7.【ルアリラ鉱山第一階層】その2
【ルアリラ鉱山第一階層】の攻略を始めて90分が立つ。
ダンジョン内はかなり複雑に入り組んでいたのだが、時間の問題もあって攻略は大分進んでいた。
視界の右上に表示されたマップは8割方埋まっている。
最初は表示されたマップに気づかずに同じ場所を右往左往していた時期があったのだが、途中で気が付いた時に膝を突きそうになったのは良い思い出だ。
道中、いくつか先ほどと同じような宝箱部屋があったのだが、宝箱の中に入っていたのはほとんどがポーションや鉱石や素材だけだった。
初めの宝箱で手に入れたような装備品やレシピや【スキルポイントポーション】などは全く入っていない。どうやら、最初の宝箱はかなりの大当たりだったようだ。
そんなこんなで攻略を進めているうちに、やがて一本道にたどり着いた。
道の幅が今までと比べるとやたらと広く、左右に規則正しく松明が並べられている。
「こっちにおいで、って感じだな」
ならば、誘いに乗ってやろう。悠々と一本道を進んでいると、やがて広めの空間が見えてきた。
その空間の中心には、緑色の巨体が待ち構えている。その姿は見る限り……今までの【ゴブリン】のそれと非常に酷似していた。
「……随分と開けっ広げだな」
巨体の向こうの方へ目を凝らすと、奥の方に大きな扉が見えた。紫と黄色の文様……闇のオーラのようなものが、その扉に纏わりついている。
あれが第二階層への扉か? なんか知らないけど、……めちゃくちゃカッコいいな。
次の階層への扉と、その前方に堂々と立ちふさがる敵。恐らくは中ボスクラスと見ていいだろう。
遠目で見る限り、通路を通る俺を見ても襲ってくる様子はないということは、【エリアに入るまで攻撃行動はとってこない】というお約束は外してはいないようだ。
とはいえ、安全地帯から攻撃を放つみたいなハメ技もできなさそうだが。俺の場合そもそも攻撃が届きそうにない上に、なんかバリアのようなものが見えるし。
本来ならこの安全地帯でバフ掛けしたりと色々準備を整えるのだろうが、生憎俺はそういうスキルを持っていない。
申し訳程度に装備の耐久値を確認しつつ、空間に一歩踏み出した。
「GO、GAAAAAAAAA!!!」
「おっ……!!」
瞬間、こちらを向いた巨体の口腔から巨大な咆哮が放たれる。舞い上がる砂塵、吹き荒れる暴風。空気すら揺らすかと思われたその勢いに思わず腕で顔をかばってしまう。
辛うじて見ることができたその巨体の頭上には、【ゴブリン・ゲートキーパー】というネームが浮かび上がっていた。【門番】ってことは、やっぱりここは第二階層への扉ってことで間違いなさそうだな。巨体とは言ったが、今はその程度がよく分かる。普通の【ゴブリン】が俺の腰のあたりほどの背丈だったのに対して、この【ゴブリン・ゲートキーパー】は俺の身長―――を頭4つ分ほど超えている。
身長2メートル50を超える、明確な“怪物”だった。
「演出凝りすぎだろ、運営……」
ゲームだとわかっていても、俺は怖れていた。それは緊張か、それとも恐怖か。
正直に言って、体が震えた。……これ、場合によってはパニックになる人もいそうだな。一応このゲーム15歳以上じゃないとできないようになってるけど。
……おや? 動けないぞ?
「ニンゲン……ヤハリ来タカ。全ク、貴様ラハ貴様ララシク【村】デ震エテイレバ良イモノヲ……」
ああ、喋るんですね。〈ストーリークエスト〉の演出かね? にしても随分流暢に喋るな、コイツ。他の【ゴブリン】なんて『ニンゲン』くらいしか言えてなかったのに。
「マア、イイ。ドウセ、コノ扉ハニンゲンニハ開ケヌ。【シュードラ】様ノ魔術ニヨッテ封ジ込メラレテイルカラナ。今ノニンゲン共デハ、解析スルノガセイゼイ……トハ言エ、我ガ使命ハ変ワラヌ」
【ゴブリン・ゲートキーパー】は一度扉を指さして丁寧に説明を終えると、見せつけるように手を握り、開いた。瞬間、俺を束縛していた雰囲気が一気に霧散し、俺は会話イベントの終わりを直感的に察した。体は……うん、動くか。
となると、次に起こるのは……。
「門ヲ訪レタ時点デ、貴様ノ命運ハ尽キタ。見事、土ノ肥ヤシト成ルガイイ!!」
そう言った後、【ゴブリン・ゲートキーパー】は攻撃行動に入った。だが、【ゲートキーパー】は最初に入った時も、今も棍棒はおろか武器の一つも持っていない。
故に俺はこいつがどんな攻撃ができるのか疑問だったが……すぐに答えは出た。
「喝ァ!!」
【ゲートキーパー】がその巨腕を大きく広げたかと思うと、クロス字に交差して構える。すると、その体はキィィィィ……と音を立てながら輝き始め、やがて紫色の閃光を纏い始めた。
まさか……アーツスキルか!? モンスターも使えるのか。
「コレゾ、我ガ一撃……全テヲ微塵ニ還スモノナリ」
背筋が寒くなるような言葉とともに【ゲートキーパー】が前かがみに足を踏みしめると、溜め込まれた閃光の一部が弾け視界が紫の光に染まる。そして脚が地面を蹴った瞬間、【ゲートキーパー】の巨体が紫の帯を引きながら風すら置き去りにするほどの勢いで激発した。
その速度はまさに雷の如く……否、もはや雷そのもの。
その名は――――――。
「雷ノ光ハ石火ノ如ク 《雷光ノ体撃》」
岩すら砕く【ゴブリン・ゲートキーパー】最高峰のアーツスキル!! その強力すぎる速度と威力は、俺のHPを抵抗する間もなく削り取る――――――
「《パラライズ・グレネード》」
「グガッ!?」
訳もなく。“麻痺”の拘束効果によってあっさり止められた。
間髪も入れず《ポイズン・グレネード》と《ファイアベール》を発動。毒の霧とジェット噴射のような炎が辺りに充満する。
そして、
「《クロック・ワークス》」
「ァァァァァ……」
【ゲートキーパー】は、敢え無く沈んだ。光の粒子と成るその直前に、切なげな顔をしていたのはきっと気のせいではないだろう。
退屈な門番生活(想像)……そこに俺が現れたことで、彼がどれだけ心中歓喜していたかは想像に難くない。ようやく自分の力を見せることができる……そんな希望に満ち溢れていただろう。確かに、彼のアーツスキルは凄かった。俺が心の中で凝った解説をするぐらいには迫力はあった、迫力は。
でも……“麻痺”の行動キャンセルは効くだろうって思ってたからなぁ。勝手に盛り上げたのは悪いけど、本当ごめん。
などと心の中で茶番を繰り広げながらいると、部屋の中央に宝箱が出現しているのに気が付いた。中身は……各種ポーション数個と、鉱石類、それとグローブ……というよりナックル? が1つか。量が少し多いところを見ると、今までの宝箱より少し豪華なようだ。ボスの宝箱だからか?
