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お嬢様は神様です!  作者: 明日葉充
神来襲編
60/135

王宮に行こう①


「アシュレイ様!!!!!」


「やべっ」


アシュレイはその野太い声を聞いて慌てて物陰に隠れた。アシュレイも最近気づいたのだが、アルドヘルムは怒るとアシュレイ様呼びになるようだ。ガシャンガシャンという足音、これは鎧を着たまま歩いている音だとアシュレイは知っている。いくら冬とはいえ、鎧で動き回って暑くないのかとか、重くないのかとか色々と思うところはあるが、まあそれは良い。


問題は、騎士団の練習中のはずのアルドヘルムがなぜか屋敷におり、アシュレイを怒りながら探しているという点だ。なんだ、説教か?とアシュレイは逃げ回るが、なにしろ説教されそうな心当たりが多すぎる。アシュレイは今日も庭師の荷物持ちを手伝って手を少し切ってしまったし、高いところの窓枠が汚れていたのでよじ登って掃除をしているのをマリアに見つかって怒られているのだ。貴族の令嬢は手が命。綺麗で女性らしい手が好まれるが、アシュレイの手は少しばかりゴツゴツしていて皮膚が固く、傷跡が少しずつ残っていたりするので、決して綺麗とは言えないのである。


そんなような、小さくとも多くの令嬢はするなよ、というようなことを誰かがアルドヘルムにチクっているとすると、これはまた、アシュレイにとっては困った事態になってしまうのである。過保護なアルドヘルムはアシュレイの危険行動に敏感だ。実際に怪我をしていなかろうと、見つかれば問答無用で説教が開始される。その説教は時には2時間に及ぶのである。説教されたからと言って行動を改める気のないアシュレイにとってその時間はかなり、無駄な時間と言えるだろう。


誘拐事件の後から、アルドヘルムはアシュレイに真面目に説教をするようになった。以前は説教すると嫌われるし……と思って寛容な態度でいたアルドヘルムだったが、最近ではアシュレイを心配するあまり本気での説教を頻繁に行っている。アシュレイのほうももちろん、アルドヘルムが自分を心配しているのだということは理解しているのだが。


……まあ、そもそもアシュレイが危険なことをしなければアルドヘルムも怒らずに済むのだが。できうる範囲で自由に生きるというのが、アシュレイの信条なのである。


「どうしようかな……」


アシュレイはこのままほとぼりが冷めるか、アルドヘルムが騎士団に戻るかするまで屋敷から逃げ出してしまおうか、それとも屋敷の中で隠れてやり過ごそうかと迷っている。アルドヘルムの説教は本当に長いのである。


そんなところで、アシュレイは向こうの建物の前でキョロキョロしているダレンを発見した。なぜ、2人とも今日は騎士団の訓練の日のはずだ。どうして屋敷にいるんだ?アシュレイは訝しく思い、ダレンにも見つからないようにしようと思った。


劇団にでも行くか。アシュレイが門の方に歩き出した時だった。


「やあアシュレイ、久しぶりだね」


「……ス…ス…スぺ……公爵!なぜここに?」


「ま、まさか名前すら覚えてないとは……軽く落ち込むな!ランドルフだアシュレイ、今日は君に美味しいお菓子と良い紅茶を持って来たんだが……」


「スペンサー卿、そういう時は事前に申告してから来ていただかないと困ります。私はあなたとは友人でも家族や恋人でもない他人なんですから、そこらへんは配慮してください。非常識ですよ」


「そ、そんな正論をそんな格好で言われても……」


アシュレイはランドルフに対しては基本的に冷たい。自分に求婚されている以上、下手に優しくして期待させる方が酷だという考えのもとからの行動ではあるのだが。しかし、令嬢の家に遊びに行くといつも大歓迎されてきたランドルフはかなり動揺している。惚れた弱みで、アシュレイのキツい口調にも怒れないし。


というか、男装して木の葉まみれになっているアシュレイだって、令嬢としては十分非常識じゃないか?


「多分もうすぐでアルドヘルムがやって来ますので、客間に案内してもらってください。それじゃ!」


「どこへいく気ですか?アシュレイ様」


「ヒィッ!!!ア、アルドヘルム!いつの間に背後に!」


アシュレイが驚いている暇もなく、アルドヘルムにガッシリと腕を掴まれてその場に引き留められた。猫に捕まった子ネズミのようである。


「急ですが、明後日に王宮でのパーティが開かれるのでドレスなど買いに行かなければならないんです。すぐに支度をしてくださいね」


「へ、へぇ~……な……なんで鎧を着てるんですか?それにさっきダレンも見かけましたが……騎士団の練習は?サボりですか?駄目じゃないですか~アルドヘルム……」


「サボりじゃないですよ、明後日のパーティは第三王子のご帰国祝いなので、国全体が休暇になり、我々も急に練習を中止することになったんです。それで戻ってきてみればあなたがまた屋敷内で色々やっているというじゃありませんか」


「やっているというじゃありませんか」


第三王子と言うと、コーネリアスとオズワルドの弟というわけだ。確か他国に外交でしばらく帰ってきていなかったようだが、コーネリアスより年下だろうに、何歳なんだろうかとアシュレイは思う。コーネリアスとあまりそんな話はしたことが無かったので、詳しくは知らない。でも、帰国したくらいで国全体でお祝いなんて、王族ってすげ~、と言ったところか。


