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4.《クロックワークス》―――状態加速

「……上手く、いったか」


 【アングリ―ボア】が光の粒子となって消滅する様を眺めながら、俺はにやりと満足げに微笑む。ついに安定した広範囲殲滅の方法を編み出すことが出来たんだ。嬉しくない訳がない。

 《アンチ・バインド》で“麻痺”の拘束効果の危険から完全に逃れつつ、《ファースト・バインド》で100%拘束効果を発揮する“麻痺”を与えて敵の初動を封じ込め、そこからの二重継続ダメージ+《クロックワークス》による状態異常の時間強制加速で継続ダメージを一撃に纏めて敵に与えた。正直賭けだったが、まさかここまで上手くいくとは。


 《クロックワークス》の説明は『半径十メトル以内の味方・敵のバフ・デバフの効果時間に対して、時を進める』。このスキルを取得できるジョブは【時使い(タイムマン)】という、“時や空間”に関するジョブなのだが(余談だが、戦隊ヒーローみたいな名前だなと思った)、その戦い方は空間に“斬撃”を置いて敵を待ち伏せ、または追い詰めたり、数秒前の自分のいた位置に転移するなど、実にトリッキーだった。恐らくは、この《クロックワークス》は自分に罹ったステータス系、行動阻害系のデバフや、敵のバフなどを短縮することが元々の使い方だったはずだ。少なくとも、【時使い】を選んでこのスキルを手に入れたならば俺もそういう使い方をする。


 しかし、“省略する”ことではなく、“時を進める”という説明文がネックだった。単純に“省略”ならば効果時間が短縮されて終わりだが、“時を進める”となると話が違う。結果論ではあるが、“時を進める”とは即ち“何秒先の自分になる”ということなのだ。つまり、さっき“毒”と“やけど”の状態異常を受けた【アングリ―ボア】は、状態異常に関して“時を進められた”結果、その秒数分の継続ダメージを一度に受けたということ……紛らわしいな。


 ちなみに、《ポイズン・グレネード》による“毒”は勿論、《クロックワークス》の効果も俺に降りかかってくる。つまり、“毒”に関しての継続ダメージはきっちり30秒分、俺のHPにダメージを与えてくるのだが……それはこのスキルで耐えることにした。


―――――

《気合の踏ん張り》Lv5(-3)

TYPE:パッシブ

※パッシブスキルは自動的に装備されます

≪効果≫HPが最大HPの%以上の残っている時に合計が致命的となるダメージを受けた際、HP1で耐える。レベル1(-3)で55(+15)%、レベル2(-3)で50(+15)%、レベル5(-3)で35(+15)%

―――――


 俗に言う“食い縛り”系のスキルだ。まあ、“やけど”に関してのダメージはくらわないので、予想よりは比較的ダメージは抑えられたが。一度の“毒”で食らうダメージは最大HPの70パーセントと言ったところか。

 一度【安価な回復ポーション】で回復すれば、連続使用が可能な公算だ。リキャストタイムについても、《ムラムラムラムラ・ムラビート》や、INTを上げまくってるから3秒程度で回復するし。火力を上げるのに新たな状態異常攻撃を取得するのもアリかもしれない。


「ふう……」


 今回レベルは上がらなかったけど、まあそれはレベル帯的に仕方がないとして。

 広範囲攻撃の手段が得られたのはいいが、この戦い方だと色々欠点があるな。例えば、【アングリ―ボア】みたいに明らかな格下の敵だったらいいけど、もし単体で強いボスモンスターとか出てきたら攻撃を耐えられて瀕死の俺に一撃届く可能性も十分にある。それに霧の外から遠距離攻撃されたりなんかした日には、俺としてもどうしようもない。プレイヤーだったら霧のせいで見えないかもしれないが、【アングリ―ボア】みたいに動物の勘? で位置を特定してくる敵もいるかもしれないしな。そこらへんの対策立てられないと、これから先の狩場もいろいろ絶望的なことに。


 まあ、そこらへんはスキルポイントも余ってるし。追々考えていくとしよう。


 一先ず、今はこの狩に慣れることも含めて【アングリ―ボア】をある程度狩っとくか。


◇◆◇◆◇


 ある程度【アングリ―ボア】を狩り終えてレベルも42に上がったので、取り敢えず【村】に帰ることにした。

 狩の最中、最初は慣れることを重点にして5~10程度の【アングリ―ボア】を相手にさっきのコンボをやっていたが、一度慣れてしまうと15~20ぐらいは何とか一気に相手にできるようになった。あ~気持ちよかったな。一度に敵が吹き飛ぶほど爽快なものはない。何より、別々の職業を掛け合わせてこういう戦術が生み出せるのはロマンって感じがするな。


「ん~……ふぅ」


 かなりの時間狩り続けていたので、真っ暗だった空は今や薄明るくなり始めている。【ルアリラ鉱山】の山脈の方を見ると光が差し込んできていた。そろそろ日の出か。【LOFO】生活二日目……だな。そろそろこの【村】にプレイヤーの一人くらい来てもいいと思うけど。

 さて、一日目の成果はどんな感じになっただろうか。ステータス画面を開いて確認してみる。


―――――

【キャラクター】

プレイヤー名:マト

性:男

齢:17

種族:人間(ヒューマン)

ジョブ:【ムラビート】Lv42

サブジョブ:【村人】Lv50

【ステータス】保持ステータスポイント420

HP :300/300

STR :70(+1)

END :70(+1)

DEX :70(+1)

INT :70(+1040)

MEN :70(+1)

AGI :70(+1)

LUK :70(+1)

