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お嬢様は神様です!  作者: 明日葉充
獣人宗教国家ミラゾワ編
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それは夜に灯る青い光③


エドウィンとホリーを連れ無事に船にたどり着いたアシュレイは、船の中にいたマイリとソヘイルを見て驚愕する。そして、大慌てでマイリに詰め寄った。


「マイリ!それにソヘイル!どうしてここに?!どうやって逃げ出してきたんですか?!」


アシュレイの様子にマイリは少しびっくりしたようだったが、何か事情があるのを察して冷静に説明した。


「アシュレイ!あのね、アズライト帝国の人間をみんな捕虜にしたって話を聞いたらしくて、心配で助けに来てくれたらしいんだ」

「誰が!」


「俺の両親だ。布をかぶって来ていて、俺たちを逃すとすぐに隠れながら帰って行ったが」


なんと、あの大人しそうなソヘイルの両親が!父親はともかく、母親もソヘイルのために自国の王の宮殿にまで忍び込んで、犯罪者になる可能性もあるのに助けに来たのか!アシュレイはその点にかなりの驚きを感じたが、今はそれどころではない。そうであれば、宮殿にソヘイルたちを助けに行ったアルドヘルムは?もしかすると居もしない人質を探し回って、そのうちムスタファにも出会うかもしれないし、アルドヘルムがいくら強いとはいえ、ムスタファが半神としてアシュレイも知らないような何か未知の力を持っていたら?


「じゃ、じゃあ……アルドヘルム!」

「アシュレイ!どこに行くの?!」


「アルドヘルムがまだ城にいるはずなんだ!!」


アシュレイはそう言うと周りが止めるのも無視して、慌てて転びそうになりながらも全速力で路地を縫って宮殿に向かったが、その途中でアルドヘルムと、もう1人の兵と偶然鉢合わせた。本当に偶然かどうかは、アルドヘルムのみぞ知る、というかんじだが。アシュレイはすれ違いざまにアルドヘルムに腕を掴まれて慌てて立ち止まった。


「アルドヘルム!」

「アシュレイ様、マイリたちとは合流しましたか?早く戻りましょう」


なんだ、状況は分かっているのかとアシュレイは安心してアルドヘルムに続いた。


「は、はい。アルドヘルム、その……ミラゾワ王は?」

「居ませんでしたよ。塔の牢屋も空っぽでしたので、2人は逃げたのだろうと察して戻って来たのですが……」


「そ、そうですか!それなら良かった……」


大嘘つきのアルドヘルム、何事もないような顔で平気で嘘をつく。アシュレイの方も全く疑わず、安心して船へと向かう。合流し、数分かけて3人で船にたどり着いた。アシュレイたちがやってくるとアシュレイたち以外の乗組員は点呼済みだったようで、船は即座に出航し、そのまま逃げるようにしてアズライト帝国一行はミラゾワ王国を後にしたのであった。


船が出航する時になっても船のところにはミラゾワの兵の1人すら来なかったので、それが逆に不気味なほどだった。引き止める気も、襲う気もない様子で。ちなみにアルドヘルムに散々暴力を受けたムスタファは今も放心状態のまま、宮殿内の中庭に倒れたままだ。波の音だけが静かに聞こえ、船員たちはどうにも怒っていいのか、無事を安心しあえばよいのか分からずともかく暗い空気感だ。皆、殴られたり危害を加えられたわけでもなく、目を覚ましたら閉じ込められては居たが誰も怪我一つないし、追ってもこないし見張りもものすごく弱かったし、そもそも宮殿に人が少なすぎるし。


大分落ち着いて、船が陸から結構離れた頃、アシュレイはアルドヘルムの船室の扉をノックした。アルドヘルムは5秒もしないうちに出てくる。ノックの主がアシュレイだと知ると、にこやかな笑顔で部屋に招き入れた。


「無事に全員で脱出できて良かったですね、ミラゾワの警備が手薄だったのはありますが」

「アルドヘルム」


緊張した面持ちのアシュレイに、いつもの笑顔のアルドヘルム。余裕の差は歴然である。


「なんでしょう?」

「塔に向かう前に私に、〝私はあなたのことを知っている〟と言いましたよね?あれ、なんのことですか?」


その話か、と思ってアルドヘルムは少し沈黙した。アルドヘルムには今のところ、自分が神だということをアシュレイに教えるつもりはなかった。この国に来て偶発的(ぐうはつてき)に記憶が戻ってしまっただけで、元々自分で望んで神としての記憶を捨てたわけだし。さっきはアシュレイがまた勝手にムスタファの所へ行きそうだったから、自分が行くために(おど)しとして言っただけだった。


「いえ。あなたはこの頃、私に分からないところで色々と秘密を抱えているようでしたので……カマをかけてみたんですよ。それで、そんな青い顔して本当は一体どんな秘密を?」


