこまで驚かないでほしい。むしろ一番驚くべきは俺じゃないか。そんなに驚かれるとこっちが妙に冷静な気分になってくる。
にしても、アイリスが【村人】やめたほうがいいって言った理由はこれかな。【ムラビート】はレベルアップでステータスは上がらないから実質【村人】をカンストしたステータスが今の俺のステータスになってるわけだけど、それでも【剣士】の序盤のHPにすら負けているとは。
まさか【剣士】がHP特化職ってわけではないだろうから、多分他のステータスも同じようなものだろう。ステータスポイントで振り分けたステータスも多少影響している……はずだ。
まあ? 俺は【ムラビート】でしばらくはレベリングしててステータスを上げずにスキルの強化をしてたし? 転職のとき【村長】を選択してれば多分普通にこのステータスは越えてただろうしね? しかも、俺はINT極振りだから? 実質ステータスは俺の勝ち(?)みたいなもんだし?
と、半ば現実逃避しながら素材にカンカンとハンマーを振り下ろす。そうして出来た防具を、シュプレさんに手渡した。
「そ、そんなことより……これが防具ですね」
「お、おおお……‼」
手渡された防具―――【ボアシリーズ】革鎧verとでも名付けようか―――を装備画面から装備したシュプレさんは、自分の姿を見回して素っ頓狂な声を上げた。装備が変わったことで、シュプレさんはパーカーを纏った可愛い美少女から風来坊的な美少女剣士へとジョブチェンジしている。
「いいです……いいですねっ! なんか、ファンタジーしてる感じですっ!」
「そうですかね」
「はいっ!」
うーむ、ここまで喜んでくれると普通に嬉しいな。よかたよかた。
ちなみに、俺がチョイスしたのは一般的な革鎧である。何の変哲もないシステム通りの革鎧だ。まあ、《聖銅鉱石》も若干混ざってるから純粋な革鎧とは言えないかもしれないが。とはいえデザイナーの腕がいいのか、システム通りでも十分イカした革鎧である。
装備効果はこんな感じ。
【アイアンボアシリーズ】ランクD⁻
《効果》DEF+32《属性》無《装備スキル》《寒冷耐性》《耐久力上昇Lv1》《シリーズ達成スキル》《鋼鉄の突進》
《概要》【アングリーボア】の素材を使用した鎧。どちらかと言えば軽鎧に近い。要所要所に金属のプロテクターがついているため、致命傷を負いにくく、装備すれば勇敢な戦士としての素養がつけられる。
俺の着用している【ボアシリーズ】とは違って全身用ではないので元々防御力自体は低い。だが、【剣士】には《粗雑貧乏》のスキルで防御力が減衰することもないため、結果的な防御力としては俺より普通に高そうである。
しかも、装備してスキルが消えることもないし。……《鋼鉄の突進》って何だよ。強そうだなあ……。
まあ、【村人】の唯一の救いとしては作ったものではなく装備したものの性能が落ちるということか。作ったものにまで下方補正が掛かってたらかなり申し訳ないところだった。
ただ、作り手として一つ言わせてもらうとすれば……。
「革鎧の上にパーカーってクソダサいっすね」
「うん、私も思った」
いやまあ、俺が頑張ればできたのかもしれないけど……俺はファッションにそこまで詳しいわけでも無いし、工夫しようにもなあ……いつの間にか二人とも口調が乱れているのは置いといて。
するとシュプレさんは装備から外したのか、パーカーが光の塵になった。
「ん、なんか思いついたんですか?」
「ふっふっふ~。パーカーは私のアイデンティティでもあるんですが、いっそのことそれを外して新鮮さを狙ってみようかと!」
そう言いながらシュプレさんはどこかからか髪紐を取り出し、自分の髪を後ろに回してアップで纏めた。ポニーテールである。
「どうです? 初期武器の刀も相まって、きっちり剣士に見えるでしょう?」
「……」
銀髪ポニーテール美少女剣士となったシュプレさんは、バチコンッ☆と効果音が響きそうな勢いでウィンクをこちらに飛ばしてくる。
なるほど、確かにポニーテールにすることで一気に雰囲気が引き締まって剣士っぽくなっているかもしれない。言うなれば、今まで可愛さ100だったのが凛々しさ40、可愛さ60ぐらいになった感じか。
……考えるなあ。
「何というか、個性的な人ですね……」
ちょっと失礼かもしれないが。
「え~照れるな~。でも、マトさんほどじゃないですよ」
「あはは……んん?」
今普通に失礼なこと言われたぞ?
「だって……マトさん、種族イエティですよね?」
「⁉ いや、普通に人間ですが⁉」
「えーうっそだー。じゃあ、この毛は何なんですかぁ?」
「防具ですよ‼ あなたと同じ素材です! 誰がイエティだよ⁉」
そもそも、イエティっていう種族あんの⁉ あってもイエティにする人いる⁉
そんな茶番を挟みつつ、【LOFO】での初パーティのクエストは始まりを告げた。




