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ギルドマスターはご立腹

今回説明が多いです。

 エル達はベクターに掴まれたまま、ギルドに連行された。逃げないって、と何度エルが言っても掴まれたまま。エルはどれくらい怒られるのか想像して現実逃避。明日は何しようかなと考える。

 まあ、怒られるのは今回が初めてではない。

 だが、いくらギルドで一番怒られる回数が多いといっても、怒られ慣れるわけではない。


「今回の案件はそんな『破壊活動』するものではなかったはずだが?」

 ベクターの右額に、ピキピキと青筋が立っているのがわかる。うん、とっても。


「ぴきぴき右側に出現です。おーぴきぴきいってますぅ、ぴきぴき」

 フィーがそおっとつぶやく。ちょ、今やめろそれ。エルは笑わないように自分の表情を固める。


「火トカゲ......多くても5匹程度の討伐......だったはず」

 左額にも青筋が立つ。


「おー、だぶるぴきぴき。ぴきぴきぴきぴき」

 ぴきぴきぴきぴき~フィーはちょっと楽しそうだ。うん、やめて腹筋辛い。さらに表情を固める。


「ぴ......ギルマス、ちょっと待ってくれよ」

 頭の中で、フィーにつられてぴきぴきがまわり出す。そして、つい口からも出そうになる。

「ぴ?」

 ぴってなんだそれ?みたいな顔になるベクター。すいません、その疑問にはお答えしかねます。

 そう思いつつ、顔は固めたままでエルは言葉を続けた。


「確かに、ギルドの依頼は下級レベルで、火トカゲ×5って事だったけど......」


 ギルド、この冒険者ギルドはドゥーネ王国各地にある、冒険者たちの協会である。

 仕事(依頼)は別に個人で受けてもよいのだが、ギルドを通したほうが依頼者も冒険者もお互い安全に契約することができる。

 その為、どんな依頼でも冒険者ギルドを通す流れが確立されている。


 依頼の難度はギルドが選定するし、それによって依頼金も決まる。依頼やったけど、依頼人が払わなければギルドが保証する。その代わり追い込みはギルドで。


 冒険者が失敗すれば原因を究明し、難度が違っていれば対応処置する。その場合も補てんはギルドが行う。


 冒険者がきちんと依頼をこなせば、ギルドが手数料を抜いて冒険者へ賃金を払う。多少はもらえる額が少なくなるが、確実にもらえるので安心感はある。


 また、今回のように討伐数が複数の場合は、モンスターの種類によって一匹いくら、と別報酬もある。ドロップ品等もギルドが買い取ってくれる。


 一度ギルドに登録しておけば、ドゥーネ国内で有れば大抵はギルドはあるので、一つの場所に留まらなければいけない、なんてこともない。


 基本冒険者は自由人が多いのだ。


「そうだ、下級だ。今回は他の案件で人が出払っていた......」

 しぶーい顔をするベクター。最後まで言えば良いのだ、仕方ないからエル達に依頼したと。


 下級の依頼。通常ランクは下級・中級・上級・特級である。

 エル達のランクはC級。ベクターが依頼を選定して、エル達に仕事を割り振ってくれている。

 自分で依頼を選べないのだ、C級だから。でも中級位の仕事はできる、C級だけど。


 え? ちょっと何言ってるかわからない? エル達もそう思っている。

 何C級って。


 もちろん、エル達も下級の時代がありました。勉強をし、冒険者として活動し始めは下級スタートレッツゴーてなもんだ。


 そこから経験を積み、よい仲間に出会い、切磋琢磨してみんなランクを上げていく。

 ベクターなんて特級冒険者だ。よほどのことがない限り、特級依頼なんて来ないけど。


 基本は、自分のランクの依頼を受けるのだが、依頼があまりにも多くて捌けない、そして急いでいる依頼は、上のランクの冒険者がやることもある。


 下級は、上のランクの依頼は受けれないが(受けたら命をおとしかねない)上のランク様たちは、その限りではない。


 さてC級。何の説明もないこのランク。エル達が冒険者になるまではなかった。

 そして多分、エル達以外はこのランクを誰も名乗らない。

 そう、このランクはエル達のための『仕方なく作られた』ランクなのだ。


 下級ランクをこなし、ある程度の実績が見込め、中級もこなせる実力とか仲間とかがいれば、中級に上がることができる。


 仲間は、ギルドでパーティー登録をする。たまに流れの冒険者を一時入れることもあるが、その場合も申請は必要。


 普通のパーティは戦う人、魔法使う人、回復する人、補助する人、がいればバランスが良いと判断される。中級冒険者たちはそんなパーティが多い。


 エル達は2人パーティだ。戦う人、魔法使う人。それだけで良かった。今でも、それだけで良いと思っている。


 怪我はあんまりしない。怪我する前にやっつけてるから、回復いらない。

 罠はかかることもあるけど、ノアかフィーの魔法で消炭になるか、ダンジョンごと葬り去る。なので補助の出番があまりない、なのである。


 下級クラスなら、二人(たまに大失敗しながら)でも依頼はこなせてきた。だがしかし、中級に上がろうとするとパーティ二人では難色を示された。

 ギルドは組織なのだ、例外はあまり認めてくれない。


 一応エル達も、回復役入れてみたり(回復役が、エル達について行こうとして大けがした)、補助役を入れてみたり(補助役がノアやフィーが消炭にするのを目の当たりに見て、焦るあまり罠を発動させまくった)と努力もしてきた。

