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冒険者ギルドの裏事情

 先ほどの喧騒が嘘のように静かになったギルドで、ベクターは静かにため息をついた。


「気になさってるんですか?」

 書類をまとめながら顔も上げずにヘレンはベクターに問いかける。


「いや......そうだな......」

 何か思う事があるのだろうか、次に発する言葉になかなか結び付けれない。


「そんなに気になるのであれば、ギルドからの命令など無視してもよかったのでは?」

 顔も上げず、内心は「このヘタレ」と思っている。そう思っているが、簡単にギルドの命令を無視できないと分かってはいる。


「あの子達は冒険者だ――」

 今しがたドアを開けて元気に出て行った子達に思いをはせる。

「冒険者は、自由でなければならないと思っている」

 自分がそうであるように。そう思いながら、ベクターはそっと瞳を閉じる。


 冒険者登録と、エル達のパーティメンバー申請、通常であれば各街のギルドで完結できるものだった。だが、通常のランクであれば、の話。

 エル達はC級。フィーの乱によりギルドが苦渋の選択でこのランクを作ったと表向きは言われている。確かに苦渋の選択だった。


(そこまでしてC級に縛り付けたい意味が分からないわ......)

 ギルドの目的は勇者を育てる事。そこまではヘレンは知っている。


 ヘレンは、いや普通に暮らす人々は勇者をただのおとぎ話だと思っている。建国時のもっともらしいおとぎ話。


 もし本当に勇者というものが存在するならば、どこかに足跡の一つでもあるべきなのだ。

 使用した剣、使用した鎧、勇者という人が消えてしまったとしても物くらいは痕跡を残すのではないか。だが何もないのだ。ただ物語だけが受け継がれている。


 だが、ギルドはそうは思っていない。ギルドでは『勇者学』として日々研究が行われている。

 長年の研究の成果は、瘴気が人々に影響を及ぼす位強まる時期と、人がどれくらいの素質を持っているかの見極め。


 瘴気が強まる時期は、世の情勢にもよるが、30年~50年と考えられている。

 そのスパンで魔物がいつもより強くなり、イレギュラー化が多発する。


 勇者学では、そのタイミングで勇者が現れ闇を払い、平穏にすると推測していた。

 スパンさえ分かれば後は誰がその闇を払うものになるかの考察も行われた。


 ギルドは登録時に出自などの情報を登録する。瘴気が強まり、弱くなった後いなくなった人物を調査し、記録に残す。それを何百年と積み重ねる。

 それに合わせて、素質もデータベースに組み込んで研究も進める。


 素質の研修が飛躍的に進んだのは、四角い透明な石がドゥーネ王国、王都の地下から発見した事による。

 王都という勇者に深いかかわりを持つ地で発見された為、勇者に関連するものかもしれないと研究され、人によって色を変える石だと判明する。


 内なる素質を映す石として。人によって、赤、青、黄......さまざまな色を見せる石。


 ギルド登録後、この石の鑑定結果を登録資料に記載していく。素質として。


 そして、瘴気が強くなり、弱まった後消えた人物の素質として石が『虹色』に輝く人たちがいなくなる事が多いとはじき出した。

 その中に勇者がいるかどうかは分からない。だが確率は高い。


 勇者を最後まで勇者として守りたい。ギルドの目的はそこにある。一度も戻ってこない勇者と呼ばれる者。どうして戻らないのか、戻れないのか。本当に存在するのか、本当におとぎ話なのかもしれない。


 それでも育て、守りたいのだ。



(あの時、石が映したエル達の素質は――)

 ベクターは瞳を開ける。C級になった時の事を思い返す。

(無――)


 フィーが大暴れし何とか終息した後、エルとフィーの素質鑑定が行われた。

 虹色であれば例外だが二人でも中級を名乗らせようと決められていた。彼女たちが虹色の素質を持っているのではないかとギルド上部は考えていたのだ。


 だが、結果は二人とも無色。


 元々透明の石なので石が反応していない事も考えられた。けれどその反応しない事自体も今まではなかった。反応して無色なのか、反応せずにそのままなのか。ギルドは答えを出せずもめにもめた。


 もとよりギルドは二人を放逐するつもりはなかったのだが、今後の対応を考えギルドが選別した依頼だけをやってもらい力を測る事になったのだ。その為C級が作られた。


「ギルドが決めた依頼だけをやる......これは自由では......ない」

 守り育てるためと分かってはいる。だが彼女たちがギルドに登録してきた時のあの瞳、希望に溢れた瞳がいつか曇ってしまうのではないかとベクターは苦慮する。


 ヘレンは顔をあげベクターを見て微笑む。

「大丈夫ですよ、あの子達は決められた以上の事をいつもしてますわ。それこそ自由に」

「そう......だったな」

「ええ、決められた事だけするんであれば、毎回始末書は書かないはずですからね」

 ヘレンの言葉にベクターは苦笑する。確かにこちらがどんなに考えてもあの娘は何も気づかず思うがまま進んでいく。


「今回は、試練の洞窟なんですね......」


 ヘレンが指示書を見ながら不思議そうな顔をする。

 試練の洞窟、正式名『ベリトの洞窟』。普通はギルドでのランクを上げるために向かう場所だ。

 潜る階層によって持って帰ってくるアイテムが異なる。


「どうやってもC級のままなのに......なぜ?」


「お偉方の考える事は分からんが......通常のランクだと、どのランクか確認したいという考えと......」


 ベクターは本部から指示があった時の事を思い起こす。

 今回発生した瘴気の侵入について、ギルド本部と通信水晶ホログラムで会話をした際、エル達を試練の洞窟へ向かわせるように指示された。

 表向きは中級にするとでもいえば良いと。


 その言葉だけでも軽くイラついたのだが、通信水晶ホログラムが映し出す本部のサビーノの顔が苦虫をつぶしたような表情なのが気になっていた。


(ランクの確認だけではないはず......何か裏があるのか......)

 ランクの確認だけならと、エル達には上級アイテムであるグリモアを手に入れて来いと指示はした。

 ベクターの見立てでは中級以上上級未満。だが四人パーティになった今回なら上級アイテムでも問題なく持って帰ってこれるだろう。


「ヘレン、試練の洞窟について少し調べてもらえないか」

「それは裏事情を調べろと言う事でいいのかしら?」

 ヘレンの優等生な回答にベクターは笑顔で頷いた。


最初はすぐダンジョン行くつもりだったのですが、ギルドの説明だけで終わってしまいました。あれ?

次回はダンジョンレッツゴーです。

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