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やってやるのです! ――フィー&リュカVer.

withベクター

 エル達が昨日のダンジョンに出発してから、街は大混乱に陥っていた。

 思いのほか瘴気のまわりが早く、体力のないものばかりかある程度体力がありそうなものまで自力では動けなくなっていた。


「まずいな......」

 ベクターが小さくつぶやく。


 調子の悪くなった人の収容はある程度うまくいっているのだが、これ以上となると場所が問題になる。そんなに災害などないこの街では大きい収容施設はない。


「フィー、今の状態はどうなっている?」

「北側のエリア以外は、まだ瘴気は来ていないのですぅ」


 ここで食い止めたい。これ以上浸食を許すと被害が広がりすぎる。

 フィーは魔法で浸食されるのを防いでいるが、全方向から浸食されるのでいつか限界を迎えることはわかっている。


 街の中、外でも冒険者たちが何とか瘴気を除去しようとはしているが、人数が圧倒的に足りていない。それでも何とかしなければ、と必死で迫りくる瘴気と戦っていた。


 エル達が出発してしばらくたった後、瘴気の流れが変わる。エル達がちょうどガーゴイルを倒したの時だった。


(エル達が何かしたのか――?)

 ベクターは、ある程度街で指示をしてエル達の後を追うはずだった。瘴気が溢れている理由が分からない。自分で行って現場を見ないと、エル達に止める方法が分かるとは思っていない。

 ベクターですら、見たところで止めれるかどうか分からないのだ。


 だが、今完全に瘴気の流れが止まっている。エル達が何かして、瘴気が止まったと考えるのが自然だろう。


(このまま流れ込まなければいけるか......)

 だが街に入り込んだ瘴気が多すぎた。今いる人数でこの街を浸食している瘴気を消す方法を考える。 出来るだけ速やかに――、でもどうやって!?


 ベクターは、何か自分が記憶している中で有効な手段がないか、ひも解いて行く。あれもだめ、これは人が多くいる、今いる人数では無理だ。

 長引けは体の中に瘴気が残留しやすく、それはこの先も悪影響を与えることは明白だ。今倒れていない人を瘴気にさらさない、そして今倒れている人の瘴気もなんとかする。


(そんな方法なんて――――ない――)


 ギュッと手を握り締める。きつく握りしめて白くなる。

 それでも今できる最善を尽くさねばならない。


「フィー、出来るだけ今瘴気にさらされていない居住区の人を守ることは可能ですか?」

 ベクターに問われフィーは首を傾げる。そして微笑む。


「はいです、いけますよ。ふんわりと防御です」

 フィーはそう言うと居住区へ走っていく。


 彼女のいう防御がどんなものがベクターには見当もつかないが、フィーがいけるというのなら大丈夫だと考えた。

 ちらりと目の端に映る居住区の上空に光が見える。


(フィーの魔法が発動したのか?)

 考えても答えは出ない。良くみると透明な膜みたいなものが居住区を包んでいるようにも見える。

 瘴気が侵入しようとして膜に阻まれているのが分かる。


(居住区は大丈夫か)

 ベクターは安心して周りを確認する。ふと眼をやるとリュカが倒れた人を看護していた。彼女......は、瘴気は大丈夫なのか、と心配になる。フィーの守りの中に入ってもらったほうが......。


「リュカさん、あなたもフィーの保護の中へ――」

 ベクターの言葉を聞き、リュカは毅然とした瞳を向ける。


「今、倒れている人を助けないと。わたくしは聖女になるのです。何人も見捨てはしません」

 聖女を讃える教会の教えは「献身と慈愛」、リュカはそれを実践しようとしているのか。


「しかし、あなたにまで倒れられたら――」

わたくしは大丈夫です」

 まっすぐと前を向くリュカ。その目に迷いはない。


「瘴気はすぐそこまで来ています。あなたは一体どうするつも」

 りまで言い切れなかったベクター。リュカがベクターの目の前に立ち、同じ目線で口を開く。


「聖女を目指すものとして瘴気を退ける歌があります。それが形になるまでわたくしの周りに瘴気を近づけないでいただきたいのです。お願いいたします」


「であればフィーの保護の中へ」


「いいえ、保護の中だと街全体へ歌を降らす事ができません。このような状態になってしまったら、この街全体を浄化するべきです」

 リュカの判断は正しい。ベクターもそう思っていた。だから今考えられる被害を最小限に抑える方向に向いたのだ。すでに瘴気に浸食されている場所も落ち着いてからなら対処は出来る。被害は出てしまうが――。


 リュカが両手を胸の前で組む。

 す――っと息を吸い込む。そして透明で安らかな旋律が奏で始められる。


 初めて聞く、でもどこかで聞いたことがあるように感じる歌。

 そしてとても心が穏やかになる。昨日フィーたちに歌っていた癒しの歌とは違う歌。


 歌っているリュカに瘴気が集まろうとする。自らを除去しようとする存在に対抗しようとしているのか。ベクターはリュカに集まる瘴気を、手に持った剣で除去していく。


 旋律がどんどんと広がる。それはリュカの周りから溢れるようにゆっくりと流れ始め、ゆっくりと広がっていく。

 範囲は大きくなり街を飲みこんでいく。街すべてを包み、光は瘴気を飲み込み広がっていく。


 リュカの歌が完成する。それと共にキラキラとした光が街全体に降り注いだ。


「リュカさん! 瘴気が――!」

 光を受けるように手を広げ、リュカは感触を確かめる。


「もう......大丈夫なはず......です......」

 多大な魔力を使ってしまったのだろうか、リュカの足元がふらつく。

「大丈夫ですか!!」

 慌ててベクターがリュカを正面から受け止める。

(あれ......見た目よりごつく......)

