2.種族決めとキャラクタークリエイト
「はいはいどうもー。ようこそいらっしゃいました!」
気が付くと、見知らぬ空間―――真っ白な部屋の中心に俺は立っていた。
目の前では、一人の少女が笑顔でちょこんと椅子に座っている。少女の着ているアイドルを思わせる煌びやかな服は、可愛らしい容姿もあってか、少女にとても似合っていた。
……なんだか、アイドルの握手会に来ているような気分だ。
「どうも」
取り敢えず、挨拶だけ返してみる。
「うん、どうもどうもー。緊張しなくて大丈夫だからねー」
少女は微笑ましそうににへらと頬を緩めて、ハツラツとしたソプラノボイスで話していた。
「ここは【ライフ・オブ・ファンタジー・オンライン】のチュートリアル……ってことで合ってるよな?」
「うん。その認識でオッケーオッケー。自分の容姿とか、体系とか、種族とか、ジョブとかもここで決めてもらうからねー。大丈夫、サービスまであと1時間ぐらいあるから心配しないで」
1時間……さっきログインしたのが午後4時45分ぐらいだったから、確かにゲーム内の時間はそのくらいあるのだろう。
「うん」
「じゃあ早速決めていこうかー。あっ、私は【LOFO】のGM兼ジョブ担当【管理者】兼自称【ライフ・オブ・ファンタジー・オンライン】公認AIアイドルのアイリスだよー」
……自称なんだ。だったら公認ではない気がするけど。
「勝手に名乗ったら怒られちゃうからねー。まあ、よろしくねっ」
「……よろしく」
「うんっ。じゃあ、まずはプレイヤーネームを決めよっか。ゲームの中の君の名前は何にするー?」
少女……アイリスがそう言うと、目の前に長方形のウィンドウが展開される。
「ゲーム中の名前を決めてください」と書かれたそのウィンドウに、描画されていたキーボードを介して、「マト」と打ち込む。
「マコト」から「コ」を抜いただけの、以前から使っている簡単な名前だ。
「マト君ねー。うん、わかった。じゃあ、次はマト君の種族を決めるよー……それっ」
アイリスが腕を横に振ると、その動きに沿って沢山のウィンドウが瞬時に現れた。見れば、そのウィンドウには数々の種族のサンプルが映し出されている。普通の人間、エルフ、ドワーフ、オーガ……見るだけでもかなり多い。
「これは……」
「そこにあるいろんなデータを見てどの種族にするか色々決めてみるといいよー。映像サンプルもあるからね」
そう言って、アイリスは半ば呆然としている俺にウィンドウの一つを飛ばしてくる。
そこには、【森人】の項目と共にその身体的特徴やステータスの上昇傾向、また得られるスキルなどが画像付きで細やかに書かれてあった。
添付されていた映像ファイルを見ると、弓を持った耳長の美しい少女……まさしくエルフが、モンスターを倒す様などが分かりやすく写されている。なるほど、確かにこれは分かりやすい。
とはいえ、これを全部見るのはかなり骨が折れそうだったので、2,3個の種族を見たあたりで結局アイリスの力を借りることにした。
「出来るだけ簡潔に種族について大体のことを教えてくれないか?」
「んー。いいよー」
アイリスはそう頷くと、種族についての説明を始める。
「【ライフ・オブ・ファンタジー・オンライン】には沢山の種族がいるんだけどー、種族によって色んな違いがあるんだよ。例えば、そう、ステータス。STRが成長しやすくなったりする種族もあれば、DEXが伸びやすい種族もいるんだー。そうすると、同じジョブでもステータスが変わったりするよー」
ってことは、結構個性が出やすかったりするのかな。オンリーワンじゃないけど、それにかなり近いわけだ。
「あと変わるのはスキルとかかなー。種族によってはスキルの習熟度が高くなったりすることもあるんだー。例えば、弓が得意なエルフは《弓術》スキルが成長しやすくなったりねー」
「ふむふむ」
「あとはその種族しか持たないスキルもあるかな。メデューサの《石眼》とかね」
なんだか初見殺しに走りそうなスキルだ。
「まあ、これじゃ実感が沸きずらいだろうからオーソドックスな種族について説明するね。
まず、人間は文字通りただの人間だよ。ステータス補正もスキルも特筆するところは何もない普通の種族だねー。唯一の特徴はレベルが上がりやす、」
「じゃあ、人間《ヒューマン》で」
「……説明はいらないかなー?」
「人間《ヒューマン》で」
レベルが上がりやすいという時点で決まっている。
俺は、昔のゲームだろうが今のゲームだろうが経験値最優先で行動してきたんだ。それは勿論、この【ライフ・オブ・ファンタジー・オンライン】でも曲げるつもりはない。
「そういうことだねー。分かった。じゃあ次は容姿を設定しよっか」
アイリスがそう言うと、目の前にのっぺらぼうのマネキンがぬっと現れ、複数のウィンドウが現れる。ウィンドウの中には、身長や体重の他にも胸囲や肩幅などの項目もあった。眼鼻のパーツも豊富に揃っている。
「……えーと」
「そこにある顔のパーツとか体とか設定してゲーム内のアバターを作ってみてね。性別を変えたりもできるし、手足を一本ずつにしたり、一つ目とかもできるから」
ソレ、もはや人間じゃなく別の種族じゃないだろうか。
「ゆっくり考えていいんだよー。あと1時間はたっぷりあるからさ。アバターは髪の色とか以外は変更できないし、とっても重要だから」
「んー……」
アイリスはそう言うが、容姿に特にこだわりの無い俺にはそこまで集中できそうもない。
それに、このウィンドウや設定できる項目の数と言い、設定が細かすぎる。正直、ここで萎えてしまいそうだ。
「サンプルとかないのか?」
「あるにはあるよ」
アイリスは指をパチンと鳴らす。
すると、俺の周りを複数のアバターがぐるりと囲んだ。
「取り敢えずランダムで好みそうなのを十パターン出してみた。どうかな? 良さそうなのあった?」
「これがいいかな」
「そっかー、良かった。じゃあ、それをベースにいじっていけばいいと思うよ」
「ありがと」
絞られるとかなり簡単だった。身長を少し高くしたり、髪を白く染めたり、瞳を赤と青のオッドアイにしてみたりと細かい設定をいじくって、ありふれたRPGの主人公顔を改造していく。
作業途中、「現実の俺の顔をデフォルトでいじってみることとかできるのだろうか」とか疑問に思っていた。だが、結局実行することはなかった。多少の変更を加えたとはいえ素顔は素顔で危険だし、ゲームの中で現実の自分を動かすのは少し違うような気がする。
そうした試行錯誤をかれこれ30分続けて、俺のアバターは完成した。「決定」ボタンを押した瞬間、俺の姿はアバターのそれに早変わりする。
「終わったよ」
「うん。厨二っぽいけどそこそこ良い顔だね。じゃあ、次はジョブを決めようか」
「厨二……」
若干ショックを受けていると、アイリスが指を鳴らし、容姿の設定に使っていたウィンドウを全て消去する。直後、新たに沢山のウィンドウが虚空に展開された。
て……これも滅茶苦茶多くないか?
「さあ、じゃあジョブの説明をするよ」