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今度こそは壊さないようにしようと思っています(切望)

 レオが指さした先の、緩やかな下り坂を三人は下りていく。


「自然にできた感じではないですねぇ」

 フィーはそういいながら、岩の壁をぺたぺた触る。


 先ほどの階層と比較し、人の手か何かが入っているように感じられる。それくらいに道や壁は整っていた。


 下り坂が平坦になる。三人とも少し警戒気味に歩みを進める。


「この先、なにがあるんだ......」


 魔物はいるのか? そう思いながらエルはさらに警戒を強める。

 この洞窟は、爬虫類系の魔物の生息地になっている。


 ダンジョンのぬしも、サラマンダー。

 昨日出合った、イレギュラーの火トカゲが四メートルある時点で、サラマンダーの大きさを上回っている気がする。


 ちなみに火トカゲは、炎を吐く大きいトカゲ。炎を吐かないやつは、ただの大トカゲ。

 サラマンダーは火をまとったトカゲ。


 火トカゲが四メートルあった事を考えると、サラマンダーがイレギュラー化すればもっとでかくなるんじゃね? と、エルは考える。

 普通が三メートル位だから、倍になったとして六メートル。

 でかいな、夏には会いたくないな。暑そうだし。大きくなったサラマンダーを想像し、勝手に暑さを想像する。


 平坦になって、しばらく進んだ先は、ぽっかりと円形状の空洞が広がっていた。

 入口付近で目を凝らす。

 

 円形状になった部屋の真ん中あたり、何かいる......。


「あの、鎮座している物体、なに?」

 エルはそういいながら目を凝らす。


(魔物......? なんかごつごつしてない?)


「ゴーレムだねぇ」

「ゴーレムですねぇ」

 エルの両脇で、レオとフィーは呑気に声をそろえる。


「あー......ゴーレム......!?」

 二人のあまりにも呑気な回答に、「あぁ、ゴーレムね」と一瞬納得しかける。


「って! なんで、そんなのがこんな所に?」

 どちらを見て聞いたらいいか分からないエルは、二人を交互に見つめる。


「ゴーレムは魔法生物だからぁ、誰かに作られたのかなぁ?」

 のんびりとレオ。


「ゴーレムさん、初めてみましたぁ」

 のんびりとフィー。


「いやいやいや、君ら何でそんなにのんびりできんの?」

 エルの声色は少し焦り気味。ゴーレムは初めてみる。初見。

 初見の魔物はどう攻撃すべきなのか分からない。

 初手を見誤ると戦闘が長引く可能性があり、その分危険性が増す。


 ゴーレムを倒すセオリーがあるのだろうが、エルはいつも『感覚』で生きてきていたのでその辺は勉強不足だ。

 昔、ベクターに怒られた事を思い出す。


「セオリーは一番安全に倒す方法が確立されているから、セオリーなのです。頭に叩き込んで下さい」

 この小言を何度言われただろうか。だが何度言われてもエルは腕力で何とかしてきた。

 勉強が嫌いなのもあるが。


 そんな事を考えていると、レオがゴーレムの分析を始める。


「んー弱点はぁ......胸あたりに見える、宝石ぽい石かなぁ?」

 ちょっと薄眼をして、レオはゴーレムを見つめる。


「魔法は効きますかぁ?」

 そう言いながら、フィーは両手杖を自分の前で構える。


「ちょっと効きにくいかもー。耐性ありそうかなぁ?」

 レオがさらに薄目でゴーレムを見つめる。

 じゃあ物理で。エルがそう思ったと同時に、フィーがコモンを唱える。


「ちょ、フィー、魔法はいいって!」


「いしつぶてー!!」

 フィーの魔法すでに発動していた。その辺に転がっていた石が、ゴーレムめがけて飛んで行く。

「物理ですぅ」

 あ、はい。確かに物理です。そう思いながら、エルはゆっくりゴーレムに視線を移す。 


 部屋の中央にいたゴーレム。重そうな体がエル達の方にゆっくり向いて行く。そして......


「走ってきたぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 エルはその行動につい驚きの声を上げてしまう。


 ゴーレムの体はとても重そうだ。泥か石の塊であろうと見た目から判断できる。

 その重そうな体から、どうやったらそんな早いスピードが出るんだと驚く。

 そんな凄い早さで、ゴーレムはエル達に向かって走ってきた。


 エルは慌ててフィーを抱えて走りだす。側にレオはいなかった。走りながらレオを探す。

 レオはいつの間にか奥に行っていた。奥で何かごそごそとしているように見える。そんなレオの前には......。


「宝箱?」

 走りながら、舌をかまない程度に疑問をつぶやく。


 ゴーレムはレオに気づいていないのか、エル達だけをターゲットにしている。

 走りながらエルに向けて、右腕を振り上げて下ろす。

 振り下ろす音が聞こえ、エルは前方に飛ぶ。エルの後方で地面をたたく鈍い音が響く。


 走りながら、ゴーレムの攻撃を前方に飛び、避ける。エルのほうから攻撃を仕掛ける隙がなかなかできない。


「見つけたよぉ」

 走るエルの耳に、嬉しそうなレオの声が響く。視線をレオに移すと宝箱が開けれたようで、何か宝石みたいなキラキラ光る石を頭上に掲げていた。


(ん? 目の錯覚?)