「MP切れ、変身維持できん!」

 ベクターの腕の中から、ちょっと野太い声が聞こえた。

(あ、忘れてた。この人なんちゃって聖女だったわ......)

 ベクターはこの腕の中の男をどうしようかと暫く考えていた。



 エル達が走り続けて到着した時に、光がキラキラと降り注いだ。

「なんだ、このきらきら?」

 掴もうとしても掴めない。エルがちょっとムキになりかけたときにレオが口を開く。


「あっちにギルマスがいるよぉ」

 レオが指さす方に視線を移す。ベクターがこちら側に顔を向けてショックを受けたような顔をしてる。そして腕には誰かを抱えているのが見えた。


「ギルマス! こっちはだいじょ......」

 最後まで言葉が言えなかった。ベクターの腕の中にいるのはリュカではないだろうか。あんな背の高いシスター服着た人間他にいてもらっても困る。


「ギルマスそんな趣味が......」

「ち、ちが!」

 エルの言葉に慌ててベクターはリュカを引き離した。


「えええええええ、エルシア・オルコット、そっちはどうなりましたか?」

 ベクターは動揺を隠せていない。何故だかエルをフルネームで呼ぶ。そんなベクターの動揺にエルはニヤニヤしながら近づいて行く。


「聖女様(偽)を胸に抱いて、なんでそんな動揺してるんですか?」

 ニヤニヤが止まらない。これでペナルティの一つ二つ脅迫できるのではないかと悪い考えが浮かんで、それがそのまま表情にでている。


「忘れて――、いやどうやらMPを使いきってしまったらしく......」

「変化が切れたんだねぇ」

 レオがベクターの言葉とリュカの状態をみて口を開く。

 どうやら元々男なのを無理やり変化していて、その状態で魔力消費の激しい魔法を使ったので変化の分まで枯渇して変化が解除したようだ。


「で、ギルマスはリュカにいが男であることを忘れていたと」

「し、仕方がないでしょう! 変化時は本当に見目麗しい......」こほんと咳払い。

 体面を整えようとベクターは真面目な表情になる。


「こちらはリュカ殿のおかげで、何とか事なきを得ました。すでに倒れた人たちへの瘴気の影響は経過観察をせねばならないでしょうが、それも先ほどの浄化の歌で何とかなっていると考察されます」

「あーさっきのキラキラはリュカにいの歌だったのか」

「ええ、あれが街全体へ降り注いだので最悪な事態は避けれているはずです。すぐに調査はしますが」

「とりあえずMPが切れて辛い・・・」

 MP切れが辛いのかリュカはその場に座り込んだ。

「一応スカートを穿いてんだから、膝とじろよ。リュカにい

 座って、開いた膝に腕を突っ込んで「あーだりぃ」とつぶやくリュカ。ベクターはその姿をみて小さく頭を振る。どうみても聖女には見えない姿だった。


「あははーわかるわかる。変化ってMP切れで解除されちゃうと、結構だるいよねぇ」

 何か同意出来るものがあるのかレオは楽しそうに笑う。レオも変化とか使う事があったのだろうか。


「ところでフィーは?」

 キョロキョロ辺りを見回して、フィーがこの場にいない事にエルは気づく。


「あーそれなら居住区のほうで防御してるはずです」

「防御?」

 どう何を防御なのかよく分からないです。といった雰囲気を察したのかベクターが口を開く。

「本人がそう言ってたので」

 どうやらベクターにも詳細は分からないらしい。話を聞くと、ベクターはフィーに瘴気から守るように頼んだと言っていたので、守る→防御となったのだろうとエル達は推測する。


「でも、あの子そんな魔法使えたっけ?」

 フィーが使う魔法は、基本は攻撃魔法だ。

「まぁフィーの事だから、ほわほわーっとイメージして、ほわほわーと魔法を発動してんだろうけど」

 そう言いながらフィーが行ったという居住区に視線を移す。


 エルは居住区に視線を移すんじゃなかったと思っていた。そしてもうこの時から諦めていた。本当ならベクターには一生見てもらいたくはなかった。 

「ギルマス、後ろは見ない方がいいよ」

「?」

 ベクターはエルの言葉にゆっくりと後ろを振り向く。そしてそのまま後ろに倒れた。


 居住区はよく分からないけれど、雲のようなふわふわした何かに覆い尽くされていた。

 白くてふわふわして、触ると弾力がありそうな。飛び込んで行ったらふかふかのベッドに飛び込むみたいで気持よさそうな、ふわふわした何かに。


 ふわふわがふわふわ過ぎて居住区にあるはずの家とかは全く目視できない。

 エルはもうこのふわふわに飛び込んじゃおっかなーと考えている。


 さー倒れたギルマスどうしようかなー。

 あのふわふわ、ちゃんと消えるのかなー。

 またペナルティかなー。

 あー肉食いたいなー。

ベクター&リュカでしたね。タイトルに偽りでした。すいません。

次話は明日はちょっと無理そうなので月曜日になると思います。

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