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どうしてこうなった

ザリッ!


 力を入れる為、引いた後ろ足が砂利を蹴飛ばす。

 ごつごつとした岩肌が周りを囲む。

 とある洞窟の一本道、手に持つのはヒノキ棒にもならない先頭が二つに分かれた枝。

 対峙するのは何故か体長が4mはあろうと思われる物体。


「一体どんな肉くったら、そんなにでかくなるんだ......」


 軽く頭をふる。頭のてっぺん近く、サイドでまとめられた青みがかった銀髪が、頭の動きに合わせて、さらっと揺れる。

 うまい肉かな?とちょっとだけ思考が脇道にそれる。


ぐぅぅぅ


「お腹減ったなぁ......」


 肉のことを思い出し、お肉ちょうだい!とばかりに音が鳴る。欲求に忠実な胃。


 この依頼を受けた時のことを思い出す。

 あのベクター(ギルドマスター)の野郎め、何がちょちょいと出来る依頼だ。


ばーかばーか。


 火トカゲの群れがダンジョンにたむろってて、初級冒険者と近くの村が危険でピンチだからさっくりやってこい!だ。


ぼーけぼーけ。


 火トカゲは火トカゲでも、こんなにでかいとは聞いてない。通常は1m位、たむろってても5~6匹。口から吐かれる炎が当たると、やけどしちゃうちょっと困ったちゃん達なはずだった。


「あーでけえなーーしかも多いなぁ」


 火トカゲさん(4m)先頭は、「しゃー」と言いながら、後ろ足で立ちあがっている。威嚇行動。

 視線をそらすわけにはいかないので、見上げるけど首が痛い。しかも後ろのほうには10匹ほどいらっしゃいますね。


 さて。この枝でいけるだろうか。少女は少し考えた。通常の火トカゲの予定だったので、武器はまだ持っていない。


 しゃーない気合い入れるか。そう決断し、枝を持った右手に神経を集中させる。


 ドクンと血が流れるのを感じる。集中させた右手に気が集まってくる。あと少し......


「エルちゃーーーーーーーーーーーん! やっとみつけましたぁぁぁ」


 後ろからかわいらしい声と、とててててて......と軽やかな足音が響く。


「!!」


 目線を後ろに向ける。


 向けた目線の先には、ストロベリーブロンドで、肩までの髪がふわっとしたかわいらしい少女が映る。


「フィー! くんなっつったろ!!!」


 フィーと呼ばれた少女はきょとん? と立ち止り、銀髪の少女、エルの後ろにいる物体を眺める。


「きゃー! エルちゃんが危ないのです!!!」


 ぱたっと立ち止り、フィーは背中に背負っていた、自分の背丈ほどある杖を両手でつかんで、自分の体の前で構えた。


「や、やべええぇぇぇ」


 フィーの様子を見て、エルは背中に背負ったリュックに手を突っ込む。


 フィーは、すぅぅぅっと息を吸い込む。吸い込む際にコモンと呼ばれる言葉を紡ぐ。そして息を吐く。


「ーーーーークエイクーーーーー!」


「息を吐くように呪文を唱えるなーーーー!!!」


 まあ、そのまんまなんですけどね。

 フィーの呪文詠唱完了後、突如地面が揺れ始める。

 おぼつかなくなった足元に、火トカゲ(4m)の群れも、がくんがくん揺れる。


 そして、側壁もバリバリと崩れる。

 側壁だけならまだしも、天井も大盤振る舞いですよーの勢いで崩れる。


「場所くらい考えろーーーー!!!!」

 エルがリュックに手を突っこんだまま叫ぶ。


 フィーは、あらあらうふふ、な感じで口に手を当ててふんわり笑う。


「敵さんがいっぱいですもの!どかーんですよぉ」


「こっちもどかーんだ!」


 焦りながらもリュックの中の手は、やっと目的のものを探し出した。

 がっつりと尻尾ソレを掴んで引っこ抜く。


「我はエルシア・オルコット。我が名により契約せし者よ、我が力となれ!」


 引っこ抜かれたものは、全身きらめくうろこに覆われた小さな(ドラゴン)。四足(正確には2本の手と2本の足)、ギザギザがついたちょっと長い尻尾。ギザギザは背骨に沿って、小さな山脈を作っている。