「私はただアシュレイ様を探しているだけなのに、こうやって逃げ回るのはどう考えても後ろめたいことがあるからじゃないですか」


「ないですか」


「真面目に聞いてるんですか?」


「真面目に聞いてるんですよ」


「もっ……もう!とにかく、そんな恰好じゃ出かけられませんから着替えてください!」


アシュレイにからかわれてアルドヘルムが拗ねる。なんだか最近、アルドヘルムは表情豊かだなあとアシュレイは思っている。少し前まではいつも余裕そうな笑顔で、高い戦闘力を誇る完璧人間だと思っていたのだが。


「じゃあ着替えてくるんで、スペンサー卿を客間にご案内しておいてください。スペンサー卿、私はそんなわけなので」


「ああ、いや、結構だよ。急に来た私も確かに悪かったからな。今日は……日を改めよう。王宮でのパーティには私も参加するので、そこで会えるかもしれないね」


「そうですね。今度は事前に連絡してください、美味しい紅茶とお菓子でも用意しておきますので」


「……ありがとう。君はやっぱり、優しいと思うんだがな」


ランドルフはそう言ってアシュレイに持っていた大きな花束を手渡した。アシュレイは心底、なぜまだこの男が自分に好意を持っているのが理解できなかったが。今日だって出合い頭に結構失礼な態度を取ったつもりだったのだが、花、これは赤い薔薇じゃないか。ランドルフはアシュレイに、にっこりと余裕の笑顔を向けてくる。恋愛経験豊富な女好きの公爵という位置づけなのに、一途アピールをされるとお前にはもうなんの特徴も無いんだぞと言いたい。


「ありがとうございます、ハハ、どうも……綺麗な花ですね。こんな小汚い格好ですみませんね」


「いいや、君はどんな格好をしていてもかわいいさ」


「アハハ……」


うげーっ!なんて反吐を吐くようなセリフだとアシュレイは引きつった笑顔になった。アシュレイが花を受け取ると、満足そうにまた微笑んで去って行った。本当に花だけ受け取って追い返したみたいで申し訳ないとアシュレイは少し思うが、まあ向こうもパーティの準備があるだろうから帰ったほうが良いと思う。多分。


「アルドヘルムもパーティ出るんですよね?今回もエスコートしてくれたりするんですか?」


部屋に戻る廊下を歩きながらアシュレイがアルドヘルムに尋ねると、アルドヘルムは驚いた顔になった。


「え?……いいんですか、私で」


「いいんですかって……一応こっちから頼んでるつもりなんですけど。他にあてもありませんし、あなたが忙しければ他を探しますが……」


アシュレイが髪についた木の葉を一枚ずつ取りながら言う。アルドヘルムもアシュレイの肩についたほこりなんかを叩きながら歩く。逃げ回る際に庭木の間なんかを縫って歩いていたためにこんな格好になってしまったわけだが、よくあることなので二人とも慣れてしまっている。


「いえ、私としては願ったりかなったりですが……私があなたと恋人だと誤解されるかもしれませんよ。いいんですか……」


「はぁ……まあそう思われるでしょうね。私はいいですよ、あなたが良いなら」


「いいんですか?!思わせぶりですよあなた!!」


「あーあーうるせえなぁ~何も考えずに一緒にパーティ出てくれりゃいいんですよ」


さながら煮え切らないダメ男とそれに恋してしまった騙されやすい女のような関係、もちろんアシュレイがダメ男である。他の男にほいほい手を出さないだけマシかもしれないが、アルドヘルムと婚約するでもなし、何をするでもなしだ。期待させるだけさせておいて……と言いたくはなるが、そこはそれ、アシュレイにも20以降歳をとれなくなるかもしれないという事情を抱えているので簡単に婚約するわけにはいかないのだ。


「わかりましたよ、わかりました!でも他の人が申し込んできても断ってくださいよ?」


「はいはい、風呂入ってくるんであなたも鎧脱いできてくださいよ」


「ちゃんと逃げないで待っててくださいよ?!」


「わかってますって、用があれば逃げませんから……」


説教ではなく用事があるならさっさと応じればよかった、時間の無駄だなとアシュレイは後悔する。今後は説教がはじまってから逃走するなりしようと考えた。説教途中で逃げるなんて、余計怒られそうではあるが。アシュレイは正直、「うるせーな!説教たれてんなよ、お前は私の母親か?」くらいに思っているのだが、それもまあ、反抗期真っ盛りの16歳なので許されよう。口に出して言わないだけ大人である。


「第三王子か……」


明日は金曜日だし、学校でコーネリアスに聞いてみるか、とアシュレイは思う。そういえば週末にお茶会して洞窟誘拐事件について話す約束だったが、土曜にパーティならみんな疲れているだろうから別日にするか?なんだか色々、突然だ。王子が帰国するならもっと事前にわかりそうなものだが。


アシュレイはシャワーを浴びていると、水に混じって髪から出た土が流れていくのを見て、汚ねぇ……平日の畑仕事は控えようかな……と思った。


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