3
王子の婚約発表式典に行くか。
僕がそう思ったのは無気力な彼女との生活を数日過ごしてからの事であった。
虚ろに虚空を眺め、時折窓の外に視線を向けるだけの彼女には、
何か刺激が必要だと考えたからだ。
失恋して家からも追い出された彼女は生きる気力を無くしている。
あの時、彼女を助けたからには最低限暮らしていけるまで面倒を見るのが僕の責任かなと思う。
「婚約発表式典に行こう」
僕がそう言うと彼女はビクリと体を震わせた。
僕を見る彼女の目には怯えの色がチラついていた。
「イヤ」
彼女は端的に拒絶してきた。
だが僕は確かな手応えを感じた。
今までの彼女は僕の問いかけに何の反応もしなかった。
しかし、やはり王子関係の話題になると彼女は反応に返してきた。
彼女の興味は王子の婚約にしか無いのだろう。
「そう頭ごなしに否定しないで・・・もしかしたら王子様に会える最後の機会かもしれないんだよ?」
彼女は唇を噛み締めて俯いている。
「惨めだわ」
絞り出すように、呟かれる。
「そうかな?僕は君が惨めだとは思わない」
「貴様に、私の何が分かる」
「何も分からないさ、だって君の事を全然知らないからさ」
「・・・ふんっ、人の気持ちに土足で踏み入る下種が」
「はいはい、早く元気になって民を安心させて下さいね、お姫様」
「止めろ!今の私のどこが姫だ・・・虫酸が走る」
「それは失礼しました、ではお出かけの準備をして頂けますか、お嬢様?」
「部屋から出ていろ、クズが」
ずいぶんと罵られたものだ。
変な性癖に目覚めてしまいそうだぜ。
なんとか外に連れ出す事には成功した。
さて、鬼が出るか蛇が出るか。
どうなる事やら。