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1.転職

 目を開けると、俺は自室のベッドの上に寝そべっていた。


「······ふぅ」


 一息吐いて起き上がり、肩や腕を回して“ディストピア”使用直後特有の倦怠感を解す。五感を全部【VRMMO】(あっち)に持っていく間、当然と言えば当然なのだが、現実(こっち)の体は動かない。


 だからなのか、いつも起き上がると体が石になったみたいにダルくなるんだよな······とはいえ、肩が凝る程度だし、避けられない弊害というやつなのだろう。


 こめかみあたりに設置されたスイッチを押して、“ディストピア”を頭から解除する。寝汗酷いな······涼しくなる時期だからって油断してた。


 蒸し暑さに顔をしかめつつ、ベッドの棚のリモコンを取り、照明とエアコンを点ける。

エアコンから流れる涼風に目を細めていると、机の上にトレーに乗った夕御飯があることに気が付いた。


『良かったら食べてください』


 ······ああ。


 エアコンを点けたまま、ベッドから降りる。俺がゲームしてる間に、これ置いてってくれてたんだな。婆ちゃん。

 そう言えば、もうとっくに夕御飯の時間だったっけ。夕方に少し食べたから、小腹が空いている程度だけど······食べるか。


 今日の夕御飯は野菜炒めに、なすの味噌汁、それに漬け物。『いただきます』と言わないまでも手を合わせ、夕食を食べ始める。


「······」


 ただ黙々と箸を動かす。口に含んだ野菜炒めは、健康志向の婆ちゃんらしい塩少なめの優しい味だった。暖かくて、ゆっくり解きほぐすような。


「······」


 野菜炒めを細々と口に運びながら、今日一日の出来事について思いを馳せる。

 【LOFO】面白かったなー······。最弱職とかアイリスが言ってた【村人】も、やれることは面白かったし。カンストして中級職になれるようにもなったから、やれることも増えるだろう。


 あ、そう言えば他のプレイヤーはどんな感じだったんだろうな。


 ふと思って、夕食の手を止めずにパソコンで【LOFO】に検索してみる。埃を被ったマイクをどかし、キーボードに適当に文字を打ち込んだ。

 ······おお、プレイした皆が皆結構な反応だな。レビューも沢山あるし、プレイヤーがこれから増えそうな雰囲気が充満してしる。何気にクソゲーとか言ってる人もいたけど······まあ、そういう人もいるだろう。結局は好みの問題だし。


「ごちそうさまでした」


 そうこうしている内に食べ終えた夕食に手を合わせる。そして、トレーを持って自室のドアを開き、入り口の隅に置いた。······ごちそうさまでした。


 心の中でそう一言漏らしてから、自室に戻ってベッドに飛び込む。

 するとふと、写真立てに挟まれた一枚の写真が目についた。その中では、二人の夫婦とその間に挟まれた男の子が森林を背景に笑顔でピースを前に出している。


「······」


 ベッドの棚に置かれていたそれを取って、寝転んだまま頭上にかざして眺めてみた。

 ······そういえば、いつの間にか妹も出来たんだっけか。ゲームの中の、だけど。でも、ゆかりは容姿がヤバイぐらい可愛いからな······正直、例え現実であったとしても妹と見れる気がしない。というか、そういえば何で兄弟っていう設定のはずなのに『好感度』とかが設定してあるんだ······?


 そこまで考えて、ふと疑問が浮かんだ。


「そういえばゆかりの両親、まだ見たことないな」


 たかがゲームだし、元々がいないっていう設定なのかもしれないが、もし出掛けていて会えなかったんだとしたら、一応挨拶なんかもしておくべきなのかな。


 それか、もし俺と同じなんだったら――――――


「······戻ろう」


 写真を元の場所に置き直して、“ディストピア”を頭に被る。こめかみの起動ボタンを押して、プレイするゲームを【LOFO】に設定すると、カウントダウンと共に俺は眠るように目を閉じた。


◇◆◇◆◇


 目を開けると、そこは【工房】の中だった。

 なるほど······最後にログアウトした場所からログインできる仕様になっているのか。ヘルプを見てみると、ダンジョン内などの場合は最後に訪れたチェックポイント······要するに【村】とかも選べるらしい。

 俺は一度攻略すると決めたダンジョンは中断してわざわざ再挑戦しないタイプなので、余程レベルが足りない限りはこの機能は使わないだろうが。


 じゃあ、やっていくか。


「さてと······まずは【村人】をカンストしたから、転職が出来るようになったんだっけ?」


 メニューを見ると、『転職』という項目が新たに追加されていたので、タップしてみる。すると、新たにウィンドウが現れた。線で繋がれた三つの正方形······真ん中が【村人】で、上と横に一つずつ繋がっている形だ。この繋がっている正方形が示しているのが、多分新たに就けるようになった職業なのだろう。

 取り敢えず、上の正方形をタップしてみる。


「······【村長(ヴィレッジヘッド)】?」


 えっ······でも村長はこの村に普通にいるよな······? なのに【村長】になれるって······と、取り敢えず説明文も見てみよう。


――――――

【村長】(中級職)

【ステータス成長傾向】

HP :8

STR :2

END :2

DEX :2

INT :2

MEN :2

AGI :2

LUK :2

SP :2

MP :2

【獲得可能スキルポイント】3

〈ジョブ説明〉

【村】の長として様々な権限を行使することができる。【村】一つにつき一人のみ。

――――――


「······」


 ステータスは一レベルにつき2上がるっていう認識で良いのかな。今まで一しか上がってなかったから、二倍の速度でステータスが伸びると考えるとかなりよろしいジョブだろう。それはいい。

