1.イベント通知
翌朝、三時ごろに起きて、早めの朝食を摂る。
いつもなら、こんな朝早くに起きるなど暴挙以外の何物でもなかっただろうが、【LOFO】のことを考えると、むしろ寝坊したのではないかとすら思えてしまう。何せ、【LOFO】で流れる時間が現実世界の4倍。俺が寝たのは昨日の午後11時ごろなので、約16時間もの時間が【LOFO】内で流れているのだ。
いくらゲームをやっている人が少ない時間帯とはいえ、廃人ゲーマーでもいればガンガン差をつけられているかもしれないと思ってしまうのは、詮無きことだろう。
……にしても、まだ【LOFO】を始めて8時間程度しか経ってないんだよな。睡眠した時間を除くと4時間……それにしては随分短い時間の間に大分濃い体験をしたように思う。
「……テレビでも見るか」
ゲーム時間が長すぎて現実感覚が疎かになるのも嫌だったので、久しぶりにテレビをつけてニュースを見てみる。だが、政治家のスキャンダルとか、地方で起きた集中豪雨の被害とか、あまり興味の沸かない話題ばかり放送されていた。
強いて言えば、ユーチューバーとか、ヴァーチャル動画配信者とか、AIアイドルとかの話題が気になったといえば気になったくらいか。
「……ごちそうさまでした」
リモコンを取ってテレビを消し、食べ終わった朝食に手を合わせる。そして“ディストピア”を頭に被り、ログイン地点を【村】に設定しつつ、【LOFO】にログインした。
◇◆◇◆◇
ログインすると、【村】の中は薄暗かった。山の向こうから太陽の明かりが漏れているので、夕暮れか朝焼けの時間帯ということは分かるのだが……メニューを開くと、ゲーム内の時間で午前4時過ぎだということらしい。俺が現実でログインしたのとちょうど同じくらいの時間だな。
確か、昨日ログアウトしたのがこっちの時間で午前11時ぐらいだったから……まあ、16時間は経ってるのか。
すると、ピロンッ♪ という効果音とともに、四角い枠が画面端からせり出してくる。
「『運営からのイベント通知』……?」
寝ている間に来てたのかね。メニューを開いてメールを確認した。
「……なるほどですねぇ」
展開されたウィンドウをスクロールして眺めていくと、思わず柄にもない言葉が口から出る。
イベントの開催は現実世界での12時間後、すなわち、【LOFO】内での二日後。
イベント内容は二大勢力に分かれてのポイント争奪戦。イベントモンスターを倒すことでポイントを得られる類のことが書いてあった。また、具体的にどんな勢力なのかはお楽しみ☆ とのことだが、【LOFO】で明日の時間に解放される特殊エリア内で特別な演出、説明を見られるらしい。
そしてここからが非常に興味深いのだが……このイベントには10のランキングがある。
『総イベントポイント獲得ランキング』
『総ダメージランキング』
『イベントモンスター討伐ランキング』
『プレイヤーキルランキング』
『単発ダメージランキング』
『イベントモンスター討伐時間ランキング』
これらのランキングの上位十名にはランキング報酬として限定のアイテムや装備が送られるらしい。
「くっふっふ……」
これを聞けばゲーマーとして舞い上がれずにはいられないだろう。しかし、ランキング上位10名に与えられるのはそれだけではない。
参加者全員が他のプレイヤーを倒した数、また死亡回数で争いあう。
即ち……最大で上位60名によるバトルロワイヤル。
その内上位5名には更なる景品が与えられるというから憎いものだ。
こんなん、出場を目指すしかないじゃないか。とはいえイベントは1日後だし、レベリングもしておくべきか……?
取り敢えず、やることだけ済ませておくことにするか。
「シュプレさんは……おっ、いるな」
フレンドリストを開くと、昨日まで灰色の【ログアウト】だったシュプレさんのプレイヤーネームの横が、緑色の【オンライン】に変わっていた。
シュプレさんはどうやら今レベリングか素材集め中らしい。マップを開いて【追跡】機能を使うと、シュプレさんの居場所を表す赤の光点が、【ルアリラ鉱山街道】の左側……【ロザンヌ森林蜂農場】というエリアでチョコチョコと動いていた。
んー……レベリング中に邪魔するのもあれだし、昨日ゲットした素材の換金とクエストの報告も兼ねて村長んとこ行っとくかな。
そう考えてメニューを閉じる。メッセージの一つでも飛ばせば良かったのではないかと内心ビクビクしているが、かと言ってメッセージを飛ばしても、遠回りに急かしているような文章しか書ける気がしない。
国語力のなさが原因か、コミュ障の弊害か。正直、後者ではないと思いたい。
すると、何故かシュプレさんのほうからメッセージが送られてきた。
『おはよーございますっ、シュプレです! 先日の《鍛冶》の約束の件なんですけど、今レベリング中でもうすこしで区切り良くなりそうなんです! 終わったら連絡するので、どうか待ってていただけないでしょうか!』
「……」
……シュプレさん、恐ろしい子っ!
