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7.ギャルゲーじゃねえかっ!?

茶番回です

「どうしたの? お兄ちゃん」


 首を傾げ、少女は上目遣いでこちらを見てくる。頭をかき乱す混乱すら忘れて、そのあどけなさや可愛らしさに俺は思わず息を飲んだ。

 美しい少女だった。こちらを見据える翡翠色の瞳。セミロングに纏められた柔らかな緑髪。俺から見て頭一つ分ほど華奢で下の小柄な体つきは、思わず抱きしめたくなるような印象を受ける。


 恐らく年は14、15かそこらか。年齢にそぐわぬ穏やかで大人びた微笑とは対照的に、あどけなさを湛えた蕩けた瞳は求愛する相手に甘えたくてしょうがない小動物のように見えて、つい引き込まれ―――って、何を考えているんだ、俺は!?


 混乱して思考の追い付かない俺の背後から村長が顔を出し、目の前の少女ににこやかに語り掛ける。


「ああ、ゆかりちゃん、まだ合流出来てなかったんだね。ちょうど訪ねてきてくれて良かったよ」

「うん、ありがとう村長さん。さあ行こう、お兄ちゃん」

「え、あっ、ええっ!?」


 少女―――ゆかりは村長に短くお礼を言うなり俺の右手を掴み、スタスタと歩を進めていく。

 未だ混乱の渦中にあった俺は要領を得ない声を漏らすことはできても何も言うことができず、ゆかりに引っ張られるまま頭を捻ることしかできなかった。


【イベントをスキップしますか? YES/NO】


 ああ、これイベントなんだ……取り敢えず落ち着きたいからスキップしようかな。と、思っていたのに何故か瞬時に手が『NO』に動いていた。


 何でだ。


◇◆◇◆◇


 俺がゆかりに連れられたのは最初に目覚めた小屋の中だった。

 外はもう真っ暗で、出歩いているNPCは少ない。結局、今日はプレイヤー一人も見かけなかったな。まあ、リスポーン地点離れている上にあれだけ発売前の評判が荒れてたら初日のプレイヤーなんてこんなものかもしれないが。


「~♪」


 そして今、俺の目の前ではゆかりが鼻歌を歌いながら料理を並べている。その一連の動作はとても家庭的で、ちょこちょことしていて何とも癒される光景だ。

 やっぱり……スゲー可愛いな。無意識に見惚れてしまう。一言でいえばロリコンが狂喜乱舞するほどの容姿をしたゆかりであるが、俺の名誉のために言っておくとこれは見惚れても仕方のない容姿だと言えるだろう。


 何せ、初対面で見てからあれだけの言葉が溢れ出てくるほどの容姿なのだ。ゆかりの頭上に浮かぶ緑のカーソルからしてNPCだと分かってはいるが、まじまじと見つめてみても、やはりその可愛らしさと言うのはまさに“人外”の領域に達しているといえる。


 アイリスも同じくらい可愛らしくはあったが、何か、ゆかりは琴線に触れるというか……。


 にしてもこのゲーム、たかが【村】のNPCでこれだけの美少女がいるなら……別ジャンルから人気が出てこないか?

 イベントといい、この状態だとどっちかと言えばギャルゲーっぽいし。……俺も、こういうイベントを見逃すのは勿体ないなーと思ってスキップ拒否しちゃったし。


 ……このゲームに来てからおっさんとしか喋ってないからかもしれないが。


「どうしたの、お兄ちゃん? そんなに私を見て」

「え? あ、ああ……何でもない、よ?」

「そうなんだ。さ、ご飯出来たよ。食べよっか」

「お、おう」


 いただきます、と手を合わせてから食べ始める。ゆかりも手を合わせていたところを見ると、このゲームは細かい部分の文化的には日本寄りらしい。

 ゆかりが食事を口に運ぶのを眺めてから、ハッとしたように俺も食事にありつく。机に置かれた料理は……見たところパンと、肉料理だろうか。


 ―――さっさと食って話を終わらせるか……と、料理を大口で頬張る。直後、口の中いっぱいに広がった旨みに、俺は大きく目を見開いた。


「う、美味っ!」

「ふふーそうでしょう、そうでしょう」


 劇的な俺の反応を見て、得意げにゆかりは胸を張る。そんな微笑ましげな光景を見る余裕すら、今の俺には無かった。

 やばい……これ結構うまいぞ!? この肉? ジューシーでしっとりしてて、味わい深いのにある種のしつこさがない。下準備もちゃんとしていて、調味が肉そのものの旨さを引き出しているというか……それにこのパンも。外は薄くパリッとしているのに、中はフワッフワッ。加えて、どこか腹持ちの良い素朴さも兼ね備えている。肉と一緒に食べると、比較的濃い味もある程度調和してっ……!!


