さぁ始めよう
ドゥーネ王国は、勇者の血をひく国民達が暮らす国といわれている。
神話と呼ばれる時代、『闇を払い勇者が剣を立てた』と云われる地にドゥーネ王国は建立された。
最初は村だったものが町になり、町が都となり、王国が城を構えるまで、どの位長い年月が流れたか分からない。
その、長い年月の間に勇者の血は、誰もが少し家系をたどると、
「あ、俺、勇者の血ひいてね?」位にその地に受け継がれていた。
真偽は不明だが、
・初代勇者は子だくさん。
・実はとんでもない数の嫁がいた。
なんて噂がある為、勇者の血は満遍なく増えていると伝えられてた。
大衆が娯楽として読む冒険談には、それらの事柄をさも見てきましたの様に記載され、人々に楽しまれている。
古典文学では、むずかしーい言葉で、それとなーくぼかして、もっともらしーく、勇者は伝説級の行いをしたと導いている。
細部を読み解けば齟齬がでるような事でも、「なんか難しい本にも書いてあるし信憑性あるんじゃね?」位の勢いで、一億総勇者(実際にはそんなに国民はいないが)のドゥーネ王国で暮らす冒険者達の物語。
☆
緑が生い茂る森を二人の少女が歩いている。
一人は青みがかった銀髪を頭のてっぺんあたりでサイドにまとめ、育った環境からか口調は男の子っぽい少女。「洞窟までけっこうあんなー」などぼやきながら道を歩いている。
武器は持っておらず、その辺に落ちている木の枝を片手に持ちぶんぶんと振り回す。
上半身は胸周りに魔獣の皮をなめした胸当て。
胸当ての下には、前が開襟され、開襟部分が紐で編まれている半そでの丈の短いシャツ。軽く背伸びするとお腹は丸見えだ。
下半身はスパッツを履き、風がふけばふんわりと広がる短いスカート、その左右には物を入れるのかベルトになめした皮がぶら下がる。
足は膝まであるブーツと太ももまである靴下。特にひざ当てなどは装着していない。
軽装すぎる装備だが、その装備から伸びる手足についている程よい筋肉と、ちらりと見える腹筋から戦闘職ということがうかがえる。
筋肉質でスレンダー、本人は特に気にしてはいないが、彼女を知る人達は「ないないない」とからかっている。
背中には、何が入っているかわからないが、いつもリュックを背負っている。なんでもぽいぽいと詰め込むので中身は推して知るべし。
もう一人はストロベリーブロンドで、肩までの長さの髪がふんわりとしている少女。
背中に自分の身長位ある杖を背負っていることから、魔法職なのがうかがえる。
枝をぶんぶん振り回す少女のちょっと後ろを、とてとてと小走りについて行く。
魔法職らしいちょっと大きめのローブは、Aラインワンピースの上に羽織っている。フードが付いているがかぶってはいない。少し薄めの布のためか、少女がとてとて動くたびにふわふわと裾が広がる。
頭にはかわいらしくカチューシャがはめられて、彼女が動くたび肩口の髪がふわふわしている。
にこにこにこ。彼女はお出かけが嬉しいのか終始笑顔だ。口からは勝手に作ったメロディももれている。
先頭を進む少女の脚が止まる。それに気づかず後ろの少女は先頭の少女に衝突した。
「わわー。急に止まっちゃだめなのですー」
咎める口調の割にはふんわり少女はにこにこしている。
「あーわりー」
軽い口調で謝るリュックの少女は、背中の衝撃にちょっとだけリュックに視線を移す。
ふんわり少女がリュックに、さわさわする行動を見て口角を上げた。
「どっちがいく? あたしのほうがいいと思うけどーー?」
リュックの少女がふんわり少女に向かって言う。
「?」
きょとんと少女。一緒にいくのでは?と無言で問いかける。
「じゃんけんで勝ったほうがいくかーー」
無言の問いかけは無視。何やら思うことがあるらしい。
素早く勝負に入る。こういうのは勢いだ。
ふんわり少女はいつも「ぱー」を出す。彼女に勝つも負けるも、「ぱー」を出すことが分かれば自由自在だ。
「じゃんけんぽい!」
ぽい。
勝ちはリュックの少女。
「ふえぇ?」
ふんわり少女はしゅーんとなってリュックの少女を見上げる。
「『絶対ここで待っとくこと』。いいな?」
リュックの少女にそう言われ、ふんわり少女はちょっと唇をとがらせながら、こくこくとうなづく。
「まあ、そんな時間かかんないと思うし。すぐ帰ってくるから!」
枝をぶんぶんふりながらリュックの少女は目の前に口を開く洞窟に駆け出していく。
「『絶対』そこで待っとけよー!」念には念を入れて力いっぱい枝をぶんぶんふる。
ふんわり少女は仕方なく入口のそばに座りこむ。
「早く帰ってきてくださいねぇー」
にこにこしながら洞窟の中に走っていく少女に手を降った。