 今までリュックの中で眠っていたのか、尻尾をつかまれ逆さになった状態で、ちろりと片目をあける。


「時間外労働です」

 背に生えた羽がパタパタとはためく。


「うるさい」

 折角の決め台詞? を台無しにされた雰囲気に、エルが口元をへの字に歪ませる。


「わーいノアちゃん、おはよぉ」

 エルの左側からフィーが(ドラゴンに向い、ひらひらと手をふった。


「100ギニー」ノアがちょっと長い口を開く。

「30ギニー」エルが尻尾をぐっと握り集中する。

「90ギニー」ふぁぁとあくびをしながら口を開く。ちろりと炎を伴って。

「40ギニー」エルが目を閉じる。

「80ギニー」ノアの羽音がパタパタと忙しなくなる。

「50ギニー」エルがフィーを左手で抱える。

「70ギニー」ノアの体がうっすらと輝きはじめーーー。


「「60ギニー」」二人の声がハモる。瞬間ノアのうろこの隙間から光があふれだした。


 目があけていられないほどの発光の後、エルが握るドラゴンは剣へと変化する。と同時にエルは天井へ向かい跳躍する。


「一撃必殺! 我は無敵なり!」

 吐きだした言葉、言霊ともに、剣を握った右手の力を解放する。先ほどまで、集中して貯めていたものが剣を通じて稲妻のように天井へ突き刺さる。空気がビリビリと振動し、天井が破壊され青い空が見えた。

 そしてそのまま勢いよく飛び出す。

 飛びだした足元のほうで崩壊する音が聞こえた。


「あーこれどうするかね」

 あまり考えたくない惨状に、エルがおでこをぺしぺしたたく。


「ふふふ、みんな無事でよかったですの」

 ふわふわとフィーが笑う。


「どうでもいいんですけどエル、太りました?」

 すでに竜の姿に戻ったノアが、二人をつかんで羽をはためかせる。


「太ってねぇし、肉食ってねぇし」

 ちょっとだけおなかをつまむ。うん、まだ大丈夫。

 ふぅ......とため息と共にちろりと火がでる。


 そして崩落したダンジョンの側、地上1mあたりでエルをつかんでいた右手を離した。


「いて。ノア、女子には優しくしろ!」


 いきなり放され、盛大に尻もちをついたエルがお尻をなでる。ノアはそれをあえて無視して、ゆっくりとフィーを地面へ降ろした。


「60ギニー」

「うっ......」

「つけときますか?」

「オネガイシマス」


 ノアはエルのリュックに首を突っ込み、器用に帳面を取り出す。そして先ほどの60ギニーを爪で記入したようだ。


「大分たまってますけど」

「ソウデスネ」

 エルの背中に冷たい汗が流れる。


 ノアは、別の方向を見て口笛を吹くエルを見つめ、肩っぽいのをすくめる。


「ノアちゃんお金持ちなのです?」

 ひょっこりとノアの肩口からフィーが顔をだす。


「そうですねーエルが全部払ってくれたら、きっと王国で十指に入るかもしれませんよ」

 ちょっとあきれ口調で、それでもふふっと笑う。

「まあ払えれば、ですけどね」

 その横でエルが耳をふさいでいた。


 そんなに長くもないが、短い付き合いでもない。エルもフィーもノアも。

 エルとフィーは生まれた頃からだし、その二人とノアは十数年は一緒に生きている。


 ノアはグランドドラゴン種で、ドラゴンと呼ばれる種の中では一番大きくなる種だ。(今は小さいが)