グローブの性能を確認してみる。
――――――
【ゴブリン・ゲートキーパーのナックルグローブ】ランクD⁺
≪装備効果≫ATK+14(-7) DEF+4(-2) STR+32(-16)≪属性≫無 ≪装備スキル≫《殴打Lv3》《筋力増強Lv2》
≪概要≫【門番】の役割を持つ強靭な【ゴブリン】が手に嵌めていたグローブ。装備したものの筋力を増強する効果がある。また、ナックルとして殴り合いに使用することも可能。
――――――
ふうん、攻撃力に筋力ってことは主にダメージを伸ばせる武器なのかな。装備すると、二つの装備スキルのうち《筋力増強》の方が消えた。
ヘルプを確認してみると、《殴打》は主にSTRによってダメージが計算されるらしい。単純に使うなら武器よりもリーチや威力がないという欠点もあるが、武器を装備していても使えるという点と少々の“怯み”効果、またノックバック効果があるという事から汎用性の高そうなスキルだろう。
「さて……」
宝箱の中身も粗方取り終えたので、いよいよ本題。【第二階層】への扉の前に立つ。
一応【ゲートキーパー】は倒したんだが……アイツが言っていた通り、魔術云々かんぬんの力が込められているのか、まったく開く様子がない。〈ストーリークエスト〉だから開かない仕様になっているのだろうか。何か謎を解かないといけないみたいな。
「……ん、動けないな」
いろいろ考えて動こうとした拍子に、足が動かないことに気が付く。さっきの経験から察するに、何かイベントが起こっているみたいだ。
「……ヨナ」
耳を澄ませていると、どこかからか声が聞こえてくる。この声は……【ゴブリン】か? 出自は……この扉の向こう?
扉にピタリと耳をつけて話を盗み聞く。すると、さっきよりは明瞭に、話が聞こえてきた。
「門番ハ何ヲシテイルノヤラ。マサカ、倒サレテシマウトハ」
「全クダ。ニンゲンゴトキニ敗レルトハ。門番ノ名折レダナ。【シュードラ】様モ酷クオ嘆きニナッテイルコトダロウ」
酷い言われようだ。
「シカシ……ココハ安心ダナ。この扉ニ込メラレタ封印魔術ハニンゲンニハ到底破レナイ」
「アア、後ハ捕ラエタ《鍛冶》スキル持チノニンゲン共ヲ使イ、任務遂行ノ時ヲ待ツダケダ」
人間を捕らえた……? ってことは、鉱山で働いてた人たちはモンスターたちに連れ去られた、ってことか。にしても《鍛冶》スキル持ちの人間って……一体何をするつもりなんだろ。
「タダ、少シ心配モ残ルナ」
「何ガダ?」
「【魔狼】ダ。奴ノ核……コアハ、魔術ヲ破ル効果ヲ秘メテイル。レベルノ低イコアナラバ魔術破リナド叶ワナイガ、【魔狼】は【シュードラ】様ニ匹敵スル力ノ持チ主。モシソレヲ使ワレタラ、厄介ナコトコノ上ナイ」
そこで会話は聞こえなくなった。
クエストの説明文を開いてみると、目標が【〈ストーリークエスト〉【ルアリラ鉱山第二階層】への扉を調べる:推奨レベル17 1/1】から、【〈ストーリークエスト〉村長の元を訪れ、報告する:推奨レベル1 0/1】というものに変わっていた。
話からすると、その【魔狼】ってやつを倒さないといけなくなる流れってことかな。ただ、【魔狼】ってたぶんオオカミのことだよな? 俺、オオカミ型のモンスターに出くわしたことなんかないんだが……まあ、これについては後で考えることにしよう。
ダンジョン内で手に入れた高性能のポーションを温存するため、【安価な回復ポーション】もかなり酷使して無くなりかけている。
視界に移されたリアルタイムの時計を見ると、現実世界ではもう夜の0時を過ぎているらしい。さっさと【村】に帰って、睡眠のためにいったんログアウトすることにした。




