死にたがりの姫君と死なない火の鳥
これは私の死出の旅路だ
私は大病に侵されていて、余命はもう残り少ない。
死ぬという事が約束されている身だ。
これまで生きるということは私の側にあって、当たり前の事だった。
それを意識してどうと思ったことは無い。
ありがたいと思うことはもちろんのこと、ましてや当たり前だという意識すらしたことは無かった。
私は、死ぬと判ってから生き残るためにどうするかを考えた。そして、考えられるありとあらゆることに手を出した。それは薬であったり、呪術であったり、それに伴う儀式だったりとしたわけだけれど。どれも効果は無かった。どんな名医も、高名な僧侶も、悪名高い呪術師もすぐに匙を投げた。
幸い、私は富と権力というものに恵まれていて、試せるものは全て試すことが出来た。それは外から見れば幸福なことであっただろう。しかし、私にしては不幸な事だったのだ。なぜならその行為というものは、自分が生き残る可能性を自ら一つ一つと潰していく行為だったからだ。
私は自分が生きるための手段が一つ一つ潰れていく様を、自分の目で見るのは拷問にも似ていた。私の心はゴリゴリと音を鳴らして削られていった。
強いと思っていた私の心は、あまりに脆く、簡単に折れてしまっていた。
そうこうしていく内に、私は生きる事を諦めるようになった。
それはとても自然なことだったと思う。
何日も何日も、ただ食事をとり、寝るか、外を眺めるかして過ごしていた。
周りの人間は私から離れていった。
勝手に離れていったのか、私から遠ざけたのかはもう覚えてはいないけれど。
私の中の生きるという事への渇望は無くなったが、それと同時に自らの生きて来た意味という物を考えるようになった。
そのことに私は正直戸惑っていた。
この感情がどこから芽生えた物かがわからなかったからだ。
私は他人よりも優れた力を持っていた。そのおかげで高い地位を得る事が出来たし、自由に振る舞ってもこれた。それでも誰かの為に、何かの枠組みの中では生きてきたと思う。
それは人が生きていく上で当たり前の事であるのだけれど、私の本質とは乖離してしまっている気がした。
「私は私の為に生きた瞬間という物があったのだろうか」
それが死に至る身である私がたどり着いた命題だった。
日に日に弱りゆく身での更なる私の我儘であったのだろう。
そして、その日は唐突に訪れた。
私のこの病を癒す術がみつかったのだ。
正確にはその可能性があるという事なのだけれど。
他に頼る物が無くなった私には、これが最後の希望の糸のように思えた。
そうなるとこれまで冷え切っていた心に火が灯るように感じられた。
自らの体温で体が温まっていくように感じられた。
久しく忘れていた生への渇望が蘇ってきたのだ。
だから私は旅に出た。
私を癒す術の可能性よりも辿り着くまでの方が困難であろうその旅路へ。
だからこれは死出の旅なのだ。
死ぬことを運命づけられて、それでも生にすがったままで死にたいという我儘。
私が私として生にすがって生きたいという我儘なのだ。