第一章 記憶を失くした少女 九
「おっし、着いたぜ♪
俺の故郷、『ヌイルスアイル』!!」
「ぇ、もう?!」
空を「歩き」はじめて数分。
小さな山と丘を越え、さらに平原を進んだ所で、瑠衣は降りた。
目の前に広がっていたのは、オレンジ色と緑色がマッチした、小さめの村。
レンガとつたが、いい具合に合っていて、なんだかかわいらしくも見えた・・・。
瑠衣が積み重なったレンガでできた、少し大きめの門のそばに近寄る。
そこには1人の・・・
1人・・・?
小さな・・・緑色のトカゲみたいのが、よろいに身を包んで立っていた。
「やっほ、レイガル。久しぶりだな!
ずいぶん昇進しちゃって・・・立派だなぁ。」
「あぁ瑠衣様!御久しゅう御座います!!
はい、おかげさまで此処までこれました・・・。」
・・・!
トカゲの声は、見た目以上にかわいらしく
瑠衣を見つめる目も、愛らしい感じがした。
レイガルと呼ばれたトカゲは、私に気がつくと
大きな目を、よりいっそう大きく見開いた。
誰がどう見たって、驚いているようにしか見えない瞳だった。
「る、瑠衣様・・・
こちらの方は・・・。」
「おぅ、瑚珀だ。
・・・っと、ちょっと急いでいるんだ、通してくれるか?」
「ちょっとっ?!」
私の言葉は無視か。
瑚珀じゃないのに・・・。
まず誰かもわからないってのに・・・。
「それが瑠衣様・・・今、御通しする訳にはいかないのです。
その・・・トゥイル一家に犯行予告が届いておりまして・・・。」
「トゥイル?誰だ、そいつ?」
「一ヶ月前に入居し始めた、いたって普通の4人家族でございます。
普通じゃないといえば、12歳になる娘さんが魔道を使えるのどうと・・・。」
「ほぅ、それで?」
だめだ。まったく話がわからない。
まぁ、聞いてみたところ、そのトゥイル一家に届いた予告は
‘本日、一人の娘が尋ねてくる。その娘は魔道を使い、そなたら家族を殺すであろう。’
‘避けたければ、前夜、カラサの丘に50フェル用意しろ’
と、まぁ、普通に普通すぎる脅し強盗。
フェルっていうのはお金の単位みたい。
・・・で、なに?『カラサの丘』って。
「・・・で、結局用意できなかったから、誰も村に入れないと。
そういうことだな、レイガル。」
「・・・はい。」
「・・・。まぁ、お前が俺らを疑っているわけではなく、単に上に命令されたからっていうのは よくわかった。」
意味ありがちなレイガルの顔を見て、つぶやくように瑠衣はいった。
それから私に向かってこういった。
「今日は無理みたいだ。
明日なら平気だよな、レイガル。」
トカゲは短く、はっきりと「はい」。
なんだか、初任務を任された幼い後輩、みたいな感じだった。
さっきの会話に出た、「カラサの丘」。
あれが何か気になったから、とらえずつれてきてもらった。
一旦、普通に見れば、よくある緑の広がった丘。
特に何の特徴もない。
特に、どころじゃない。何もない。
所々、小さな花が咲いているだけ。
赤色だから、小さくてもよく目立っていた。
「ここはさ、緑しかないところだけど、木も空気も澄んでいて
あの町にとっても、一種の休憩場みたいな、落ち着けるところだったんだ。」
しゃがんで赤い花を見ながら、瑠衣の話に耳を傾けた。
にしても・・・見るたびに綺麗だな、この花・・・。
単純な赤じゃなくて、・・・んー・・なんていえばいいのかな。
真紅に似た色。宝石であるルビーのような輝き。とれたてのリンゴの艶めき。
いろんな「赤」が、見事に一致している感じだった。
瑠衣は続けた。
「だけど、ある日誰かが放火したみたいで、この丘も燃えてしまったんだ。
木は倒れて、空気は濁り、丘自体が酷く変化してしまった。
そんな時、「カラサ」っていう旅人が現れてな、
その・・丁度瑚珀が見ている、その花、「シアル」っていうんだけど、
その花を植え始めたんだ。
カラサの行動は、町の人たちに大きな影響を与えて、町の人たちも木や草花を植え始めた。
で、無事に丘は復活して、旅人は去った。
きっかけを与えてくれた、その人に感謝して、丘にその人の名前を付けたとさ。
あー・・・、瑚珀、聞いてる・・・?」
「うん。聞いてる。」
私の態度を見て、「聞いてる」といわれても、誰も信じないだろうな。
だって・・・ね。
太陽に当たろうと、力いっぱい広げた6つの赤い花びらも、
真ん中にひょっこり顔を出している、黄色いめしべも、
かわいくてしょうがなかった。
摘んでみたい心境を抑えて、立ち上がると
「んじゃ、今日の宿、探さなきゃな」
と、いった瑠衣の背中を、追い越す勢いで飛び立った。
・・・
なんとなく、風がおかしい感じがした。
花・・・シアル・・・?
何か言いたげに、風が私の頬を撫でた。