 目を凝らす。宝石のうちの一つがレオの体に吸い込まれて......消えたように見えた。

(そんなわけないな。うん、気のせいだ。きっとそうだ)


 この走って逃げている状態では、レオに近づく事も出来ない。エルは気のせいだと思う事に決めた。


「エルー、もう用はすんだよぉ」

 レオがにこやかにエルに向かって手を振る。「帰らないの?」そんな雰囲気を笑顔でエルに伝える。


「あー、くっそ」

 反撃しなければ、いずれ詰む。弱点は確か胸部の宝石みたいなやつ。レオの言葉を心の中で繰り返す。繰り返しながらリュックに手を突っ込んで、ノアの尻尾を引っこ抜く。


「我が名は......略!」

「様式美ですよ」

「略!!」

 ふぅとノアはため息をついて剣に変化する。


 それを確認し、体に巡る気を右手に集中させる。いい加減走るのも飽きた。

 ギュッと足に力を入れ振り向きながら、急停車する。力を入れた後ろ足が勢いを消すように滑る。

 そしてそのまま、もう一度足に重心を乗せる。


「一撃......略!」

「......」

 ノアは何か言いたそうにしたが、エルはその無言の圧力も無視する。

 長いセリフ言っていたら確実にゴーレムに轢かれる。言霊が発せられればいいのだ。言葉はなんでもいい。


 言霊を発した瞬間、地面を蹴ってゴーレムに向かって飛ぶ。剣先はゴーレムの胸。


 ちなみにフィーは左腕に抱えられ、ぐわんぐわんしてる。走って逃げている間に振り回しすぎたらしい。一緒にゴーレムに飛んで行く。


 狙い通り、剣先はゴーレムの胸に突き刺さる。

 胸に埋め込んであった宝石が飛散すると、ゴーレムは崩れていく。崩れてしまえばただの泥と石の塊。


「すごいねぇ、一撃であれ割るなんて」

 ぱちぱちぱちと軽い拍手が響いてきた。地鳴りも聞こえてくる。


「地鳴り!?」

「あ、あいつ倒しちゃうと、このダンジョンも壊れるよぉ」

 ふにゃりと天使の笑顔。いや悪魔の笑顔。


「早く言えーーーー!!」

 エルは素早く脱出できる方法を叫びながら考える。

 エルに振り回されて、きゅーって目を回しているフィーは今、全く役に立たない。


 ここはガイドブックに載ってはいないが、八階層目。

 六枚の天井って突き破れっかなー、と右腕をぐるぐる回す。


 周りは崩壊が始まる。ゆっくりと部屋が揺れ、石がパラパラと降ってくる。

 このまま崩壊に巻き込まれれば、痛いで済まないのは分かる。


 岩が落ちてくれば、吹き飛ばせばいい。ただすでに崩壊は始っている。落ちてくる岩は一つや二つではないだろう。


(崩落する岩に向かって飛ぶからには、ちょっとは怪我するかなー)

 そう思いながら覚悟を決め、腕を回すのをやめる。


「レオ、腰につかまって」

 エルがそう言うと、レオはてててと走ってきてエルの腰に手を回す。


「しっかりつかまっとくんだぞ」

 ちらりとレオに視線を落とす。エルの言葉にレオは微笑む。相変わらず良い笑顔。


 笑顔を確認し、さっきよりも深く集中する。右手と両足に集中させる。


 うっすらとエルの体が光を帯びてくる。光はレオとフィーの周りにも光の膜をはる。

 光に驚いたのか、それとも面白かったのか、レオはぱちぱちっと瞳を瞬かせる。

 フィーはまだ目を回している。


 すぅっと静かに息を吸い込み、言霊を深くより強く吐きだす為、さらに集中する。


 周りが崩壊していく中、ぐっと足に力を込め、目標を天井に定めた。


「一撃必殺! 我は無敵なり!」


 足元に砂煙が舞う。

 エルが天井めがけて跳躍する。


 光がエル達を包み込んで、すごい速さで天井を突き破っていった。

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