 だが彼女らについていける冒険者が、この地にいなかったのである。


 何回か頑張ってみたがやっぱり無理で、何回目かの「ギルマス、無理でした。てへ☆」報告をした後、ベクターがふかーいため息をついて、このままではギルドで受けれる仕事がない。ギルド付きの冒険者としてはやっていけない。......と、告げられた。


 その話に過剰に反応したフィーが大暴れをした結果、C級という「二人でOK、でも依頼に関してはギルドマスターから言い渡すから、好きな依頼を受けるのは勘弁してね」と特例が発令され現在に至る。


 ちなみにCとは『careful』だの『challenge』だのささやかれているが、あまり興味がない。


 ギルドに所属しなくても冒険は出来る。だがそれは決まった職を持たない事と同じになり、遊んでいるようなものなのだ。収入もなくなる。


 そのかわり、ギルドに所属すれば、待機時も何か雑用をやらされて、ご飯が食べれる分のお金がもらえる。

 実はやっていけない......と言われた時は、顔には出さなかったがエルは焦りまくっていた。

 焦っていた事は、一生内緒にしておこうと思っている。ご飯大事。


 そのC級というランクを作ってもらった原因となる、『フィーが大暴れをした』というのが別名「フィーネの乱」としてこの街に刻み込まれている。


 横でまだこっそりぴきぴき言ってるフィーに、エルは視線を移す。


 エルとフィーとは生まれた時からずっと一緒にいる。一緒に生まれたわけではない、一緒に教会の前に捨てられていたらしい。


 幼い時より活発なエルとは正反対でのんびりしているフィー。

 エルとフィー、そしてもう一人兄のような存在のリュカという少年といつも三人で遊んでいた。


 リュカもエル達より前に教会の前に捨てられていて、一緒に教会で暮らしていた。エル達よりも二つ年上の彼とは、教会を出て以来会っていない。


 元気にしているといいな、とエルは思う。教会を出るといった時、リュカは何か「癒しが!」とか喚いていた気がするが、また変に飛躍した発想でもしていたのだろうか。リュカはフィーとは別の方向で突拍子がなかった。


 教会を出ることになったのは、別に教会の暮らしが嫌になったわけではない。

 ただもっと広い世界が見たくなったのだ。知らない肉も食べてみたかった。


 後、あれ以上教会にいると、フィーの魔法で教会が崩壊しそうだったのもある。


 なんせ、息を吐くように即魔法を完成させる魔術師、フィーネ・コリン。


 通常は、なんか長い詠唱があって、その詠唱の間に魔法を唱える魔法式を組み立て、術を発動するのだ。通常は。


 魔法は頭脳労働なので、その場その場で唱える魔法を選択して、術を発動する。魔法式を組み立てる間に、この場ではこの魔法を、と計算式を解くようにはじき出していく。


 火には水といった相性もあるので、それも加味したりもする、最初から発動させる魔法の系統を絞る事で、術を発動させる魔法式を簡略化させる事はできる。


 だが吐くように魔法は使えない。しかも気分で発動する魔法を唱えない。有識者ならば。


 今回のように、ダンジョン内で地殻を崩壊させる術、クエイクを唱えれば地殻を支えているものが崩れ崩壊するのはちょっと考えればわかるはず。


 フィーの事を考えつつ、ベクターに今回の顛末を簡単に説明する。


 ダンジョンにいたのは火とかげ(4m)×10匹以上。

 それを見たフィーが、エルが襲われると判断して、魔法を発動させた、と。


「でもでも、有効範囲はちゃんとせまーくせまーくです」


 どうやら今回使われたクエイクは、第一階層のみを対象としたものにしたとフィーは言いたいらしい。


「いや、それおかしいから。なんで地殻変動で揺れてんのに第一階層だけなの? なんなの君」

 ベクターが、ふかーくため息をつく。


「だってだって、この前いってきた氷の洞窟で、つるつる滑ってエルちゃんが止まれなくなったから......」


 エル達の前回の依頼は、氷の洞窟に氷の花を咲かせる氷柱花の採取。

 二人で、氷の洞窟に行ってきた。

 のだが、洞窟内が一面の氷で一歩進むたびつるつると滑り、あわあわしているエルを助けようとして、溶かしたのだ氷を。氷の洞窟丸ごと。

 氷が全溶けした洞窟はただの洞窟です。はい。


 あの洞窟は、深い階層こそモンスターがいるが、浅い階層は観光地になっていて、ギルドのいい収入源だった。

 氷柱花自体は、他の地域にある同じような洞窟で採取して、依頼自体はなんとか事なきを得た。

 氷の洞窟(現ただの洞窟)が元の姿を取り戻すのは、一体どれほどの月日がかかるのか見当もつかない。


 氷が溶けだし、あふれだした水が湖を作り、川を作り、周辺の町や村がその水により恩恵を受けたのは良かったのだが......。あの時のベクターの顔は、ぴきぴきだらけだったなと今更思い出す。


