2.バトルスタイル
レベルアップ音の後で手に入れたスキルは、このような効果だった。
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《ムラムラムラムラ・ムラビート》
TYPE:パッシブ
※パッシブスキルは自動的に装備されます
Lv:1
効果:下級職のスキルのリキャストタイムと消費MP、SPを【合計レベル(最大で100)×0.1】%削減する。Lv1で合計レベル×0.1%、Lv2で0.2%、Lv5で0.5%
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「······ふざけた名前の割には」
マトモなスキルだった。分かりやすく言い表すならば『合計レベルに応じたスキル使用性能の向上』とでも言えばいいのだろうか。
随分スキル本意で、【村人】にシナジーしたスキルだと思う。スキル自体はスキルポイントを使えば沢山手に入るし、【村人】はレベルが上がりやすいのは体感済みだしな。
ただ、このスキルはスキル全体の『質』を向上させるというよりも、一定時間に使用できるスキルの『数』に焦点を当てている気がする。
あれだ、バトルスタイル的には【スキルマスター】ってやつだ。
ステータスはそこまで高くないけど、多くのスキルを駆使して敵を封殺する、ある種の万能戦術。しかも【村人】は弱体化のデメリットがあるとはいえ獲得できるスキルの系統に制限がない。プラス、INTの効果に経験値以外にもスキルのリキャストタイムを短縮するってやつがあったしな。
上手くやれば、かなり強力な戦い方が出来るだろう。
で、どんなスキルを取るかだが。
「スキルポイントは······17か」
《ムラムラムラムラ・ムラビート》が伸ばすのは、スキルの威力や効果ではなくあくまでも使用頻度と数。だったら、数で押す戦い方が一番好ましい······のか? ちなみに、《ムラムラムラムラ・ムラビート》のレベルを上げようとしたら出来なかった。
【このスキルはスキルポイントを使用してのレベルアップは出来ません】とメッセージが表示されたのだ。まあ、スキルは使っているうちにも上がるみたいだし、その内簡単に上げられるさ。
取り敢えず、スキル選定。
「うーん······魔法は?」
範囲系多そうな魔法連発で広範囲殲滅。うん、悪くない。と、頷いてから『スキル取得』のメニューを開き、ソートで『攻撃魔法』を絞り込んでみると······
―――――
《ファイア・バレット》
TYPE:アーツ
※アーツスキルの発動にはMPかSPを消費します
※MPかSPが必要不十分な量しか残っていない場合、アーツの発動は強制解除されます
≪効果≫半径5メトル以内の最も近い位置にいる敵三体に炎・弱ダメージを与える。ターゲット変更可能。ホーミング性能・弱。
≪消費MP≫30
≪Recast time≫5s
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なんか、思ってたのと違った。
魔法って言ったら、もっとドカーンと広範囲を吹き飛ばすとか、炎の柱が立ち上るとか、そういうのを想像してたんだけど……。
見てわかる通り、いくら『魔法』系のスキル画面をスクロールしても、取得できる魔法スキルとして出てくるのは敵3~5体への弱攻撃である【バレット】系、もしくは強力な単体攻撃である【ジャベリン】系ぐらいだった。
魔法職でとれる魔法スキルがまさかこれだけということはないだろう。【EXPERIENCER】を取得した時の条件も“下級”の経験値スキルをすべて手に入れレベル5まで上げるという条件だったし、少なくとも現状【村人】、ひいては【ムラビート】で取得できるスキルは下級職のスキルだけということだ。そりゃあ、下級職でバンバン上位職のスキルを取れちゃったらぶっ壊れ性能だよな。
「取り敢えず魔法は保留……かー」
がっくりと項垂れる。広範囲大火力の魔法を際限なく打ち続けて殲滅を繰り返しながら、苦しむプレイヤーやモンスターたちに高笑いする俺……ロマンがあって期待していただけに、かなり残念な気分になった。
連打するにしても理想と比べて火力が低すぎるしな。あと詠唱とかも必要になるみたいだし、リキャストタイムを含めると取得できるスキルに下方補正が掛かる【村人】系ジョブでは魔法職の完全劣化版になってしまう。《高速詠唱》なんてスキルもありそうなものだが、リストにないので少なくとも今は取得できない。