というわけで、アルドヘルムは逆にアシュレイに対して疑問を投げかけた。アシュレイは少し動揺した様子だったが、慌てて否定する。


「えっ?いえ……秘密なんかありませんけど、意味深な感じだったので、あなたが何か嫌な勘違いとかをしていたら困ると思って」

「嫌な勘違い……ですか。大丈夫ですよ、私があなたから離れることは、今後何が起こってもありませんから」


「そ……そうですか」


なんだ、言ってみただけか……とアシュレイはほっとする。が、もちろんアルドヘルムは言ってみただけではない。アルドヘルムは、大体のことは本当に理解している。正しくは神としての記憶が戻り、今までのことを「推測」しただけだが。今の時点でアルドヘルムはアシュレイに「嘘」をついていることになるが、今までアシュレイだって散々、アルドヘルムに嘘をついて「のけもの」にして来たのだから、アルドヘルムの行いを批判する義理はないだろう。……と、アルドヘルムは笑顔を浮かべながら思っていた。


「……いえ、用事は特に無かったんです。私、部屋に戻りますね」

「用がないならここに居て下さい」


「え?」

「用がないならここで私と一緒に居ましょう。先日のように膝枕をして差し上げましょうか?」


「……はい。じゃあ……お願いします」


なんだか今日のアルドヘルムは機嫌がいいけど妙だなあ、とアシュレイは思う。アルドヘルムがご機嫌な理由としては、つまらないミラゾワへの滞在日数が少なくなってせいせいしたことと、ムスタファを立ち去る前に十分いじめることができたということが挙げられる。それを思い出したアルドヘルムはふと、自分の膝枕で寝ているアシュレイの頭に手を伸ばした。もちろん今度は掴んで持ち上げるためではない。アシュレイの頭に優しく手を添えると、アルドヘルムは心の底から心配している様子でアシュレイに声をかけた。


「痛かったでしょう、ミラゾワ王にやられたんですか?」

「ええ。まあ、私が挑発するようなこと言ったからなんですけどね。私はあの人のことを詳しく知らないのに言いすぎたかもしれません。冷静になると、私たちの側に怪我人は出ていませんし」


「牢屋に閉じ込められたんですから、感情的になっても仕方ありませんよ……」


アルドヘルムは心底愛おしそうに、目を閉じたままのアシュレイの髪を撫でた。アシュレイは何か、不思議な安心感を覚えて目を閉じる。そのままなぜか意識が遠くなって、アシュレイはアルドヘルムの膝の上で眠ってしまった。まあ、アルドヘルムが眠らせたのだが。


「ドアの前で盗み聞きか?趣味が悪いぞ」


アルドヘルムがそう言うと、ドアが静かに開いて

____ミサキが、部屋に入ってきた。


「やはり記憶が戻っていたのか。……これからどうするつもりだ?」

「どう、とは?」


アシュレイの髪をなでながら、アルドヘルムが興味なさげに返事する。ミサキはアルドヘルムがアシュレイを無理矢理眠らせていることに気づき、嫌そうな顔をした。


「また記憶を消してやろうか?」

「遠慮しておく。あの程度ではまた、いつ思い出すか分からんからな」


アルドヘルムが小馬鹿にしたように言う。ミサキはアルドヘルムの目的がいまいち(はか)れず困惑した顔をする。


「じゃあ、まさかこれからも記憶を持ったまま人間のふりして暮らすつもりか?」

「そうだ。そういえばお前、妙にアシュレイにご執心のようじゃないか?余計なことを吹き込んでいないだろうな」


「お前については話していないが。お前は何のつもりで……」


アルドヘルムが顔を上げてミサキの顔をようやく見た。それからにっこり笑う。


「何も知らずに安心して眠っているアシュレイはかわいいじゃないか。そう思わないか、このまま少し首をひねりでもすればすぐに死んでしまうのに。私の(てのひら)の上だ」

「……何が言いたい?」


「私とお前は元々、上手くやっていたじゃないか?そう不審がるな」

「ムスタファに危害を加えただろう。そんなことをしてアシュレイが喜ぶと思ったのか?」


「さあな。だがアシュレイにはあずかり知らぬことだ。どうだっていいだろう?」

「……」


「今は出ていけ。夜に密会なんかして、私はお前にだって少しは怒っているんだぞ?」


アルドヘルムが手をかざすと、部屋の扉がひとりでに開いた。ミサキはアルドヘルムを睨みつけ、苦い顔をする。


「アシュレイに何かしたら、お前を殺す」


そう吐き捨てて部屋から出て行ったミサキを目で見送ると、アルドヘルムの表情は笑顔から、再び無表情に戻った。眠るアシュレイの髪にまた、指を触れた。


「……アシュレイ……」


アルドヘルムが小さく呟く。明日からはミラゾワへの対応をどうするのかを話し合いことになるだろうなと思いながら、手をかざしただけでランプの明かりを消す。部屋は暗くなり、小さい船室の小窓から月明りだけが入ってきていた。


アシュレイはその後、翌日の朝までアルドヘルムの傍で眠ったまま、一度も目を覚ますことはなかった。


ミサキは教えてくれないけど一番危険なのは、一番好きなはずのその男かもしれないぞ、アシュレイ。

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