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お嬢様は神様です!  作者: 明日葉充
獣人宗教国家ミラゾワ編
122/135

会議はティータイムに①


船がミラゾワの港を出た翌日、アシュレイは一人で甲板に出て海を眺めていた。もう大陸は見えなくなり、遠くに小さい島がいくつかあるくらいで海が延々広がっているだけだ。


本当ならあと半月くらいはあの国に滞在する予定だったのに、ソヘイルの両親もその間はソヘイルといい思い出を作れる予定だったのに。ムスタファはなぜ滞在期間の最終日やもっと終盤ではなく、中途半端な一昨日それを決行したのか?アシュレイは一晩眠ってから、冷静な頭で考えなおした。加えて、捕まえたアズライト帝国側の人間を追いもしない姿勢。なんのために?何を思って?こちらにはミサキという、どう考えても自分より強い半神がいると分かり切っているのに、自国にはまともに戦える軍隊もないのに、自分自身に大した力も無いのに。


ムスタファは自分やアシュレイのことを、半神半人は普通の人間とは違う、特別な存在なのだと言っていた。自分の力を過信していたのか?だとしても、なぜこうもあっさりと全員をとり逃がした?少なくとも王子だけは確保しておくのが普通のはずだ。本当になぜ、そしてアシュレイに言った「私の側に着くなら檻から出してやる。」とはどういう意味だったのか?


「その場合、忠誠を試すためにお前の国の兵を一人、お前に殺してもらう」とも言っていた。もちろんアシュレイがそんなことをするわけはないが、そんなことをさせて何の意味がある?そうすればアシュレイが「こちら側」に戻れなくなるから?だとすると、単純に強い味方が欲しかったのか?いくら半神二人になったところでアズライトの軍力に(かな)うわけもないのに、なんのために?大体、ムスタファはアシュレイが16歳でまだ弱いということだって分かっていたはずだ。


それと、笑顔だったがどこか寂しそうな顔。


「はあ……」

「どうかしたんですか?」


背後から気配もなく突然声をかけられ、アシュレイがびっくりして慌てて振り返った。そこにはにっこり笑顔のアルドヘルム。アルドヘルムの正体をこそ知っていれば、何やら含みのある笑顔に見えるがアシュレイは当然そんなことには気づかない。アルドヘルムはそのままアシュレイの横に立って同じように海をながめる。


「?!アルドヘルム、いえ……予定より慌ただしく出国になったので、ソヘイルも、両親ともちゃんとお別れできなかったかなって……」

「ああ、そのことですか……仕方ないですよ、それにソヘイルたちを助けたのは彼の両親なんでしょう?その時に少しは別れの言葉が言えたはずですよ」


そんなことか、とアルドヘルムは内心思う。一人で海を見つめていたので、ムスタファのこととか何か、余計なことを考えているんじゃないかと思って見に来たのに。まあ実際、ムスタファのことは考えていたが。


「ええ、でも今度は、このままだと我が国の軍があの国に行くことになるでしょう?そうなったらソヘイルの両親だって何か嫌な目に遭うかもしれませんし……」

「軍には私も同行しましょう。ソヘイルの両親のことは見ておきますよ」


ああ、確かになとアルドヘルムは内心納得し、笑顔でアシュレイにそう言った。


「それじゃ駄目ですよ。」


アシュレイがすぐに否定したので、アルドヘルムはつまらなそうな顔をする。せっかく助けようと思ったのに、何が気に食わないのかと。というか、先ほどからまた海ばかり見つめていて目が合わないし。


「それはなぜ?」

「政治体制がどうなるにしても、ミラゾワの国民は多分、そのままミラゾワに暮らすことになるでしょう?そうなると、ソヘイルの両親だけ優遇したら国が復帰した際に彼らの立場が……」


村八分(むらはちぶ)にされるかも、と言いたいんですか?」

「まあそうです」


「であれば、その二人だけアズライトに連れ帰ればいいのでは?」

「……全員を同じように助けられないなら、手を出すべきではないと思います。彼らがそれを望んでいるとも思えませんし……」


一応ソヘイルの母親にはソヘイルの誘拐を見逃したという過去があるし、そんなものを抱えて、言葉の壁もあるのに家族として上手くやっていけるとも思えない。というか、3人もの人間の人生にアシュレイは責任を持てないし。暮らす所だって、ソヘイルには偶然自分の元の家があったから気まぐれに提供しただけだし。


「……できれば、ミラゾワの国民の誰も傷つけずに事が収束するようにしたいんです」

「それは、なぜです?」


「自分より弱い人は守らなければ……あの国は、数少ない兵ですら私より弱かったから」

「……弱い人は守らなければ、ですか。そうですね……」


アルドヘルムは、妙に納得した顔をした。具体的に言うと、「自分もそう思って共感した」からだった。弱いものを守る、それはアルドヘルムとしての基本観念でもあった。


「では、私はあなたを守らなければいけませんね」

「え?ハハ、そりゃ……お願いします」


アシュレイは苦笑いでアルドヘルムに返事する。なんだか、アルドヘルムらしくないなと。そんな時、船室の廊下に通じる扉が開いたのでアルドヘルムが自然と振り返る。それは、アシュレイが夜合流した船員たちの一人の、通訳だった。


「どうしました?」

「あの、ミラゾワの件とこれからの対応についてエインズワース公爵令嬢様も含めて少し話し合いがしたいとエドウィン殿下より言い使って参りました」


「そうですか……じゃあ行きましょうか、アルドヘルム」

「ええ。」


ナチュラルにアルドヘルムも同行することになり、アシュレイは船に乗ってはじめてエドウィンの船室に足を踏み入れた。流石王子の部屋、かなり広めで会議が出来るよう大きな机が置いてある。アシュレイが部屋に入ると、エドウィンは紙を手渡してきた。