 多分フィーは、氷の洞窟の時は「全部氷溶かしちゃった、てへ☆」で怒られたから、「今度は範囲を絞ってみたよ☆」ってことが言いたいのだと思う。


「いや、それ絶対おかしいから」

 ベクターの額にぴきぴきが左右二つずつに増えました。

 しゅーんとなり、うつむくフィー。


「フィー、はずれ者になっちゃう?」


 はずれ者っていうワード。その言葉は、フィーは仲間外れになると思っている。

 のけもの、よそもの、はずれもの。人と異なる事をするとそう呼ばれ、一人ぼっちになってしまうと思ってる。


「そんなことは有りません。フィーネ・コリン。多少規格外(でたらめ)でも、あなたははずれ者ではない」

 不穏な雰囲気を感じたのか、ベクターは違うとフィーに告げる。

 身の安全を取ったな、とエルは心の中で思う、「賛成に一票」と。


 このまま、はずれ者→ひとりぼっち→孤独死、みたいな飛躍をして、あらゆるものを巻き込んで大騒動になるのは、過去に痛い経験としてこの身に刻んでいる。

 この街の人全員。そう先ほど言った「フィーネの乱」だ。


 次に乱がおこった場合、発動させたきっかけを作った奴が、全責任を負ってフィーを止める。

 そういう決まりになったのは、この街に住んでいればみんな知っているのだ。


 ただフィーは、その魔法関係を除けば、ほわほわしてとても愛らしいお嬢さん。

 魔術師である自分の身長と同じくらいの両手杖を背中に背負って、とてとてと走っている姿はみているものを和ませる姿だ。


 基本悪い人はいないのです、という持論を持っていて(だからこそ、はずれ者=孤独死な考えなのかもしれないが)いつもふわふわと、楽しい笑顔を振りまいている。

 その姿は昔から変わらない。両手杖がまだ短いころからそうだった。


 自分のことよりは他人の幸せを考える。それがフィーだった。


 そんな取扱注意のフィーとペアを組んでいる、エル。

 エルもC級となる要因がある。


 まずはノアの存在。


 ノアは、絶滅危惧種といわれているグランドドラゴンで(昔、名を上げるためグランドドラゴン狩りが流行ったらしい)しかも亜種(古種)、レア中のレア。


 亜種(古種)は、今のエルとノアの関係のように主従契約ができる。

 通常は小さいドラゴンのサイズであるじに付添い、契約が発動時に契約時に望んだ力を発揮する。


 契約の内容次第になるが、エルは「力」を望んだ。

 それは「剣」という形をとった。あるじに従い戦う力として、ノアは剣となりあるじに従する。


 どうしてエルが力を望んだのかは、彼女に聞かなければわからないが、ノアは言う。


「きっと肉のためですよ。『強いモンスターの肉は美味しそう』って言ってるの聞きましたから」


 そう彼女は肉が好き。教会暮らしで、贅沢なものが食べれていないという理由もあるのだが、肉を食べる事が大好きな、肉食女子だ。


 子供のころはショートカット。

 そのせいか、男の子と間違えられすぎた。

 その為、話し方に頓着しなくなった。加えてフィーが元々、ふんわりほわほわな話し方なのもあって、今の口調がデフォルトになる。


 子供から少女になり、体型は『ないないない』のままだが、なんとなく髪の毛は伸ばし、サイドポニーテールが出来る位になった。エルの唯一女の子ぽいところである。


 そんな髪型だけは女子っぽく成長したエルだが、ノアを所持している事、そしてノアが剣になる事、その剣を通じて『言霊』を通常より多く放出することができる事、それでダンジョンをよく崩壊させていること。


 それがエルをC級にさせている要因だ。まあ考えるより殴っちゃえ! な考えで今までやってきているツケがまわってきているだけなのだが。そんなことエルは気づかない。


「ちょっと力を入れ過ぎただけだって!」

 で、問題の解決を図ろうとする。魔法で解決しようとするフィーと、大差ない。


「君たちは、なんでいつもこうなの? どうして何か壊さないとダメなの?」

 ベクターのぴきぴきが増殖し始める。


 あーこれお小言長い奴。エルはそう判断する。これ以上聞いていられない。お腹も減ってる。


「ギルマス! 今回は何したらいい?」

 とりあえず話をそらそう。


「......そうですね......。とりあえず今日のダンジョンの修復......ですかね、明日から」


 修復!? 直すのは得意じゃないなーと思ったのが表情に出ていたのか、ベクターはギロリとエルを睨む。


「ああなってしまい、一階層目は仕方ありませんが......」

 ベクターの言葉は暗い。破壊しつくされた現場を思い出しているのだろうか。

「きっちり、二階層目からダンジョンへ入れるようにしてください」


 断れるはずもなく、エルは「お腹すいたよー」とぐぅ、と鳴るお腹をさすった。

きりが良いところが分からず、ダラダラでした......反省。

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