 手に入るスキルポイントは変わらず3なんだな、中級職なのに。それもいい。


 『【村】一つに一人のみ』って······めちゃくちゃ物騒なことになりそうな予感なんだが。もしかして、今の村長と村長の座をかけて決闘とかしなくちゃいけなくなるんだろうか。


「まあ、もう一つあるしそっちも見てみるか」


 今は保留にして、横に伸びた方の正方形をタップする。ただ、こっちもこっちで色々衝撃的だった。

 主にジョブの名前が。


「······【ムラビート】?」


 なんだ、このふざけてるとしか思えない名前は。今まで漢字表記で英語読みだったのに急に直球になったな、おい。説明文を開いて、詳細を見てみる。


――――――

【ムラビート】(下級職【EX】)

【ステータス成長傾向】

HP :0

STR :0

END :0

DEX :0

INT :0

MEN :0

AGI :0

LUK :0

SP :0

MP :0

【獲得可能スキルポイント】4

〈ジョブ説明〉

【■■■】解放ジョブの一つ。

解放条件:【【村人】以外のジョブを持たず、【村人】をカンストする前にBランク以上の称号を二つ以上獲得する】

――――――


 ピーキー過ぎるな!? なんだ、このスキルのためにステータスを全て犠牲にしてるこの感じは!? 極端すぎるだろ! なんか表記されてない文字もあるし······上級職あたりを解放するのに必要だったりするんだろうか?

 てか、解放条件って······【EX】ってのもそうだけど、限定ジョブって感じがプンプンするな。


「······う~ん」


 迷う。ただ、【ムラビート】はあくまでスキルポイントを獲得するためだけの職業っぽいし、そのスキルポイントも【村長】と1ポイントしか変わらない。

 だったら、保留の意も兼ねてステータスも堅実に上げられる【村長】を選んだ方がいいか。

 そう思って、【村長】をタップすると。


〈【警告】【村長】に転職すると、以降レベル上限に達するまで【ムラビート】に転職することが出来なくなります! よろしいですか? YES/NO〉


「ぐっ」


 レベル上限っていうと、中級職だと確か100だったよな? レベル50にまで上げるのも相当大変だったのに、これをカンストするとなるとめちゃくちゃ大変、というか現状不可能な気が······。


「だったら、取り敢えず【ムラビート】からレベル上げるか」


 そっちの方が色々楽だし。一瞬顎に手を当てて考えた後、『NO』を押して【ムラビート】をタップした。


〈【警告】【ムラビート】に転職すると、以降レベル上限に達するまで【村長】に転職することが出来なくなります! よろしいですか? YES/NO〉


 『YES』をタップする。


〈転職しますか? YES/NO〉


 お約束の二重選択。一度転職したら変更不能という地雷も起きなさそうで安心した。『YES』をタップすると、ド○クエ的なファンファーレが舞い降り、周囲に青い光が四散する。


〈【ムラビート】に転職しました〉

〈【村人】をサブジョブに自動変更しました〉


 おお······案外呆気なかったけど、これはこれで感動するな。心に来る感じというか。こういうレトロな感じが逆に新鮮だ。とてもいい。

 しみじみと一通り頷いてから【工房】を出る。


 一先ず、ある程度レベリングするか。


◆◇◆◇◆


 というわけで、レベリングのために【ルアリラ鉱山街道】に再び戻ってきた。ここでは一度【アングリーボア】を沢山狩った訳だが······。

 色々未知、もとい謎な【ムラビート】のレベリング以前に新しく作った武器の性能を試そうと思う。


「さて······」


 【木剣】で攻撃力10(-5)だったけど、この攻撃力28(-14)合成【ノーマルブレード+6】でどこまでダメージを伸ばせるかな。早速一匹の【アングリーボア】を見つけたので、接近して切りつける。


「せいっ!」

「ブギァッ!?」


 中々の大きさで断末魔を上げた【アングリーボア】だったが、HPゲージは八割強ほどしか減らなかった。それだけを確認して、一先ず安全圏へ飛び退く。


 うーん······さすがに一撃は難しいか。一撃で倒せると効率的にかなり良かったんだけど。

などと落胆していると、直後に【アングリーボア】の悲鳴が響く。


「······えっ」


 【アングリーボア】の方を振り返ると、そこには舞い散る光しかなかった。それが【アングリーボア】であることは明白であり······えっ、何で?

 戸惑ったように【ノーマルブレード】を見て、気付いた。


【ノーマルブレード+6】ランクD

≪効果≫ATK+28(-14)≪属性≫炎・弱≪装備スキル≫《光Lv1》

≪概要≫基礎的な鉱石である『聖堂鉱石』と『加工石』のみを使用したシンプルな剣。模擬剣からの派生で殺傷能力が付与され、その切れ味はそこそこ。これを得て初めて【剣士】は初心者を卒業できたといえる

≪必要STR≫51 ≪武具製作難度≫1


 ······これ、炎属性付いてたのか。


 つまり、【アングリーボア】は上手いこと丸焼きになってくれたということだろう。つまり、やけど的な継続ダメージが発動したのか?


 すると、


<レベルアップしました!! Lv1→Lv2 >

【ステータスポイントを10手に入れました】


<レベルアップしました!! Lv2→Lv3 >

【ステータスポイントを10手に入れました】



<レベルアップしました!! Lv9→Lv10 スキルポイントを4獲得しました!>

【ステータスポイントを10手に入れました】

【パッシブスキル《ムラムラムラムラ・ムラビート》を獲得しました】


 突っ込まねえよ!?

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