「なんつーコミュ力……」
俺が迷った挙句ヘタレに諦めたことをログイン一分足らずで即決しやがった……ゲームのフレンドの付き合いってもうちょっと気後れするもんだと思ったんだが……正直、尊敬するレベルである。
こちらとしても問題はないので、メッセージリストから『OKです』と送っておいた。まあ、村長の家に行くくらいの時間の余裕はあるだろう。
「あ、あとポーションとかも補充しないとダメか……あと、武器の修理とかも……」
《クロックワークス》による広範囲殲滅戦法は、自分もダメージを食らうので回復ポーションの消費が激しい。【ルアリラ鉱山第一階層】は閉所だから多数のモンスターを相手取る機会も【ルアリラ鉱山街道】に比べれば少なかったが、それでも相当数のポーションは消費している。
それでなくとも、少なからず普通にモンスターからダメージ受けてたりするしな。【ノーマルブレード】と【ボアシリーズ】の消耗も意外と無視できなかったりする。
うーん、結構やること多いな……武器の修理についてはシュプレさんの依頼と並行してやる感じでいいと思うけど、他については……まあ、終わらなかったら終わらなかったでもいいか。
「よし、取り敢えず村長のとこ行こう」
そもそも、今お金持ってないからポーション買えないし。
クエストの報告がてら、手に入れた素材を換金して、お金をゲットしてから考えよう。
◇◆◇◆◇
そんなこんなで村長へのクエストの報告が終わった。
クエストの報告はある条件を満たすとクエストメニューに表示される事柄を簡潔に述べるだけで良いようで、日本語を学習中の外国人みたいな語彙力のない報告でも、問題なくクリア扱いとなった。
報酬は2000ゴル。序盤のクエストとしては、まあ及第点といったところか。
その後、新たなクエストを受けることになり、予想通りというか、【魔狼】を倒す方向に話が進んでいった。
ただ、その【魔狼】は今までモンスターを食べてくれていて、多少は【村】の安全に関わっていることから、このようなクエストが提示されたのである。
【〈ストーリークエスト〉【ロザンヌ森林】の強力なモンスターをそれぞれ一体ずつ倒す 0/4】
【報酬:2500ゴル 【初級武具カタログ】×1】
【討伐対象 【シャープビー】0/1 【ラージャーボア】0/1 【コンガ】0/1 【エルダーディア】0/1】
何気に一番気になるのが、【初級武具カタログ】だ。恐らく、名前的に武器か防具とかを選んでゲットできるアイテムなんだろう。
『初心者用』とかじゃなくて『初級』だから、序盤に役立つ武具がもらえそうである。
そうして、俺は新しいクエストを受けた。
ただ、問題、というかクエストを受ける上での選択肢が一つ出てきたのだが……これについてはシュプレさんとも相談してみるしかどうしようもない。
いいシステムではあるんだが、如何せん俺にとっては勇気が必要だ。
そんな感じで村長の家でクエストを受け、換金を済ませた俺は、シュプレさんからの待ち合わせメッセージもなかったので、現在ボングルさんの店でポーションを補充していた。
「グッハッハ‼ 最近ポーションが売れまくってなあ……ありがたいことだよなぁ、マト!」
「あはは、それは何よりで……」
いつもより5割増しでお元気なボングルさんの言葉に適当に相槌を打ちながら、購入した【お手軽な回復ポーション】27個を手持ちのアイテムボックスに入れる。
余りの【お手軽な回復ポーション】が3つだったので、これでちょうど30個か。
「まあ、随分人が多くなりましたからね」
ウィンドウを開いてアイテムボックスの残りの重量を確認しながら、あたりを見回す。
そう、【LOFO】内の時間で16時間も立っていたからか、【村】の中にはプレイヤーの姿がちらほらと見えるようになってきていた。とは言っても十数人程度だが、昨日までプレイヤーを一人も見かけなかった俺としては非常に新鮮な気分である。
【LOFO】には他にも職業が沢山あったはずだから……【騎士】とか【魔術師】とかにもぜひ会ってみたいものである。
「今が書き入れ時だからなあ……新商品だってたくさん作りたくなるもんよ」
ちなみに、ボングルさんのお店には新たなポーションが追加されていた。
効果はこんな感じ。
―――――
【お手軽な継続回復ポーション】ランクE
《効果》5分間の間、HPを秒間1ずつ回復する
《概要》体内の自然治癒力を高めるポーション。瞬間的な治癒効果はないが、使用者の傷を徐々に治す。お手軽な値段で、一般家庭の常備品によく使われる
《Recast time》330s
―――――
【お手軽な回復ポーション】が瞬時にHP150回復であるのに対して、【安価な継続回復ポーション】は5分間で300回復である。
《クロックワークス》の状態時間短縮(短縮といっていいのかわからないが)もあるので、初めは使いやすいのかと思ったのだが、《クロックワークス》が短縮する時間は30秒程度。それでは瞬時に60ほどしかHPを回復できず、かつMPも消費するので実用的ではないと判断した。
それに、【安価な回復ポーション】の回復量である150が《気合の踏ん張り》発動のラインにも近いから、こちらの方が《ポイズン・グレネード》の再発動の準備が早い。
……今更だけど、《ポイズン・グレネード》って確かMP、SPも消費したよな……《ムラムラムラムラ・ムラビート》でMPとSPが節約できるとはいえ、そこにも気を付けないといけないのか。
「……っと」
ピロンっ♪ と効果音がなり、シュプレさんからメッセージが送られてくる。
【今ちょうどキリの良いレベルに上がりました! 待たせてすみません! 待ち合わせ場所どこにしましょう!?】
なんだか、忙しいメールだな……。
「『ここ俺の【工房】ですので、そこで待ち合わせしましょう』っと……」
苦笑しながらマップにピンを指し、メッセージを送り返すと、すぐに『わかりました!』という趣旨のメールが返ってくる。
どうにもLINEに敏感な女子高生を相手にしている気分になる。
「さて、行くか」
そういえば、ゆかりに今日は会ってないな……まあ、今5時だし。多分寝てるんだろう。




