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カフェ・アーカーシャ~幽霊のいる喫茶店~  作者: 月城こと葉
四杯目 鵺鳥ののどようさまに
25/29

陸 貴方のいる場所

「おかえり、兼俊」


 アーカーシャへ戻ると、恭介が出迎えてくれた。夕食は飛歌流が作ったらしく、カウンターには食べかけのオムライスとサラダが載っている。カウンター内にいる飛歌流はフライパンを洗っており、恭介の隣に座った真白がデミグラスソースを口の周りにべっとりと付けながら口いっぱいにチキンライスを頬張っていた。


 俊哉はリラから手を離して恭介に歩み寄る。店を飛び出した時には道に迷ってどこかへ消えてしまいそうだった後ろ姿も、今はもう頼りがいのありそうな店長の背中を見せつけている。離れた手を追うことなく、リラは俊哉を見送った。


 そして、店長はオーナーに向かって片膝を着いた。狩衣の袖がぶわりと広がり、体からやや遅れて床に降りていく。椅子に座った着流し姿の陰陽師と、跪く狩衣姿の幽霊。絵になりそうな構図である。俊哉は恭介を見上げる。


「オーナー……いや、主様。私は全て思い出しました」

「そう。よかったね」

「私はずっと妹を探していました」

「うん」

「妹の生まれ変わりの存在も見つけました」

「そうだね」


 俊哉は少し視線を伏せて首を振る。


「ですが、逢うことは叶わなかったのです」

「うん」

「私は、妹を探します。妹に物語を届けるという目的によって私はこの世にいるのです。それが叶おうと叶うまいと、貴方と契約をしている限りは成仏なんてできません。しかし貴方との契約があるからこそ安定して探し続けることができるのです」

「そうだね」


 再び顔を上げて、俊哉は恭介を見つめる。その目には強い意志が宿っていた。改めて、そして新しく抱いた決意を主へ伝える。


「次の巡りまで……。妹に逢えるまで……。貴方のお傍にいさせてください」


 恭介はにやりと笑って烏帽子の先をこつんと叩いた。ずれかけた烏帽子を俊哉は慌てて押さえる。その姿を見て恭介は更に笑った。


「私はオマエを手放さないよ。オマエの淹れるコーヒーは美味いからね」

「……主様」


 晴れやかな笑顔を浮かべた俊哉に向かって恭介の手が伸ばされ、デコピンを喰らわせる。


「ぅお」


 厳かな雰囲気が漂い始めていたために、店内にいた面々はその行動に面食らった。想像以上にダメージがあったらしく額をさする俊哉に駆け寄り、リラは無事を確認する。「動揺しすぎ」と窘められて一歩引いたが、飛歌流も恭介に「何をしているのです」と詰め寄っている。その様子を見て真白が声を上げて笑い出した。


 折角いい感じに格好いい空気になっていたのに。と文句を言う俊哉に対して恭介は「ごめんごめん」と笑いながら言った。謝罪をするつもりは全くない。しかし、徐々に笑顔から真剣な顔へ変わっていく。出会った時と同じように手を差し伸べる。あの時は縋りつくように取った手だ。今度は、信頼できるパートナーの手としてしっかりと掴む。


「改めてよろしく頼むよ、俊哉」

「……。はい! オーナー!」


 俊哉とリラちゃんもご飯食べちゃいなよー。冷めるぞー。そう言って恭介はスプーンを手に取りオムライスを食べ始めた。まだ少しずれていた烏帽子を直しながら俊哉は立ち上がる。カウンター内から二人分のオムライスセットを出し、飛歌流は二人に座るように促した。


 リラは席に着く。一緒に座るかと思われたが、俊哉はカウンターに入ってしまった。飛歌流の横を過ぎてラジカセに向かい、ジャズのCDを取り出して雅楽のCDを入れ直す。再生ボタンを押すと緩やかで厳かな和楽器の音色が響いた。満足気に頷き、俊哉は棚からコーヒーカップを四つ出した。それに加えてマグカップを一つ。


 天井でくるくる回るシーリングファンの音、ラジカセから流れる雅楽、食器の触れ合う音、話し声。いつも通りの風景。これからもしばらくの間は変わらないもの。


 薬缶にたっぷりのお湯を注ぎ、俊哉はコンロに火を点けた。






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