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彼女に出会ったのは宵闇の大橋だった。








一心に水底を見つめ漂う負のオーラから人を寄せ付けずにいた。








あぁ、こいつ飛ぶな、と思っていたら本当に橋から飛び降りようとした。








寸でのところで彼女を掴み、引き上げる。








「いやっ!離して!」








彼女は全身で暴れまわった。




僕は引き上げた後、堪らず手を放した。








「なぜ邪魔をした!」








彼女は鬼の形相で僕を睨み付けてくる。




彼女の怒りに呼応するように全身から攻撃的な魔力が溢れ出ている。








「いや、自殺しようとしてる人を止めるのは人として普通じゃない?」








僕は彼女を宥めるためになるべく柔らかく言った。








「お前の自己満足のためにっ、この私を止めたのか!万死に値する!」








怒りに染まった彼女は魔法で攻撃してきた。




彼女の怒りを表現するような炎の魔法だった。




僕は剣を抜き、炎の魔法を振り払う。




すると、彼女は癪に障ったのかより強大な魔法で僕を攻撃しだした。




仕方ない、彼女の気が済むまで相手をすることにしよう。




















「落ち着いた?」




魔力が尽き、仰向けに倒れ、息荒く呼吸する彼女に僕は屈んで声をかけた。




「・・・えぇ、少し、スッキリしたわ」




「それはよかった」








「それで?貴方は何者?私を殺しに来た刺客?それとも奴隷商人?」








「残念、どちらも外れだ。僕はただのお節介な冒険者さ」




「ただの冒険者風情に邪魔をされるとは・・・」




「大丈夫?家に帰れる?」




そう僕が聞くと彼女の顔に陰が走る。




「もう帰る家なんて無いわ」




「家出したの?」








「逆よ、追放されたのよ」








彼女は自虐的な暗い笑みを浮かべる。




「ありゃりゃ、上級貴族のお嬢さんに見えたんだかね」




「はっ、助けた報奨金目当てだったってワケ?残念でした!もう私には何も無いのよ!」




「困ったなぁ・・・とりあえず、僕と来る?」








「襲いたければ今ここで襲えばいいじゃない!抱いてから海に捨てればいいじゃない!」








ダメだ、少し落ち着いたかと思ったが感情的になっている。




僕は嫌がる彼女を無理やり引き起こし手を引いて宿に向かって歩き出した。




「いやっ、舌を噛んで死んでやる!」




暴れる彼女を連れて街に入るのは中々勇気がいった。




















「ウチは連れ込み宿じゃないんだけどなぁ」




宿に着くと店員に嫌味を言われた。




彼女はすっかり暴れ疲れたのか大人しくなっていた。




その代り、目から光彩が失われていたが。




「誘拐ですか?」




「人聞きの悪い事言うなよ。飛び降りそうな所を助けたら暴れられた。事情がありそうだから連れてきた」




「厄介事も勘弁してほしいですねぇ」




「すまんな」




そう言って僕は店員に銀貨を数枚握らせる。




「さすが旦那、分かってらっしゃる」




店員は笑顔で銀貨を懐に入れた。




「それで部屋は空いてるか?」




「ウチは超人気店ですぜ、満室でさぁ」




「それじゃ、僕の部屋に連れていくぞ」




「あー、満室で忙しいのにお客様が増えるのかー。これは何か無いと従業員が満足に働けないなぁー」




「商売熱心な事だ」




僕は苦笑し、宿屋の店員にまた銀貨を握らせる。




「ありがとうございます。これが超人気店の秘訣でございます」




宿屋の店員はニンマリと笑った。




愛嬌のあるその笑顔は、どことなく憎めなかった。




















宿屋に連れてきた彼女は完全に生気が抜けていた。




「何か飲むか?」




こちらの問いかけにも反応せず、ハイライトの消えた焦点の合わない目で窓の外を見つ続けていた。




「とりあえず、お湯と着替え用意するから。あ、着替えは僕の予備で我慢してね、ちょっとサイズ大きいかもしれないけど」




ドレス姿の彼女は僕との戦闘もあり、砂埃で汚れ所々擦り切れていた。




ちょうど部屋の扉がノックされ、宿屋の小間使いがお湯を持ってきた。




僕は小間使いにチップを渡し、お湯を受け取る。




「ここにお湯と着替え置いておくから、もちろん僕は部屋から出てるよ。下で酒飲んでるから時間が経ったら戻ってくるよ」




僕はそう声をかけて部屋から出た。




宿屋の酒場で酒を飲んでいると一抹の不安がよぎった。




上級貴族のお嬢様が一人で着替えを出来るのだろうか、と。




















自分の身支度を宿屋の外に備え付けてある井戸で整えてから部屋に戻ると案の定、部屋を出る前となんら変わっていなかった。




もし変わった点を挙げるとするならば、お湯が水に変わったところくらいだろう。




「ずっと同じ体勢でいたの?しんどくない?」




相変わらず彼女は無反応だ。




「着替えなくてよかった?汗とか気持ち悪くない?」




彼女はこちらに振り向くことすらしない。