あと範囲も足りないな。着弾地点から半径何メトルの敵にダメージを与えるみたいな魔法があるならまだしも、下級の魔法職ではせいぜいが敵5体に弱ダメージ。魔法職が持つ本来の威力補正もあれば話は別なのだろうが、同時発動なんてスキルもない現状、大火力殲滅なんて実現しようもない……か。
「うーん……」
顎に手を当てて考える。
魔法は範囲も威力も足りないから無理。だったら、次は範囲に焦点を当ててみるか? 魔法以外で、魔法以上に広い範囲を持った攻撃系スキル。この際広くてダメージが入れば近接でもいいのだが。
ソートで『範囲』と打ち込んで支援以外のスキルが出るように設定する。そうして展開された長い画面をスクロールしていると、こんなスキルが目についた。
――――――
《ポイズン・グレネード》
TYPE:アーツ
※アーツスキルの発動にはMPかSPを消費します
※MPかSPが必要不十分な量しか残っていない場合、アーツの発動は強制解除されます
≪効果≫空気中の毒素を圧縮し、衝撃を加えることで着弾地点から半径10メトル以内に“毒”状態を付与する霧を形成する。圧縮した毒素は投擲可能で、霧は五秒間残留する。Lvが上がるほど霧の毒性は強まる。
≪消費MP≫20
≪消費SP≫20
≪Recast time≫10s
――――――
状態異常か。詳細を見ると、これは【毒拳士】のアーツスキルらしい。さらに下に画面を動かしてみると、同じく【毒拳士】のスキルである、範囲内に“麻痺”を付与する《パラライズ・グレネード》と、中には【風炎術師】のさらに広い範囲に“やけど”を付与することが出来る《ファイアベール》なんてスキルもある。
「……これ」
全部組み合わせたら、結構強くないか? 塵も積もれば山となるではないが、魔法ほどではないにしろ、“毒”と“やけど”を重複させて発動すれば結構なダメージ量にはなるはずだ。しかも、その範囲が魔法と比べてはるかに広い。
何より、【アングリーボア】たちとしか戦っていない今の現状でしか言えないが、この先の【ルアリラ鉱山】のモンスター、あるいはほかの場所のモンスターすら【ノーマルブレード】のような状態異常攻撃を繰り出せないとしたら。
それはつまり、状態異常対策を怠っているであろうプレイヤー相手に対してもかなりの好手になりえるんじゃ……?
一応、『ヘルプ』から『状態異常』について調べてみる。
“毒”は一秒間ごとに微弱なダメージをプレイヤーに与え続ける状態異常のようだ。効果時間は30秒間。ポーションを飲むことで効果時間短縮、場合によっては完全治癒もできるらしい。逆に、程度によっては効果がないこともままあるらしいが。
対して“やけど”は、一秒間ごとに与えるダメージは“毒”状態のときよりは大きい。その代わりに、効果時間は10秒と、かなり短い時間のようだ。加えて、治療するポーションは無いが転げまわれば自然と回復するという仕様。
ちなみに“麻痺”は、罹った者が行動を起こそうとすると一定確率でその行動がキャンセルされるという仕様らしい。加えて30%のAGI減少。効果時間は20秒と、そこそこだ。
……ふむ。スキルポイントは25もある。取ってみるか。ダメだったとしても状態異常は戦う上でのアドバンテージにもなり得るし、損は無いだろう。
という訳で、《ポイズン・グレネード》と《パラライズ・グレネード》、そして《ファイアベール》をレベル5(-3)の状態で取得した。あとついでに傷痍系状態異常の性能を14%向上させる《状態異常強化・傷痍》をレベル5(-3)にして取得しておく。状態異常の時間を延長するスキルもあったんだけど、そういった長期戦想定だとレベリングに向かないしな。
それより、全体的な火力を上げてくれるスキルを取得しておきたいが……今は保留。
にしても、随分思い切った使い方しちゃったな……取っちゃったもんは仕方ないけど、もっと良い方法があったんじゃないかと不安になる。まあ、こういった思い切りもゲームの醍醐味の一つだよな。強いんじゃね? とか思った戦術はとことん試した方がきっと楽しい。
「んじゃあ、早速試してみるか」
そう言った直後、光る【ノーマルブレード】片手に暗い街道を一気に駆けだす。
「ブギ?」
闇の中に浮かぶ幾つもの赤点――――――【アングリーボア】たちは即座に駆ける俺に目を向け、追いかけてきた。なんか【闘イノシ士】があるとはいえ、いつもよりヘイトが向き過ぎている気がするなあ……夜道で目立ちすぎる光のせいか? にしても、この《光》スキル、オンオフできるのかな……まあ、都合がいいことには変わりがない。
そうやって追いかけられっこを続けていると、やがて先日の焼き直しの様に20体近くの【アングリーボア】が俺に追従していた。レベルが上がったとはいえ、この数だ。突進をモロに受けたらひとたまりもない。……だが!