 その後は、何も言わず一心不乱で料理に食いつき続けた。


 数分後。


「―――っあー!! 美味かったぁ……」


 机の片方には、もはや料理は文字通り一欠片も残っていなかった。代わりに、膨れ上がったお腹を苦しそうに抑えて寝そべる俺の姿があった。

 あー……美味かった。こんな美味い料理を食べたのは、かなり久しぶりな気がする。


 ……うぐ。にしても、お腹が満腹すぎて苦しい。現実で食べてるわけじゃないからあっち(リアル)の俺の腹はちっとも膨れてはいないだろうけど。或る意味、このゲームで最大の苦ってこの満腹痛(?)じゃないだろか。


 ちなみに、料理を完食した瞬間【満腹】という名の『全ステータスを小アップする』バフが付いた。


「……あはは、そんなに満足してもらえたなら、作り甲斐があったよ」


 そんな風にお腹を押さえる俺の机の反対側には、座布団らしき敷物にちょこんと座ったゆかりが苦笑を浮かべている。

 然るべきというか、ゆかりの側の机には半分以上の料理が残っていた。ゆかりの食べる速度が遅いというよりも、俺が早食いしすぎたか。


 ……普通にスルーしてたけど、何だこの幸せ空間。こんな超美少女と同じ屋根の下とか、信じられない。夢じゃないのか。……ダメだ。なんか、ここが異次元空間過ぎて変なテンションになってる。未だに混乱が解けない。


「あのね、お兄ちゃん」

「……え? ああ……」


 会って少し経ったばかりの美少女から『お兄ちゃん』と呼ばれ、ああ、俺のことか、と遅れて返事をする。

 プレイヤークリエイトの際にアイリスから言われていたことだ。『ジョブを選択すると自動的にプレイヤーを取り巻く交友関係や家族関係がランダムで構築される』、そういうシステムがあること。つまりは、俺のことをお兄ちゃんと呼ぶこの少女は、ゲーム内では確かに『妹』ということになるのだろう。


 となれば、ロールプレイ的には『兄』として接したほうが良いのか? でも、『妹』なんて持ったこともないから、どう接していいのか分からない。取り敢えず、(ばあ)ちゃんと接する感じで……行くか?


「どうした? 婆ちゃん」

「婆ちゃんっ!?」


 あっ、しまったつい!


「い、いや、今のは……そう、ゆかちゃんと、言ったんだよ」

「さすがにその言い逃れは無理があると思うよ……?」

「……すまんっ、マジですまん」


 即座に言い繕ったが……どうしよう。多分これキレちゃってるよ、黒いオーラが立ち上ってるよ!

 あ、でも怒った顔も可愛い……って、こんなこと思ってる場合じゃねえ! どうしよう、好感度がダダ下がりになりそうな。


 そんな心配をしていたが、ゆかりはハァッとため息を吐いて『仕方ないなぁ』という風な困った笑みを浮かべた。


「お兄ちゃんは……見てて反応が面白いね。焦ってるのが分かり易すぎるよ」

「……そうかい」


 困ったように頭をかくと、ゆかりはクスクスと笑っていて、何だか変な気分になった。温かさとでも言えば良いのだろうか。なるほど、ゲームに没頭するのも良いが、こういう癒しの時間も悪くないかもしれない。

 こういうイベントも起こるのならば、ゆったりとプレイを薦めたい人や癒されたい人々も十分に楽しめるだろう。もしかしたら、そのためにこのゲームにはある程度の人間関係が用意されているのかもしれないな。


 と推測していると、後ろから誰かに抱きすくめられる。前を見ると、ゆかりはいつの間にか消えていて。ってことは、今俺を抱きしめているのは……!


「―――だから、そんな迂闊なお兄ちゃんは、私が守ってあげる」

「ぁぃ!?」

「……どうしたの?」

「ななななな何でもないです」


 美少女にこんなに急接近されて、しかも耳元でささやかれて首元がゾワッとしたなんて口が裂けても言えない。

 って、顔を近づけるなよ! 理性が消し飛ぶわ! ってか、このゲームなんだよ! これってほとんどギャルゲーのヒャッハーイベントじゃねえかっ! いやっ? ちょっと待て。それとも妹の無垢な接触にドギマギしている俺が悪いのか?


 そんな葛藤を心の奥に隠しつつ、顔に出さないよう必死にポーカーフェイスを貫く。声がヤバいぐらいに震えたが、努力は無駄ではなかったようで、ゆかりは特に気にした様子もないまま離れていった。

 ……はー……はー……社会的にも精神的にも死ぬかと思った。


「だから、お兄ちゃんも……私を助けてね」

「……おう」


 正直話の流れが分からなかったが、なんか良い雰囲気なので取り敢えず頷いておく。色々台無しな気はするが、そんな余裕は無かったから仕方ない。

 その話のあと、ゆかりは俺の分も含めて食器を片付け、自分の部屋に戻っていった。今更だけど、この小屋ってもう一つ部屋があったんですね。


 ……別に、何かを期待していたわけじゃないが。


 そう自分に言い聞かせていると、目の前にウィンドウが現れる。


【ゆかり の好感度が 16 上がりました】


 ギャルゲーじゃねえかっ!??

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