「しゃーない、もう寝るか。ベット使っていいよ」




僕はそう言って明かりを消し、イスに腰掛けた。








「・・・抱かないの?」








しばらくすると彼女はポツリと呟くように言った。




「抱きませーん。僕はもう寝てまーす」




その後少しの間をおいて彼女はベットに横倒れになり、寝息が聞こえてきた。




たいぶ疲れていたのだろう。




僕も目を閉じ眠りについた。




















近くで身動きがする気配で僕は目が覚めた。




彼女が身を起こしこちらを見ていた。




「おはよう」




返事は帰ってこなかった。




彼女は焦点の合わない虚ろな目で僕を見ているだけだった。




ボサボサになった髪と合わさって夜に見たらお化けと勘違いしそうだ。




「朝食もらってくるよ」




僕は彼女の視線から逃げる様に一度部屋を出た。




これからどうしよう。




とりあえず通りがかった宿屋の小間使いに彼女の身だしなみを整えるよう依頼する。




チップを多めに渡しておいたのでちゃんとしてくれるだろう。




















「君の服を買いに行こう」




僕は朝食に一向に手を付けない彼女に提案した。




いま着ている服は僕の服なのでサイズが全然合ってない上に男物なのでデザインも彼女に合っていない。




ボサボサだった髪は綺麗に梳かれ、緩くカールしていた。




うんともすんとも言わない彼女に業を煮やした僕は彼女の分の朝食を一息に食べ、強引に彼女の手を掴み、街へとくりだした。




















彼女と二人で手をつないで歩く。




この言葉だけ聞くと胸躍る素敵なフレーズに聞こえる。




しかし、手をつないだ彼女は僕の隣を歩く訳ではなく、僕に手を引かれる形で後ろを歩き、永遠と地面を見つめ俯きながら歩く。




この姿を他人から見ればどうみえるのだろうか?




・・・到底好意的には思われないだろう。




そんな考えをしながら服屋に入る。




「いらっしゃい、ってお兄さん、無理やりデートは関心しないぞ?」




服屋のお姉さんから注意を受けた。




まぁ、他人から見たらそう見えるよね。




「口説くのに時間がかかっていてね、彼女に素敵な衣装をプレゼントしたいんだ。手伝ってもらえないだろうか?」




僕は出来るだけ陽気に話しかけた。




ドモったりしたら余計に不審者に思われると考えたからだ。




「ふ~ん。物で釣るのは関心しないぞっ、でも可愛く着飾ってあげたいって気持ちは関心できるかな」




少し警戒していたお姉さんの顔がセールススマイルに切り替わった。




「僕はセンス無くてね、任せられるかな?」




「お兄さん、予算は?」




「貴方の思うがままに」




そう言って僕は金貨を数枚机の上に置いた。




「流石男の子っ、任せといて!」




「うーん、素材が綺麗だから何着せても似合うなぁ・・・お兄さん、この子、大丈夫?」




服屋のお姉さんに着せ替え人形状態な彼女だが、僕の時と同じで無反応だ。




生気の無い虚ろな彼女相手に引かず接客してくれる服屋のお姉さんには感謝した。




「ちょっと訳ありでね、普段着を一式暮らせる程用意して欲しい」




「貴族の娘さん攫ってきたの?」




「違うと思いたいね、おっと、衛兵には通報しないでくれよ」




僕はおどけて言う。




お姉さんの目に若干の不審感が出てきた。




「・・・別に私からは通報しないけど、向こうから調査にしきたら答えるよ?」




「それでいい、ありがとう」




















服屋のお姉さんに全身コーディネートされた彼女は普通の街娘よりちょっと上品な姿をしており、非常に彼女に似合っていた。




そのパーフェクトコーディネートを生気の無い虚ろな表情が全てを無駄にしていたが。




「よく似合ってるよ」




「うん、我ながら良いコーディネートをしたわ」




僕と服屋のお姉さんと一緒になって彼女を褒めるが相変わらずの無反応だった。




「お代は足りた?」




僕は服屋のお姉さんに聞いた。




「さっき貰ったので十分」




そう言ったお姉さんに銀貨を一枚チップとして渡す。




「今日は悪かったね、また来るよ」




「今度は元気な姿をみせてね」




お姉さんはおどけながら送り出してくれた。




僕は彼女の手を引き、荷物を持ちながら歩く。




彼女が元気になる方法か・・・誰か教えてくれないかな。




僕は途方に暮れながらも彼女の手を引き宿屋に戻った。




















「おっ、祭りがあるみたい」




僕がそう言ったのは冒険者ギルドにお金をおろしに来た時だった。




昨日からの散財で懐具合が寂しくなったので、宿屋に荷物を置いた後、気晴らしになるかと思い彼女も一緒に連れてきていた。




「へぇー、第一王子の婚約発表パレードだって、相手は平民とかすごいね」




大々的に発表されている広告案内を読み上げた。








すると今まで何の反応がなかった彼女が突然泣き出したのだ。








それも人目をはばからぬ号泣で僕らは一気に注目の的になった。

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