 グランドドラゴンの中でも、ノアは亜種(古種)と呼ばれるらしく、剣に変化することができる。

 剣に変化するのは、契約者が望むから。


 色々あり、エルはノアの契約者(ご主人さま)なのである。

 主従契約はしているが、時間外は別途支給で、時間外の定義はノアの気分次第であった。

 その為、時間外労働のツケが十数年分たまっている。


「見世物小屋に売るぞ......」

 じとーっとノアをにらむエル。


「それも時間外ですよ? しかも売値を考えたら、割に合わないと思いますけど」


 エル達が暮らしているドゥーネ王国の通貨は、ギーとギニー。

 ギーは銀の硬貨で、ギニーは金の硬貨だ。

 1万ギーが1ギニーとなり、10ギニーは10万ギー。

 暮らす水準にもよるが、一般と呼ばれる王国民は一月20~30ギニーあれば、娯楽もありで生きていける。

 それを考えたら、先ほどの時間外労働は、2カ月分ということになる。


 そのあたりの金額も、結局はノアの気分次第なので、100ギーでやることもある。まあ適当なのだ。帳面にはつけるけど。


 ツケのことを、いまさら考えても仕方がないと思ったエルは、崩壊して『しまわれた』洞窟を見る。


「なんか、いい言い訳ない?」

 ちろっとフィーとノアを見る。


「いいわけ?」

 きょとん、と眼をぱちぱちさせるフィー。


「ダンジョンつぶしちゃいましたからねぇ............」

 ノアは「ふぅ」とため息をつきながら、ぱたぱたと羽をはばたかせエルの肩にとまる。


「ほ、ほら、一階層だけだし! に、二階層目もちょっと巻き込んだっぽいけど......」


「まきこんだ?」

 ぱちぱちっとフィー。


「あはは、跳躍すっとき、ちっと足に力入れ過ぎてー」

 にししっと指で鼻を頭を指でかく。


 脱出時、地面をけり上げた際、加減を間違えて強く蹴りすぎた。うん大分間違えた。崩壊しそうで焦っていたのもある。あのまま巻き込まれたら火トカゲ(4m)と一緒にぺしゃんこだ。

 それもこれも......。


「フィー! 入口で待っとけっていったよな?!」

 ちょっと斜め後ろに座っていた、フィーに体を向ける。


「でもでも、エルちゃんが心配だったんですぅ」

 ふわふわセミロングの髪の毛、大きなくりっとした瞳。その瞳はちょっとうるうるしている。


「うーーーー」

 エルは青みがかった銀の前髪を、くしゃくしゃと乱雑にかき乱した。


「そもそも、今回の依頼は確かに二人で受けたけど、じゃんけんで勝ったあたしが行くってなっただろ?」

 ビシッっと人差し指を、フィーの鼻先に突きつける。エルのサイドポニーテールのしっぽが揺れる。


「でもでもぉ」

 フィーはエルの肩にとまった、ノアの尻尾をぐりぐり指で遊ぶ。


「そもそも洞窟内で、クエイクはどうかと思いますけどね」

 フィーの指遊びから逃げ出そうと、尻尾をパタパタさせるノア。

 崩れる。ちょっと考えればわかりそうなものなのだが......。


「「フィーネ・コリンよ、君の魔法は後先を考えないからあまりむやみに唱えるものではないー!」」

 エルが誰かの声マネし、言葉を発する。それと同時に、同じセリフが後ろから聞こえてきた。


 エルの肩がビクッと震えて、そのビクッでノアがするりとリュックの中へ収まる。


 ぎりぎりぎり。油をさし忘れた歯車のような音を立てて、エルがゆっくりと振り向いた。

 そこには、背景におどろおどろしい空気をまとった、精悍な顔つきの男が立っている。


「ぎ......ギルマス......」

 歪んだ笑顔のエルさん、16歳。ちょっと今後の事を考えて、明日も空は青いといいなと思ってます。


「ベクターさんだー!」

 ふわふわ笑うフィーさん、16歳。今日の晩御飯は、ギルドの横の時計亭がよいかなーと晩御飯に思いをはせてます。


「まあちょっと詳しく聞こうか」

 首から腕にかけた筋肉すごいっすね!なんて言える雰囲気でもない。そんな筋肉隆々の腕に、二人は首根っこをつかまれた。


 明日を無事に迎えることはできるのか。

 また今回も、ダンジョンの入り口付近をつぶしてしまったな。

 前のペナルティー、なんだっけかなー。

 あー腹減ったなー。肉食いてえなー。

 つかまれて、ぶらぶらしてると猫みたいだなー。にゃー。

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