1.【経験値爆上げ最優先理論】と【ライフ・オブ・ファンタジー・オンライン】
【経験値爆上げ最優先理論】という理論を知っているだろうか。
知らない人も多いと思う。なにせ、この理論は俺、西城マコトが今ここで作ったばかりだからだ。
この理論の趣旨は「経験値爆上げして、ステータスも爆上げする」というひどく単純なもの。さらに詳しく言えば、「ゲーム進行を無視して、あるならばスキルや装備品も含めて経験値最優先」にするという、少し矛盾した理論でもある。
しかし、俺はこの理論が大好きだ。
ゲーム画面の前でコントローラーを操る旧世代のゲーム、例えばポ〇モンの最初のエリアでヒト〇ゲをリザー〇ンに進化させたり、ドラ〇エのはじまりの町を出たあたりでレベル35までレベリングした記憶は懐かしい。このレベリングはとてもつらいものがあったが、その後のゲーム進行における無双感はとてつもなく満足できた。
経験値を最初に爆上げしておけば、後は楽になる。
この事実は、どのゲームでも揺らぐことはないだろう。
例え、「仮想ゲーム」として語られてきた【VRMMO】においても。
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【ライフ・オブ・ファンタジー・オンライン】―――略してLOFO。
このゲームは、21世紀前半に「夢のゲーム」として語られてきた、所謂【VRMMORPG】のゲームカテゴリに属する。
脳と直接信号を繋ぎ、五感を完全に再現する【VR】専用のヘルメット型《完全没入》ハードギア―――“ディストピア”。2058年、【テクノロジック社】によって開発されたこれによって、「夢のゲーム」は限りなく現実へと近づいた。
“ディストピア”の発売当初、ゲームユーザー界隈において、【VRMMORPG】ソフトの開発、そして発売への期待が寄せられていたが―――その期待は早くも裏切られることになる。
“ディストピア”の発売から13年、真に【VRMMORPG】と呼べるゲームが発売されることはついぞ無かった。
理由の一つとして挙げられるのは、膨大なまでの開発費用。
既存のゲームとは違い、【VRMMORPG】には“世界”そのものが求められていた。即ち、気の赴くままに世界を自由に翔けられる“広さ”。それはゲーム内の“体積”にも言えることだし、豊富に楽しめるコンテンツを含んだシステム的にも言えることだ。
それが伴う膨大なデータ量。サーバー費用や開発設備を整える費用すら、名立たる大企業を尻込みさせた要因の一つに入る。
【VRMMORPG】の生み出す予想利益に釣られて開発に踏み切った企業も極稀ではあるがあった。しかし、それらも開発途中でプロジェクトを断念することがほとんどだった。目先の利益を追って、開発途中の粗悪品を売り出し、自ら評価を下げた結果、倒産に追い込まれた企業もあった。
いずれにしても開発された【VR】は生まれてからの十三年間、教育や医療などのみに活用されていくことになる。
そうして社会が【VRMMORPG】を忘れてからのこと。
突如無名の企業、【アナザー】が発売を発表したのが、【ライフ・オブ・ファンタジー・オンライン】だった。その発表を聞いた物好きな人々は至極驚いた。発表で語られたゲームの内容が、皆の望む「夢のゲーム」に限りなく近かったからだ。
曰く、一つのサーバーで億単位の人々が遊ぶことができる。
曰く、ゲーム内の最終的な広さは面積換算でユーラシア大陸に相当する。
曰く、【職業】とステータス振り分けのシステムを合わせた「ジョブ&ステ振りシステム」を採用している。
曰く、ゲーム内で流れる時間の速度は現実世界の4倍である。
しかし、これを聞いたほとんどの人間はこれを信じなかった。ネットで囁かれたのが以下のようなものだったからだ。
『さすがにこれはねえだろww お前ら詐欺師にはもう騙されねえぞww』
『そもそも話が飛びすぎてるわ。ホントにこんなので信じる人なんているの? これ買う人は馬鹿だろ』
『どうせ中身はスッカスカのクソゲーだろ?ww こんなのに一円も払いたくないわーww』
今まで【VRMMORPG】とも呼べない「偽物」を掴まされてきた彼らに、もはや【VRMMORPG】への期待など微塵も残っていなかったことへの証左だろう。
しかし残り1%の人々はこの発表を信じ、4万円という旧世代ゲームハードを思わせる【VRMMORPG】にしては安価な値段も後押しして、発売日当日ゲーム取扱店に赴き、【ライフ・オブ・ファンタジー・オンライン】を購入した。
俺もその一人だ。
そして今日―――2071年6月3日、土曜日。
午後5時に、満を持して【ライフ・オブ・ファンタジー・オンライン】正式サービスが開始される。