「……この前みたいな無様は見せねえぜ?」
ちょっとカッコつけたセリフを吐きつつ、広めの空間に出たところで【アングリーボア】たちに振り返る。その時には【アングリーボア】たちはほんの2メトルほど先の所にいたが、そのスキルの発動にはそう時間はかからなかった。
右手を緩く開き、少し引いた位置で構える。
「《パラライズ・グレネード》!!」
そう叫ぶと、稲妻の走る金色のオーラのようなものが右手に収束し、円球場になって固まった。えっと、そういえば発動するにはどうすればいいんだっけ、確か衝撃を放つんだっけか、でももう剣を持ってるから投擲も……ああもういいや! 地面に打ち付けちゃえ!
金色のオーラの纏わりついた拳を地面に打ち付けると、圧縮されたオーラが解放され、地面を中心に半径10メトルの黄金のドームが出来上がる。その膨大な大きさのオーラは、【アングリーボア】たちの動きを即座に阻害し……
「って、俺も状態異常食らってんじゃねーかっ!!」
俺の動きも止めていた。簡易ステータスを見ると、【麻痺】の文字が浮かび上がっている。なんだこれ!? 次は《ポイズン・グレネード》いこうと思ったら動けねえんだけど!? 動こうとしたらビリっと来てキャンセルされるんだけど!?
「フギィ!」
戸惑っている間に、“麻痺”の裁定から逃れた数匹の【アングリーボア】が突進して俺の体を吹き飛ばす。
「おうっ!?」
声が漏れたが、痛みはない。痺れるような感覚と共に、視界が切り替わり、気が付けばどさりと地面に倒れていた。前を見ると空が、後ろには地面が……上を見ると、俺を轢いて行ったらしき【アングリーボア】の集団が見て取れる。
簡易ステータスを見ると、HPゲージが6割削れていた。
「う……そだろ」
レベルも上がったし、一気にこんだけ食らったことなんて一度もなかったんだけどな。なんかようやく、【村人】の弱さが見えてきた気がする。しかし、まさか《パラライズ・グレネード》の効果が自分にも及ぶとは……完全に予想外だった。
「ぶ、ギィ……」
声のする方に目を向けると、先ほど“麻痺”に罹っていた【アングリーボア】たちが突進の構えを取っている。何体かは再び“麻痺”で行動のキャンセルもされるだろうが……《状態異常強化》で強化しているとはいえ数が数だ。期待はできない。
だったら、嫌な予感はするけどイチかバチか……!