SP :60/60

MP :60/60

【スキル】保持スキルポイント13

〈パッシブ〉:《生まれながらの最弱者》Lv5 《ムラムラムラムラ・ムラビート》Lv4 《霧視》《粗雑貧乏》《豚に真珠》

〈アクティブ〉:《未経験の成長速度》Lv3 《訓練(トレーニング)》Lv5(-3) 《探求・学》Lv5(-3) 《住人たちの結託》Lv1 《下級武器鍛冶》Lv5(-3)《下級防具鍛冶》Lv5(-3)《ファーストバインド》Lv1(-3) 《アンチ・バインド》Lv5(-3) 《気合の踏ん張り》Lv5(-3) 《クロックワークス》Lv5(-3)

〈アーツ〉:《ポイズン・グレネード》Lv5(-3)《パラライズ・グレネード》Lv5(-3)

【称号】

【EXPERIENCER】【サバイバー】【闘イノシ士】【初心者プレイヤー証明書】

―――――


 スキルが増えすぎてよく分からなくなってきたな。ていうか、INTまだ振ってなかったのかよっ!? もっっっったいなっ!! 慌てて、余っていたステータスポイントを全てINTに振る。INT2000超えまであと少しだな。【ムラビート】もカンストしそうだし。取り敢えず、村長ンとこ行って【アングリ―ボア】の素材を換金、からのボングルさんの店でポーションを補充するか……?


 と、ボーっと考えていると。


「と言うわけで、区切りも良いし今日はここまでにしようかなと思います~。ご視聴、ありがとうございました~」


 ぴょんぴょん飛び跳ねながら剣をブンブンぶん回してるフード付きパーカー姿の少女を見つけた。


「……」


 忙しなく上下しているカーソルを見る限りプレイヤーらしい。その姿は遠目から見ても可愛らしく、パーカーの中の綺麗な銀の髪とも合間って、その姿は雪の妖精のような印象を受ける。俺いわく“森の妖精”と評されるゆかりと比較に上がるほどの美少女ではあるが、かといって何の感動も沸いてこなかった。


 何せ、キャラクリで性別変更ありのゲームだからな。警戒するのも当然だろう。パーティーとかをいつかは組んでみたいとも思うが、出来ればちゃんとした男性プレイヤーと組んだ方が安心できる。ネカマの可能性があるって思うだけで、なんか怖い。ネットのあるあるの一つだとは理解できる、のだけど。


 血気盛んと言うか、殺意満点と言うか……虚空に向かって喋ってるのがもう物騒と言うか……初めて見るプレイヤーがこれって、俺はなんて反応をすれば良いんだ。まあ、話し方から見るに動画配信者っぽい。初の【VRMMO】だ。動画配信業界は競争は激しいが、是非とも頑張って【LOFO】の魅力を広めてほしいと思う。


 俺は動画は普段ほとんど見ないけど。


 さて、じゃあ村長の家に行ってさっさと換金を……


「すみませーん」


 すると、突然後ろから声を掛けられた。ゆかりの声、ではない。NPCに話しかけられるにしても、クエスト発生としては不自然すぎる。つまり、それ以外で言えば……。

 振り返ると案の条、話しかけていた銀髪パーカーのプレイヤーが上目づかいでこちらを見つめていた。見かけ上はNPCに接するつもりでにこやかな笑みを被りつつ、それに応じる。


「はい、どうしました?」

「あのー……生産職の方ですかね?」


 生産職……まあ、間違ってはいない、のか? 《鍛冶》スキルは一応持ってはいるし。首を傾げながら頷くと、そのプレイヤーはぱぁっと花の咲くような笑みを浮かべてきた。かわい……んんっ。


「えっとえっと、でしたら私用に装備を作ってほしいのですが……」

「材料さえ持ってきていただければ、構いませんよ」

「分かりました!」


 ビシッ! と敬礼する少女。初対面の人に馴れ馴れしくしすぎじゃ……? それか、俺がコミュ障であることの弊害……? ……まあ、それは置いておこう。生産職プレイヤーとしての仕事か。【アングリ―ボア】狩りのレベル上げにも無理が出てきたし、ちょうどいいかな。他のプレイヤーと交流を深めること自体には、利点の方が大きいだろうし。


「あっ、私のプレイヤーネームはシュプレって言います! 」

「そうですか、私の名前はマトです」


 シュプレさんって言うのか。可愛い……名前だな。


「よかったら、フレンド登録していただけませんか?」

「いいですけど……」


 フレンド登録なんてのも出来るんだな。お約束は外してないってことか。メニューウィンドウを開き、『フレンド』項目を開く。すると、すぐにメッセージが飛んできた。


【シュプレ さんからフレンドの申請が来ています 受託しますか? YES/NO】


 『YES』を押した。


【シュプレ さんとフレンドになりました】


 初めてフレンドを作ってみたけど、この機能、結構便利そうだ。フレンドが今どこにいるのか分かるマップ機能なんてのもあるし、メッセージ機能もある。これなら、遠距離で会話することもできるだろう。材料が集まったときは、これで報告してくれれば良さそうだ。


「では、材料ついでにレベリングしてきますね! その時はぜひ、よろしくお願いします!」

「あっ、はい」


 適当に返事を返しつつ、マップを見ながら小走りでフィールドに向かうシュプレさんを見送る。プレイヤーもこれから増えていって、武器造りをどんどん頼まれる……なんてことになるのかな。

 ただ、あの人、結構疲れてるみたいだな。ずっと笑顔だったけど、まるで慣れないにらめっこをしているみたいに、かなり顔が強張って見えた。まあ、人間誰しも仮面は被ってるものだし、()()()()()()をしているなら、大変だろうな。


 つっても、結局他人事でしかないのだが。


 そんなことを考えながら、俺は村長宅へと向かっていった。

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