「お前なら読めるだろう?先日の件があるまでに取り決められた、基本的な貿易の案だ」

「あ、ええ。でもなぜ私にこれを?」


アシュレイがそう言いながら書面を流し読みする。二枚あり、片方はアズライトの言葉で、もう片方はミラゾワの言葉で同じことが記されていた。


「読んで貰えばわかるんだが、この取引は圧倒的にミラゾワ側に益があった。向こうは衣類や羽毛、木の工芸品、それとわずかな珍しい果物をアズライトに渡し、アズライトからは調味料や穀物の(たぐい)、陶器類や質のいい紙を輸出する予定だったんだ。だからなぜ彼がこんなことをしたのか分からない。」


極論を言えば衣類なんてアズライトにもあるし、木の工芸品だって店に木彫りの熊とか売っているくらいには浸透していて、わざわざ輸入する必要はない。果物はまあアズライトにはないものかもしれないが、それは贅沢品で必ずしも必要ではないし。それに比べて貧困な民も多いミラゾワにとって穀物はかなり必要なものだろうし、調味料だって塩くらいしかミラゾワにはなかった。だから豪華な料理も味気ないものだったのだ。


「王子を人質にして国土をもらおうとしていると言っていましたが、あの軍備でそれは現実的ではないし……確かに、私も不自然だと思っていたんです。しかし、なぜエドウィン殿下はそんな大してこちらに利益のない貿易を?」


「それは、はじめから国内で決めて行ったんだが……ミラゾワは大陸の一角にあるだろう?あそこを拠点に、大陸の他の国とも取引できるよう通行許可を取りたいと思っていたんだ」

「ああ、やっぱりですか……まあ、そうですよね。そうでなければあまりにも意味がない……エドウィン殿下はミラゾワの街を見て回りましたか?」


アシュレイがふとエドウィンに質問した。エドウィンはずっと王宮でムスタファと話していたようだが、外に出ているのは見かけなかったし。アシュレイが王宮に戻ると大抵エドウィンは王宮の中に居た。


「いや、少しは見たが……一週間少ししか経っていなかっただろう?まだあまり見て回る時間が無くて、よく分かっていないんだ。衣類の製造が発達していて、他は少し貧しいというくらいで。」


やはり奴隷商については気づいていなかったのか、とアシュレイは驚く。アズライト帝国では奴隷は存在していない。だから仮に檻に入れられた子供を見たとしても、大陸のほうに「輸出している」などとは思いもしなかったかもしれない。いや、エドウィンは色々な国に貿易交渉に行っているそうだから奴隷くらい知っている可能性も高いか。アシュレイはそう思いながらもエドウィンに言った。


「ミラゾワは見てわかる通り、体が獣のような部分がある人ばかりだったでしょう?衣類だけで国が成り立つわけもない、奴隷売買で成り立っていたんですよ。そのために子供を産む人までいます。とうにまともな国として成り立ってはいなかったんですね」

「それは、私も見ました。港の方は栄えていたので殿下は気づかなかったと思いますが、視察に行った際に何度か……」


エドウィンのお付きのホリーもアシュレイの言葉に頷いた。


「そうか……奴隷を扱う国はいくつか見てきたが、子どもが堂々と取引され、奴隷あってようやく成り立っている状態というのは問題だな。わが国が少し手を貸したところで食糧難も貧困も、解決には向かないだろう。……それにどのみちこのまま帰国すれば国の軍がミラゾワに向かうことになってしまうだろうな」


エドウィンが少し悲しげに言うと、ホリーは少し怒った顔で机を叩いた。


「当然、戦争でしょう!あんなことをされたんですから!」


アシュレイとエドウィンがぎょっとした顔でホリーを見る。神妙な様子のアシュレイとエドウィンとは違い、ホリーは単純にまだ薬を盛られたことに怒っているらしい。まあ、それもそれで当たり前の反応ではあるのだが。


「だが……私も兵も、暴力を振るわれたわけでもないし、戦争は……」


煮え切らない態度のエドウィンに、ホリーはまた怒った顔になった。


「エドウィン殿下!兵たちも檻に閉じ込められていたんですよ!アシュレイ様の牢屋の扉が偶然壊れていなかったらどうなっていたことか……」

「あはは、アルドヘルムが居れば勝手に解決していた気もしますが」


「アシュレイ様!笑い事じゃないんですよ、あなただってアズライト帝国の中でも一二を争う大家の公爵家のご令嬢!それが牢屋に閉じ込められていたなんて……兵もたくさん居たのに、ふがいなくてふがいなくてエインズワース公爵に合わせる顔がありません!」

「ア、アハハ」


まあそれは確かに、素直に酒を飲み干す兵の何と多かったこと。アズライトは隣接する友好国ネフライトを除けばほぼ島国で、攻めてくる国もないし平和ボケしていたのかもしれない。軍の兵は皆それなりに戦えるのだが。ここからどうひっくり返して無理にでもミラゾワと戦争せず降伏させる話に持っていくか、アシュレイは頭の中で思い悩んでいた。まあ、いざとなればミサキとの約束を適用して洗脳でどうとでもなる気がするのだが。


そんな感じで、苦笑いしながら悩んでいる様子のアシュレイを、後ろに立っているアルドヘルムはなんだか楽しそうに見つめていた。再び始まった長い船旅、話し合う時間はまだまだたっぷりとあった。


休みに入って暇なので、毎日のように投稿しててすみません。追いついてくれ このスピードに

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