「《ポイズングレネード》ォ!!」
紫色のオーラが収束した右手を振りかざし、俺はそれを地面に打ち付ける。すると、未だ残留していた《パパライズ・グレネード》に重なるように寸分違わぬ大きさの紫色のドームが展開された。同時に、毒の霧で視界が覆われる。
そして案の定、“毒”の状態異常を示すマークが俺の簡易ステータスに浮かび上がっている。
「ってめっちゃ減るの早いな!?」
グングン減っていくHPゲージに驚きながらも、続く【アングリ―ボア】の突進に反応できたのは経験値の執念故か。行動がキャンセルされない幸運に感謝しつつ、【安価な回復ポーション】を一息に呷る。【安価な回復ポーション】の回復量とリキャストタイム、対しての“毒”の削るHP量を比べれば【安価な回復ポーション】の回復量が遥かに優っているが、それに乗る【アングリ―ボア】からのダメージは別だ。一体ならまだしも、群れの突進に巻き込まれれば最悪、デスペナルティも有り得る。
うーん……でも、倒せない気はしない。というより、普通に戦えてれば倒せてたんだがなあ!? 状態異常に掛かるわ、災難ばっかりだよ!? こういう『本当だったら倒せるのに変に工夫して倒せないパターン』は大嫌いだ。
「なんも見えん……」
加えて、《パラライズ・グレネード》の時はまだ透けて見えたんだが、《ポイズン・グレネード》となると完全に毒の“霧”だ。3メトル先もぼやけて見えない。つまり、次来る攻撃に対しての対応が出来ない。ってか、霧の先から【アングリ―ボア】たちの殺意に満ちた鳴き声が聞こえてきて凄く怖いんだけど!? せめてもう少し親切設計なスキルにしてくれよ……。
って、考えても仕方ないんだけどな。どうせならスキルの効果だけでも確認していこう。と、俺は両手をX字に構えた。
「《ファイアベール》ッ!!」
そう叫ぶと同時に“毒”の霧が解除され、突進直前の【アングリ―ボア】たちの姿が露わになる。5秒経過したのか。金色のドームが消え失せているところを見ると、《パラライズ・グレネード》も解除されたみたいだな。あくまでも“麻痺”を付与するドームを生成するスキルなので、“麻痺”の状態異常は健在だったが。
などと考えていると、自分の両手から火炎放射器を数倍強化したような炎が噴き出した。エエ!?
顔にモロにぶっかかる炎に動転して炎を吐き続ける両手を地面に翳すと、発射するロケットの真下のように炎が地面に分散し、先ほどのドームを超える範囲に大きく広がる。先ほどのドームのように“高さ”はないが……なるほど、これは確かに“ベール”だ。
「ボアッ!?」
「プグッ!?」
炎の中で【アングリ―ボア】たちの苦しむ声が聞こえてくる。効果範囲は半径15メトル……いや、それ以上だろうか。ただ、炎の勢いの割にはこのスキル自体にダメージ判定はないらしい。もしダメージ判定があるのなら【アングリ―ボア】はもう少し早くに死んでもいいはずだ。あくまでも“やけど”を付与するだけのスキルみたいだけど……随分な見かけ倒しだな。
その代わり“やけど”には自分は罹らないみたいだし、さっきよりはずっとマシな結果だけど。
《ファイアベール》が解除されると、そこには“麻痺”と“毒”と“やけど”の状態異常に苦しむ【アングリ―ボア】三体が残っていた。【安価な回復ポーション】を一息に呷ってある程度HPを回復してから、【ノーマルブレード】片手に襲い掛かる。
戦闘が終了してから、手に入った経験値とアイテムのアナウンスに目を通しつつ、俺はじっくりと考えていた。
さて、この癖の強いスキルをどう調教しようかな……と。
【ライフ・オブ・ファンタジー・オンライン】の裏設定②
【LOFO】に置いて与えることのできる状態異常ダメージの数値は大体こんな感じである。
スキルレベル1の状態異常基準ダメージ(たとえば“毒”は3)×(1-0.0011α)×状態異常強化補正×状態異常耐性スキル補正〈αはEND(耐久力)の値、1≦0.0011αの時、状態異常ダメージは《無効化》判定になる〉
ちなみに、下級スキルの状態異常耐性スキルでは『状態異常ダメージを20パーセントカットする』のがせいぜいです。状態異常強化も同じくらいですね。《無効化》ともなると、それこそEND極振りでバカみたいに耐久力上げるか、上級職あたりになれば下級、中級の状態異常スキルはレベルによっては無効化できます。




